「共同参画」2011年 4・5月号

「共同参画」2011年 4・5月号

スペシャル・インタビュー

目的と効果を考えて課題設定できれば、後は集中して取り組むだけ
株式会社東芝研究開発センター
マルチメディアラボラトリー主任研究員
兼同エコテクノロジー推進室参事
福島 理恵子

今回は、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011」大賞に選ばれた福島理恵子さんにお話を伺いました。福島さんは、世界初の眼鏡の要らない3Dテレビの製品化に大きな貢献をされました。

様々な難しい局面で価値観の多様性に支えられてきました

― 世界初の技術に中心的に関わられたと伺いましたが、福島さんのチームでの役割をお話いただければと思います。

福島 私は、東芝で眼鏡の要らない3Dディスプレイの開発に当たった最初のメンバーの一人です。自分が考案したことがいくつか製品に採用されたことと、自分たちで生み出した技術だったので、量産化に当たって関係会社に説明したり、量産構造を検討したりするときのリーダーシップをとる役目を果たすなど、中心メンバーの一人として関わりました。

― 技術研究分野に興味を持ったきっかけはどのようなものですか。

福島 「理恵子」の「理」が「理科」の「理」なので、小学校時代から理科には親近感を抱いてました。高校のときに文系、理系に進路を決定する際、女の子は数学が苦手だから文系を選ぶというような雰囲気があったのですが、それに負けたくないという気持ちがあって、得意だったわけではないのですが、あえて理系に進んだという記憶があります。

その後、研究室に所属したときに、同世代の学生が朝から晩まで研究に没頭しているのを見て胸を打たれるものがあって、そこまで打ち込むものが研究にはあるんだ、私もそんな仕事をしたいと思って、研究者になりたいと思いました。

― ご両親はどのようにおっしゃっていましたか。

福島 弟が1人いるのですが、親は分け隔てなく勉強の機会をくれて、好きな方向に進みなさいという感じでした。

私は大学院に入るための試験が人生で一番つらかったのですが、親が大学院に進むことに少しでも反対してくれれば辞められるかも、と思ったんですけれども、「あなたが行きたいんだったら応援します」と言われて、引けなくなって頑張ったというのがあります。両親が遮ることは一切なかったですね。

― 東芝は女性研究者にとって働きやすいと伺っていますが、福島さんはどのように感じておられますか。

福島 とても働きやすいと思っています。私は応用物理学会の男女共同参画委員会の委員を務めたことがあるのですが、女性が働き続けるための取組は、大学、民間、官公庁の中でも民間が比較的進んでいること、そして、制度を整えるだけでなく、制度を利用しやすい環境も大切なことを知りました。東芝は制度があると同時に、産休・育休を取得しても復職するのが当たり前といった、制度を利用しやすい風土もあるので、その点、進んでいると思いました。

― 東芝の制度は充実していますね。

福島 東芝には復職して働いている女性の先輩が普通にいました。私はもともと「飯田」という姓で、結婚で「福島」に改姓したのですが、女性の先輩に「せっかく旧姓を使う制度を作ったのに使ってくれないのね」と言われたこともあります。

ただ、男性と同じスピードで昇進できるようになったのは、我々の世代からです。また、事業部などお客様の都合を優先しないといけない部門と比較すると研究所は自己裁量で仕事が進められるところが多く、東芝全体の中でも女性を登用する取組が進んでおり、実際に女性の比率も高いです。

― 女性技術者、研究者が、継続して質の高い仕事を続けるということに必要だと思われることはありますか。

福島 質が高いかどうかをはかる物差しが、従来どおり一軸しかないと、 例えば勤務時間の制約があると、質が悪いとなってしまいます。評価軸もある程度多様になり、いろいろな働き方があるということが認められるとよいと思います。 3Dディスプレイの開発でも、自分ができるところ、 他の人ができるところが組み合わさって課題を解決したことが何度もありました。課題は複雑で様々な側面から取り組むことで解決する場合が多いので、技術や経験、考え方の違う人が組み合わさって働けるように、様々な働き方が認められればよいと思います。

― 先ほどのお話に出た応用物理学会の男女共同参画委員会に参加されたご感想は。

福島  最初はこの会合に参加するのは、男女の差が原因で自分が正当な評価を得ていないと考えていると思われそうで抵抗を感じたのですが、行ってみたら、委員長が男性で、委員は男女半々、年配の先生から若い研究者まで様々な人がいて、科学技術分野を盛り上げるために男女共同参画に取り組んでいることがわかり、とてもよかったです。特になかなか直接はお会い出来ないような高名な先生が同じ目線でお話してくださって、社外で自分の意見を対等に扱って頂けたという経験は、自信につながりました。

会合では、例えば、理科の実験をやると、中学生ぐらいから自然に女の子がサポート役に回るという話も出ました。実験を班ですると、男の子が実験をやり女の子が記録係というように分かれてしまう、そんなところから根が深い、だから女子校に行った方が、性差の役割分担が起こらなくていいみたいな話を知りました。

そのほかに、最近はワーク・ライフ・バランスを推進するあまり、誰もが定時に強制的に帰らされるが、研究では時間的に先んじることが何よりも重要なのに、もっと研究に時間を割きたい人の自由を奪っているという話もありました。一様にこうあるべきというのは、いずれにしろ間違いなのだと思います。

― ご結婚、ご出産、育児休暇は仕事にもプラスになったと伺っていますが、具体的にはどんな感じですか。

福島 復帰後、長く働くことは出来なくなったので、優先順位をつけて取り組むようになり、さらに、家族と職場の理解があって得た時間なのだから、価値のある、社会的に意味のある研究をしたいと思いました。また、就職してから弱音は吐けないという感じで働いていたのですが、自分で働くことを選んで戻ったという気持ちに変わりました。どういう研究をするかということを良く考えることは、仕事へのモチベーションをあげ、主体的に取り組むことにつながったと思います。

― では最後に、これから研究者を目指す人にメッセージをお願いします。

福島 研究開発という仕事は、自分で考えたものが世に出ることで、世の中を変えていくことができる面白い仕事だと思います。また、生活と仕事のバランスをとるにも、時間的な都合がつくという意味で、とても魅力的だと思います。さらには生涯現役でいられる職業ですので、ぜひ目指して欲しいと思います。

― ありがとうございました。

福島 理恵子 株式会社東芝研究開発センターマルチメディアラボラトリー主任研究員兼同エコテクノロジー推進室参事
福島 理恵子
株式会社東芝研究開発センター
マルチメディアラボラトリー主任研究員
兼同エコテクノロジー推進室参事

ふくしま・りえこ/昭和46年生まれ。平成7年東北大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。同年株式会社東芝入社、研究開発センター材料・デバイス研究所研究員。平成19年同研究開発センターヒューマンセントリックラボラトリー主任研究員を経て、平成22年から現職。光設計優秀賞、全国発明表彰21世紀発明賞など多数受賞。