「共同参画」2009年 6月号

「共同参画」2009年 6月号

特集

男女共同参画社会基本法制定 10年の歩みとこれからの 男女共同参画社会への展望

座談会

出席者

岩男壽美子氏 慶應義塾大学名誉教授

鹿嶋  敬氏 実践女子大学教授

内海 房子氏 NECラーニング株式会社 代表取締役社長

原 ひろ子氏 城西国際大学客員教授

司 会:   板東 久美子 男女共同参画局長

実施地域と地域テーマ

本年は、平成11年6月に男女共同参画社会基本法が公布・施行されてから10年という節目の年です。本日は、男女共同参画の推進にご尽力いただき、また、様々な分野において活躍されている4名の方々をお招きし、この10年の歩みとこれからの展望について幅広くお話を伺いました。

基本法の定義と10年の変化

司会 男女共同参画社会基本法(以下、「基本法」)ができて、この6月で10年ということになりますので、本日は基本法の定義と10年の変化をテーマとしまして、10年を振り返ってのご感想、そしてこれからを展望してどのようなアクションを起こしていくべきなのかということをお話しいただきたいと思っております。

早速ですが岩男先生、先生には男女共同参画審議会会長として基本法の基本構想をおまとめいただきましたので、基本法の中核となる考え方とか役割についてお話しください。

岩男 基本法にはいろいろな思いがあるものですから、なかなかうまく整理できないのですが、基本法で描いている男女共同参画社会が実現しない限り、これからの日本が国際社会の中で、活力ある社会として存在し続けていくことは難しいと思います。つまり、男女共同参画社会の実現なしに日本の繁栄はないのだと思っています。

特に基本法で謳っているように、男性も女性も一人ひとりの日本人の能力が十分に発揮できれば、日本は引き続きしっかりとした社会でいられると思っています。

司会 岩男先生がおっしゃったように男性も女性も一人ひとりが能力を最大限に発揮する、そのことが社会全体の活力、持続可能性、そして安心の基盤ということだと思いますが、経済分野あるいは雇用の分野につきまして、この10年間の変化を内海社長はどう感じておられますでしょうか。

内海 男性は、仕事の面ではある程度能力発揮ができているのではないかと思います。一方、女性は能力を十分発揮しているかというと、半分も発揮していない人たちがたくさんいるのではないでしょうか。その人たちが何故発揮できないかというと、勿論本人の意識の問題もあるとは思いますが、機会が与えられない、訓練がされていないということが大きいと思います。

機会を与えるという意味では、私がNECの統括マネージャーという立場にいましたときに、突然、NECソフトという会社の執行役員に抜擢され、チャンスをいただきました。NECの幹部には思い切った女性の登用をしてくれたと感謝しています。当時をふり返ってみますと、男女共同参画社会基本法が制定されたこともその背景にはあったようです。

企業もこのように頑張ってはいるのですが、実際のデータを見ますと、まだまだ女性管理職比率は低いですね。

司会 鹿嶋先生はメディアの側におられましたし、その後大学で教えておられ、地域の男女共同参画の推進の問題にも精通されておられますので、どのようにお感じになっていますか。

鹿嶋 今年の初めにある新聞社の社説が男女共同参画の総括を書きまして、「堅苦しいのが玉に傷」と表現していました。「男女共同参画」の呼称についてですが、確かにそういう感じはある。ただ、なくてはならない画期的な法律であるとも指摘し、私もそのとおりだと思うのです。

私は、この法律ができた当時は日本経済新聞の編集委員をしていましたが、最近1990年代半ば辺りを1つのエポックとしてとらえる研究とか、討論会が結構盛んなんですね。90年代半ば以降、自殺や離職、児童虐待の問題、さらには非正規雇用者の増加など、企業とか社会、家庭が高度経済成長期型の体質、枠組みではもはや維持できなくなり、その歪みがいろいろな形で噴出したような社会現象がかなり出てくるわけです。

そういう中で、99年に男女共同参画社会基本法が出来たというのは非常に画期的というか、ある意味では象徴的なのです。当時そういう社会変化について、必ずしも十分な議論はしなかったと思いますが、ただ、前文を見れば、社会経済情勢の急速な変化に対応していく中で、男女共同参画社会の実現が緊要な課題だと書いてあります。そういう大きな時代転換の中で登場したのが、男女共同参画社会基本法だということなのです。この10年で多少紆余曲折があったにせよ、時代を先取りした法律だということで、その意義がますます大切になるだろうという感じはしています。

