「共同参画」2010年 1月号

「共同参画」2010年 1月号

特別対談 福島みずほ大臣-樋口恵子

女子差別撤廃条約採択30周年、男女共同参画社会基
本法制定10周年に寄せて

女性差別撤廃条約採択30周年及び男女共同参画社会基本法制定10周年を踏まえ、男女共同参画社会の今後の展望について、樋口恵子NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長と福島みずほ内閣府特命担当大臣(男女共同参画)とのスペシャル対談を行いました。

福島 今日は、よろしくお願いします。

さて、昨年は女性差別撤廃条約採択30周年、男女共同参画社会基本法制定10周年の記念すべき年でした。この10年を振り返り、お感じになっていることをお話しください。

樋口 大変な節目のときであると思います。10年前に男女共同参画社会基本法の策定に私も関わらせていただきましたが、期待以上の内容の法律ができたととても喜んでおりました。しかし、やはりそう簡単に一筋縄でいくものではなくて、花も嵐もあった10年間でしたね。

最初、ちょっと堅苦しい言葉かなと思った「男女共同参画」という言葉も、調査をするたびに知名度も伸びていって、そしてむしろ男女がともに参画、男女同権とか男女平等というよりも男女がともに社会を作っていく、社会形成者としての平等をということがこの言葉の中に込められて、それが広がっているということは大変いいことと思います。一方、意外な抵抗がまだ日本の隅々に強く残っているということも思いあたりました。

そういう中で、私はこの間の女性の変化はやはり30年前の女性差別撤廃条約が非常に大きな役目を果たしたと思います。これをきっかけに国籍法も変わりましたし、家庭科の男女共修が実現しました。

一番の難問と言われた男女雇用機会均等法がひ弱な姿でありながら、今につながるきちんとした一歩を印してくれて、戦後といっても特にこの30年の変化は大きいのではないでしょうか。

福島 大きいと思います。やはり、均等法も随分、バージョンアップしてきましたし、私自身も国会議員になって、特に女性の国会議員で力を合わせて、与野党を問わず、議員立法で配偶者暴力防止法をつくったり、この間、児童虐待防止法ができたり、その意味では日本の中も随分、立法も含めて、現実も含めて変わってきたことをとても実感しています。

樋口 そうですね。法律や制度ができることはやはり大切で、「法は世につれ、世は法につれ」と思います。法や制度ができたことを通して、今まで社会の片隅に埋没していたいろんな問題が可視化、「見える化」されます。

福島 女性への暴力がまさにそうで、夫婦間の暴力なんてと思われていたのが「見える化」、可視化されて、保護命令などの仕組みをつくることにつながりました。1993年に国連が女性への暴力撤廃宣言を出し、北京の行動綱領で女性への暴力が大きく取り上げられ、セクシュアルハラスメントの裁判も動き、均等法にセクシュアルハラスメントの防止が企業の責任だというのが入りました。

樋口 法律や制度を策定していくプロセスに女性がどれだけ参画しているかということは最も重要の課題です。流行語新語大賞に「セクハラ」が取り上げられたのが’89年。昔なら日常茶飯事と思われていたことが立件されて、裁判で勝ちました。そのときの弁護士のほとんどは女性でした。つまり、法曹の場に、女性が大勢進出してきたことがやはり事実のもう1つの側面に光を当てたということではないでしょうか。私が若いころは「夫のげんこつは愛のむち」。あるいは「夫婦げんかは犬も食わず」、セクシュアルハラスメントは「職場の潤滑油」なんて言われていましたからね。

福島 「あなたが魅力的だからよ」と言われていましたよね。私の大学時代は、「気をつけよう。甘い言葉と暗い道」と女性に対して警告を発していたのが、現在は「痴漢は人権侵害です。」「痴漢は犯罪行為です。」「私は痴漢を許さない」でしょう。加害者に対して警告を発するようになった。

また、私は弁護士の仕事を通じて、内縁の妻がどう裁かれているか、結婚がどう裁かれているか、女の子と男の子で交通事故などの際の損害賠償請求額算出において逸失利益が違う。特に性暴力の判決を見ると、やはり女性の側が何で逃げなかったのかとか、泣いているのに合意があったと言われるようなところがあったりする判決を見てきました。でも、今は随分変わりましたよね。

樋口 変わりました。それは男性の専門家・有識者の功績も大きい。変わったものは大きく変わりましたが、にもかかわらず、私は何も変わっていないという言い方もできると思うのです。一つは国際的に見た変化の程度の問題です。確かに変化は認めるけれど、その程度が諸外国と比べてみると、余りにも程度が浅過ぎ、スピードが遅すぎます。他の国は全く同じ期間にもっと、大チェンジと言えるほど大きく変わっています。女性の国会議員にしても他の国は実質的に女性を大勢出すような仕組みをつくっている。少しずつ日本の女性国会議員が増えても、世界で比較すると順位は常に落ちていく方向にいる。日本は先進国であり、女性が高学歴な国でありながら、女性の社会参画は進まない例外的な不思議な国であるということですね。

『ネイチャー』という有名なイギリスの科学雑誌がありますが、2009年8月号にアメリカの大学の研究発表でこんな記事がありました。他の先進国はみんなどこの国も子だくさん社会から離陸すると、少子社会になる。けれども、男女共同参画的政策により歯どめがかかって、また出生率は上昇に転じていく。フランスはその典型でしょうし、北欧諸国もそうでしょう。ところが、その分析によると歯どめがかからない例外的な国が3か国あって、日本と韓国と、なぜかもう一つはカナダであると。

