「共同参画」2010年 9月号

「共同参画」2010年 9月号

特集

第3次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(答申)について(2)
内閣府男女共同参画局推進課

「第3次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方」の取りまとめに向けて、男女共同参画会議基本問題・計画専門調査会を中心に審議を行ってきました。この度、同調査会の羽入佐和子会長と、鹿嶋敬会長代理(男女共同参画会議議員)より、専門調査会報告書取りまとめに当たっての考え方や、今後の計画策定において政府に期待することなどについて寄稿いただきました。

基本問題・計画専門調査会報告書の取りまとめに携わって
―その基本方針と構造―
羽入佐和子(基本問題・計画専門調査会会長 お茶の水女子大学長)

基本問題・計画専門調査会は昨年5月18日に第一回の会合を開き、専門調査会報告書取りまとめに至るまで計19回の会合をもった。また、調査会での議論のために重点的に8つのWGと報告書取りまとめ案の起草WGを設置し、22名の委員が1年以上をかけ総計約112時間に亘って議論を交わしてきた。

この過程で専門調査会が何より重視したのは「実効性」と「多様性」、そして「普遍性」である。

平成11(1999)年に「男女共同参画社会基本法」が制定されてから10年が経つ。今回は新たな10年への第一歩にふさわしい基本計画となることを願い、「実効性」を第一義とした。そこで、過去10年間のフォローアップを踏まえ、その成果と課題を確認することから始め、効果的な具体策について議論してきたが、この間、関係する府省の担当の方々に多くのご意見やご提案をいただけたことは誠に有り難くそして心強く、私は策定の過程で既に今回の計画が確かに実行に移され、着実な効果を上げるに違いないという感触を得た気がしている。

「多様性」を重視した理由は二つある。一つは、「男女共同参画」即「女性」の問題という印象を払拭するためであり、他は、多様な生き方を視野に入れた計画を成すためである。確かに「男女共同参画」は女性の社会的な活躍を促進するという意図をもつ。GDPが世界第2位、人間開発指数HDIが世界第10位であるのに対して、GEM(国会議員・管理職・専門職等に占める女性比率等)は109か国中57位と日本の順位は著しく低い(2009年)。他方、大学への進学率は男性56.4%、女性45.2%であり、しかもこの差は年々縮小しつつある(「平成22年度学校基本調査」)。高等教育を受ける女性の割合からしても、女性の社会的活躍の割合が低いことは社会的な損失といえる。そこで、意欲と能力のある女性が活躍できる環境の整備が必要なのである。しかもそれは単に女性の働きやすさを実現するだけではなく、老若男女それぞれが生きやすい環境の整備になるはずである。この意味を込めて、今回の専門調査会報告書では、とくに「男性と子どもにとっての男女共同参画」を一つの重点分野として独立させた。

一人ひとりの人間が自らの生き方を選択でき、その上で、互いの生き方を認め合い多様性を容認できることは男女共同参画社会の基盤である。このことはまた、「男女共同参画」の「普遍性」を示しているともいえる。それは「男」「女」という別によってのみ制約されるのではなく、一人ひとりが主体的に生きられる社会の実現を意味しているからである。つまり、それは「人が人として多様に生きる社会の実現」という極めて根本的で、それゆえ重要な事柄なのである。

ところで、専門調査会報告書には15の重点分野を抽出したが、そこには二つの軸が作用し、三つの相が内在していると私は考えている。二つの軸とは「加速化の軸」と「標準化の軸」である。「加速化の軸」は女性の活躍を促進させるためのいわば量的な軸であり、「標準化の軸」は労働環境や生活環境などの向上を意味する質的な軸である。そして、三つの相とは、国、地域、そして国際社会である。全体として国が取り組むべき課題であるが、同時に地域社会の問題も多くあり、また、日本が国際社会の一員としての役割を果たすために実行されるべき問題もある。つまり、重点分野全体が二つの軸で測られ、また三つのいずれの相とも関連性をもつ。したがって、重点分野として抽出した項目は総体的に実現されることに意味がある。しかもこの総体的な実現は、何よりも政治的決断に委ねられている。

