「共同参画」2009年 11月号

「共同参画」2009年 11月号

特集

女性に対する暴力をなくす運動について
~ 女性に対する暴力の現状と取組 ~
内閣府男女共同参画局推進課

11月12日~25日は、「女性に対する暴力をなくす運動」の期間です。この期間を中心に、国、地方公共団体、女性団体など関係団体等が女性に対する暴力の根絶へ向けて、さまざまな取組を展開しています。

女性に対する暴力について、現状と取組の概要をご紹介します。

女性に対する暴力の現状

配偶者等からの暴力、性犯罪、売買春、人身取引、セクシュアル・ハラスメント、ストーカー行為等の女性に対する暴力は、女性の人権を著しく侵害するものであり、男女共同参画社会を形成していく上で克服すべき重要な課題です。

配偶者からの暴力についての
被害経験

内閣府が平成20年に実施した調査によると、これまでに結婚したことのある人のうち、配偶者から「身体的暴行」、「心理的攻撃」、「性的強要」のいずれかについて何度もあったと答えた人は、女性10.8%、男性2.9%、1度でも受けたことがあると答えた人は、女性33.2%、男性17.8%となっています(図1)。

図1 配偶者からの被害経験(身体的暴行、心理的攻撃、性的強要のいずれかの行為を一つでも受けた経験の有無)

さらに、これまでに配偶者から何らかの被害を受けたことのある人のうち、その行為によって、命の危険を感じたことがあるかを聞いたところ、「感じた」という人は女性13.3%、男性4.7%となっています。また、その行為によって、怪我をしたり、精神的に不調をきたしたことがあるという人は、女性34.8%、男性14.1%となっています。

また、全国の配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は年々増加し、平成20年度は6万8千件以上に上り、警察に寄せられた配偶者からの暴力に関する相談等への対応件数も年々増加し、平成20年は2万5千件を超えているほか、保護命令の発令件数についても、ここ数年2千件台前半で推移していましたが、平成20年は2,500件を超え、増加傾向にあります。

性犯罪の実態

警察庁の統計によると、強姦の認知件数は、平成12年以降6年連続で2,000件を超えていましたが、16年から減少傾向に転じ、20年は1,582件で、前年に比べ184件(10.4%)減少しました。

強制わいせつの認知件数は、平成11年以降毎年増加していましたが、16年から減少し、20年では7,111件と、前年に比べ553件(7.2%)減少しています(図2)。

図2 強姦、強制わいせつ認知件数の推移

内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(平成20年)において、女性(1,675人)に、これまでに異性から無理やりに性交された経験を聞いたところ、「1回あった」が3.1%、「2回以上あった」が4.2%で、被害経験がある女性は7.3%となっています。被害にあった時期としては、「20歳代」が38.2%で最も多く、次いで「30歳代」(15.4%)、「中学卒業から19歳まで」(12.2%)となっています。また、「小学生のとき」(12.2%)、「中学生のとき」(4.9%)、「小学校入学前」(3.3%)など低年齢で被害を受けている人も2割程度います。

売買春の実態

平成20年の売春関係事犯送致件数は2,396件となり、前年に比べ減少しました。また、要保護女子総数は1,794人で前年に比べ減少しましたが、未成年者が占める割合は24.1%で、前年に比べ5.8ポイント増加しています。

平成20年の児童買春事件の検挙件数は1,056件(前年比291件減)であり、このうち、出会い系サイトを利用したものが531件(50.3%)、テレホンクラブ営業に係るものは46件(4.4%)となっています。

人身取引の実態

警察庁の統計によると、平成20年における人身取引事犯の検挙件数は36件、検挙人員は33人で、検挙人員のうちブローカーが7人となっています。また、警察において確認した被害者の総数は36人と、前年に比べ7人(16.3%)減少しています。被害者の国籍は、タイ18人(50.0%)が最も多く、次いでフィリピン7人(19.4%)、中国(台湾)5人(13.9%)の順となっています。

セクシュアル・ハラスメントの実態

平成20年度に都道府県労働局雇用均等室に寄せられたセクシュアル・ハラスメントの相談件数は、13,529件となっており、男女雇用機会均等法の改正も受けて、ここ数年、急激に増加しています(図3)。

図3 都道府県労働局雇用均等室に寄せられた職場におけるセクシュアル・ハラスメントの相談件数

ストーカー行為の実態

平成20年中に警察庁に報告のあったストーカー事案の認知件数は、14,657件で、前年に比べ1,194件(8.9%)増加しています。また、被害者の90.3%が女性で、行為者の90.1%が男性となっています。

平成20年のストーカー行為等の規制等に関する法律(以下、「ストーカー規制法」という。)に基づく警告は1,335件で、前年に比べ49件(3.5%)減少しています。警告に従わない者に対する禁止命令は26件発令されています。

