「共同参画」2009年 5月号

「共同参画」2009年 5月号

スペシャル・インタビュー

「醸造の仕事は、チームワーク」~ビールの味を決める責任者として~

今回は、大手ビール会社では、初の女性醸造部長として活躍されている神崎夕紀さんにお話を伺いました。

あきらめないで、自分の発想を大事にしてほしい

─ 酒造業界に入られたきっかけについてお聞かせ下さい。

神崎 キリンビールに中途入社する前に医薬系の会社に4年間勤めていたのですが、キリンビールが採用を行うという話があり、医薬品よりも消費者に近いといいますか、買っている人の顔が見えるような業種もいいなと思ったのと、また、もともと大学時代に醸造に関する知識のベースがあってお酒づくりに興味がなかったわけではないので転職を決めました。

─ いつ頃からご自分の将来の職業を意識されたのでしょうか。

神崎 大学・大学院が農学部の農芸化学というところでしたので、基本的には大学に入ったときから研究や製造など技術的なことに関わる仕事をしていきたい、というのは漠然とありました。大学院を修了するときで、ちょうど男女雇用機会均等法の施行1年前、なかなか女性が技術系の職に就くには当時、門が狭かったんです。ですから、技術職とか専門職になるには勉強したほうがよいかと思い、大学院に進学をしました。

─ キリンビールに入られた際は地域限定職だったのが総合職に転換されたのですね。

神崎 入社当初は、あまりその違いを意識してはいなかったのですが、とにかく働き続けたいとは思っていました。当時転換の制度があったわけではなく、明確なルールがなかったので、模索しながらという感じでした。キャリア申告書に希望を書いたり、上司に、仕事の幅を広げていきたいと一生懸命言い続けまして、当時の上司の方々の力添えを頂くことができました。

転換したことで、転勤が可能になり、新しい仕事の機会を得る頻度も圧倒的に増えました。福岡工場に入社したときは、工場の品質保証担当部門で、1回目の転勤後、1年で醸造部門に配置換えになったのが、製造の仕事をするきっかけになったと思います。

─ 工場での具体的なお仕事の内容や魅力について教えてください。

神崎 工場の醸造部門では、原料の受け入れから、ビールや発泡酒をつくり、製品を容器に詰める手前までを担当し、私はそのマネージメント、品質も含めた工程管理、人事管理、設備管理の総括を行います。今の組織は、社員が40名ほど働いており、全員で一つの、お客様の口に入るものを一緒につくり上げていくというところが、やはり一番楽しいというか、喜びが大きいですね。製造現場はたくさんの工程がありますが、どれが一つ欠けても完全な商品というものはできなくて、一人ひとりが役割とか自覚を持って一個一個積み上げていくものです。例えば一人で行う研究などとは違う喜びがありますね。

最初は女性がいませんでしたが、一生懸命仕事をしていれば、余り女性だからどうこう言われるということはありません。ただ、自分の意識的には、やはり先に音を上げたくないというのがあって、体力がないとかと言われないように気をつけたりはしていました。

─ 働きやすい職場のためには何が一番大事な要素になってくると思われますか。

神崎 これからは、女性であっても、男性であっても、やはり若い人が働きやすい職場が大事ではないでしょうか。不安とか悩みとかを抱える社員もいる中で、組織としていろんなものを受け入れる大きい度量を持っているかが一番大切なことかなと思っています。育ってきた環境とか受けた教育によって、人にはそれぞれ固定観念がありますが、そういうものを一旦取り去って、多様性を受け入れられるような組織が一番よいのではないかなと思います。自分の考え方とか固定観念を人に押し付けないようにするというのは、自分でも気をつけています。

─ 現在の仕事と生活のバランスについては、どのように考えていらっしゃいますか。

神崎 今までは、仕事中心ではありました。現場は24時間絶え間なく動いていますから、業務時間が不規則になることもありますし、神戸の工場の頃には、何かあったらと携帯電話を握って寝たり(笑)。でも、自分の気持ちが、仕事の方向であったり、家庭の方向であったり、それぞれに向いていて精神的に充実していれば、バランスが取れているという状態だと思いますね。ちょうど醸造部門に配属されて、新しい仕事をもらったりした頃は、別に土日が忙しかろうが、夜中までいようが、自分がやりたくてやっているわけなので、かなり充実していたと思います。いわゆる管理職になってからは、そういう時間の拘束も外れてきましたし、うまく切り替えられるようになりました。また、自分が時間管理のできないリーダーだと、メンバーもみんなそうなってしまうので、ずるずる遅くまで残ったりしないように気をつけています。尊敬する上司が何人かいるのですが、皆さん、極めて時間管理が上手な方が多かったです。自分がやるべきこと、人に任すべきこと、自分が判断すべきこと、というものがやはりしっかりできているから、時間の使い方もメリハリがあったということではないかなと思います。

特に私たちが就いた技術系の仕事というものは、いわゆるルーチンのワークというよりも、現場を支援したり、技術的なことを勉強したりということですので、ある意味、自分で自分の時間をコントロールしやすいとは思います。アウトプットをきちんと出していけば、例えば会社にいる時間は極めて短くても、それがだめというわけではないですね。それはやはり、自分でコントロールできる職種だと思います。女性だと製造現場に関わる仕事はやりにくいと考えられがちですが、いろんなところに配置をしてくれれば、もっともっと、いろんな人がいろんな働き方ができるのではないかなと思っています。

─ 最後に、特に学生など若い女性に向けてメッセージをいただければと思います。

神崎 物事を見るときにいろんな角度から見ることができれば、難しいことであっても、実はそんなに難しくないこともたくさんあると思います。固定観念にとらわれないで、自由に自分がやりたいこととか、自分の発想を大事にしていければ、おのずから機会は広がってくるというふうに思います。あきらめたりせず、是非、そういう意識でいろんなことに臨んでほしいなと思います。

キリンビール株式会社栃木工場 醸造担当部長 神崎 夕紀
キリンビール株式会社栃木工場 醸造担当部長
神崎 夕紀

かんざき・ゆき/1992年、転勤のない地域限定職としてキリンビール(株)に中途入社。1997年、全国転勤を伴う総合職へ転換。男性が多い醸造部門において、大手ビール会社初の女性醸造部長に。現在は、キリンビール(株)栃木工場で、「ラガービール」「一番搾り」など9種類以上を製造している。