「共同参画」2010年 11月号

「共同参画」2010年 11月号

特集

女性に対する暴力の根絶に向けて(1)
長崎県こども政策局こども家庭課

DV対策における「長崎モデル」の推進
~民間との協働による被害者の自立支援等について~

崎県では、「安心こども基金」を活用し、DV被害者等の就労支援事業をNPOとの協働により推進しています。

長崎県では、被害者の立場にたった切れ目のない支援と、暴力を未然に防ぐための予防教育や意識の啓発を市町と連携して進めていくことを目標に2009年12月に第2次長崎県DV対策基本計画を策定しました。

2007年に児童相談所、婦人相談所、身体障害者更生相談所、知的障害者更生相談所、精神保健センターの5機関を統合した長崎こども・女性・障害者支援センターを開設し、多職種の専門家チームによる相談支援体制を確立し、併せて、佐世保こども・女性・障害者支援センターに女性相談部門を開設し、配偶者暴力相談支援センターとして県北地域の相談支援体制の充実を図っています。

また、他県には例がない一時保護中の同伴児童に対する訪問教育を行っており、今年9月には、一時保護中の同伴児童が、周囲の目を気にせず、伸び伸びと遊べるよう、屋内運動施設が完成したところです。

このような被害者の立場にたった総合的支援を「長崎モデル」と呼び、更に推進していくこととしています。

本県には、DVの根絶のために活動を続けているNPO法人DV防止ながさきがあり、これまでも、長崎県DV対策等推進会議やDV被害者支援ネットワーク会議への参画、研修会や講習会の共催等で連携を行ってきましたが、2010年1月より、厚生労働省の「安心こども基金」を活用した「婦人保護施設の退所者(DV被害者等)等に対する就労支援事業」をNPO法人DV防止ながさきとの協働により実施しています。

この事業は、DV被害者等の就労による社会的自立を目指すために、ソーシャルスキルトレーニング、相談支援、就職活動支援、働きやすい職場の開拓及び就職後の訪問等を行い自立支援を図ることを目的としています。

本県のDV被害者等退所者の状況は、一時保護所退所後にアパート等を借りて生活をはじめる方が多く、見知らぬ土地で、子どもを育てながら新生活を開始するにあたり、住居・子どもの学校・役所への手続き、離婚調停や保護命令の手続き等、たくさんのことを自分で決定し行う必要がありますが、DV被害により身体的にも精神的にも疲れている方にとっては、負担が大きく、困難を抱えています。このような方々が、退所後すぐに就労するということは現実的には難しく、生活にかかる問題を解決しなければ就労には結びつかないという実態から、3年計画として事業を組み立てました。(図1)

図1 婦人保護施設等の退所者等の就労支援(H21~H23年度)
図1 婦人保護施設等の退所者等の就労支援(H21~H23年度)

また、事業を実施するには、女性問題やDVについての正しい理解を持ち、実際に支援を行っている団体でなければ二次被害を防止できないという観点からNPO法人DV防止ながさきを事業者として選定し、長崎こども・女性・障害者支援センター(婦人相談所)、県こども家庭課及び長崎県母子家庭等自立促進センターとのチーム支援により事業を実施しています。(図2)

図2 婦人保護施設等の退所者(DV被害者等)等の自立支援チーム
図2 婦人保護施設等の退所者(DV被害者等)等の自立支援チーム

1年目は、チーム支援にかかる運営協議会を立ち上げ、支援を行いながら、対象者別の支援スキームを策定しました。現在2年目の取組を行っていますが、スキームを活用した具体的支援を行い、スキームの見直し、就労支援の方策を検討することとしています。来年度は、ハローワーク等の労働部門との連携を行い、退所者等に対する就労支援の方策をとりまとめることにしています。

これまでの事業の効果として、NPOの柔軟な対応により、被害者が役所、ハローワーク、裁判所等へ行く際の同行支援は、心強い支えとなり、手続きが円滑に進むことにより被害者の心理的回復につながっています。

また、一時保護所入所中から支援を行い、一時保護所とNPOとのチーム支援により、被害者の退所後の生活への不安感が軽減されています。

さらに、定期的な支援者を集めた会議の開催により、個々の被害者に対するきめ細かな支援の方策を検討するうえで、地域で健康で自立した生活を送るためには、さまざまな克服すべき困難があることを行政・NPOが互いに認識し、解決に向けて協力し合い、さまざまな活用資源についての情報交換を行いながら支援スキルを高め合っています。

このような被害者の立場にたったきめ細かな支援により、支援を行った被害者の中には、既にハローワークが行う訓練の受講、試行的雇用、在宅就業を開始した人もいます。

また、今年10月から、内閣府が3月に策定した若年層を対象とした交際相手からの暴力の予防啓発教材等を活用し、県内8か所でDV防止教育指導者養成事業を、デートDV防止授業を7年間実施しているNPO法人DV防止ながさきに委託して実施しています。

この事業は、県内高校生が在学中に1回は専門的なDV防止教育が受けられる体制を整えるため、県内で約90名の指導者を養成するものです。

さらに、11月からは、暴力の被害を受けた子どもの心理回復を行うため、支援スタッフの養成にも取り組み、この事業についても、複数の民間支援団体と協働で実施することとしています。

このような取組により、地域における支援の輪を広げ、市町や関係機関、民間団体等と連携を図りながら暴力のない社会の実現のために「長崎モデル」によるDV防止の取組を推進していきます。