司会 原先生は、委員や学者としてだけでなく、NGO活動にも積極的に関わられていらっしゃいますので、その面からもお願いします。

 これからの日本の社会を男女で作っていくという意味で、男女共同参画社会基本法という名称はとても大事だと思っています。

国連の女子差別撤廃委員会とか、近年婦人の地位委員会でも、男性と女性が共にどう生きていくのかということがテーマになっています。単に女性の状況だけを良くするのではなく、男性の状況と女性の状況をより良くするにはどうしたらいいかという形での議論が出てきております。そういう意味でも男女共同参画社会基本法は重要な法律です。

司会 岩男先生は、今まで政策・方針決定過程に女性が参画していなかったということで、その問題に力を入れてこられたわけですが、その点についてお話しください。

岩男 学界はひと頃に比べると、まだ不十分ですけれども、皆さんの努力で男女共同参画に向けた取組が進み、女性が学長はじめ重要な役職につくようになりました。男性の理解も進んだように思います。

しかし、特に大きいのは、全国各地で女性の首長さんが誕生したことではないでしょうか。大阪府知事が誕生して以来、既に6名の女性知事が誕生しました。押しなべて何割という目標も大事ですが、どこのポストで女性がしっかり仕事をしているのかが目に見えることも大事だと思うのです。市町村も含め各地の首長が女性になったことは、この10年間の大きな歩みだと思います。

しかし、先程私は、男女を問わず一人ひとりが輝く社会が男女共同参画社会だと申しましたけれど、私が考えている男女共同参画は、職場に限らず、それこそ生活のあらゆる場面での能力の発揮だと思っていますので、そういう意味でもまだ道は遠いと思います。今問題になっている国内の格差問題なども、突き詰めていくと男女の格差の問題であって、不況になったことによって一層深刻な問題になったという思いを強くしています。

図1 各分野における「指導的地位」に女性が占める割合(10年前との比較)男女共同参画社会基本法制定

図2 HDI及びGEMにおけるわが国の順位

司会 男女共同参画という観点から見たときの今の産業界についての課題などについてお聞かせください。

内海 女性の登用が進んできたとはいえ、企業の幹部層のところにはまだ届いていないという現実がありますね。NECでは、事業部長以上の幹部と関係会社の社長が集まる300人くらいの会議があるのですが、去年やっと女性事業部長が誕生し、男性ばかりの出席者の中に女性は2人というのが実態です。

やはり産業界での女性のこれまでの活躍の歴史が浅いですから、まだまだ経営者も女性の登用を考えたときに大丈夫かなと躊躇する、あるいは女性自身、遠慮するとか、ロールモデルもいない中で自分が管理職になってやっていけるだろうかと不安に思う。女性はとてもまじめで、できなかったら周りの人たちに迷惑をかけてしまう、それだったら最初からやらない方がいいのではないかと考える。私はそんな女性たちに、やれなかったときはそのとき考えればいいのだから、まずやってみなさいとお尻をたたくのですけれども、用心深くてなかなか重い腰があがらないのです。そういう女性たちにも勿論問題はあるのでしょうけれども、そういう躊躇している女性に、やってみなさいと言ってくれる上司がもっと出てきてくれることが、更に産業界を男女共同参画社会にしていく大きな力になるのではないかと思います。

もう1つは、夜遅くまで会社にいるという風土を何とかしないといけない。とりわけ管理職にでもなれば長時間残業は当たり前ということだと、そこまでして管理職になどなりたくないと女性たちは思います。当たり前の普通の人間らしい生活ができた上で、管理職にもなりたい、幹部にもなっていきたいと思うわけです。それはいわゆるワーク・ライフ・バランスの浸透の問題だと思うのですが、それが一般的な職場の風土、会社の常識にならなければと思います。

司会 ワーク・ライフ・バランスの問題は男性も重要だと言いながら、なかなか進みにくい風土がまだまだあるという感じがするのですが。

内海 ワーク・ライフ・バランスは女性の働きやすい職場という観点ではなくて、男性も女性も含めた社員の働くスタイルを見直そうということだと思うのです。これは結果的には女性にとっても働きやすくなりますし、男性にとっても同様です。男性だって好き好んで残業しているわけではないと思いますが、残業することで評価されるのではないかと思う人がまだ多いのではないかと。そのような風土を変えていかなくては、女性の活躍は望めないと思います。

