「共同参画」2009年 12月号

「共同参画」2009年 12月号

連載 その1

地域戦略としてのワーク・ライフ・バランス 先進自治体(8)
徳島県
渥美 由喜 株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長

女性社長割合が全国No.1

WLBを推進する上で3つのポイントがある。1 経営トップのコミットメント、2 「時間・場所の制約」を前提とした業務管理、3 他者を受容する従業員の意識変革(お互いさま思いやり意識の浸透)だ。なお、大企業ではこれに加えて、4 各種制度の導入と利用しやすい環境作りも重要だ。逆に、中小企業は、臨機応変な対応で「働きやすい職場」を作れる。必ずしも「制度」は不可欠ではない。

上記のうち、一つを選ぶとすれば、1 だろう。特に、女性社長の多くは、自身が仕事と子育て・介護の両立で苦労した実体験を踏まえて、素晴らしいコミットメントをしているケースが多い。

帝国データバンクのデータをみると、女性社長の割合が全国で最も高いのは徳島県だ。また、同県は「女性の管理職割合」をみても全国一だ。出世する女性を最も輩出している土地柄と言える。

これまで筆者は「出世している女性たち」にインタビューをしてきて、共通項に気づいた。多くの場合、メンター、ロールモデル、パートナー(夫・仕事相手)に恵まれている。そして、優秀だ。男性管理職の中には一定割合、優秀とは言い難い人が混ざっているが、女性ではあまり見かけない。この4つの頭文字を取って筆者は勝手に「MRPU(ミスタープー)の法則」と呼んでいる。女性社長や女性管理職が多い徳島県は、4要素のうちMRに恵まれているから、さらに後輩たちが出世をする、という正の連鎖が生まれていると推測される。

先進企業のトップの「三遷」

筆者は、これまでWLBやダイバーシティ(DIV)に取り組む先進企業、国内外600社にヒアリングをしてきた。海外100社をまわって気づいたのは、先進企業では取組みが本格化するまで、トップは3世代かかるという点だ。

第一世代は「理解世代」。トップ自身が若い頃は仕事人間でワークライフアンバランスな生活を送っていたが、聡明なので、これからの時代はWLB・DIVが必要不可欠と理解して、推進する。

第二世代は「転向世代」。トップ自身が若い頃には体育会・パワハラ系の上司にしごかれた。しかし、管理職になってから、属性が多様な部下をイキイキと働かせるには、きめ細やかなマネジメントへと切り替えないと駄目だと気づく。

第三世代は「確信世代」。トップ自身が若い頃からWLBを実践してきて、WLB・DIVが個人・組織を活性化すると確信し、率先垂範している。

現在、日本の先進企業のトップの大半は第一世代だ。そうした企業の中間管理職の中には第二世代も出てきている。いずれ彼らがトップに立つだろう。

しかし、第三世代のトップはまだほとんどいない。筆者がいま仕えている上司である佐々木常夫社長は数少ない一人だ。第三世代のトップの下ではどういう職場になるのか、身をもって体験したいと考え、筆者は4ケ月前に転職をした。

おそらく徳島県をはじめ女性社長が多い地域では、第三世代のトップが多いのではないか。そうした企業では、トップダウンでWLBの推進に迷いなく突き進む。先進企業と一口にいっても、第一世代から第二世代、第三世代となるほど、企業業績は大きく向上していく。徳島県の女性企業の今後が注目される。

(図表)都道府県別の女性社長率・公務員の女性管理職率(単位:%)

渥美 由喜
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&
ワークライフバランス研究部長
渥美 由喜

あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。