「共同参画」2009年 5月号

「共同参画」2009年 5月号

特集

地域おこし、まちづくり、観光分野における女性のチャレンジ支援 内閣府男女共同参画局調査課

内閣府では、平成20年度、地域おこし、まちづくり、観光の分野で、男女共同参画の視点から新たな取組を行っていくことを目指し、関心のある女性を中心に、アドバイザーによる助言や、経験交流会の開催等を行う事業を行いました。今回は、その中から3つの自治体の事例をご紹介します。

事業の目的

男女共同参画の実現のためには、身近な地域における取組が重要な鍵です。

平成17年に閣議決定された男女共同参画基本計画(第2次)では、地域おこし、まちづくり、観光等が新たな取組を必要とする分野に挙げられており、地域の文化・産業を男性も女性も参画して新たな視点で見直し、地域おこし、まちづくりを進め、更にはそれを基礎とした観光を通じて、国内外の人々との交流を深める必要性も明記されています。

そこで本事業では、地域おこしやまちづくり、観光振興等に関心のある女性を中心に、実際に取組・活動を行っている方(アドバイザー)による助言を含む、経験交流会の開催等を行い、これらの新たな取組を必要とする分野への女性のチャレンジを支援するとともに、女性の活躍を促進することを目的としています。

実施地域と地域テーマ 

本事業は、地域バランスを考慮し、全国12ケ所で実施しました。 

また、地域テーマについては、地域の現状や課題等を踏まえ、子育て支援や観光資源を活かしたまちづくり、地域おこし等、各実施地域の希望によって選定しています。実施地域及び地域テーマについては別表のとおりです。

アドバイザーの選定

今回、アドバイザーをお願いした方々は、地域に掲げているテーマに対応できる経験と知識を持った方であり、自らも子育て支援や地域おこし、まちづくり、観光振興等に携わっており、地域に抱えている問題課題を理解し、参加者の求めに応じて必要な知識や活動方法等を紹介できる能力を持っている人などに委嘱しました。

交流会の実施

参加者が集まり、(1)地域テーマに関する現状の問題点、課題の共有化、(2)事業に関するアイデア出し、(3)他地域の事例紹介、(4)今後の取組方針等の話し合いを内容とする交流会を各地域で3回実施しました。

アドバイザーの役割

地域おこしや観光振興等についての対応策を検討する場合、商品開発や観光の目玉づくり、あるいは行政からの支援等が話題の中心となりがちですが、地域が抱えている課題を踏まえ、活動メンバーが目的意識を共有化し、活動の目的や意義を明確にし、焦点化してメンバーのコミュニケーションを高めていくためには、アドバイザーの役割が重要です。 

地域の抱えている様々な課題を踏まえて、短期間で自分たちの目指す方向を見つけ、具体的な活動計画の策定まで進展することは困難です。また、それぞれの地域の実情や参加者のニーズに応じて、参加者がチャレンジできる環境づくりが必要です。

それを実現するためには、地域状況を十分に把握し、専門的知見と豊富な経験を通して的確にサポートできるアドバイザーの協力が有効です。

なお、参加者が自由な発言ができるような環境づくりや具体的な取組をサポートするためには、外部よりも地元からアドバイザーを選定したほうが有効な場合もあります。

事業の成果

今回の事業は、地域が抱えている身近な問題に女性が主体的に取り組み参画する契機となりました。事業終了後も活動を継続している地域があるなど、地域づくりとしても一定の成果があがっています。

実施地域と地域テーマ

コミュニティビジネスによるまちづくり~滝沢村の事例~

地域の概要

滝沢村は岩手県中西部、岩手山東麓に位置し、村域北部は酪農が盛んで、小岩井農場や県の肉牛生産公社滝沢牧場などがあるところです。

地域の課題と地域テーマ

実施地域である滝沢村柳沢地区は、農業や酪農などが主産業ですが、近年人口が減少傾向にあり、酪農等も低迷している状況です。 

そうしたなかで、岩手山麓の自然に惚れこんで移住してきた人(おもに工芸家や現役を退いた団塊世代が中心)が徐々に増加しており、彼らと前からの住民との間のコミュニケーションや地域づくりにおいてどのように協働していくかが課題となっています。 

そのため、農業や酪農等で働く女性たちから、地域の資源を活かし新たな加工品づくりにより地域おこしを進めようという機運と、観光農業体験や岩手山登山などで、外部から訪れる人たちに地域の魅力を知ってもらおうという機運が高まり、地産地消を生かしたコミュニティビジネス、観光資源の保全と強化に取り組むことになりました。

