「共同参画」2009年 8・9月号

「共同参画」2009年 8・9月号

スペシャル・インタビュー

新しいライフスタイルを提案する「編集者」でありたい
~授乳服の販売からライフデザイン支援まで~

今回は、今年度女性のチャレンジ賞を受賞された女性起業家光畑 由佳さんにお話を伺いました。

「ワーク・ライフ・ミックス」な生き方・働き方を実践しています。

─ チャレンジ賞の受賞おめでとうございます。まずは、受賞されてのご感想をお聞かせください。

光畑  授乳服を販売する「モーハウス」の活動を始めた当初は、これで楽になるお母さんが多いに違いない、みんな助かるに違いないと思ったのですが、すぐには受け入れていただけませんでした。当事者の女性自身に、子育て中だから家にいて、子育てだけに専念しなきゃという意識があったのではないかと思います。それが十数年たって、こういう賞が頂けるという状況になってきたのはすごい変化だと思いますし、本当にありがたいことだなと思っています。

  私自身が、ずっと子連れ出勤でやってきましたので、私一人の力ではなく賛同してくださったお客様、一緒に働いてきたスタッフ、支援してくださった様々な方がいなければ、こういう活動は楽しく続けられなかったと思います。

― 起業のきっかけというのは何だったのでしょうか。

光畑  二人目の子が生後1ケ月頃に、電車で外出したのですが、途中で泣き出してしまいまして、やむなく車内で授乳をしたわけです。そのときに、もちろん自分自身、恥ずかしいというのもあるのですが、なんて不自由なんだろうと思ったのです。何か道具で解決できないかなということで、出会ったのが授乳服でした。実際にそれを着たときに、とても解放感があったんですよ。こんなに楽になるのだから、みなさんにまず存在を知ってほしい、そして選んでほしいと思ったのがスタートですね。

― 起業されたあと、自社内でスタッフも含めて、子連れ出勤を実践されたそうですね。

光畑 その経験を本にまとめて出版したのですが、読むのはお母さんかなと思っていたところ、意外と男性の方も読んでくださっているようです。こういう多様な働き方をしっかり考えていかないといけないよね、という反応が多く、自分の会社や職場でできるか、できないかということまで考えてくださっているというのが、すごくうれしいです。

子連れ出勤というのは、方法としてはすごく極端な例だと思います。単に子連れ出勤は楽ですよ、ということを言いたかったのではなく、子連れ出勤という一番極端な方法を提示することで、色んな人の選択の幅を広げられたら、と思って書きました。つまり、お母さんならば、私は子どもがいるからできない、と自分で諦めてしまわずに、周囲の人達、家族の協力などを得られるよう、積極的に条件や環境の整備にトライしてみる。そうするとその過程で解決策がみつかることもよくあります。また、企業ならば、子どもがいる女性の力を活用してみる、といったことです。

「出来るかもしれない」と何となく感じてはいるけれども、周りで実践しているところがなかったり、理論的な根拠がなかったりという状況の中で、私のように実際に実践している例があると、自信が得られるのではないでしょうか。どんなお母さんでも企業でも、子連れ出勤が可能というわけではないのはもちろんですが、女性の活用のためのひとつのヒントとなればと考えています。

― 光畑さんのように、社会的な課題を意識して事業運営を行う起業家を「社会起業家」として位置づけるようになってきました。

光畑 私は、自分は編集者だと思っていまして、メーカーだとはあまり思っていません。雑誌などのメディアを使う代わりに、モーハウスの授乳服で表現したり、「授乳ショー」というイベントで表現したり、子連れ出勤というスタイルや、本という形で表現したりと、いろんな方向から伝えていきたいと思っています。

起業当初は、NPOを別に作るかとか、NPO化するかということは、何度か議論として持ち上がっていました。しかし、私の中では、商品販売で利益を出し、自立できるような組織・人を作りたいというところがあったので、企業という形が一番自然だったんですね。ですので、企業として利益を追求しつつも、社会へのメッセージを発信していく、ということが、「社会起業家」という言葉ができたことで、一般の人にも理解されやすくなってきたのは良かったと思っています。

― ワーク・ライフ・バランスについてのお考えをお聞かせ下さい。

光畑 今の世の中にあっては、社会の中で何らかの活動をしている自分、家庭の中で生活する自分、子育てする自分、それらが全部組み合わさって一人の「自分」を形成しているのだと思います。ワーク・ライフ・バランスに逆行するような人というのは、仕事だけになって、生活がなくなる。他方、子育て中の人の辛さというのは、実際におむつを替える回数が多いから大変だとかいうことではなくて、おそらく社会とのつながりが断たれてしまうところにあると感じています。

ですから、仕事の中に生活が差し込まれてきたり、生活の中に仕事などの社会的な活動が入ってくるということは、とても自然な流れなのかなと。

そういうわけで、私はいつも、「ワーク・ライフ・ミックス」という言い方をしています。「ワーク・ライフ・バランス」ではなく、「ミックス」にしたのは、「ワーク」と「ライフ」が対立軸ではなく、同じ方向を向いてほしいという思いがあったからです。

現代日本の企業社会においては、「もっと早く家に帰る」ということももちろん重要です。しかし、ワークとライフを切り離して、時間割的に、ワークが終わったらライフという考え方だけではなく、私のように、起きている時間はずっと仕事しているけれども、ずっとその間に子育ても間に入ってきてというような形もあるのではないかなと思うのです。そういう多様な選択肢というのを知ってもらえたらと思います。

子連れ出勤のメリットというのは、労働力不足の解消、人材の多様化、企業イメージの向上などすべてワーク・ライフ・バランス推進によるメリットと同じなんですよ。

― 本日は元気のでるお話をお伺いできました。ありがとうございました。


モーハウス代表
モネット有限会社代表取締役
光畑 由佳

みつはた ゆか/外出時に着用でき、授乳時に肌が露出しない授乳服の製作・販売を始め2001年に法人化。東京・青山のショップも含めて子連れ勤務を実現する等、育児と仕事を両立できる就労環境の整備に努めている。また、女性のライフデザインを支援する活動団体「マザー・ライフ・アソシエーション(通称:らくふぁむ)」の立上げを準備中。著書に『働くママが日本を救う!~「子連れ出勤という就業スタイル」』
http://www.mo-house.net/