「共同参画」2010年 12月号

「共同参画」2010年 12月号

特集

APEC 女性と経済活動(2)
内閣府男女共同参画局総務課

基調講演1

19日はAPECエコノミーの一つであるニュージーランドで117年前に世界で初めて女性に参政権が与えられた日であるとモエズ・ドレイド氏(国連婦人開発基金(ユニフェム)事務局次長)より「2015年までのミレニアム開発目標(MDGs)の達成に不可欠な女性の経済的エンパワーメント」と題した基調講演が行われました。この20年社会における女性の参画は大幅に拡大しているが、まだ雇用や賃金等に格差は存在する。ユニフェムの男女共同参画に関する報告書では4つの分野での行動が必要としている。1つ目は女性の雇用、生活の糧を得るチャンスの強化。2つ目は女性のリーダーシップを高め、社会における発言権と影響力を高めること。3つ目は公共サービスにおける女性のアクセス拡大、4つ目は女性に対する暴力の収束。女性のエンパワーメントへの探求はすべての人間の尊厳の探求から生まれて来る。様々な研究によると女性が就労し、所得を確保することにより貧困が削減されることになる。これは子供にとっても家族にとってもよい教育、よい健康に結びつけることができる。

世界のリーダー達は現実を認識するようになってきているが、ミレニアム開発目標達成にむけて2010年MDGsサミットで表明される成果文書は「女性に対する投資は、生産性、効率、また持続可能な経済成長に対して相乗効果をもたらす」ということだ。

そのためには女性のディーセントワークへのアクセスや男女の賃金格差、包括的・社会的な保護と育児施設などインフラの整備などが大切。また女性が資産などにアクセス出来ることも重要で家庭内での参画がひいてはDV等の減少につながる。DVは経済の生産性の低下を招き、毎年何10億ドルもの損失を招いている。賃金ギャップについても女性が管理的な仕事に従事すればその幅が縮まってくると言われており、今年3月に発表されたユニフェムと国連グローバルコンパクトによる「女性のエンパワーメントのための指針」の7つ目の指針では企業が男女共同参画達成の進展状況の評価と公表を謳っている。日本をはじめ世界各地で女性のエンパワーメント指針の推進を働きかけている方や推進力になってくださる方に感謝をしたいとスピーチを結びました。

モエズ・ドレイド氏
モエズ・ドレイド氏

基調講演2

2日目、朝一番でオーストラリアのニコール・ホロウス氏(マッカーサー・コール最高経営責任者及び業務執行取締役)により自身のキャリアと第一次産業企業でCEOを務めることについて「ハイヒールから安全靴まで」と題した基調講演が行われました。

ホロウス氏は公認会計士からスタートし、転職先が現会社の前身、コッパベラ鉱山。ここでハーバード・ビジネススクールでのマネジメント開発の勉強や入社後次々昇進のチャンスを与えられてきた。この間男性だったら聞かれないような質問も多かったが、「機会さえ均等に与えられて一生懸命にやれば必ず出来る」という経験を積んできた。女性リーダーにとって大事なことはイニシアティブをとってリーダーシップを発揮し、自身がロールモデルになって必要な現場の変革をもたらすこと。また女性のパフォーマンスが認められ、トップにつかなければ必要な変革ももたらせないのだから組織の色々な層に有能な女性がいることが大事。

2008年のマッキンゼーの調査によると女性が権威のある地位にいる会社の方が平均EBIT(利払い前の税引き前当期利益)が48%高いと言われている。ただし、経営の変革をもたらすためにはある程度の人数の女性が必要である。労働力確保の観点から現在鉱山で働くトラック運転手の21%は女性となったが最初は働き方等調整をすることが必要であったように企業において女性を昇進させたり、働き続けられる環境などに柔軟性を提供していくことが必要。子育て中の働き方を模索してきたが、自分自身の工夫やがんばり、加えて職場のチームのサポートがなくては継続して働くことは難しい。多様性をもたらしたい企業は目標を設定し、多くの女性を迎えようとしており、目標を法制化することも飛躍的に変化をもたらすには必要と言える。