テーマに取り組むための課題

今回の参加者は、農業や酪農に従事している方、観光農業の体験活動をしている方、地域づくりを推進している方々であったため、何らかのコミュニティビジネスに関係した経験があるものの、これまで、各々の活動にしか携わってこず、地域の魅力を向上させるために、地域全体の課題として取り組もうという認識が低いという問題がありました。 

そのため交流会では、情報交換を行うとともに、魅力ある加工品づくりをどう進めるか、訪れる観光客に地域の魅力をどのように説明するか、子ども達に地域の魅力をどのように伝えるかなど、テーマを具体的に示し、参加者が積極的にアイデアを出せるようにしました。

経験交流会について

経験交流会には、観光農業、酪農、商業活動、まちづくり等の活躍をしている男女15名が参加しました。

第1回では、地域の魅力とその問題点について討論を行い、地域の自然の豊かさ、観光農園や体験工房などの体験型施設の人気の高さ等を確認するとともに、観光地としては宿泊施設、商業施設などの基盤整備が不足していること、外部へのPR不足などの問題点などが意見として出されました。

第2回では、第1回の討論を踏まえ、コミュニティビジネスによる地域おこしを具体的に検討するため、2つのグループに分かれ、体験プログラムの内容、受け入れ体制の整備、PRの方法等について、グループワークを行いました。

第3回では、引き続きグループワークを行い、ビジネス展開を図るための事業スケジュールの検討を行うとともに、今後の活動継続の方法についても話し合いを行いました。

アドバイザーの役割

参加者が抱えていた問題を具体的な形としてイメージさせるとともに、マーケティング手法を用いてビジネス展開の方法を示すことがアドバイザーの役割でした。

成果

事業実施の期間において、商品づくりなど具体的なコミュニティビジネスを起こすまでに到らなかったものの、農業や酪農等に従事しながら、比較的狭い地域で活動してきた女性が、地域全体の課題に関心を持って集まり、情報交換などをすることにより、地域資源の魅力や問題点を共有したことは、地域における男女共同参画の推進に寄与したと考えられます。

アドバイザーからのメッセージ

地域の魅力は「人」。いろいろな人がネットワークを作り、お互いの得意分野を持ち寄ることで、もっと効果的に、もっとパワフルなことができます。

事業の核になる人を見つけ、地域の思いを汲みあげ、参加体験を通じた支援をすることが、参加するひとの動機付けにつながると思っています。取組を継続させていくための一番の方策は地域のやる気です!

(アドバイザー:安藤 美樹 NPO法人いわてNPOセンター、NPO法人奥州街道会議事務局長)

地域おこし、まちづくり、観光分野における女性のチャレンジ支援 秩父らしさを活かしたまちなか観光にむけて~秩父市の事例~

地域の概要

秩父市は埼玉県西部に位置し、全体として山地が多く、平地は秩父盆地、荒川の支流沿岸のみという地域です。江戸時代より秩父絹の生産が盛んで、明治以降生糸の集積地として栄えたところです。

信仰の山としての武甲山や秩父の夜祭り、札所めぐり、芝桜等史跡や文化財などの観光資源に恵まれてます。

地域の課題と地域テーマ

秩父市には山や渓谷、神社仏閣等の探索、温泉、伝統的な祭りなど多くの観光資源があり、都心から特急電車で1時間半の距離のため、多くの観光客が訪れています。しかし、駅と観光スポットと直接行き来する観光客が多く、街中が素通りされ、商店街の賑わいが低下しており、観光地として中心部の空洞化が進み、まちとしての機能が衰退してくのではとの危惧がありました。

そのため、女性の視点を生かした魅力づくりを進め、街中の賑わいを取り戻そうとする機運が高まり、観光客の関心を街中にも向けさせる「まちなか観光」を実現させるため、観光資源を活かしたまちづくりが地域テーマとなりました。

テーマに取り組むための課題

参加者は商業活動や観光産業で働いている方や地域づくりを推進しているNPO等の団体に所属している方であり、これまでにも何らかの地域おこしや観光振興等の活動をしてきた経験があったものの、それぞれの参加の動機が異なっていること、「まちなか観光」を実現させるための具体的な方策がわからない等の課題がありました。

目的意識

参加の動機は異なっていましたが、参加者の、秩父の歴史文化的資源も含めた新たな魅力をつくり、観光客の関心を「まちなか観光」にも向けられないか、という目的意識は共通していました。経験交流会について

第1回の経験交流会では、目的意識は共通しているものの、参加動機が異なっている参加者たちに共通認識を持ってもらい、また具体的な活動の方向性を定めるため、秩父観光の魅力と問題点について自由討論を行いました。

第2回の経験交流会では、秩父らしさを表現する取組について、参加者それぞれが考えた具体策について自由討論を行いました。

第3回の経験交流会では、活動継続の参考とするため、他地域のまちづくり協議会の形成の仕組みやその取組内容等を知るとともに、今後の具体的な取組内容や取組方法を検討しました。

