「共同参画」2010年 10月号

「共同参画」2010年 10月号

有識者に聞く

目標達成へのプロセス

先の北京オリンピックでは、40年ぶりのベスト4入りし、世界のトップレベルの仲間入りをしたサッカー日本女子代表の佐々木監督にお話を伺いました。

はじめに

日本の女性は、大きい選手もいますが、世界の女性から比較すると小柄で、そして可憐でというようなイメージがあります。7年前にアテネオリンピック出場を決めた時に、「なでしこジャパン」という愛称が一般の応募で決まりました。以来、私たちは、日本女子代表ということではなくて、「なでしこジャパン」で世界に打っていこうということになりました。「世界のなでしこになる」ということをビジョンとして掲げ、頑張っています。

なでしこらしさ

「なでしこ」らしさとは、プレーの質もそうですが、ピッチの外でもひたむきさとか、芯が強いとか、明るい、礼儀正しい、こういったスタンスをベースに活動しています。

毎年2月、ヨーロッパのチーム、アフリカのチームが集まり、サッカーのフェスティバルを行います。国際親善試合と練習の両方をやっているのですが、スコットランドのチームと練習ゲームをやることになりました。2月ですと、ビステという上下の薄いものを両チームとも羽織っているので、それを脱いで試合をやりました。試合は3-0で完勝でした。

そうしたら、向こうの監督が「素晴らしい」と言うのですね。私は、素晴らしいというのは試合内容かなと思ったのですが、それだけではないと。というのは、試合が始まる前に日本の選手はビステを自然にきれいに畳んで、ぱっと並べて置いて、それで試合に出たんですね。でもスコットランドの選手たちは脱ぎっぱなし。ラインズマンがサイドを駆け巡るときに引っかかったりしている。こういったところをスコットランドの監督さんは評価をしてくれたんですね。

礼儀正しいというか、自然にそういうふうに対応できる選手たちを本当に誇りに思いますし、そういったところを評価していくというか、これからもなでしこらしさというものを重く見ながらやっていきたいと思います。

世界を目指して

なでしこジャパンをトップクラスにするには、ユース年代からの育成段階がしっかりしていないと、トップにはなれない、もしくは、いいパフォーマンスを出せません。ですから、男子も女子もそういう意味で指導者を養成する。そしてユース年代からの育成はしっかりと構築していくということが大事ですね。

そして、世界で「個」を育成していくことも大事です。ですから、ヨーロッパのチームに積極的に参加する、あるいは選手をアメリカのプロチームに参加させたい。ただ、男子と違って、給料が少ないんですね。ではどうするかといった中で、日本サッカー協会も女子の強化活動の中で生活費を支援して、積極的に海外に出ていく。もちろんサッカーの資質もありますけれども、サッカーの文化を学んでくる。資質あるいは文化を勉強していく中で、選手、その後の指導者として、成長してもらえればと思うような支援策をやっています。

佐々木流 指導理念

私は、常に自分が指導者としてあるべきものをいつもチェックして臨んでいます。そのチェック項目をご紹介します。

1.責任

2.情熱

3.誠実さ

4.忍耐

5.論理的分析思考

6.適応能力

7.勇気

8.知識

9.謙虚

10.パーソナリティー

11.コミュニケーション

この項目は足し算でなく掛け算の思考。一項目でもゼロに近い値は指導者として資質を失います。

トップコーチの役割

トップコーチの役割として、3つの要素があります。まず、リーダーとしての要素。そしてマネージャー的な要素。あとは、専門分野のサッカーにおける知識、指導力、つまりコーチの能力ですね。この3つの中でどこかがゼロになったら、監督を替える必要がある。そういう意味で非常に重要な要素だと思っています。こういった3つの要素というのは、我々コーチだけでなく、組織を経営していく部分でも当てはまることではないでしょうか。

成功する選手としない選手の違いは、体力やセンス、知識の差ではなく、“決意が本物かどうか”です。組織のマネジメントに関わるものは、所属員の一人ひとりの才能を見極め、失敗を恐れず、自分と仲間を信じることを確実に伝えることで、強いチームが作れると確信しています。

サッカーは男女共同参画が進んでいるスポーツ

Jリーグは、トッププロを頂点として、地域の少年・少女の育成を踏まえた教育を推進し、そして、男子も女子も関係なく、サッカーやスポーツを楽しめる環境を整備しています。また、専門職という意味で、Jリーグなどのコーチ、監督になるための指導者ライセンス制度がサッカー協会に構築され、そこでは既に女性の活躍を支援する指導者と選手強化のプロジェクトがスタートし、協会でも積極的に推進されています。

また、なでしこジャパンでも子育てママが代表選手としてプレーをしていました。安心して練習や試合に打ち込めるように、ベビーシッターを配備し活動サポート。また、海外遠征、大会等は、協会から選手の夫にお願いをし、どちらかの母方に同行してもらう配慮も行っています。更になでしこジャパンの選手が、女性であることを理由に活躍が制限されず、むしろ海外に積極的に出て、その個性を輝かせることができるように支援する制度も今年から始め、アメリカに3選手、ドイツに2選手、フランスに1選手が海外のチームで活躍しています。

今後もなでしこの選手たちの成長、躍進の一助になるべく監督として、協会指導者として、引き続きまい進していきたいと思います。

どうもありがとうございました。

佐々木 則夫 なでしこジャパン監督
佐々木 則夫
なでしこジャパン監督

ささき・のりお/
山形県出身。小4からサッカーを始め、帝京高校時代にインターハイ全国優勝。1981年日本電信電話公社入社。1990年選手引退後、NTT関東サッカー部(現・大宮アルディージャ)コーチ。1998年監督。2006年なでしこジャパンのコーチに就任し、2008年から監督を務め、U-19女子日本代表監督も兼任、現在に至る。東アジア二大会連続優勝、2011年ドイツW杯出場権獲得、2012年ロンドンオリンピックを目指す。