多くの議論を重ねた基本問題・計画専門調査会の委員の方々の熱意が実効性のある「第三次基本計画」として結実することを願い、また男女共同参画社会の実現が今の日本の経済状況を打開する契機になることを願っている。

男女共同参画社会を作る強い政治的意志を
鹿嶋敬(男女共同参画会議議員 実践女子大学人間社会学部教授)

「是非、エッジの効いた計画を作っていただきたい」。政府が現在進めている第3次男女共同参画基本計画の策定作業に何を望むかを一言でいえば、こうなる。

実は同じような趣旨のことを、今年2月の男女共同参画会議で仙谷国家戦略担当大臣(当時、現・官房長官)から言われた。同会議で私は第3次基本計画の考え方に関する中間整理案の概要を報告したが、仙谷大臣は「挑発的に話させてほしい」と断りながら、こう切り返してきた。

「これで、本当に今後5年間に、事態が進展するのですか。全然、エッジが効いていない」

冒頭に掲げた言葉は、その“お返し”という意味ではない。私たち起草ワーキンググループや専門調査会のメンバーは、「エッジを効かせる」を念頭に置きつつ、基本計画に何を盛り込むべきかを議論し、7月23日の答申にこぎつけた。今度は、エッジを効かせるのは政府の番である。是非、答申内容を踏まえた、男女共同参画が1歩も2歩も前に進む計画を作ってほしい。

今回、私たちが答申した「策定に当たっての基本的な考え方」には、大きく3つの特色がある。1つは、男女共同参画社会基本法が成立して早11年が経過したが、男女共同参画社会の形成は必ずしも十分に進展したわけではない。それはなぜなのかという「反省」に立った上で議論を進めてきた点だ。

その理由は多々、考えられるだろう。固定的な性別役割分担が根強いこの国に、それを否定した花を開花させるのは容易な業ではない。種の品種がどんなに良くても、いい花を咲かせるのだという強い政治的な意志がない限り、無理だ。そのことをやはり2月の参画会議で申し上げたところ、鳩山総理(当時)は、「そう言われないよう、頑張る」と挨拶してくださった。

2つ目は、答申を「実効性」あるものにするということを常に念頭に置いた点だ。いくら練り上げた答申をしても、世の中を変える力を持たない限り何の意味もない。それを確保するためにエッジが効いた装置として組み込んだ一つが、ポジティブ・アクション(積極的改善措置)である。

国会議員・女性候補者比率のクオータ制の導入や男女共同参画に積極的に取り組む企業を公共調達等で評価するインセンティブの付与、女性管理職を増やすなど目標と達成までの期間を明示したゴール・アンド・タイムテーブル方式の推進などがそれだ。

2020年までに、指導的地位に占める女性の割合を3割にするという政府公約の実現は、なまじっかな努力ではおぼつかない。そこで、基本計画の施策の進捗状況を定期的に監視する監視・影響調査機能の強化も書き込んだ。

3つ目の特徴は「男性・子ども」にとっての男女共同参画の重要性を強調したことである。この10年間に男女共同参画の動きが停滞したのは、一つにはそれが女性、特に働く女性の課題という受け止め方をされたからではないか。みんなのものになっていなかったのではないか-。そんな反省の下、答申では重点分野の3番目に「男性、子どもにとっての男女共同参画」を掲げ、特に男性に対して重要性をアピールした。

全国6個所で開催した公聴会やパブリックコメント等を通じ、政権が変わった今だからこそ、「21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」(男女共同参画社会基本法前文)、男女共同参画社会の形成が少しでも前進するように、という熱い期待を肌身で感じた。公聴会では男女共同参画・家庭荒廃論めいた叱責もあったが、そうした誤解、曲解にも聞く耳を持ちながら地歩を固めていかなければならない。

答申では、誰もが「出番と居場所」がある社会を形成する必要性も指摘した。これらの指摘をきれい事、空論で終わらせないためには、繰り返すようだが、男女共同参画社会を作るのだという強い政治の意志が必要だ。この点を、政府に強く訴えたい。