図3 子どもの出生年別第1子出産前後の妻の就業経歴

司会 経済界を見てこられて、課題とか状況については、鹿嶋先生はどのようにお感じになってますか。

鹿嶋 私の身近に、男女共同参画の大切さというのを率直に説いてくださる経済人では、例えば日本生産性本部の牛尾治朗会長がおられます。牛尾さんは、これからは、ワーク・ライフ・バランスと男女共同参画がセットになった社会が重要であると、事あるごとに言っておられます。ただ、全体で見回しますと、経済界では男女共同参画よりはダイバーシティの方が通りがいい。経営戦略の一環として、男女共同参画の講演会などが開催されるようになれば、企業への定着という意味では本物だろうとは思っているのですけれども、まだ人権の一種というとらえ方が多い。

大分前ですが、ある県が男女共同参画条例を作るに際し、私も専門部会に入っていろいろ議論し、条例の中に入れようしたのが入札時の加点評価の問題でした。男女共同参画の推進企業に対し、貢献度を入札の際に加点してあげるという趣旨の案でしたが、反対が多かったです。一種の規制につながり、公正な競争力を損なうと。

ところが最近は、それを始める自治体が出てきました。その意味では時代が変わってきたと思いますし、また企業はEO(機会均等)を推進したり、ダイバーシティ担当室を置いたりといったことで、男女共同参画への取り組みが前向きになってきている。女性の活躍が競争力につながるという考え方が、一部の経営者に出ているのは確かなのです。

一方で、女性管理職比率は全体で1割にも達していないし、ワーク・ライフ・バランスが形成されていないので、女性は第1子出産で7割が会社を辞めてしまう。また、さきほども話が出ていますが、管理職に登用したいけれども、なり手がいないという問題も一方にはあるわけです。

企業は優秀な人は引き上げたい。しかし、女性の中では必ずしもそう思っている人ばかりではない。あるいは優秀な女性が活躍の意欲に燃えていても、経営者にそういう認識がないということで、まだまだミスマッチがある。多分それはセカンドステージといわれる第3次基本計画の中に引き継いでいかなければならない課題の1つなのだろうと思うのです。

それから、男女共同参画という言葉、いろんな試練はあったと思うのですが、大分経営者もピンとくるようになった。最近の調査を見ても認知度が7割くらいいってますね。ですから、今、基本法の認識は徐々に広がり、男性にとっても切実な課題が基本計画の中に盛り込まれている。そういうふうにようやくなってきたのかなという印象でとらえています。少なくとも良識ある経営者はそういうふうに見ているというのが私の印象です。

司会 岩男先生は、全体的にみてどの分野は比較的進んでいるけれども、どういう分野はまだまだとお感じになっていますか。

岩男 先ほどお話ししましたように、はっきり数値目標を立てて頑張ってきた、例えば審議会や公務員の女性割合などは進んできていると思います。言わば比較的やりやすいところは進んでいる。これからは数値目標などを設定してもそれに向かって進むことがかなり難しいような領域が残っているということだと思います。

それから、以前チャレンジ支援の取りまとめをしましたが、これはかなり多くの方に歓迎されたと思ったのですが、不況でがらっと社会状況が変わってしまい、いまはチャレンジより、とにかく何でもいいから職をという声が大きいわけです。ですから、若干優先度があと回しになってしまったかなという感じがいたします。両立支援は非常に重要で、男女共同参画社会を支える言わば根っこの部分だと思うのですけれども、このあたりも十分に進んだとは言えないと思うのです。

ただ、景気が悪くなるとむしろプラスに働くこともあります。某銀行のケースですがバブルがはじけた時に大変な事態になったわけですが、その時に女性がすごく頑張って働いた。それが結局トップの人たちの考え方を変えたそうです。つまり、この銀行は女性なしにはやっていけないことが分かったと。経済状況が厳しくなるというのも悪いことばかりではないかもしれません。

司会 原先生はどのようにお考えでしょうか。

 第2次基本計画で防災とか地域の安全のところに女性が関わることが書かれたおかげで、全国的にいろんなところで、消防についても防災計画についても、女性が参加なさって、こんなに女性たちが関わらなければならないことがあるのかという認識が出てきたのではないかと思います。このような例もあるのですから、もっとデータを活用して多様な分野についても考えていくことも大事なのではないでしょうか。

それから、女性に対する暴力については、日本の配偶者暴力防止法が男女両方を対象にしているというのは大事なことだと思います。国際的にみてもこれは少ないのですが、とても大事なことです。ユニフェム(国連女性基金)でも女性に対するあらゆる暴力の防止を中心課題に据えていますので、日本の国際的貢献がますます不可欠だと思います。

