「共同参画」2008年 8月号

「共同参画」2008年 8月号

リレーコラム/男女共同参画のこれまでとこれから 4

もっと一般女性の直面する問題に切り込みを 男女共同参画会議議員 同志社大学経済学部教授 橘木 俊詔

男女共同参画社会基本法が制定されてから9年を過ぎたが、それがうまく進行しているかと問われれば、やや疑問符をつけざるをえない。社会の指導層での女性の活躍の促進とともに、一般の女性の直面する問題にもっと切り込む必要があるのではないか、という反省である。

男女共同参画社会を推進するとき、指導的立場に立って活躍する女性を増やすことがまず論じられる。確かにこの点についての我が国の状況ははかばかしくなく、男女共同参画基本計画では、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にすることを目標としてかかげている。そのため、例えば、国家公務員の管理職やI種採用者の女性比率の2010年度の目標も決められている。これは、政策形成が男性本位に行われるのでなく、多様な視点に立ったものにするということがねらいの第一にあるが、この層がうまくいけば、他の分野における女性登用がうまく進行するだろうという期待もあるからであろう。他にも、審議会委員、政治家、医者、学者、司法界、企業幹部といった指導層に就く女性の比率を高めることが重要な策として取り上げられる。

私は女性比率を高めるには、掛け声だけではなかなか実行されないので、いわゆるクォータ(割当て)制の導入によって強制的に女性を登用して比率を高めるのが最も効率的と考える。確かに男性への逆差別、有能でない女性を登用しかねない、といった問題が生じるが、制度が落ち着けばそのデメリットは小さくなる。10年前後の間はこのようなデメリットがあるかもしれないが、きっとその間に有能な女性が育ってきて、自然な姿で女性比率が高まるのである。

アメリカでは、大学教授の女性比率が何%以下の大学には、政府から研究費の支出をしないという荒療治をかなり以前に入れた。一時的な混乱があったことは確かであるが、その後女性の教授は自然と育ってきた経験があるし、今はそのクォータはないものと予想される。フランスでは、選挙に際して男女の候補者を同数とするような選挙方式が定められた。これらはクォータ制そのものの政策なので、日本もこういう方策を学ぶことがあってよい。

実は、私がもっと気になるのは、ごく普通の女性への差別撤廃への取組みがまだ十分でないことにある。例えば、男女間の賃金差別や、採用や昇進における女性差別、といったように大多数の女性が日常の職業生活で経験している不平等を是正するのにどうすればよいか、といったことへの切り込みがまだ十分とは思えないことである。

確かに男女雇用機会均等法はこれらの差別を禁じており、差別は徐々に低下してはいるが、まだ差別はかなり残っている。法がうまく実行されているかどうかの監視は弱いし、違反した企業への制裁も厳格ではない。どうすれば監視の体制を強めたり、制裁を厳しくできるか、そして社会のあらゆるところでの差別をなくす政策のあり方、といった議論がもっとなされていいと思われる。実態を知る調査も十分ではない。このような大多数の女性が悩んでいる差別の問題の解決に一層の努力をすることが重要ではないかと考えている。

ごく普通の女性への差別撤廃政策を強調し、もしそれがうまく行くなら、大勢の女性から男女共同参画政策への支持が高まると予想できるメリットは大きい。

橘木 俊詔
たちばなき・としあき/小樽商科大学商学部卒業後、大阪大学大学院経済学部研究科修士課程修了。ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。京都大学経済研究所教授、同大学経済学研究科教授、この間INSEE、OECD、大阪大学、スタンフォード大学、エセックス大学、London School of Economics 等で教職と研究職を、経企庁、日銀、郵政省、大蔵省、通産省の各研究所特別研究官で研究職を歴任。現在は、同志社大学経済学部教授。