「共同参画」2009年 2月号

「共同参画」2009年 2月号

連載/その1

世界のワーク・ライフ・バランス事情 10 ~韓国~ 株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜

問題は大きいが、チャレンジを続ける韓国

本シリーズの第一回では、世界調査連合(IRIS)が世界24カ国1万4千人を対象に実施した「WLBに関する世界意識調査」の結果を基に、「WLBをめぐり不満は大きいが、あきらめてしまっている」日本の状況は、世界的にみてかなり特異だと述べた。

これに対して、韓国では「仕事と私生活のバランスが上手くとれている」人が8%と諸外国の中で最も少ない一方で、「改善を試みたことがない」人の割合は28%に過ぎず、24ヶ国中21位であった。逆に、「変化を試みて、良くなった」人の割合は52%で24ヶ国中5位であった。すなわち、韓国ではWLBをめぐり問題は大きいが、あきらめずにチャレンジしていると言える。

女性の登用目標を掲げる韓国

こうした姿勢は韓国の女性施策とも符号する。女性の政治参画が遅れていた韓国は、2004年に比例代表区におけるクォータ制(男女候補者が半々)の導入等の制度改正が行われた。その結果、かつて日本を下回っていた韓国の女性国会議員の割合は13.4%となり、日本(12.2%、衆参合計)を追い抜いている。

民間企業もこれに追随している。韓国の上場企業トップ100における女性社員の割合は16%に過ぎず、10大グループ(サムソン、LGなど)の女性管理職割合は1%弱と日本を下回る。しかし、政府の積極的な働きかけによっていくつかの企業が30 ~40%の「女性採用目標制」を導入し、大きな変化を見せている。

筆者は、女性活用には発展段階があり、その最終段階がWLBで、その一つ前の段階が女性の積極登用だと考えている。

第1段階は、女性の採用を増やし、かつ女性が働き続けやすい環境をつくる段階だ。職場に既婚女性や子どものいる女性が増えれば、ロールモデルも多くなり、働きやすさは増す。第1段階では、職域の拡大が重要なポイントとなる。ただし、第1段階の会社では、女性が昇進昇格する際に「見えない天井(ガラス・シーリング)」があり、女性の管理職登用はさほど進んでいない。

第2段階は、男女に関係なくステップアップの機会を得られる段階だ。第2段階では、女性が管理職になりたいと思わせる職場風土作りが大切だ。ただし、第2段階では、往々にして「男性以上にバリバリ働けば、女性も評価される」という評価軸となりやすい。ライフステージ別にみると、妊娠・出産・育児でブランクが生じやすい女性の特性に配慮した職場作りがなされていないため、子持ちの女性がキャリアと両立するのは難しい。

第3段階は、WLBの視点が強まり、従業員は家庭や地域との関わりも持てる。企業は、従業員を「時間あたりの生産性」で評価するようになるため、ライフステージによって時間制約・場所制約が生じやすい女性も、子育てしたい男性も働きやすい。

韓国は、官民を挙げて第2段階に注力している。翻って日本ではどうか。女性の政治参画は遅れたまま、クォータ制も導入されていない。企業のポジティブアクションの取組は最近むしろ停滞気味だ。日本は、第2段階が不十分なまま、第3段階に移行しようとしているように見える。韓国を参考に、日本も第2段階にもっと注力すべきであろう。

株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。(株)富士総合研究所入社。2003年(株)富士通総研入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。