「共同参画」2011年 1月号

「共同参画」2011年 1月号

連載 その1

ワークライフ・マネジメント実践術(9) 職場で実践する方法-労務コストの見える化
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜

労務コストの見える化

制度が充実している先進企業でも、現場はワーク・ライフ・アンバランスという状況は珍しくない。筆者はこうした現場を沢山みてきた経験から、過剰品質こそ、WLMの敵と考えている。

こう話すと、「過剰とは何を基準に判断するのか」とよく聞かれる。会社が支払う『労働コスト』に見合っているかどうか、で判断すべきと回答している。自分にいくら労働コストがかかっているのかという発想で身体を動かさないと、会社に利益をもたらすことはできない。

手取りあるいは額面の給料、さらにボーナスを加味した年収ではない。会社負担分の社会保険料や法定内外の福利厚生費用などを加味して考えるべきだ。20代の勤労者でも時給2500~4000円ぐらいの職場は多い。ちなみに前回、ご紹介した鳥取県庁でも近い数値だった。

過剰品質に歯止めをかける

部下の時給を把握していない上司は、部下は自分よりも相対的に人件費が安いという理由で、ムダなことをさせやすい。あるいは、期待以上の仕事をしてきた部下を「うい奴じゃ。近う寄れ」と評価してしまうと、優秀な部下たちは過剰品質を競い合う。例えば、議会対応等で過剰サービスする公務員ほど、優秀であると評価されるようなケースだ。その結果、WLアンバランスな職場ができてしまう。

そういう職場を喜んでいる上司は愚かだ。過剰品質には大きな労働コストがかかっていることに気付いていないからだ。

品質は高い方がいいのは当たり前の話。とてもおいしいイチゴだとわかっていても、仮に1パックが2万~3万円もしたら普通の人は買わない。ほどほどの美味しさで、このぐらいの値段なら納得するという判断は、あらゆる商品、サービスの選択のときに誰でもやっていることだ。そういう基準を仕事の場にも持ち込むことが大切だ。

上司の指示は3つのことを明確に

筆者自身、管理職として部の運営は図表1のような業務報告で管理をしている。また、部下に指示を出す際には3つのことは必ず伝えるように心掛けている。

一つ目は、最終アウトプットイメージだ。文書の作成であれば、1枚あるいは10枚なのか、箇条書きで列挙、大まかなアウトライン提示でいいのか、をきちんと伝える。

二つ目は、締め切り。明日、あるいは1週間後に提出してほしいのか。部下が抱えている他の業務のスケジュールもあるから、業務ごとの優先順位も明示する。

三つ目は、労働投入時間。仮に、締め切りが1週間後だとしても、ずっとその業務だけをやるというわけではない。何時間でやるべきか、をきちんと伝える。

そして、仮に部下が過剰品質のアウトプットを提出した場合には、「80%の品質を半分の時間でできたらすごい」という風に、業務効率を高めるように促している。そうしないと、過剰品質をしやすいタイプに歯止めを掛けられない。特に不況期で仕事が減ると、過剰品質でアピールする人が増えている。

上司は「優秀な部下ほど上司の意向を慮って、期待以上の仕事をしやすい」と心得ておくべきだ。

次回は、会議、資料、メール等の課題に対する対応策を具体的に紹介する。

図表1 DIV&WLB研究部の業務報告
図表1 DIV&WLB研究部の業務報告

(注)1.難易レベル1は学生のアルバイトでもできる仕事。逆に難易レベル10とは、日本で自分しかできないほどの難しい仕事。なお、難易レベルの決め方は、最初は主観で構わない。主観で決めると、自分に甘い人と自分に厳しい人の差が出てくるが、同じ業務をさせることで平準化することができる。

(注)2.売上高が確定した段階で、「投入時間×業務の難易度=『PJへの貢献』ポイントに比例して、PJの売上分割をする。

(注)3.各人の努力で、見込みよりも早めに業務を終えることができた(=節約された)時間。『時間貯金』ポイントが多い部下には、業務多忙の中であっても、有給休暇取得を奨励する。

(注)4.チーム全体の業務の進め方に「建設的なアイデアを出す」「ノウハウをオープンにする」ことにインセンティブを与えるために、各人の創意工夫=『生産性向上』ポイントを「難易レベル」に上乗せ加算して、評価している。

(資料)渥美由喜『イクメンで行こう!』日本経済新聞出版社より抜粋。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。 複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府「ワークライフバランス官民連絡会議」「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」委員等の公職を歴任。