リーダーシップとは変化をもたらすにあたって先頭をきること。女性に一番不足しているのは「自信」であり、組織の中での責任は己にありと講演を締めくくり、参加者にエールを送りました。

ニコール・ホロウス氏
ニコール・ホロウス氏

基調講演3

3日目には今野由梨氏(ダイヤル・サービス株式会社取締役社長)による「時代が求める女性の起業力」と題した基調講演が行われました。今野氏は日本の女性起業家の草分けの1人であり、これまでの体験を3つに区切って講演を行いました。

「夜明け前」では9歳の時の戦災体験で「私は一生、皆が幸せになれるように頑張る、仕事をもって自立したい、世界とつながる仕事をしたい」と将来の生き方を決意したこと、「朝の時代」で大学入学や起業するまで、「昼の時代」で起業から現在まで。女性が4年制大学に進学することが珍しかった時代に大学を出て、男性優位の中での就職活動と失望、そして行き詰まった先に見つけた希望の光が起業家への道だった。「自分の人生は、誰も代わってくれない。自分の夢は、自分が責任を持って実現するしかない」

アメリカで出会った女性起業家の言葉に背中を押されて1969年に日本では初めての電話相談サービスの会社を設立。高度経済成長のまっただ中、都会の核家族で孤立して子育てをしているお母さんを対象とした「赤ちゃん110番」は、電話回線をパンクさせることとなり、ニュービジネスベンチャーには多くの課題をもたらした。電話を使ったビジネスの禁止など法律や規制、情報等形がないものは経済価値が認められなかった時代に課金制度がなかったこと、女性の労働に対する労働基準法の規定。これらの課題に果敢に立ち向かいながら、社会のニーズに応えることとなった。女性の感性や能力を活かしながら新しい女性のための雇用の場を作りダイバーシティの実現を目指すことが会社の使命となり、多くの電話相談サービスを生み出していくこととなった。

起業してから1年後には30%、10年後には75%、30年後には98%の会社が完璧に消滅するという。女性起業家の輩出には様々なことを考えていかねばならないが、女性起業家自身へのメッセージとして次の7つのいずれかの必要性があることを指摘した。(1)やりたいことがあること(2)やり抜く強い意志(3)ポジティブ・シンキング(4)想像力と行動力(5)活かされていることへの感謝の念(6)時代を読む力(7)コミュニケーション力。今野氏の多くの体験に裏付けられた話に参加者は熱心に耳を傾けていました。

今野由梨氏
今野由梨氏

基調パネルディスカッション

「APECにおけるWLNの役割と今後の課題」というテーマでパネルディスカッションが初日に行われました。コーディネーターのアンドリーナ・リーバ氏(リーバ・エンタープライズ社長)より、WLN共同創始者としてWLNがスタートした経緯やこれまで女性問題担当大臣の会合や男女共同参画担当者ネットワークの創設などのWLNの成果等が語られた後、WLNの成功と提言の実施のため各エコノミーで参加者の継続的な働きかけが必要と述べられました。その後4人のパネリストに次の質問がなされました。

(1) WLN議長エコノミーとしての経験と成果など

(2) APECの重要性とWLNの役割

(3) WLNが持続するための課題

(4) WLN会合で期待したい結果

(5) 「女性のエンパワーメントのための指針」が支持されるための方策等

フィリッピンのミルナ T・ヤオ氏(Richwell Trading Co.最高執行責任者)は(1)の質問に対し、ラモス元大統領が女性の開発指導に熱心であり、第1回目のWLNの開催ができた経験から政府と民間が一緒に行動することの大切さを述べました。またスー・ハイ・ジュン氏(韓国女性起業家協会会長)は2005年WLN開催を契機にアジア女性起業家会議の開催や女性の起業家への政府契約受注の配分法案などの報告がありました。スー・ハイ・ジュン氏は質問(2)、(3)で世界金融危機におけるAPECエコノミーの強靱性と経済力に女性の起業チャンスも増大し、ひいては政策立案に反映が可能になると述べました。チリのエリザベス・ボン・ブランド氏(北カトリナ大学准教授)は(3)、(4)で女性科学者の育成もビジネスをよくするということ、そのためにもWLNではネットワークの強化を期待すると述べました。質問(5)についてはブランド氏はWLNでは女性のエンパワーメントを支援すべきとし、ヤオ氏からは女性の経済的な権利を守るマグナカルタ制定を推進してきたことなどが述べられました。内永ゆか子WLN実行委員長は参加者がコミュニケーション、グローバルなネットワーク構築、オープンな議論をし、提言を継続してフォローしていくWLNにしたいと述べました。

