「共同参画」2010年 11月号
連載 その1
ワークライフ・マネジメント実践術(7) 組織全体に浸透させる方法
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
モデル部署の実践
WLMを円滑に推進し、着実に定着させるためには、(1)WLBという考え方を理解させるアプローチとともに、(2)働き方を見直すことで、自分が楽になったと体感させるアプローチを車の両輪のように進めるとよい。
具体的には、組織をピラミッドに見立てて縦軸と横軸の双方からきめ細かく働きかけるべきだ。大まかにいえば、「意識啓発段階」では、経営トップ、管理職、職員といった「役職別」のアプローチが有効だ。
ピラミッドの上部に近い層には、企業経営の背景にある社会経済環境の変化を説明し、マクロの観点から取り組む必要性を論じる方が入りやすい。一方で、ピラミッドの下部に近い層には、勤労者の生活環境の変化を説明し、ミクロの観点から論じる方が有効だ。
また、「実践段階」では、現場(各部署)等の組織別のアプローチが有効だ。特に、大企業では、全社的な実践は難しいため、モデル部門の実践を集中的にサポートしてから、水平展開で他部門に広げていくのが効果的だ。筆者がお手伝いする場合には、事務局(多くは人事総務部)をモデル部署に選ぶことが多い。その理由は、事務局の業務量は増加傾向にあり、WLアンバランスになっているからだ。「他部のことをどうこう言う前に、自分たちはどうなんだ」という声が上がらないように、率先垂範していただく。この他、2年目以降、水平展開しやすいように、本社および地方の代表的な部署1つづつ取り上げることが多い(図表1)。
図表1 WLMの浸透
怠務マネジメントと滞務マネジメント
モデル部署で実践する際には、残業削減に伴う人件費カットが目的と従業員に誤解されないようにしないといけない。ワーク面では、業務改善でより価値の高い業務にエネルギーを振り向けられるという意義を、ライフ面ではメリハリワークで余った時間を活かせば、生活が充実していくという意義を実感できるように仕向けることが重要だ。
現場では、「WLBの理念はわかったので、ノウハウを知りたい」というニーズが強い。そういう場合は、タイムマネジメント研修を実施する(図表2)。
1 | 長時間労働=アウトプット増」の意識を変える |
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2 | タイム・マネジメント総論 |
3 | 「怠務マネジメント」と「滞務マネジメント」 |
4 | 「個人」と「組織」のタイム・マネジメントの違い |
5 | “言語化”できない管理職 |
6 | 1日の初めにすること |
7 | 1日の終わりにすること |
8 | 仕事のタイプを判別 |
9 | 自分の時間の使い方の改善点に気づく |
10 | 時間計測の仕方と目標設定 |
11 | 仕事を時給で考える |
12 | 時間コストに見合った仕事かどうかをチェックする |
13 | 生産性向上のための3要素-仕事量を増やすと質が上がる |
14 | スケジュール管理=アポイント管理ではない |
15 | 集中できる職場環境 |
16 | 時間の記録は改善点の宝庫 |
17 | 優先順位の付け方 |
1 | 事業仕分けならぬ、業務の仕分けが必要 |
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2 | 過剰品質がワークライフバランスの敵 |
3 | 使途不明時間の把握 |
4 | コミュニケーションのルール化 |
5 | 穴掘り&穴埋め仕事への対応 |
6 | 管理職自身のための仕事をさせない |
7 | クレームおよび失敗への対応 |
8 | 個人的問題への対応 |
9 | 突発事態への対応 |
1 | 時間制約がある上司の方が部下は働きやすい |
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2 | 「業務進捗表」で仕事を“見える化” |
3 | 業務を共有しておけば、いつでも休める |
4 | 工夫(1)―チームへの貢献ポイント |
5 | 工夫(2)―時間貯金ポイント |
6 | 工夫(3)―生産性向上ポイント |
7 | 効率的な業務遂行を評価する職場風土 |
8 | マニュアルを「たたき台」として活用する |
9 | マニュアルで考える習慣をつける |
10 | 新メンバーが入るメリットと業務管理の大切さ |
研修では、数百にのぼるノウハウの中から、職場特性に応じてカスタマイズしないといけないが、大半の現場では、業務をダラダラと続ける怠慢な社員もいる一方で、きわめて生産性が高いエース社員に対して過度に業務が集中する状況が起きている。タイムマネジメントは直訳すると時間管理だが、むしろ「業務管理」だ。筆者は、大きく「怠務マネジメント」と「滞務マネジメント」に分けている(いずれも筆者の造語)。
「怠務マネジメント」とは、ムダの多い業務をダラダラ続ける怠慢な姿勢を改めさせる「業務の進め方の見直し~個人の変革」だ。一方、「滞務マネジメント」とは、エース社員に業務が集中することで、業務全体の流れが滞っている状況を改善し、スムーズに流れるようにする「ワークフローの見直し~チームの変革」だ。
引き続き、次回、実例で述べたい。
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府「ワークライフバランス官民連絡会議」「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」委員等の公職を歴任。