「共同参画」2010年 3月号

「共同参画」2010年 3月号

特集

特別対談
赤松農林水産大臣・福島内閣府特命担当大臣
農林水産分野での女性の活躍をめざして
~農山漁村の女性の日に寄せて~

今回は、農山漁村における女性の地位向上と女性の活躍促進に力を入れる農林水産省のトップ 赤松広隆農林水産大臣に福島みずほ内閣府特命担当大臣がお話を伺いました。

これからの農林水産業を語る上でも、「女性の参画」は鍵となる要素の1つという認識で一致した二大臣。この分野での連携を深めていくことを約束しました。

福島大臣 今日は本当にありがとうございます。実は私も平成7年の農山漁村女性の日の関連事業で講演をしたことがあります。農村の女性たち、また農林水産省自体も男女共同参画に真剣に取り組んで頂いているのは、よく存じております。

本年は、第3次男女共同参画基本計画を作る節目の年です。今まで男女共同参画というのは都会のキャリアウーマンの話と思われがちでしたが、農山漁村の女性たちのこともきちんと取り上げて応援したいと思っていますので、よろしくお願いします。

赤松大臣 是非、お願いします。

農林水産省では、農山漁村の女性の役割を正しく理解していただくとともに、女性の能力を一層発揮していただくことを目的として、3月10日を「農山漁村女性の日」と設定しています。この3月上旬は、農林漁業の作業が比較的少ない時期ですし、古くからこの時期には、ひな祭りなどの女性が主体となる行事が行われており、女性が話し合いをするために適していると考えられたことが、この日を選ばれた理由と聞いております。また、3月10日には、女性たちの「3」つの力(知恵・技・経験)をトータル「10(とお)」に発揮して欲しいという関係者の願いも込められているようです。

そして、この「農山漁村女性の日」には、昭和63年以来、毎年、農林漁業関係団体が中心となり、全国から約1,000人の農山漁村の女性が集い、女性参画をテーマとした講演・シンポジウムなどの関係行事が開催されてきました。

先ほど、福島大臣が講演されたとおっしゃったのは、第8回目の「農山漁村女性の日」が開催された際のお話と伺っております。今年で23回目の開催となりますが、今回は、男女共同参画社会基本法制定10年を記念し、東京都千代田区の「よみうりホール」において、全国記念行事が開催されることとなっております。

私どもとしては、農山漁村の女性たちに、その能力を十分発揮していただけるような環境を整えることが農林水産業・農山漁村の発展につながることだと考えています。福島大臣は専門家ですからご存じだとは思いますが、農業分野で働いているのは男性よりも女性の方が多いのです。また、実際の活動においても女性が中心です。

福島大臣 そうですね。最近は、地域の中で町や村の名産品を作って通信販売をしたり、農村の女性たちはいろんなことに挑戦していて、とても元気だと思っています。

赤松大臣 この間も私は福岡の糸島漁港の方に行きましたが、あそこでも海や山でとれたものをすぐ横の直売所で販売していますよね。そこに並んでいる商品に、出荷している人たちの名前が書いてあるわけですが、それを見ると、もうほとんどは女性。その直売所を実際に運営しているのも女性たちで、携帯電話でやりとりして、すぐに商品を補充したりと、実にいきいきと活動してらっしゃる。

ただ、残念ながら、農協や農業委員会などの農業組織での女性役員となると、最近、若干増え出したけれども、それでもやはりほかの団体と比べると女性の割合が少ない。仕事の実態は女性たちが担っているけれども、役職者は男性がほとんどというのが実態です。

福島大臣 農業委員における女性の割合は平成20年10月1日現在で4.6%、農業委員のうち学識経験者委員の女性割合は28.0%、選任委員の女性割合は14.6%、農協の個人正組合員のうち女性割合は17.5%、農協役員のうち女性割合は2.5%。意思決定の場にはまだ女性が少ないということですね。

