「共同参画」2010年 11月号

「共同参画」2010年 11月号

特集

女性に対する暴力の根絶に向けて(3)
吉川市市民生活部市民参加推進課

吉川市が配偶者暴力支援センターを立ち上げた理由

埼玉県の市町村で唯一、配偶者暴力相談支援センターを設置した吉川市。人口六万六千の決して大きくはない市ですが、センターを立ち上げて、改めて市町村がセンターを立ち上げる意義、市町村だから出来ることが見えてきました。

埼玉県で唯一市町村設置の配偶者暴力相談支援センター

埼玉県の東南部に位置する吉川市。人口6万6千人、まだ田園風景も残しながらも、都心まで1時間以内の利便性から人口は増加中、平成24年春には新駅も設置される予定の活気あふれるまちです。

そんな吉川市は20年近く前から様々な男女共同参画事業に取り組み、平成11年には女性センターの機能を持った複合施設を設置、平成15年には男女共同参画推進条例を制定(翌年施行)、そして昨年3月に「配偶者等からの暴力防止及び被害者支援基本計画」を策定、同年6月に埼玉県では唯一、市町村の配偶者暴力相談支援センターを設置しました。現在、埼玉県には配偶者暴力相談支援センター(以下、「センター」という。)は県と吉川市の2か所しかありません。

吉川市はセンターを立ち上げなければならないほど相談が多いのかというとそうではなく、実は開設前、平成20年におけるDVに関する相談は延べでも39件という状況です。それなのにあえて計画をつくり、センターを立ち上げた理由は、今だからというより今のうちに、という思いがあったからです。相談が毎日舞い込み、その対応に追われる状況になってからでは計画策定に時間など割いていられません。センターなど、立ち上げたとたんにどうなってしまうのだろう、という心配でうかつにやろうなどという気にはならなかったと思います。センターと名乗ったとたんに、庁内に分散されていた相談が一気に集中してしまうかもしれないと考えると二の足を踏んでしまうでしょう。でも、今なら出来る、市ではこのように判断したのです。

計画を策定したことによって、改めて庁内の支援体制の盲点、お互いの意識のずれや勘違い、そして今必要なものが見えてきました。被害者支援は私ども市民参加推進課だけではできません。当然、福祉や保健、教育委員会など様々な分野との連携が必要です。文章化、図式化することによって様々な課題が見え、それを共通認識とすることができました。

そして今の吉川市の状況なら、体制を整えながらセンターの機能の充実が図れます。吉川市程度の規模であるから、庁内の連携もとりやすく、また様々な分野のノウハウを蓄積できる状況であると思います。

やりながら体制を整えるというのは被害者にとって失礼なことかもしれませんが、センターは立ち上げることに意味があります。たとえ少々もたついたとしても、そこで証明書が出せる、というように、センターを名乗ったことにより、被害者にとって多くの利便性をもたらします。

どちらの市町村も現在、様々なDV被害者支援をしているはずです。計画をつくるのもセンターを立ち上げるのも、決して新しい労力を要するわけでもなく、ましてや多くの予算が必要なわけでもなく、逆に取り組むことによって多くのメリットが支援者にも自治体にも生まれます。

支援センター機能を庁舎内担当課窓口に

吉川市はセンター機能を市民参加推進課の中に持たせました。女性センターの機能を持つ施設もあるのですが、あえてそこではやらなかった、その理由ですが、「生活保護担当との交渉など庁内の連携が取りやすい」、「過去の他課での相談履歴など、情報・資料等を集めたり出したりしやすい」、「男性職員も多く加害者が来ても対応しやすい」、「相談者が何のために来所したか他人にはわからないので相談に行きやすい」、「設置しやすい、設備費がいらない」といったところです。

さて、昨年6月のセンター設置により確かに受け付ける相談の件数はいきなり倍に跳ね上がりました。

これは、窓口の一本化ということで他課に直接行っていた相談が、一度はここに集まってくるからだと思っていました。しかし、その後調べたところ、他課への相談件数は減っていませんでした。つまりここで相談できる、と被害者が集まってきたということでしょうか。逆にいえば潜在的ニーズがあったということです。「うちはまだ、そんなに件数も多くないし需要がないから」とおっしゃる自治体も多くありますが、それは相談の機会がないからです。必要とする住民はどこの地域にも必ず存在するはずです。

ところで、受け付ける相談件数は増えましたが、逆にその対応はスムーズになりました。しっかりと計画の中で各部署の役割分担を決めておいたからです。相談者にとってはメリットばかりのセンター設置ですが、逆に担当にとってもメリットは大きいはずです。各課との役割分担をしっかり計画上に位置づけておけば、むしろやりやすいし様々なストレスはないはずです。

市町村が支援センターを設置する意義

ところで、市町村にセンターを設置するメリットとは何でしょうか。

まずは近いですから被害者が相談に行きやすい。被害者に関する様々な情報(他課への相談履歴・住民記録など)が得やすい(もちろん本人了解のうえで収集)。他部署と連携をしやすい。相手の顔が見える。且つ小規模自治体なら元々の件数も少ないので取り組みやすい、といったところです。これらにより「迅速な対応」「きめ細かな対応」「継続的な支援」が実現します。

全国の配偶者暴力相談支援センターにおける平成21年度の相談状況ですが、全182のセンターにおける相談の68.5%が電話による相談です。それに対し来所は28.8%しかありません。県のセンターなどは電話が89.8%、来所が10.2%です。それに対し吉川市のセンターでは、電話による相談は37.6%、来所が47.3%。残り15.1%は出張(出向いての相談)などです。つまり、60%以上が顔を合わせての面談となります。顔を見ながらの相談で相手の状況が分かります。大きなあざを作っていたり、精神的に参っている様子が分かったり、電話では決して知ることが出来ない情報が入ってきます。一緒に連れてくる子どもが問題を抱えていることを見つける場合もあります。このこと一つ見てもセンターは市町村が持つべき機能であると考えています。

また、一時保護には必ずと言っていいほど必要となってくる「生活保護」も市町村の役割です。そこをきちんと押さえられるのも市町村のセンターであるからこそ、ではないでしょうか。県や県の保健所がセンター機能を持ったとしても、その後の様々な福祉施策などは、市町村が主体となって動かなければならないわけですから。

センター設置は男女共同参画社会実現のステージの一つ

本来ならば、女性が夫と離れると「生活保護」と直結してしまう、その社会構造こそ変えなければならないはずです。DVは被害者が社会的立場や体力的に弱い女性だから発生すると考えています。男女共同参画社会の実現なくしてDVの解決はありません。我々自治体はこのDV被害者支援を通して、社会がどうあるべきかを男女共同参画の視点で問い続ける役目があると思っています。これからも、この事業を一つのステージとして捉え、男女共同参画推進のための様々な施策に取り組んでいきたいと思います。