つまり他の国はいったん子どもの数は減るけれども、人口の激変を緩和する程度の出生率が保たれているのは、やはりそこで女性の社会参画をしっかり支える政策がとられて出生率が向上しているということです。

我が国では、均等法ができて、さらに育児介護休業法が整って、特に育児介護休業法はバージョンアップしているにもかかわらず、必ずしも女性の就労継続に目立って貢献していない。働く女性の7割が出産で辞めていく。これは今日まで変わっていません。

福島 私は、日本のM字型雇用を変えたいと思っています。つまり、いったん、子どもを持つと労働市場から排除されてしまう。もう一回、再就職するときはどうしても労働条件が悪くなってしまうような状況を変えるということです。一つはやはり子どもを持つことが負担にならないような社会をつくること。そのために、子ども手当の創設と保育所、学童クラブの充実を行う。二つ目は、育児介護休業などをもっと取りやすくし、企業の現場を変えることが必要です。

樋口 今まで不十分だったのは、やはり企業への働きかけだったと思っています。確かに企業が利益を生んでくれなければ日本経済が成り立ちませんから、企業を大切にすることは私も全くやぶさかではありませんが、次の世代が生まれにくくて、次の世代の消費者と労働者が育たないということでは企業も困るでしょう。働き方、働かせ方を会社の側が少し変えていただかないと、と思っています。私は、そういう日本の文化的風土、社会システムを少しずつであろうと方向性を示して是正していく。それが結果として21世紀の世界の変化に対応する道であろうと思っています。

福島 そうですね。選択的夫婦別姓制度についても、まだ女性が本当に名前を変えて困っている現状がなかなか広まっていないと感じます。

樋口 医師など専門職の方は免許を書き換える必要があり、しかも役所の時間内に届けなさいなどと言うのです。パスポートや振込口座の問題もあります。

福島 そうですね。私も国立大学の教授が戸籍名を強制しないでほしい、ずっと通称を使わせてほしいという裁判を1988年11月28日、東京地裁に提起し、東京高裁で和解が成立しましたが、本当にたいへんでした。

樋口 家族の絆が壊れるとか、それから、ちょうど介護保険が論議されているときだったものですから、嫁がしゅうとを介護しなくなるとか、そんな反論がありましたね。しかし、時代と家族の実態は夫婦別姓とは関係なく、変わり続けています。時間の経過は、夫婦別姓でもお姑さんと仲のいい福島さんたちのような人の存在を明らかにしてきました。

キング牧師の「アイ・ハブ・ア・ドリーム」という演説があるでしょう。 「ドリーム」の中身は、奴隷だった人の子孫と奴隷を使っていた人の子孫が同じテーブルに着いてこの国の将来を語りたいということだそうですが、それはもうとっくに実現してしまっているわけです。私は、男女共同参画は人類社会の未来の正義にかない、共感する人が必ず増えるだろうと思います。時代は男女共同参画に味方をしています。一つは国際条約に基づいた国際基準であるということ。もう一つは、人類が始まって以来の長寿社会を迎えていることです。

長寿社会は人間の文化の根底を揺るがす事態です。昔から人類は、ずっと人間50年単位でやってきた。この20世紀の最後の四半世紀に先進国を中心に長寿の普遍的獲得があった。人生の標準単位が50年から80年、90年に変わるということは、教育制度から労働システムから、男女の在り方から、家庭の営み方から、大きく変える要因になります。

家族や地域のシステムも新しい長寿型文化をつくらなければならないところにいる。人生は長くなり、子どもの数はそう大勢産まなくていい。そうすると男女の生き方は相対的に接近してきます。子育て後が長くなって、定年後の夫婦の第二幕は、30年もあるわけです。ここをどういい夫婦をやっていくかということは、ご先祖の文化遺産として残っていない。人生100年時代の初代の私たちが新しい文化を形成していかなければならないのですね。

そんな中、人生50年型の性別役割分業で人は果たして幸せな老後が送れているのでしょうか?生活自立スキルなく、すべて妻任せであった男性が早く要介護になってしまうとしたら、みんなが保険料を払い、税金を払っているこの社会保障制度においても大きな社会的損失だと思います。

福島 やはりその寝たきりになる前の段階でご飯がつくれるようになることは必要ですよね。

樋口 そうですね。以前、大分県のある地域で研究者が調べたところ、やはり男の人も料理を習う、リハビリ的な予防の運動などをするなど、そういう介入をしたグループの方がずっと要介護から遠かったということです。

2007年愛媛医学会賞に選ばれた研究(藤本 弘一郎 愛媛県総合保健協会医長)によると、松山市近郊の60~84歳の男女3,100人の健康・家族関係を調べ、5年後に追跡調査を行った。この間に亡くなった男女約200人と生存者を比較分析すると、75~84歳の女性は、夫がいる場合の方がいない場合に比べて死亡リスクがなんと約2倍に高まっています。一方、男性は妻がいる場合の方がいない場合比べて死亡リスクが約半分に減っています。(※)

福島 ケアしてくれる人がいないからですね。

樋口 担当の藤本医長によると「夫の依存が妻に負担をかける。夫が家事などを覚えて自立することが必要」だそうです。これは人生50年、60年時代は絶対に見えてこなかった風景で、この長寿社会において性別役割分業は夫婦関係をあやうくしていると同時に社会的損失につながるわけです。

福島 だから、やはり男女共同参画社会をあらゆる面で実現しなくてはいけないですね。

本日は、ありがとうございました。

特別対談 福島みずほ大臣-樋口恵子