また、ストーカー行為罪での検挙件数は243件で、前年に比べ3件増加しています。禁止命令違反での検挙件数は1件です。

平成20年中に、ストーカー規制法第7条に基づき、警察本部長等が援助を求められた件数は2,260件で、前年に比べ119件(5.6%)増加しています。援助の内容(複数計上)としては、被害を自ら防止するための措置の教示が1,092件(前年比207件増加)で最も多くなっています。

女性に対する暴力の根絶へ
向けた取組

女性に対する暴力をなくす運動

11月12日~25日の「女性に対する暴力をなくす運動」の期間は、国、地方公共団体、女性団体その他の関係団体が、意識啓発、広報キャンペーン、講演会やセミナーの開催、被害者からの相談活動などを全国各地で展開します。

国、都道府県及び政令指定都市の取組は、内閣府男女共同参画局のホームページの「女性に対する暴力」のサイトでご覧いただけます。

(男女共同参画局HP http://www.gender.go.jp

この取組の一環として、内閣府は、11月17日から19日の3日間、午前9時から午後9時まで、配偶者等からの暴力の被害者が全国どこからでも無料で相談できる「電話相談キャンペーン」を実施しました。

配偶者からの暴力対策

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」、同法に基づく「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策に関する基本的な方針」及び「男女共同参画基本計画(第2次)」に基づき、関係府省庁では、配偶者からの暴力の防止と被害者の保護・自立支援のための施策について、より一層の充実に努めています。

[内閣府]

・官民の関係者等が一堂に会し支援についての情報を共有する「DV全国会議」を開催

・身近な相談窓口の連絡先や相談受付時間を自動音声で案内する「DV被害者のための相談機関電話番号案内サービス」(通称DV相談ナビ)を運用

・地域において生活している被害者の自立を支援するためのモデル事業を実施

・将来において暴力の被害者にも加害者にもならないよう若年層に対する予防啓発教材を開発

[警察庁]

・被害者が相談・申告しやすい環境の整備(各都道府県警察の相談窓口の利便性の向上、被害者を夫・パートナーから引き離して別室での事情聴取)

[厚生労働省]

・婦人相談所において弁護士等による被害者への離婚や在留資格等に関する法的な援助や調整を実施

・婦人相談所における被害者に対する一時保護委託費の充実

・婦人保護施設の退所者支援の充実

人身取引対策

人身取引の防止・撲滅と被害者の保護に向け、政府は平成16年に「人身取引対策行動計画」を策定し、同行動計画に沿って取組を進めています。

[内閣府]

・女性に対する暴力をなくしていく観点から人身取引に関する広報啓発を実施

[警察庁]

・市民からの事件情報の通報を受ける「子どもや女性を守るための匿名通報情報モデル事業」の実施

[法務省]

・被害者に対して上陸又は在留を特別に許可できることとした出入国管理及び難民認定法に基づき、不法滞在者である被害者について在留を特別に許可

[外務省]

・IOM(国際移住機関)を通じ、人身取引被害者の帰国及び社会復帰を支援

[厚生労働省]

・婦人相談所で保護した人身取引被害者の医療費について他法他制度が利用できない場合の補助

「女性に対する暴力をなくす運動ポスター」(平成21年度)」

インターネットと女性に対する暴力
~インターネット協会の相談事例から~
財団法人インターネット協会 主幹研究員 大久保 貴世

自己被害者といえる女性たち

「憤りを覚えてメールを送りました」 2009年10月に届いた相談は悩ましい。

青少年によるネットの過激な利用が増えている。特に女子はネットの実態を知らないまま、自己満足だけでネットに自分自身をさらしている。

「○○○サイトをご存知でしょうか。女子中高生の「パンチラ」などの画像や動画を公然と売っています。○○○サイトに問い合わせれば、掲載者の身元がわかって、逮捕出来るのではないでしょうか?また、小さい子たちのポルノ画像や動画ばかりが問題視されていますが、女子中高生のものが今一番大量に出回っています。ネット上でそのようなものを掲載するのは児童ポルノ現行法でも違法なのではないでしょうか?あまりにも大量に、また公然に出回っているのに驚愕しました。」

このサイトは、利用者が動画や記事を評価するサイトで、自身や知人の画像に沢山の評価が得られれば嬉しいものだろう。ところが、個人情報を出さず、顔が露出していなくても、見る人が見れば仕草や声で誰なのかがわかるため、絶好のバッシングの材料となってしまうのだ。そして、その女子はひどく反省することになる。

女性に対する暴力に触れる前に、自身で被害を作っている現象があることも忘れてはならない。それは「加害者」でも「被害者」でもなく、「自己被害者」といえる女性たちの行動だ。

