「共同参画」2010年 10月号

「共同参画」2010年 10月号

連載 その1

ワークライフ・マネジメント実践術(6) 業務の平準化
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜

職場特性を踏まえた取組みが重要

前回、「様々なタイプの社員がいる」と述べた。同様に、「様々なタイプの職場がある」ことも理解しておく必要がある。

生産現場(直接業務)と比べて、事務現場(間接業務)では、社員間にかなり大きな生産性格差がある。

特に、PCが一人一台づつ付与されるようになり、業務のブラックボックス化に拍車がかかっている。

管理職の業務管理スキルの向上

「人の平準化」を進める際に、最も重要なのが管理職の業務管理スキルの向上だ。というのも、プレーヤーとして優秀なタイプが管理職に昇進すると、彼らは生産性が低い部下の指導より、自分の身体を動かして解決を図ろうとする。あるいは、他の生産性が高い部下をいっそう鍛えようとする。これは、かつて部下だった頃に自分が上司からされたことだ。

こうしたやり方で、短期的に職場の生産性は向上するだろう。しかし、対症療法に過ぎない。中長期的に職場の生産性を向上させるためには、生産性が低い部下たちの底上げが欠かせない。

一方で、多くの管理職は、業務管理スキルが欠如しているという自らの欠点に気づきにくい。すなわち、優秀な人は、生産性を上げる手法をさほど苦労をせずに体得したために、かえって生産性が低い部下への説明は下手な人が多い。

筆者は、職場におけるWLMの実践を支援する際に、「職場の課題抽出チェックシート」を活用する(図表1)。その内容は職種によってカスタマイズするものの、抽出した課題に即して、多様な解決策を提示する点は共通している。そのうち、各職場に最も適した解決策は、実現時の「効果」と実現「可能性」の観点から職場の管理職に選択してもらうが、自分で決断できない管理職は少なくない。

管理職の業務管理スキルを磨くには時間がかかる。しかし、彼らがきめ細やかな解決策をきちんと学ばないと、職場全体の生産性向上は期待できない。

図表1 職場の課題抽出チェックシート
業務量 (1)全体的に業務量が増えている
(2)人によって業務量に差がある
(3)残業を見越して計画を立てている
(4)業務分担の見直しが行われず
(5)作業に重複感がある
(6)業務量を把握できていない
(7)上司の業務量が過多である
(8)上司が部下の業務実態を把握せず
会議・打合せ (1)時間が長い
(2)数が多い(種類と頻度)
(3)出席する人数の増加
(4)会議・打合せ用の資料が多い
(5)時間通りに始まらない
(6)終了時間までに終わらず
(7)目的が共有されず
(8)特定の人だけが発言する傾向にある
業務用資料 (1)作成資料が多い
(2)資料作成にかける時間が長い
(3)同時期に類似資料を複数人が作成
(4)資料の使用目的が曖昧
(5)指示・確認が不徹底で無駄が多い
(6)誰がどこに保管しているのか不明
(7)作成資料が過剰品質になりやすい
(8)形骸化している資料がある
コミュニケーション (1)業務が属人化し、共有化されず
(2)業務知識・ノウハウに濃淡がある
(3)部内のコミュニケーションが希薄
(4)部署を超えたコミュニケーションが希薄
(5)管理職がほとんど席にいない
(6)ベテランから若手111に業務承継されず
(7)一般職は管理職に物が言いづらい
(8)プライベート上の悩みを相談しにくい
職場風土 (1)ノー残業デーが形骸化している
(2)残業の事前命令・申出が守られず
(3)時間コスト意識が低い
(4)業務改善意識が薄い
(5)応援・分担しにくい職場風土
(6)同僚よりも先に帰りにくい職場風土
(7)残業する職員が高評価の職場風土
(8)業務を抱え込みたがる職場風土

(資料)筆者が作成。

残業で稼がずに、ボーナスで稼ぐ

時期によって、業務量に濃淡がある職場も少なくない。本来であれば、業務が暇な時期に社員は定時退社したり、休暇取得すべきだ。しかし、繁忙期の長時間労働が習慣となっている社員の中には、定時退社に罪悪感を感じる人がある。

また、多くの職場で、住宅ローンを抱えている社員ほど、残業時間が長い傾向にある。ローンを返済するため、残業代が固定収入と化しているのだ。こうした「生活残業」にメスを入れない限り、残業削減はなかなか進まない。

かつて筆者がWLMコンサルをしたA社では、業務が比較的、閑な時期に、業務改善の提案を募った。「残業代で稼ぐ代わりに、ボーナスで稼ごう」を掛け声に、優秀な提案をした職場・社員にはボーナスを上乗せした。こうして吸い上げた業務改善策を他の職場にもヨコ展開したところ、会社全体として残業時間は大幅に削減できた。削減した残業時間を労務コスト換算したところ、何とボーナス上乗せ分の100倍以上のコスト節減となった。ダラダラ残業には大きなコストがかかっていることを改めて痛感した次第である。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。