基調パネルディスカッションの様子 基調パネルディスカッションの様子
基調パネルディスカッションの様子:左よりスー・ハイ・ジュン氏、ヤオ氏、リーバ氏、ブランド氏、内永氏

全体パネルディスカッション1

「女性たちによる経済活動創造への挑戦」

企画・運営:日本BPW連合会

http://www.bpw-japan.jp/japanese/index.html

WLN2日目、「全体パネル1」が修了したとき、BPW関係者は正直ホッとしました。私達が担当する「女性たちによる経済活動創造への挑戦」が、企画団体による最初のプログラムであり、その成否が全体の成否に大きく影響すると言われ続けてきたからです。

1) 各パネリストが、当初の意図にそった発言をしてくれるだろうか

2) 会場の参加者が、手短に、相応しい発言をしてくれるだろうか

3) コーディネーターが、提案書に盛り込める結論を導きだしてくれるだろうか

こうした不安をチエック項目に変えて、各パネリストへの事前折衝、当日使用されるPPTの画面の調整、発言時間の管理、会場マイクの仕切りなど諸々の作業にBPWならではのその分野の実力者たちが綿密に仕事をしました。協力は国内だけではなく、例えば世界を飛び回るインターナシヨナルの会長との連絡、パネリスト候補の推薦や資料の提供など、関係国のBPWの仲間がメールひとつで動いてくれたのです。また、各パネリストには、発言の主旨を明確につたえるためにキーワードを入れるよう事前にお願いしました。

以下パネリストのみなさんの発言です。

1) 岩田喜美枝氏(株式会社資生堂代表取締役・執行役員・副社長)

人は経営資源であり、女性を活用しなければリソースの無駄使い。男性中心のモノカルチャーは変化の時代に対応困難。

2) バンジー・ウォン氏(ニュージーランド女性政策大臣・民族問題担当大臣)

世界で始めて女性が参政権を獲得した国。国会議員の3分の1が女性で、女性の登用が高いほど、経営成績は良い。女性だからではなく優秀だから活用する。

3) アメロウ・レイエス氏(フィリピン国家女性委員会議長・女子大学経営)

女子教育は、新しい秩序を生み出す苗床を創るような作業である。女性の経済活動はその独自性「ウイメノミクスWomenomics」で考える。

4) 林 文子氏(横浜市長)

市長職は女性のポジションに向いている。営業と共通するキーワードは「おもてなし」。共感と信頼が重要であり、女性は共感力に優れているので自信を持って挑戦を。

5) ニコール・ホロウス氏(マッカーサー・コール会社代表取締役)

女性がリーダーになるためには、迅速に行動に移す機敏性と柔軟性、及び適切に状況を読むことが必要。また、活躍を支えるWLBを含む環境整備が重要。

引き続き会場参加者の意見を求めたときには、マイクの前には長い列ができました。

☆ 男性のCEOをこうした会合に招待し理解を深める必要がある。

☆ 若い女性を巻き込むことが必要。

☆ 20兆ドルの消費を支えるのは女性、女性の経済効果を認識せよ。

☆ こうした会合に参加することは仕事にプラスになると、男性である私も思う。

☆ 日本に於ける企業の95%が中小企業だが、そこでは福利厚生施設の充実は難しい。

これらを踏まえてコーディネーターのエリザベス・ベンハム氏は、女性が役員会に参加できる地位につくべきであり、そこで女性が十分に役割を担うということが経済の成長の鍵を握るものである。その意味で、APEC域内においてこれから経済成長の鍵を握るのは、女性であると締めくくりました。

パネルを終えて会場での鳴り止まない拍手を聞きながら、こんな素晴らしいお話はもっと多くの人たちに聞かせたかったというコメントを耳にしたとき、成功を確信することができました。この企画・運営を通じて、私達自身も多くのことを学び勇気をもらいました。御協力下さった全ての皆様に感謝申し上げます。

