「共同参画」2009年 6月号

「共同参画」2009年 6月号

連載 その1

地域戦略としてのワーク・ライフ・バランス 先進自治体(3)
三重県
渥美 由喜 株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長

子どもを中心としたネットワーク

WLBは少子化対策のためだけに必要なわけではない、と言われる。子育て家庭のみならず、あらゆる人にとってWLBは必要という意味では正しい。一方で、WLBと少子化対策いずれも「地域の社会基盤を強固にする」強力なツールだ。

第一回の総論で、今後のキーワードはネットワーク、すなわち行政・企業・従業員・NPO等の結びつきが重要と述べた。

三重県には、企業と地域の団体が連携した「みえ次世代育成応援ネットワーク」があり、企業会員数222、NPOなど地域会員数447と活況を呈している。

年1回、実施している「子育て応援!わくわくフェスタ」には2万7千人が来場する。コンセプトは、子連れの家族が2日間たっぷりと楽しめる空間作りだ。ものづくりなどの「体験教室ゾーン」をはじめ、子どもたちが楽しめる131のブースを企業や地域の団体が提供している。

ネットワークで回収した子ども服や絵本は4000を超え、「もったいないプレゼント」として来場者に提供している。

子どもたちが成長すると、ネットワークの担い手に加わる。紙飛行機飛ばしのコンテスト、障害物競走、通常よりも大きくて絵が描いてあるカルタ取り大会の企画・運営は、三重県内の大学生たちだ。高校生も、子どもたちに風船を渡すボランティアとして、参加している。

フェスタの盛況ぶり、家族が楽しんでいる光景に感銘を受けたNPO・私立大学が、地域版フェスタを松阪市で成功させるなど、市レベルにも波及している。

地域の社会基盤が強固に

なぜ三重県では、企業等の連携が進んでいるのか。ネットワークの代表は、「地元の企業は自分たちが活動できるのは地域のおかげと考えているからだ」と語る。

WLBの本質はワークとライフの相乗効果だ(図1)。しかし、これは一個人や一企業だけではなく、地域社会全体にも当てはまる。図1と図2の構造は、とてもよく似ている。すなわち、質の高い生活環境が質の高い労働力を生む。特に、将来の労働力である子どもたちが健全に育っている地域の未来は明るい。このことに気づいた企業等がネットワークを通じた地域貢献に多数、参集しているのだ。

昨年、三重県で新設された「こども局」は、シームレスな(とぎれのない)施策を展開している。一つは、保育、教育、青少年健全育成という子どもの年齢に関する「直線的なつながり」だ。もう一つは、多様な主体が連携している「面的なつながり」だ。前者は、行政組織の再編で生まれたものだが、後者は行政と各主体の情熱・労苦で育まれたものだ。

「面的なつながり」には、3つの意義がある。第一に、加わる主体が増えるにつれて、ネットワークの網の目は細かくなり、子どもを支える安全網は強固になる。第二に、現場のニーズを吸い上げて行政に知らせ、行政からの情報も現場に伝わる連絡網が縦横無尽に張り巡らされることになる。第三に、地域の力を引き出し、子どもと子育て家庭を支える土台=社会基盤が強固になる(図2)。

三重県こども局の「地域力は無限。一歩踏み出すと連鎖反応が起こる」という言葉は、実に含蓄深いと思う。

株式会社富士通総研主任研究員 渥美 由喜
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&
ワークライフバランス研究部長
渥美 由喜

あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。