「共同参画」2010年 7月号
連載 その1
ワークライフ・マネジメント実践術(3)
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
今回は、WLMの第一段階である「従業員の意識啓発」を図るJFKのうち、F(不安)を活用する手法をご紹介したい。
不況期の2つの効用
ようやく不況期を脱しそうな昨今だが、実はWLBを推進するうえで、不況には2つの効用があった。
一つ目の効用は、不況を機に業務効率を高める企業が徐々に増えている。先進企業では、これまでの非効率な業務体制、業務の流れにメスを入れて「筋肉質な職場に変える好機」と捉えている。
逆に、多くの一般企業は非効率でメタボ体質な業務体制を放置したままリストラで規模を縮小した。働きづらく、従業員のやる気が下がり、どんどん辞めてしまい、残った人がますます大変になる、という負の連鎖がすでに始まっている。
不況期に取り組むか否かで、企業の明暗を大きく分けている(図表1)。
もう一つの効用は、従業員が「気づく」きっかけとなった。好況下では、働き方に何ら疑問を持たなかった人が、不況下でWLBに目覚めた。不況は、一見するとマイナスでしかないが、実はWLBの推進力となった面もあるのだ。
図表1 不況期における企業の対応の二極化
中高年男性には「三大ホラー」
同様に、一見するとマイナスでしかない「不安」を外圧として与えて、意識改革の進める手法がある。
筆者は、中高年の男性を説得する殺し文句として介護、熟年離婚、マネジメントの「三大ホラー」をよく使う。
まず、「子どものおむつを替えるなんてイヤ」と家族に背を向けてきた人は、やがて自分が要介護になった時に因果応報の悲哀を味わう。自分のおむつを子どもに替えてもらえない、面倒を見てもらえないというのが「介護ホラー」。
女性に愛情の配分先を回答してもらうと、結婚直後のトップは「夫」だが、これは一時期のあだ花に過ぎない。子どもが生まれると子どもがトップの座につき、夫への愛情はがくっと下がる。その後、徐々に回復していくグループと、低迷していくグループに二極化する。
出産直後から乳幼児期にかけて、「夫と二人で子育てした」と回答した女性たちの夫への愛情は回復し、「私一人で子育てした」と回答した女性たちの愛情は低迷する(図表2)。
図表2 女性の愛情曲線
この相関関係に気づいて、筆者はぞっとした。一種のトラウマとなり、今、一生懸命に育児をやっている面がある。妻に愛されたい男性たちには、効果的だ。
最近、一番効くのは「マネジメントホラー」。24時間365日働いて当たり前という価値観の人に、「このままでは、いずれ晴天の霹靂に襲われるかもしれない」と脅す手法だ。
まず、健康を損なうリスクがある。長時間労働や不規則な勤務の人ほど、ガンを発症するリスクが高い。
次に、家庭崩壊のリスクもある。突然、奥さんから三くだり半、あるいは子どもがぐれて、家庭がガタガタ、仕事にしわ寄せというパターンだ。
さらに、部下をうつ病患者に追いやると、「あいつは仕事はできるが、マネジメントはできない」というレッテルを貼られかねない。
こうした「不安」が芽生えると、少しづつ自らの行動を改めていく誘因となる。次回は、K(感動)の効用を紹介する。
【訂正】
前月の「共同参画」6月号「ワークライフ・マネジメント実践術(2)」の「図表2 WLB川柳の例」の出展に誤りがありました。
(資料)(1)~(6)は、「川崎市男女共同参画センター」ではなく、「フード連合」が正しい出展です。
この場をお借りして訂正するとともに、ご迷惑をおかけした両団体にお詫び申し上げます。
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。