「共同参画」2008年 11月号

「共同参画」2008年 11月号

連載/その1

世界のワーク・ライフ・バランス事情 7 ~オランダ~ 株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜

オランダの特徴は、「パートタイム」労働が普及し、フルタイムとの待遇格差がない点だ。ライフステージに合わせて労働時間を変更できるので、WLBしやすいという特徴がある。

高失業率対策としての労働時間短縮

オランダでパートタイム労働が普及した契機は、1970~80年代まで遡る。高失業率に悩んだ同国は、1982年に政労使3者で失業者削減のための労働時間短縮に合意した(ワッセナー合意)。すなわち、パートタイム労働を増やすことでワークシェアリングを図り、失業者を減らそうとしたのである。その後、パートタイム・フルタイム間の賃金格差等、雇用条件の差別は禁止され、両者の「均等待遇」が実現した。パートタイムも正社員である。

2000年の「労働時間調整法」により、労働者は労働時間の増減を使用者に要請でき、原則として使用者はそれを受け入れることになった。ただし、適用除外となるケースもある。要請が労働時間の短縮であれば、第一に代替要員確保が難しいケース、第二に労働者の技術力低下が懸念されるケース、第三にローテーションを組むのが難しくなるケースがある。

こういった一連の施策が功を奏し、失業率は大幅に低下するとともに、オランダはOECDの中で最もパートタイム労働者の割合が高い国となった。

仕事の「ブラックボックス化」がわが国最大の課題

翻ってわが国でも、パートタイム正社員の普及策が模索されている。仮に、法制度を整備し、オランダモデルを導入しても、わが国独特の職場慣行が変わらない限り、うまく機能しない可能性が高い。というのも欧米では「ジョブディスクリプション(職務記述書)」が普及しているのに対して、わが国では職務内容は曖昧だ。これまで海外企業100社をヒアリングし、実際に職場体験もさせてもらったが、日本の職場と最も異なるのは従業員の仕事の中身がオープンになっており、共有化されている点だ。

この点、わが国の従業員は仕事を抱え込む傾向が強く、特に同僚と比べた自分の強みは暗黙知として蓄積しがちで、共有したがらない。さらに、ここ十数年、職場のOA化が急速に進み、パソコンと向き合う仕事が増えたため、仕事の「ブラックボックス化」に拍車がかかっている。一人一人が今、何の仕事をやっているのかが見えにくい。

人事評価システムの再構築がカギ

筆者がWLBに取組む企業のコンサルをしている中で、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を明確にするとともに、各人の仕事をリアルタイムで共有し、生産性を測定する仕組みを作った企業で、最後に残る難関は「人事評価システム」の再構築だ。従業員別に「時間あたりの生産性」を測定すると、格差が5-6倍もある職場が大半だ。最も生産性が高いのは、時間制約があるワーキングマザーというケースは非常に多いが、労働時間が短いという理由で、人事評価では冷遇されている。逆に、「ダラダラ長時間労働」の同僚男性は「深夜遅くまで頑張っている」と高評価をもらう矛盾にメスを入れないといけない。

これには、「長時間労働が美徳」と考える管理職の意識を変革する必要があり、かなり時間がかかる。日本とオランダの彼我の差は、非常に大きいと感じている。

株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。(株)富士総合研究所入社。2003年(株)富士通総研入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。