「共同参画」2008年 10月号

「共同参画」2008年 10月号

連載/その1

世界のワーク・ライフ・バランス事情 6 ~ドイツ~ 株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜

「欧州大陸型WLB」の一つとして今回はドイツを取り上げる。実は、わが国とドイツは社会経済環境や取組み内容が非常によく似ており、かつてはWLBへの取組みが最も遅れた国の一つだったが、最近は官民・地域が連携して注力している。

WLBは家族政策の重要な柱

前回、フランスでは積極的に出生促進を図る意識が強いと述べた。隣国のドイツでも人口減少への危機感は強い。というのも、2050年までの世界の人口動向をみると、英米仏等では人口が増え続けるのに対して、ドイツは日本と同様に、2005年をピークに人口は減少の一途をたどると見込まれるからだ。

ドイツでは、日本やイタリアと同様に、第二次大戦中の人口促進政策に対する根強いアレルギーがあり、長らく人口政策に消極的だった。しかし、最近では政府の広報用パンフレットの中でも、国民が希望する子ども数と実際の子ども数のギャップを踏まえて、家族に優しい環境づくりが「ドイツの将来性にとってはもっとも重要な要素」と記載されるなど、WLBは家族政策の柱となっている。

官民・地域が連携した「家族のための同盟」

2003年に「家族のための同盟」を結成し、国、地方において様々な施策を展開している。国レベルでは、産業界、関連団体、研究者、政治家などが連携し「家族に優しい」国となるための施策を展開している。また、地方分権が進んでいる特徴を生かし、「地域同盟」が市町村に設置され、商工会議所、産業界、社会的団体などが連携している。

具体的には、4つの特徴がある。

第一に、先進企業における取組事例を紹介するとともに、企業単位でのコスト・ベネフィットを分析している。

第二に、WLBの取組みによる社会全体への経済的効果を明示し、成長の原動力になるという結論を提示している。例えば、WLB施策により女性の出生率が回復することにより2020年まで人口規模は維持され、2006~20年の間にGDPが大幅に上昇する、といった具合である。

第三に、企業コンクールを実施し、最優秀賞1社ずつを選出している(賞金1万ユーロ)。

第四に、地域レベルで産官学の関係者が集まり、「家族に優しい環境づくり」について議論し、保育サービスの拡充など、具体的な取組を進めている。

連邦政府は、地域連携を促進するためのコンサルティングを無料で提供したり、地域連携のための好事例やハンドブックをWEB上で公開している。こうした積極的な後押しが奏功し、2007年には約400の地域連携ができている。

「地域連携」の推進が鍵

筆者はこれまで、わが国の全都道府県・政令指定都市等を歩きまわり、少子化対策やWLB施策をヒアリングしてきたが、地域によってかなり濃淡がある。

担当者が熱心な自治体では国の施策よりも先行している一方で、消極的な自治体も少なくない。WLB施策と一口にいっても大企業と中小企業、都市と地方ではモデルが異なる。地域連携を促進する上で、ドイツの施策から、日本は学ぶ余地があるだろう。

株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。(株)富士総合研究所入社。2003年(株)富士通総研入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。