農林水産省での男女共同参画の取組について

赤松大臣 そうなんです。政府全体として、「2020年までに、指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%」にするという女性の登用目標が掲げられていますが、その達成に向けて、農林水産省としては、女性の経営能力向上に向けた研修の実施や、農協・農業委員会などの各組織のトップ層に対する意識啓発などを通じて、農業分野の女性の登用を進めるための取組を強化しています。

一方で、女性の割合が低い団体に対して、一遍に30%までなどといっても、きっととても無理でしょう。ですので、たとえば、地域の実情に合わせて、当面、5%程度まで上げてくださいという方針を示すことを考えています。(※全ての農協において、一人も女性役員がいない組織が解消されれば、農協組織全体で概ね5%の女性役員割合となる。)

また、国家公務員の女性の登用に関しては、課室長以上の女性割合は霞が関全体でいうと2.0%ですが、農林水産省では1.3%で、やはりやや低いです。今、舟山大臣政務官を中心に、女性が活躍できるよう頑張っているところです。

また、審議会の委員の女性割合は、霞が関全体が33.2%ですが、農林水産省は37.3%。これはもうずっと上回っています。

福島大臣 さきほど、直売所の話をしてくださいましたが、生産、流通、販売から食育に至るまで、女性たちがかなり担っていますよね。

赤松大臣 そうですね。そこで、直売所や道の駅のようなところに対し、私たちは「6次産業化で新しい雇用を」ということを言っています。その中でやはり女性の果たす役割はますます大きくなってくると思います。

福島大臣 「6次産業」という言い方は面白いですね。ちょっと教えていただけますか。

赤松大臣 これは文字通り1次産業(農林水産業)、2次産業(加工・製造業)、3次産業(流通・販売業)の数字を足すと6次産業になるという意味なんです。作るところから販売するところまですべてを一カ所でと考えています。

例えば、米を作って農協に売るとか、どこかの工場で加工するだけではなくて、生産している地域に工場をつくって加工も販売も流通もさせてしまうということです。そうするとそこに新しい雇用が発生することにもつながります。 

福島大臣 農林水産省は、平成20年4月の「女性の参画加速プログラム」を受けて、省として県や市町村へのヒアリングやJA優良表彰の新設、地域レベルでの女性の登用状況の調査を行っていらっしゃいますよね。

それから、戸別所得補償など農業を応援する施策を推進することは、農業をやっている女性たちも応援することになると思います。 

赤松大臣 一番のポイントは、「つくる農業」をやっていこうということ。この15年間で農業所得は半分に減っているわけですから、今、農業をやっても、よほど大規模化してやらない限り、食べていけないのが当たり前になってしまっているわけです。だとすれば、そういうところに若い人が来て頑張ってくださいと言っても、それは無理なのです。

これからは、戸別所得補償により全国統一で負担する部分ができましたよね。その部分はもう利益に全く関係なく自分の所得に入る。更に生産性が上がれば、もっと大きな利益になるということで、非常にやりがいのある制度に変えましたから、これから若い人たちはどんどん農業に参入してくると思います。農業を魅力のある職業、産業に変えていかないと地方は活性化しないですから。

農山漁村の固定的役割分担意識

福島大臣 固定的な性別役割分担についての意識調査によると、農林水産業分野では性別役割分担は他産業に比べて高いという結果がでているようです。

赤松大臣 男は仕事、女は家庭というものですね。調査結果では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」と考えている者が、農林漁業以外の自営業の男性が48.1%であるのに対し、農林漁業の自営業の男性は63.0%となっています。女性についても、農林漁業以外の自営業では35.8%であるのに対し、農林漁業の自営業では61.9%となっています。年々解消されてきているものの、農山漁村では、まだ固定的性別役割分担意識が高いと言えます。

