「共同参画」2008年 9月号

「共同参画」2008年 9月号

連載/その1

世界のワーク・ライフ・バランス事情 5 ~フランス~ 株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜

官民が協働している「欧州大陸型WLB」として前回のスウェーデンに続き、フランスの取組について述べたい。欧州大陸型の特徴は、ライフステージに応じて、きめ細かくライフを充実させる、という点だ。特に、フランスでは子育てを含む家庭生活に対する手厚い経済的支援とともに、週35時間労働制で平日のWLBを推進している。

積極的に出生促進を図るフランス

積極的に出生促進を図ろうというフランスの考え方は、日本とは異なる。もちろん国が個人生活に介入することについては、日本と同様にデリケートな問題だが、筆者がヒアリングをしたフランス政府高官によると、「国民が欲しいと考えている子どもの数(2.8人)が達成できるように、政府としてはさまざまな施策を講じている」と語っていた。

さまざまな施策の中でも特に、フランスでは多様かつ手厚い「家族給付」と「働く母親への保育サービス提供」に注力してきた。フランスでは「子どもが3人成人するまでに、家庭が受け取る給付総額」は約1,300万円となっている。これは、日本の給付額の3.7倍に相当する高水準だ。

「週35時間労働」で、平日のWLBを推進

一方で、フランスでは長らく子育ては女性の役割という意識が強かった。しかし、2000年の「週35時間労働法」施行により労働時間の短縮が実現されてからは、男性の育児参加が進んでいる。この点は、筆者もフランス訪問時に、大きな変化を感じている。

朝夕、保育所や小学校に子どもの送迎をしているのは母親より父親のほうが多いように感じる。フランスで最大規模(定員60人)の企業内保育所を持つ石油会社トタルでヒアリングをした際にも、「男性従業員のほうが女性従業員よりもずっと多く利用している」「保育所企業内保育所があることが決め手となって、トタルに転職してきた男性社員が何人もいる」という話を聞いた。

平日の午後4時~5時頃、子どもの迎えをしている男性たちに話を聞くと、「乳幼児の送迎は体力が必要」だし、「小学生の送迎は防犯目的」なので、「父親が担う方が合理的」と語っていた。このように、「週35時間労働」が平日のWLBを推進しており、父親は家庭生活において一定の役割を果たすことに寄与している。

暗黙知を共有知にすることで、生産性向上

フランスでは、単なる労働時間の短縮ではなく、メリハリの効いた仕事の進め方により、生産性を高めている。OECDの調査によると、日本の労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は、OECD加盟30カ国中第20位、主要先進7カ国では最下位だったのに対して、フランスは30カ国中第6位、主要先進国7カ国では第2位だった。これは、なぜか?

筆者はこれまで海外のWLB先進企業100社に出向いて、ヒアリング、職場体験等をしてきた。フランスをはじめ海外企業では、従業員が同僚に円滑に業務を引き継ぐことができるよう、頻繁に自分の業務やワークフローを洗い出し、整理した上で、他人と共有している。こうした工夫は、日本の従業員も学ぶべきであろう。

株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。(株)富士総合研究所入社。2003年(株)富士通総研入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、子どもと家族応援戦略会議委員を歴任。