雇用の変化と意識の問題

司会 最近、内閣府ではインターネットよる意識調査を白書のためにやったのですけれども、この中で男女、世代間の意識の違いや少し気になる点も浮かび上がってきています。男性はいわゆる性別役割分担を認める人の方が全体として多いが、若くなるほど少なくなり、20代では賛否が同じになる。それに対し、女性は固定的な性別役割分担に反対という方が多いのですけれども、40代が固定的役割分担に賛成する方が一番少なく、20代は反対と賛成の差が少なくなっている。恐らく若い世代にとっては、非正規雇用が多くなっているとか、仕事と家庭との両立が非常に厳しいとかということで、働くことに対して余り積極的な期待とかイメージを持てないということもあるかと思うのです。

内海 若い人たちがなぜそういうふうに答えているのかなと私なりに考えたのですけれども、まだ働いていないとか、まだ結婚していない、子供もいないという実際の場面に遭遇していない人たちが、共働きはとても大変なことだろうと思って私はこれ以上働かないという希望にチェックをしているのではないかと。30代、40代は今まさに共働きを経験していて、やればできるというのを実感している人がずっと働きたいということを選択しているのではと思ったのです。つまり、20代がとても保守的なのはまだ経験していないからかしらと思っています。

 今の20代の人も、30代になったら変わるかもしれないということ。

内海 そのまま辞めずに続けていればなのですけれどもね。

司会 先ほど管理職になることについて、女性自身が非常に引いておられるケースあるという話がありましたが、会社の中で女性が二極分化しているのではないかということがよく言われます。二極分化という状況はお感じでいらっしゃるのか、それはなぜだとお考えでしょうか。

内海 男女雇用機会均等法の施行からいわゆる総合職という、男性と同じ仕事、同じ処遇で女性が採用され始めましたね。そのときは総合職と一般職という職種の違いで処遇も違いますし、仕事の中身も全く違う。同じ女性であっても学歴で振り分けるなど、その人たちの能力にかかわらず入り口のところで差が付いているというのが現実にあったのです。しかし、現在は採用を控えていることもあり、一般職の女性たちは減ってきています。

では昔の一般事務職の若い女性たちがやっていた仕事はどうしているかというと、派遣社員に置き換わってしまった。派遣社員には男性も女性もいるとは言っても、ほとんどは女性です。企画的な主だった仕事は正社員で採用された女性がやり、一般事務的な仕事は派遣社員がやっているという、確かに差はありますけれども、この人たちは派遣なのだから、社員なのだからしようがないと雇用形態の違いということで納得しているという状況があります。

司会 違う形に構造変化をしてしまっているというところですね。さらに、正社員の中でもそういうことがあるという。これは企業だけではなくて、自治体でもそういうふうに言われるところがある。自治体などの場合、管理職登用試験のように、あるステップを経てというのがあると、それにトライするかどうかで男女の違いが出てきてしまうのです。その辺りは鹿嶋先生、いかがですか。

鹿嶋 学生を見ていると、みんな今年は相当就職が厳しく、就活をやめて婚活をしようなどと冗談で言っている。やはり親も、娘たち、息子たちも、高度経済成長期の残滓をどこか引きずっていまして、夫婦2人でという感じがいま一つ希薄のようなこともあるわけです。

特に最近不景気になって、女性の就業状況は相当痛められたわけです。これは一番大きな問題です。先ほど内海さんがおっしゃっていたけれども、総合職のほかは派遣とか、全部アウトソーシングしてしまっている企業も少なくないわけです。

岩男 86歳という日本女性の平均寿命が世界一を更新などと聞いたときに、自分の人生がどうなるのか、どうやって自立して生きていくのかということを現実の問題として考えれば、健康である限り働いて収入を得、税金と保険料を払い、働けなくなっても安心して生きていかれるような手立てをあらかじめ講じておかなければならないことは明らかです。女性も責任を持って、一国民として自分の一生を考えなければいけないというのは、男女共同参画社会を実現するうえでも必要なことだと思うのです。そういうメッセージが若い方たちに十分伝わっているのか疑問に思います。

 今の20代の若い男性の方たちは、彼らの婚活においては経済力のある人と結婚しようと思っているでしょう。

鹿嶋 だから、意識調査でも男性の方が女性にずっと働いてほしいと思っている。

司会 確かに、女性が働くことについての考え方では、男性の方がいち早く女性も継続して就業した方がいいという人の割合が一番多くなっているというのは、一人で支えるリスクにバブル崩壊後気がついて、そういう意識が強くなった。だから、必ずしも理念からきている男女共同参画というだけではないようです。

岩男 現実的必要からきているのです。それでもいいと思います。

司会 自立して自分の人生を主体的に設計していくというために必要なことは何なのかという基本的な教育が、男性にとっても女性にとってももっと義務教育の段階も含めて必要だと思うのです。