福島大臣 農業をやっている女性は、育児や介護の多くも同時に担っているということですね。ただ、その中でも認定農業者として農業経営に取り組んでいらっしゃる女性も結構いらっしゃいますよね。

赤松大臣 中山間地域などの大規模経営が難しいところでは、特に女性の力も入れなければもう成り立っていかないというのが実態です。しかも今、そういう小規模な農業が数としては農家の6割ですから。

農業の多面的機能からいえば、そういうところは採算が悪いから切ってしまっていいのだということにはならないわけです。

福島大臣 知事認定である指導農業士といった地域の農業リーダーの女性は既に3割を達成しているというデータを見ました。

赤松大臣 おっしゃるとおり、指導農業士や青年農業士、女性農業士として活躍している、いわゆる農村地域の女性リーダーは、全体の3割を占めています。こうした女性リーダーたちは、普及指導員と呼ばれる都道府県の職員によって育成されてきました。こういう方たちが、各現場で農家を回って技術や経営に関する支援をしたりしているのですが、その方たちの中にも結構女性が増えてきています。

家族経営協定の役割

福島大臣 弁護士をしていた頃、妻名義の預貯金や財産がないことで困っている女性を多く見てきました。日本では民法上夫婦の財産は別産制なのに共有制と思っている女性が案外多いのですね。そういう意味でも、農業経営者の方にとって、「家族経営協定」はたいへん有意義だと思っています。

赤松大臣 「家族経営協定」は、農業を家族でやっている場合に、家族員みんなで話し合いながら、経営方針や収益の配分や休日、作業分担などの労働条件や、家事、育児などの生活面の役割分担などをきちんと協定であらかじめ明記しておきましょうということです。家族経営協定で明記することで、女性の農業経営者としての位置づけも明確になります。その結果、たとえば農業者年金の保険料の一部助成が受けられたりします。同様に、夫婦で認定農業者として共同申請ができたりとか、低利融資を受けられるとか、いろんな政策的なメリット措置もあります。平成20年3月末で、4万件くらいの実績があります。

第3次基本計画へ向けて

福島大臣 今年は、第3次男女共同参画基本計画をつくろうという節目の年です。農山漁村の女性に関しても取り上げていきたいなと思っています。

女性の地位向上と活躍についての大臣の抱負をお聞かせ願えますでしょうか。

赤松大臣 現在農林水産省でも、3月中の策定を目指し、食料・農業・農村基本法に基づく基本計画の見直しの作業を行っております。この基本計画の中で、内閣府の第3次基本計画の策定に先駆けて、農業分野における女性の登用に関する方針を打ち出すことになると思いますので、是非、それも期待をして見ていてもらいたいと思います。

福島大臣 ありがとうございます。内閣府でも第3次基本計画に盛り込んでいくために、当事者の方たちや農林水産省とも一緒に連携していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

最後に一言。農業でも、若者や女性が、やはり環境保護などの観点から挑戦される人も増えているということですし、可能性のある未来の話もよく聞きます。

赤松大臣 これは今、農業に対する一つの大きな追い風にもなっています。環境問題は、時代の一つのキーワードになっていますから。もう一つは、食の安全の問題です。冷凍餃子事件などいろんなことがありましたから、安全で安心できる食事を自分もとりたいし、ましてや自分の子どもや家族にはそういうものを食べさせたいとか、そういう消費者の意識は強くなりましたね。

福島大臣 そうですね。その意味ではとりわけ若い人たちに関心を持ってもらって、男女共同参画と食の安全分野の両方で協力していきたいと思います。本日は、ありがとうございました。

赤松農林水産大臣
赤松農林水産大臣プロフィール
赤松 広隆(あかまつ ひろたか)
生年月日  昭和23年5月3日生
出身地  愛知県
略歴
昭和46年 4月 日本通運株式会社入社
54年 4月 愛知県議会議員
(連続3期)
平成 2年 2月 衆議院議員当選(連続7期)
21年 9月 農林水産大臣