「共同参画」2010年 9月号

「共同参画」2010年 9月号

連載 その1

ワークライフ・マネジメント実践術(5)
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜

「意識啓発編」に続き、「実践編」に入る。今回は、ワーク軸とライフ軸でみた、従業員の4タイプとタイプ別の課題について述べる。

傍観者を作らない

WLMをめぐり、社員は当事者、敵対者、傍観者の3つに分けられる。WLBに取り組んでいる企業の多くは当事者(=女性と誤解している企業も多い)を支援する制度作りにとどまる。また先進企業では、敵対者となりやすい管理職の意識改革に注力している。最終的には、傍観者を作らないように、最後の一人まで浸透させるのが一番重要なポイントだ。その意味では、WLMには時間がかかる。

社員の4タイプ

WLMを推進する前に、職場には様々なタイプがいることを見極めたい。

職場に増やしたいのは「イキイキ社員」。時間の制約がある中で、集中して業務に取り組むタイプだ。仕事も生活も重視し、時間当たりの生産性が高い。

これに対し、「ダラダラ社員」は、仕事に身が入らず、かといって私生活に気を配っているわけでもない人たちだ。

「ヌクヌク社員」は、仕事はそこそこで、生活を重んじる社員のこと。「私は昔からWLBを実践してましてね」と自慢気に語る人がいる。しかし、よくよく話を聞いてみると、ライフの話ばかりで、ワークの話はがゼロという人も少なくない。人気の映画「釣りバカ日誌」のハマちゃんのようなタイプだ。

生活軽視・仕事重視の「バリバリ社員」。これまでは、家庭そっちのけで仕事に打ち込む企業戦士タイプが多かった。最近では日中はダラダラ働く「偽装バリバリ」も多い。

図表1 社員の4タイプ
図表1 社員の4タイプ
(資料)筆者が作成。

さまざまな生産性カーブ

1日の生産性カーブを図示すると、一目瞭然だ。偽装バリバリの生産性は夕方にピークを迎えるものの、飲みに行ったり夕飯を食べに出て、生産性は大きく下がる。家に帰ればいいのに、また職場に戻ってきて、「遅くまで頑張ってる」とアピールする。そして、翌日の午前中は生産性が上がらない悪循環に陥っている。

これに対して、イキイキ社員の生産性は「垂直立ち上げ・つるべ落とし」の高原型。仮に、生産性カーブの面積=職場への貢献度と考えれば、イキイキ社員よりも面積が小さい偽装バリバリ社員が、遅くまで働いているからといって、残業代を沢山受け取るというのはおかしい。

一方で、優秀な社員には仕事が集まるので注意が必要だ。上司の覚えがめでたく、同僚・部下から頼りにされ、顧客からの信頼も厚いタイプは「過労バリバリ」になりやすい。このタイプには、たえず突発的な業務が降ってくる。

優秀な人でも、業務が中断されると、生産性は大きく下がる。頑張って生産性を上げても、また中断される。人によっては、ジェットコースターみたいに大きく上下し、精神的ストレスは大きい。ようやく業後に集中して業務に打ち込むのだが、肉体的にハードだ。最近では、燃え尽きて、うつになる人も出てきた。

このように、多くの職場には、さまざまな生産性カーブが混在している。こうした職場は、どうすれば解決できるのか。

キーワードは「平準化」だ。次回は、この点について具体的な解決策を述べる。

図表2 社員のタイプ別にみた、1日の生産性カーブ

図表2 社員のタイプ別にみた、1日の生産性カーブ
(資料)筆者が作成。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府『ワークライフバランス官民連絡会議』『子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)』委員、厚生労働省『イクメンプロジェクト』委員等の公職を歴任。