「共同参画」2010年 9月号

「共同参画」2010年 9月号

スペシャル・インタビュー

野心をもって自分の道を見つめて ~オーストラリアから見た日本の姿

今回は、オーストラリアにおける女性の活躍について、オーストラリア大使館公使の正宗エリザベスさんにお話を伺いました。

社会や企業のシステムがまず変わらなければならないと思います。

― オーストラリアの女性の経済活動についてお聞かせください。

正宗 オーストラリアにおける女性の経済活動は、ここ十数年で著しく変わってきています。大手企業の取締役レベルの女性は、まだそれほど多くはないですが、公務員については全体の57%が女性で、そのうち私のようなシニアの役職に就いている人が36%に上ります。政府組織の役員会でも女性比率は33%ということで、行政と政治の分野での女性の活躍が目立ちます。

他方、一般民間企業においては、フレキシブルに働くことができる体制が整備されている企業が増えています。子どもを産んでも、すぐに復帰できるというのは、今ではごく当たり前のことです。ただし、大きな民間企業では、昇進するにしたがって、かなりハードに働かなければならないですから、さらに子どもを抱えながら働くというのはいまだ大きなチャレンジではあります。

最近では、弁護士などの専門職や企業の役職者などで働いていた女性が、より快適なライフスタイルのために仕事を辞めて、自分で会社を興している人も多いようです。

昨年10月に、ある州から女性のミッションに日本を訪問してもらったのですが、それに参加していた女性たちは本当に様々な分野で活躍している方々でした。例えば、社会インフラの構築のような、従来男性が主体でやってきたような分野で、起業を成し遂げた50代の女性もいました。また、若い弁護士の女性で、ベビー服を扱う事業を立ち上げ、ヒット商品を生み出した人もいました。

ですから、この分野では、女性はなかなか参画できないというところはあまりなくなっていると思います。ただ、分野によっては、まだいわゆるガラスの天井というものが少し残っていると思います。

― トレード・コミッショナーとして、長く貿易に関わっておられますが、オーストラリアでは、女性の起業や貿易に対する支援を行っているのでしょうか。

正宗 2002年頃から、ウィメン・イン・エクスポートというプログラムを行っており、オーストラリア国内の主要都市で、セミナー等を行っています。各都市、大体300人とか500人ほどの女性が集まります。女性として海外でビジネスをするに当たってどのような問題があるのか、またそれぞれの国で女性に対する考え方、文化風土というものについて正確に理解する必要がありますので、こうした機会は重要です。

私は、こうしたセミナーでは、必ず自分をアピールしてくださいと、アドバイスしています。また、自分が女性であろうと、男性であろうと、売っている商品やサービスがその国の市場に合っていなければビジネスになりませんので、どのようにマーケティングをしてアピールするのかに力を入れなさいということを話しています。

オーストラリアには、零細企業も数多くありますが、その経営者の多くは実は女性なんです。海外に出ていこうとするときは、資金調達のための支援が必要なのはもちろんですが、オーストラリア政府では、中小企業の方向けに、貿易手続きに関しての教育や金融に関する教育などを提供するプログラムも実施しています。

― 我が国における女性の活躍についてはどうお考えでしょうか。

正宗 日本で女性が働く上で大きなネックのひとつになっているのは、女性を支えるインフラが圧倒的に足りないということですね。保育園などのインフラの整備は、政府がより積極的に取り組むべき課題だと感じます。

また企業の中でも、女性のパワーを取り入れること、多様性を確保することで、会社自体の業績も上がるという考え方を取り入れていかなければいけません。女性のマネージメントスタイルは男性とは違いますし、人との接し方にも異なる点があります。両方があって初めて包括的なバランスが取れるのではないでしょうか。日本の企業は女性をもっと積極的に採用し、また、女性だからこのポストと決めるのではなく、男女を問わず実績を生む人を認め、昇進などの形でそれを分かりやすく示す必要があるのではないでしょうか。

実は私は学生の頃より日本語の勉強をしており、語学ができましたので、大学を卒業したとき日本の企業に就職するという選択肢について考えたこともございました。では、なぜオーストラリアの官僚を目指す道へ進んだかと申しますと、残念ながら当時の日本の企業では、女性の活躍の場が限られていたように感じた、ということが大きかったように思います。

やはり、実力が公平に認められる、という自信が持てないと、スキルを身につけ、上を目指すというモチベーションを保つことが難しいのは誰でも同じです。それでなくても多くの女性達は、社会に出て活躍するというチャレンジと同じくらい、もしくはそれ以上に大変な、家庭の管理や子育て、といった人生のチャレンジを抱えているわけですから。女性の進出を支えるために、社会や企業のシステムがまず変わらなければならないと思います。

― 我が国の女性に向けてメッセージをお願いします。

正宗 オーストラリアと日本の女性とで何が一番違うかと言いますと、働くことについての考え方ではないでしょうか。多くのオーストラリア人の女性は、早い時期から自分の人生におけるキャリア構築について真剣に考え、そのために学生のころから積極的にインターンシップなどに取り組みます。結婚=家庭に入る、という考えはあまり見受けられないように思います。最近日本の女子学生の間で、専業主婦志向が高まっている、という報道を先日テレビで見て、大変驚きました。どのような分野でも構いません。自分の能力を生かし、社会で活躍できる場を求めること、働く道を見つけることを教育を通して考えて欲しいと感じました。

6月にオーストラリアでは、初めての女性首相(ジュリア・ギラード首相)が誕生し、歴史的な出来事として多くの国民に感動と、そして希望を与えました。未来を担う子どもたちにも、野心を持って努力をすれば「あなたは、何にでもなれる」と教えることができますから。子どものときから野心を持たせる、ということは、私はすごく大切なことだと考えています。日本の女性にももっと野心を持って、と言いたいですね。

― ありがとうございました。正宗公使には、9月19日~21日のAPEC女性リーダーズネットワーク会合において、オーストラリア代表団の団長も務めて頂きます。

正宗 オーストラリアからは、様々な分野から多くの女性リーダー達が参加すると聞いています。是非この機会に日本の女性達と交流を行い、有意義な会にできるよう尽力して参りたいと思います。

エリザベス・正宗 オーストラリア大使館・公使(商務)
エリザベス・正宗
オーストラリア大使館・公使(商務)

1987年オーストラリア貿易促進庁に入庁。東京をはじめ、東南アジア各地のオーストラリア大使館を拠点に東南アジア圏トレード・コミッショナーとして活躍。日本出資のインフラプロジェクトへのオーストラリア企業参加促進プログラムにより、5億豪ドル以上の収益をオーストラリアにもたらしたり、東京で初の4千万豪ドルの日豪ベンチャーキャピタル ファンドを集める。 現在は、オーストラリア貿易投資促進庁(Austrade)にて、シニア・トレードコミッショナー兼ジャパン・マネージャーとして、参事官と商務官を携え、日豪の貿易・投資の促進のための国家プロジェクトの推進、活動の管理などを担う。2006年には、オーストラリア企業のアジア市場進出支援を称えられ、オーストラリア国家勲章PSM(パブリックサーバントメダル)を受賞。