鹿嶋 男性でも女性に働いてほしいと言っている割には男性の家事、育児時間が全然増えませんね。

 会社などでの今の働き方が家事、育児をする気持ちがあってもできないという現実があるからです。

司会 最近、確かに男性にとっての男女共同参画については、我々の取組も十分ではないのですが、最近、男性も子育てを楽しもうとか、もう少し家庭に関わりたいというのが男性の中の動きとしても少しずつ出てきています。男性が家庭参画を楽しむという形の提案が出てきているというのは新しい動きで歓迎すべきことだと思います。

図4 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について(性別・年代別)

図5 男性の家事参加

これから取り組むべきこと

司会 それでは最後に、これから特に取り組むべき事柄、重要視していかなければいけない事柄などについてお話しください。

 ワーク・ライフ・バランスを重視し、男性も女性も働き甲斐のある社会を目指していくことが必要です。

それから女性に対する暴力の根絶は勿論ですが、デートDVの問題はまだ法律にもなっていません。また女性に対する暴力の問題は日本人同士の問題だけでなく、在日外国人を含めての問題でもあるのです。

あとは国際協力についてですが、男女共同参画社会の形成に関する基本理念の1つとして「国際的協調」が掲げられているわけですから、やはり先進国の中の日本として、世界の女性の地位向上に貢献するための協力がますます必要であると考えます。

内海 私は、男性にとっての男女共同参画社会とはどういうものかということを明らかにしていくことが必要かと思います。先ほども「生活のあらゆる場面での能力の発揮」という話がありましたが、人間の能力は、仕事だけでなく、もっと多方面に発揮されることが必要なのではないでしょうか。例えば30代、40代の男性も、仕事だけではなく家庭生活や地域活動などで、男性のまだ開発されていない能力をもっと開発しましょうと。そういった意味でこれからの10年は、男性にとっての男女共同参画社会の具体的なイメージを皆さんに持ってもらえるような政策が必要かと思います。

鹿嶋 第2次基本計画を引き継いで、更に第3次基本計画で深化させるべきテーマとしては、お話にあるような男性の問題、男性の意識啓発の問題があると思うのですが、もう1つ若い人たちへの関心を喚起するということが必要かと思います。

特に男性の若い人たちも非正規雇用がかなり出てきて、不安定な暮らしからの脱皮は身近な問題ですね。ですから、そういう中でどういうふうに暮らしを成り立てていくかというとダブルインカムのような形でしかないと思うのです。そういう意味では、家庭内の夫と妻の関係性も全然違ってくるわけですから、そういう視点からも男性への男女共同参画に関する啓発というのは非常に大事になってくると思います。

もう1つは、是非ワーク・ライフ・バランス社会の形成ということで力を入れていっていただきたい。

それから、加速化というのがキーワードになってくるのだと思うのです。数値目標もたくさんつけてきましたので、第3次はそれをどうやって実行あらしめるかというと、加速する装置を私たちで考えていかざるを得ない。加速化プログラムも必要だと思っています。

さらに、新しく出てきているテーマというのがあります。特に代表的な例は貧困です。親の生活困難が子どもに影響を及ぼし、中には学力が低下し、やがて学校を中退して、不安定就労という連鎖ができてしまう。それを打ち破るようなシステムを考えていかなければなりません。

最後ですが、私は監視・影響調査専門調査会に所属しています。監視のテーマとして国際的な規範とか基準の国内への取り入れをもう一度やる必要があり、国際的なスタンダードに日本も合わせていくという努力も必要だと思っています。同時に、このように各府省に対し、横串を刺す形で監視機能が発揮できるのも、男女共同参画局が内閣府にあるからだという点も強調しておきたいですね。

岩男 私も最初から申し上げてきたように、男性にとっての男女共同参画社会の必要性の認識を十分に深めることが必要だと思うのです。

もう1つは、難しいのですけれども、積極的改善措置については自主的に取り組むということになっているわけですが、特に政治の場面でも積極的に取り組んでいただきたい。

それから、男女共同参画社会づくりという長いプロセスをできるだけスピードアップするために、男女共同参画社会づくりの必要性を、若い男性、女性に、根本に立ち返って理解していただくことが、次の10年に向けて重要だと思います。

司会 本日は、男性の問題、働き方や雇用の問題など、第3次男女共同参画基本計画を作成する上でも、大変有意義なご指摘をいただきました。

本当にありがとうございました。

岩男壽美子

鹿嶋 敬 内海 房子

原 ひろ子 板東 久美子