「共同参画」2010年 1月号

「共同参画」2010年 1月号

特集

新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女について
内閣府男女共同参画局調査課

新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女に関する監視・影響調査報告書より

男女共同参画会議は、去る11月26日、監視・影響調査専門調査会が公表した「新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女」に関する監視・影響調査報告書をもとに、生活困難を抱える人々を支援するため、政府に取組を求める意見決定をしました。

本稿では、報告書で明らかになった生活困難を抱える男女の状況と共に、意見として決定された政府が講ずるべき施策の概要を紹介します。

「新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女」については、昨年3月に「とりまとめに向けた論点整理」(『共同参画』第12号:2009年4月号掲載)を公表し、9月には、施策の現状や今後の取組の方向性も記述したうえで、一般からのご意見を募集しました。

今般、それらの結果を踏まえて最終報告書をとりまとめましたので、生活困難の実態と背景、今後の取組と課題を中心にご報告します。

1.問題意識と調査のねらい

単身世帯やひとり親世帯の増加など家族の変容、非正規労働者の増加など雇用・就業をめぐる変化、定住外国人の増加などにみられるグローバル化など、新たな経済社会の潮流を背景に生活困難が幅広い層に広まり、加えて、昨今の金融危機に端を発した経済・雇用情勢の急激な悪化によって、生活困難を抱える人々が更に生み出されているものと考えられます。こうした状況の中で、男性・女性それぞれの生活困難リスクを明らかにし、状況に応じた効果的な取組の方向性を明らかにすることをねらいとして調査を実施しました。

2.生活困難の実態

【生活困難層の増加】

経済的に困難な状況を、平均的な所得水準の半分(文末(注)参照)以下で暮らしている人がどの程度いるかを示す相対的貧困率(以下、「貧困率」)によって見ます。厚生労働省が昨年10月に公表した資料によると、全体の貧困率は1998年の14.6%から2007年には15.7%へ、子ども(17歳以下)では13.4%から14.2%へといずれも上昇しています。

【女性の生活困難の状況】

男女それぞれに年齢層別に推計した貧困率をみると、ほとんどの年齢層で、男性よりも女性の貧困率が高く、その差は高齢期になると更に拡大する傾向にあります(図表1)。

さらに世帯類型別にみると、高齢者や勤労世代の単身世帯で貧困率が高く、なかでも女性の方が厳しい状況にあることが分かります。また母子世帯の貧困率が高く、その影響は母子世帯の子どもにも及んでいます。

図表1 年齢階層別・男女別:相対的貧困率(平成19年)

図表2 年代別・世帯類型別:相対的貧困率(平成19年)

【生活困難の複合化、固定化、連鎖】

今回の調査では、支援機関・団体へのヒアリングも実施しましたが、それらの内容から、一人の生活困難者に複数の要因が影響している(複合化)、一旦生活困難な状況になると長期にわたり抜け出せない(固定化)、生活困難な状況が次世代に受け継がれる(連鎖)といった状況の存在が指摘されました。

例えばDV被害者は、身体的・精神的被害に加えて、加害者の追跡から逃れつつ、新たな住まいや就業先の確保、離婚や子どもの養育等複数の課題に向き合わなければなりません。こうした状況に加え、仕事を探しても不安定・低賃金な仕事が多く、多重就労を余儀なくされるなど、様々な困難が複合的に影響していることが少なくありません。

また、困難な状況にある家庭のもとで育った子どもは、その不利を補う家族や地域のサポート等の社会資源を持ちにくいという状況があり、より困難な状況に陥る可能性があります。

3.生活困難の背景と男女共同参画を巡る問題

【女性が生活困難に陥る背景】

固定的性別役割分担意識が十分に解消されておらず、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の浸透や支援策が不十分な現状において、女性は、育児や介護などで就業を中断しやすい状況にあります。

また税制・社会保障制度の影響による就業調整の影響などもあり、女性は、相対的に低収入で不安定な非正規雇用につきやすいという就業構造があります。さらに、このような若い時期からの働き方の積み重ねの結果として女性の年金水準等は低く、高齢期の経済的基盤が弱いという問題もあります。

女性に対する暴力も、女性の自立を困難にする大きな要因です。女性に対する暴力は女性の自尊心や心身を傷つけ、自立に向けた就業や社会参加を一層困難なものにしています。

これらの女性の生活困難の背景には、男女共同参画社会の実現が道半ばであるという問題があります。「男は仕事、女は家庭」という固定的な性別役割分担意識は、女性の若い時期からのキャリアに対する考え方に影響を与え、選択肢を狭めている可能性があります。また、結婚後夫へ生計を依存しているような場合には、例えば配偶者である男性の雇用不安によって家庭に困難が生じたり、離婚等に際し、女性が自立の困難に陥りやすいなどの問題となって現れます。

【男性特有の状況】

一方で、男性特有の生活困難な状況も見られます。父子世帯や一人暮らしの高齢男性の地域での孤立や、「男性が主に稼ぐべき」といった男性役割のプレッシャーが、厳しい状況にある男性をより困難な状況に追い込んでしまっているという懸念があります。例えば、男性の非正規労働者の有配偶者の割合が低いことについて、経済的に安定しないことが結婚を阻害する一因になっていると見られています。また、40代~50代の男性で「経済・生活問題」を原因・動機とする自殺が多いことなども、男性役割のプレッシャーの影響であるとの指摘もありました。