たった一度のあやまちがネットで拡大する

2009年4月の相談は、これほどの自己被害はないであろうという例。どうしたら立ち直れるのだろう。

「高校2年生のときに出会い系で知り合った9歳年上の方と付き合っていました。遠距離で寂しいから、と言われ性行為をビデオで撮られました。ネットでの画像流出問題が目立つようになり、私も不安になったので検索してみたら個人撮影ビデオとして販売されていました。今現在、結婚を考えている彼がいます。彼に知られないようにビデオを全て削除したい。」

相談者は「自分の名前」を検索してみた。便利な検索機能が逆に恐ろしい機能となり、検索すればあっという間に自分の名前と映像がセットになって掘り出された。解決策は、サイトの削除依頼と検索の非表示依頼をする方法しかないが、完全に消えるまでにかなりの時間がかかる。依頼する度にサイトに登場する自身の画像を見ることになるので、心情を察するといたたまれない。

もっとネットを知ってほしい

インターネット協会では、10年間におよぶ相談実績をもとに、子どもの頃からネットの危険性を知っておくべきとして講演活動を行っている。保護者向けには、出会い系、子どもが自ら投稿する写真掲載、暴力的な内容のサイトを見せる。そして、自らの行為がこんな大ごとになるなんてと反省する子もいれば、反省すらしなかったりする子もいることをお話する。実態を知らない保護者の中には衝撃的な内容に涙ぐむ方も。「便利な機能の裏に危険が潜んでいる事を実感する事ができました。子どもが自分で判断できるように、今後親子で共に考えていこうと思います。」との感想をもらうこともある。

ネットから離れ、現実を見よう

ネットでどうしても解決しない時は「たかがネットのこと、だから関係ない」と無視する勇気を持つ方法もある。ネットから一時離れれば、現実の世界でいろいろ人がいることを知って、現実の場で鍛えられ、異性や同性の見る目を養なっていける。そしてネットの世界に戻った時「ここでの投稿には注意した方がいい」「この男性は優しそうに見えて恐いに違いない」と、ネット上で責任のとれる振る舞いができるようになるもの。いきなりネットデビューするのではなく、その前に現実で体験をしっかり重ねていくべきだろう。

ある小学校の先生から「学校ぐるみでお祭りを推奨している。そこには昔ながらの老若男女のアナログコミュニケーションがあって、子ども達が五感をとおして体全体で覚える。その基本があってこそ、デジタルコミュニケーションもうまくいくと考えている」との話を聞いて、全く同感だと思った。

立ち上がる選択
~性暴力という人権侵害を減らすために~
フォトジャーナリスト 大薮 順子

被害経験から学んだこと

アメリカの新聞社に勤めていた1999年8月の夜、私は自宅で性暴力の被害に遭いました。警察へ通報し、病院でレイプ検査という検査を受けました。アメリカの病院には、必ず検査のためのレイプキットというものが設置されています。また、最近では、州によって差はありますが、救急病院に性犯罪被害者用の部屋が設けられているところが多くなってきましたし、付き添いの人たちが休めるスペースを確保しているところもあり、設備は非常に整ってきていると思います。私が被害に遭った1999年は、SART(Sexual Assault Response Team)という性暴力対応チームの体制が確立したころでした。

検査の後、警察官と一緒に性暴力の支援センターのアドボケートと呼ばれる女性がやってきました。アドボケートとは、病院や裁判所に付き添ったり、カウンセリングを提供したり、被害者と一緒に歩いてくれる人たちです。アメリカでは、アドボケートというのがいろいろなところに配置されており、性暴力の被害者だけでなく、DVの被害者や、児童虐待の被害者など、いろいろなアドボケートがあります。私についてくれたアドボケートは、カウンセラーでもありました。

救急病院で私が受けたレイプ検査の費用とその後のカウンセリングの費用は、全て州が負担してくれましたので、私自身の負担はありませんでした。

被害の翌日の事情聴取は、担当の警察官のほかに、州が私にあてがってくれた公の弁護士もいました。辛い被害体験を何回も説明せずに済むように、関係者が集まっていたのです。

このような体制は整っていましたが、心の傷の回復は人それぞれであり、回復に数年、あるいは何十年かかる人もいます。では、第三者である私たちには支援として何ができるのでしょうか。私自身がアドボケートの人から聞かされたように「あなたのせいじゃないのよ」という言葉を、まず最初に誰かから聞くことができれば、誰か一人でも自分の味方だと思える人がいたら、被害者の心というのは随分楽になるのではないかと思います。