アドバイザーの役割

アドバイザーの役割は、他の地域での観光地づくりの事例を紹介することにより、参加者に取組方法等を考えるきっかけを与え、議論の方向性を示したことでした。

事業の成果

秩父市の商業活動や観光産業の現場で働いている人の多くは女性です。

従来、女性たちがまちづくりや魅力のある観光地づくりへのアイデアを発表する場は少なかったのですが、今回の事業によって、今後も女性の視点を活かした観光振興を推進していくこと、長期的な取組として女性を中心とするまちづくり協議会を設立することが決まったことなど、地域における男女共同参画の推進のきっかけづくりができたと考えています。

アドバイザーからのメッセージ

ネットワークでつながることにより、1つ1つの活動がより大きな可能性を持ち、広がっていくようになります。また、ネットワークになることで、活動がより視覚化され、新たな参加者、担い手を増やしていくのに効果的になります。

目指す方向性を明確にすること、事業が長期的につながっていく形を作っておくことが、多くの人が主体的に参加してもらうためには必要です。

(アドバイザー:中垣 真紀子 NPO法人日本エコツーリズムセンター事務局次長、エコツーリズムコーディネーター)

地域で支える子育て支援~長岡京市の事例~

地域の概要

京都府南西部、京都盆地の西部に位置する市で、市域には恵解山(いげのやま)古墳などの史跡も多いところです。近郊野菜の栽培が盛んで、特に長岡丘陵はタケノコの産地として有名です。西部が大阪府に接しており、交通の便がよいため、近年は住宅地や工場の進出が著しく、市街化が進んでいます。

地域の課題と地域テーマ

長岡京市では、様々な政策に基づいた子育て支援事業が行われているほか、自主サークルなどの民間団体での子育て支援活動も盛んです。

しかしながら、子育て支援を行っている団体同士の横のつながりがないこと、また子育て支援に関する情報拠点がないことなどから、子育て支援に関する悩みやニーズが把握できず、子育て当事者のニーズにマッチした支援活動がなされているのかとの疑問がでている状況です。

そのため、個別の団体ではなく、地域全体で子育て支援を行う方策を検討することとなりました。

テーマに取り組むための課題

参加者は、それぞれ子育て支援を行っている団体の方であったため、目的意識も多様であり、子育て支援に関する問題や課題を整理し、共通した解決策を持つ必要がありました。

経験交流会について

第1回の経験交流会では、参加者が抱いている問題を整理するとともに、共通の課題を見つけるため、グループワークを行い、子育て支援の現状と課題及び参加者が考えている解決方法について議論をしました。

第2回の経験交流会では、第1回と同様にグループワークを行い、子育て当事者のニーズ等を把握するには、子育て支援に関する情報の受発信を進めることが重要であることから、情報発信・広報の活用方法について議論しました。

第3回の経験交流会では、参加者より、市民及び行政職員に対して、子育て情報発信の内容や手段、団体・専門家のネットワーク化等について、プレゼンテーションを行いました。

アドバイザーの役割

アドバイザーの役割は、個々の活動団体がそれぞれ抱いていた問題意識を整理し、解決すべき共通の課題を見出すことをサポートし、さらに情報発信の方法について、アイデアを提供し、具体的な方策についてアドバイスを行うことです。

事業の成果

長岡京市では、子育て支援団体が多く存在していますが、その多くが人的・時間的に余裕がないことなどから、目の前の事業に追われている状況です。そのため、今、地域で必要とされているものは何かなどのニーズ把握や、他の団体と協力し、地域全体で子育て支援を行おうといった協働の視点も乏しい状況でした。

しかし、今回の事業をきっかけに、各活動団体がそれぞれ人材を活用し、協働して取り組む体制ができました。

子育て支援については、地域に根ざした取り組みの重要性が増していることもあり、今後、更なる発展等が期待されていると思われます。

アドバイザーからのメッセージ

地域力が求められている現代社会にあって、地域のコミュニティグループや自治会に入りにくいという若者層や家族層が増加しています。そろそろコミュニティの形を変化させなければいけない時代がきています。携帯電話やパソコンでつながる時代ですから、顔の見える関係作りがこれからの大きな課題でもあるでしょう。個の関係から人がつなぎ広がる地域づくりへ、それが今後の安全なまちづくり・防災対策への重要なポイントにもなるはずです。

男女の区別よりも、互いに出来ることでつながる人間力の向上が必要な時代にきています。そこから初めて、ともに頑張ろうの世界観が見えてくるように感じます。

(アドバイザー:吉村憂希 NPO法人青少年育成審議会JSI理事長)

交流会の様子