【非正規雇用と女性の生活困難】

学歴での不利が職業の選択を限定し、低収入となってしまいがちな状況がありますが、男女別に若年層(20-24歳層)の正規従業員の比率をみると、平成4年から平成19年にかけて、男性でも女性でも学歴によって就業の状況の差が開き、中学卒業者や高校卒業者の状況が厳しくなるなか、特に女性により厳しい影響が及んでいます(図表3)。

また多くが母子家庭であるひとり親世帯の貧困率をみると、働いても貧困から抜け出せないという日本特有の状況があります(図表4)。この背景には母子世帯の就労率は約85%と高いにもかかわらず、臨時・パート等非正規雇用が多くなりがちで、約7割が年間就労収入200万円未満(平成17年1)という状況があります。母子世帯では子育てを一人で担うという責任と経済的な困難に直面するリスクとをあわせ抱えていると考えられます。

図表3 若年人口(20-24歳層)に占める正規従業員の比率(男女別)

図表4 子どものいる世帯の相対的貧困率(2000年代中盤)

4.今後の取組と課題

以上で見てきた男女それぞれの状況や生活困難の実態などを踏まえ、今後の取組に当たっての考え方と4つの課題ごとの方向性をとりまとめました。

【考え方】

まず重要なのが、何らかの困難な状況を抱えつつも、個人の適性や能力に応じた自立を実現していくためにも、男女共同参画社会の実現が欠かせないという視点です。家庭や地域における男女共同参画、女性が働きやすい就業構造への改革、女性に対する暴力の防止と被害者支援などの推進は、生活困難の防止の視点からも不可欠です。

2点目は、社会システムの再構築、中でも、セーフティネットの再構築が必要であるという点です。

3点目は、個人のエンパワーメントを図るという視点です。ここでの“エンパワーメント”とは、その人自身が自尊心を回復し、持てる力を引き出して自己決定できる状態を目指す過程のことを指しますが、特に精神的な回復が必要な人々に対しては、その回復を支援する仕組みが必要です。

4点目は、生活困難の次世代への連鎖の断ち切りが必要との視点です。

【当面の課題】

4つの分野にわたり、今後政府が構ずるべき施策を示しています(図表5)。

図表5 当面の課題

若年期は、自らの人生を選択しキャリアを形成していく上での価値観や能力を育む重要な時期です。初等中等教育段階からの一貫したキャリア教育・職業教育を推進します。また学校における進路指導や就職指導、女性のライフプランニング支援では男女共に経済的に自立していくことの重要性が伝えられることが求められます。

一方、ニートや引きこもりなど困難を抱える若者に対しては、精神的な回復が必要な場合には必要な支援を提供し、就業による自立支援に加え、日常生活の自立や社会的な自立を、幅広いネットワークによって支援する施策を更に進めます。

DV被害当事者への支援の充実としては、平成21年5月に総務省が行った勧告に従い、通報及び相談の効果的な実施、就業支援施策の実績の把握、公営住宅の入居に関する広報や都道府県への要請など必要な措置をとります。

高齢者に対しては、平成20年に男女共同参画会議が決定した意見に従い、就業促進と社会参加に向けた取組、経済的自立のための制度や環境の整備などを引き続き進めます。

住宅確保のための支援や生活保障付き教育訓練の機会、緊急の融資制度など、非正規労働者のセーフティネットの施策を着実に実施します。また非正規労働者が失業しても生活の安定が図られ、労働市場へ再参入する恒久的なセーフティネットの構築を図ります。また、ポジティブ・アクションや、労働基準法に定める男女同一賃金など男女の雇用機会均等を進める施策を一層強化します。

女性の就業継続や再就職を図り経済的自立を実現するためにも、男性を含めた働き方の見直しなど仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を進め、質・量ともに十分な保育サービスや放課後児童クラブの提供を図ります。

生活困難を抱えるひとり親世帯への自立支援として、子育て・生活支援や就業支援、経済的支援など総合的な支援の充実や子どもをケアする時間の確保など、母子家庭等の実情にあったきめ細やかな支援の提供を行います。父子家庭には世帯や子どもの状況に応じた支援を推進し、手当の支給についても検討を進め、また、父子家庭が地域で孤立しやすいことの背景にあると考えられる固定的性別役割分担意識の解消に向けた広報・啓発活動を進めます。

生活困難の次世代連鎖を断ち切るためにも、女性の就業継続や再就職が可能な環境整備が必要です。また幼児教育の無償化や、高校の授業料の実質無償化、貸与奨学金の導入だけではなく、給付型奨学金なども検討し、教育費の負担軽減を進めます。

DV被害者支援を含む女性の困難な問題への支援や若者支援について、既存制度を活用したワンストップ・サービス化を進めます。また、支援策が実際に生活困難を抱える人が活用しやすいものとなるよう、必要に応じて制度設計や、必要な手続き等業務運用の見直しを行います。

生活困難者への支援の形態として、複数の支援を組み合わせた、地域の実情に合った支援が望まれることから、多様な主体間の連携に引き続き取り組みます。

【中長期的課題】

中長期に取組む課題として、図表6に示された施策が提言されました。

「生活困難を抱える男女」の問題は、本年中に策定が予定されている新しい男女共同参画基本計画の策定過程においても検討課題となっています。

報告書の詳細につきましてはホームページをご覧ください。

http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/kansieikyo/seikatsukonnan/index.html

図表6 中長期的課題

(注)「相対的貧困率」は等価可処分所得(収入から税・社会保険料を差し引き、社会保障給付を加えた額を、世帯の人数の平方根で割って調整した値。世帯構成員の所得水準を示す。)の中央値の一定割合未満の所得の人口が全人口に占める割合。一定割合は50%とすることが一般的。