全体パネルディスカッション2「各国にみる女性の起業力」
企画・運営:ユニフェム日本国内委員会
http://www.unifemnihon.jp/

新たな時代に向けて、様々な視点から議論が展開
新たな時代に向けて、様々な視点から議論が展開

女性たちが起業する際に壁となる資金調達や市場開拓、法律や規制等から問題点を提起し、社会的な課題を解決しつつビジネスを行う「社会的企業」の視点をふまえ、女性同士の支援や社会への波及効果などをとらえて参加者とともに議論を深めました。

登壇者の紹介

坂東真理子氏(昭和女子大学長、ユニフェム日本国内委員会理事)をコーディネーターに、パトリシア・フォレイ・ハイネン氏(キャピトル・シスターズ・インターナショナル創設CEO/マイクロエンタープライズ・ディべロップメント・プログラム共同創設者兼議長)、王如玄氏(チャイニーズ・タイペイ労工委員会主任委員)、中村紀子氏(株式会社ポピンズコーポレーション代表取締役)、アルマ・ジワニ氏(ユニフェムカナダ国内委員会代表)の4名をパネリストに活発な討論を行いました。

パネリストの発言から

ハイネン氏は、発展途上国において女性の貧困問題が継続している状況に対しマイクロクレジットを活用し途上国で融資をする事業を実施し貧困撲滅に取り組んでいるというご自身の活動紹介があり、担保もなく動産もない女性たちへの融資は重要であること、そして、リーダーシップを持つ女性たちが貧困状態の女性の問題をとりあげることの大切さとAPEC諸国におけるジェンダーをテーマにした広く深い議論の継続への期待を述べました。

アルマ氏は、グラスシーリングに悩まされている女性たちにはメンターの存在が重要であり、メンターを通して女性同士のパートナーシップが深まり経済力が高まることによって、「女性たちがグローバルな発言権を持ち、経済分野に影響を与えていくであろう」と期待をこめて発言がありました。

王氏は、台湾政府は女性の起業支援のために資金提供やコンサルタントサービスを実施する「フェニックスプログラム」を導入した結果、女性の起業力が高まっていること、また、このプログラムを活用して母子家庭の母がレストランを開業し成功、現在は母子家庭の女性たちを雇用する経営者となっているとの事例紹介もあり、「女性が事業を起こすためには、政府等の公的なサポートが重要である」等の発言がありました。

中村氏からは、「ワーキングマザーを助けたい」と保育を業として株式会社として起業した23年間の経験をもとに、ビジネスチャンスは生活に密着したところから生まれるので女性こそ経営者に向いている、経営のポイントは自分ができることから進むこと、経営者となればどの時間帯に働こうとも自由でタイムマネジメントが可能等の発言があり、「日本の成長戦略の一つは保育。これからも働く女性を支援していきたい」と応援メッセージもありました。

参加者とのディスカッションへ

その後、会場の参加者から次のような積極的な発言がありました。

・各国ではどのようなマイクロクレジットがありエントリーするためにはどうしたらよいのか、

・日本では中小企業の会社が倒産し女性が失業するケースもある、また契約社員・非正規雇用など雇用が安定しない女性が多く生涯の雇用問題についてどのように対応するべきか

・公務の民間化で公的サービスに携わるようになったが経営へのアドバイスをいただきたい

・女性が起業して自宅を仕事場にする場合に保育サービスが受けにくいことがあるが現状はどうか等

APEC WLN会合のこれからに向けて

最後に、坂東氏から、経済活動において女性が力を発揮するためには、女性を対象としたマイクロクレジットや社会的投資等の資金の循環やロールモデルやメンターといった女性同士のパートナーシップの循環が重要でありこれらを支える仕組みづくりも必要となってくる、そして、こうした循環により社会的課題を解決する「社会的企業」の成長が見込まれ利益追求型のこれまでの企業とは異なる新たな価値の創造が女性たちから始まる、と力強く発言がありました。

発言から始まる、女性のこれから
発言から始まる、女性のこれから