また、どんなに支援を受けて、どんなに周りの人がいたわってくれても、被害者本人の意識改革がなければ、その人は回復しません。本人が「私は幸せになっていいんだ」「私だって本当の自分を取り戻したい」と思えるようになるような形の支援を考えていく必要があるのではないかと思っています。被害に遭っても、そこから新しく歩んでいくということも被害者の選択の一つなのです。

防止対策の重要性

性犯罪対策を考える上では、性犯罪が及ぼす社会的コストというものに目を向ける必要があるのではないかと思います。苦しんでいる人に支援の手を差し伸べるためには、何らかのサービスやプログラムを整えること、それらの情報を支援を必要としている人が入手できることなど、いろいろなことが必要になってきます。

そのためには、まず現状を踏まえる必要があります。アメリカ政府が出しているデータによれば、毎年、約12.7兆円が性暴力によって出費されているといわれています。1つの性犯罪事件によって、約1100万円かかっていることになります。それは、シェルターや、医療費、弁護士代、警察の処置、あるいは加害者の矯正プログラムにかかる費用や、刑務所の費用、裁判費用、生活保護の費用などそういうものを全て含めたものです。

たとえば日本でも、生活保護を受けている人のうち、いったいどれだけの人が性暴力が原因で精神障害を起こすようになって、普通に働いて自活するということができないのだろうか、その調査は実際にどうやったらできるのだろうか、と私自身も考えているところですが、そういう形で数字を割り出していくことが、支援を行うに当たって非常に重要なことではないかと思います。もし、経費を削減したいのであれば、やはり防止に努める必要があると思います。長い目で見たら、支援と並行して、「防止」について何ができるのかを考えていく必要があります。

プロジェクト
~性暴力被害者たちの素顔~

私は2001年から「性暴力被害者たちの素顔 STAND:Faces of Rape & Sexual Survivors Project」という題名でプロジェクトを始めました。このプロジェクトは、写真を通して性暴力被害者の素顔を伝えようというものです。

この活動の中で、驚いたことがたくさんあります。70人近くがプロジェクトに参加してくれましたが、彼らに共通していたのは、自分と同じような経験をして一人で苦しんでいる人たちに「あなたは一人ではない」ということを伝えてあげたいという思いでした。恥ずべきは加害者なのだから、私は堂々と社会で生きていきたい、そういう宣言も兼ねて、私のプロジェクトに参加したいと言ってくれる人たちがたくさんいました。

私は報道という仕事をしていながら、新聞に事件の記事が載った後、被害者又は加害者、加害者の家族、被害者の家族の生活がその後も続いていくということについて関心を寄せたことがありませんでした。自分が被害に遭ってはじめて、これまで自分は、性暴力とは全く無関係の人間だと思っていたということに気付かされました。でも、その関心のなさというのは、結局は加害者保護につながっていたということを痛感したのです。

家庭の重要性

暴力を生み出さないためには、家庭というのが重要であると思います。子どもを虐待する大人たちはどういう経験をしてきて、どういう理由で人を傷つけるという行為に至ってしまうのか、なぜ怒りをぶつける対象を子どもにしてしまうのか、対策を考えるには、まずそこに着目していかなければならないと思います。

私個人の意見では、一番基本のコミュニティである家庭が崩壊すれば崩壊するほど犯罪は増えると思います。アメリカの社会を見ていると一目瞭然です。アメリカの結婚の約50%は離婚に終わっています。ですから、やはり家庭という基本のコミュニティをもっと住みやすくするためにはどうしたらいいのかということに焦点を置いていく必要があるのではないかと思っています。

子どもたちを暴力の加害者にしないためには、やはり相手を思いやる気持ちや、人の権利、安心して生きる権利を自分自身も守らなければいけないんだということをしっかり教えることが大切です。加害者たちには、自尊心がないからこそ、他人の自尊心や人権を奪うということができてしまうのではないかと思うのです。そしてそこには、加害者自身が受けてきた虐待や貧困などが大きく影響しているのではないかと思います。たとえ親ではなくても、子どもたちをありのままの姿で愛してくれる誰かがいるだけで、彼らは変わっていきます。

そのためには、やはり家庭の中で家族一人一人を大切にいたわっていないと、そういう気持ちも生まれません。ですから、加害防止を考えたとき、やはり家庭に目を向けて、その家庭の状況というのを変えていくことが、性犯罪の減少につながっていくのではないかと考えています。

大薮 順子 おおやぶ・のぶこ
大薮 順子 おおやぶ・のぶこ/フォトジャーナリスト。 自身の性暴力被害をきっかけに、プロジェクト「性犯罪被害者達の素顔 STAND:Faces of Rape & Sexual Survivors Project」を立ち上げる。現在、フォトジャーナリストとして活躍するほか、全米性暴力調査センターの名誉理事、幼児虐待防止対策機関の役員を務める。アメリカ在住。