「共同参画」2008年 8月号

「共同参画」2008年 8月号

連載/その1

世界のワーク・ライフ・バランス事情 4 ~スウェーデン~ 株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜

今回から、官民が協働している「欧州大陸型WLB」について述べたい。「ワーク軸」が強い英米型に対して、欧州大陸型は「ライフ軸」が強い。すなわち、ライフステージの段階に応じて休暇を取るなど、きめ細やかにライフを充実させる、という視点がある。今回は、欧州大陸型の代表国の一つである「スウェーデン」の取組を紹介する。

世界のシンクタンクたらんとするスウェーデン

OECDの「WLB総合指標」をみると、調査対象国18カ国中、スウェーデンがトップ、日本はギリシャに次いで下から2番目だった。かつて筆者が英国のWLBに関する行政担当者、企業経営者にヒアリングした際に、二言目には「スウェーデンと比べて」という言葉が出てきた。逆に、スウェーデンでヒアリングをした際には、「自分たちは世界に率先してシンクタンク的な機能を果たしたい」と行政担当者は話し、スウェーデンを代表する企業の一つであるエリクソンでは、「欧州の各国における男女共同参画の良い取組をわが社が表彰する制度を設けている」と語っていた(現在、表彰制度は休止中)。

スウェーデンは小国であるがゆえに、たえず先進的な取組を提示することで、国際社会における自国の存在価値をアピールし、それが安全保障につながる、という国家戦略上の意図があるように思う。わが国は、そういった戦略的視点が弱い。

手厚い公共政策に「上乗せ」する民間の取組み

よく知られているように、北欧諸国は「男女共同参画型」で、男性も子育てに積極的に参加する。スウェーデンでは1974年に世界で初めて男女ともに取得できる「両親休暇制度」が導入された。現在、休暇期間は480日、勤務時間短縮制度は8歳まで利用できる。期間中の所得保障は80%(日本は50%)。また、きめ細かく、多様な保育サービスも提供されている。

「スウェーデンは高福祉・高負担なので、企業は何もしていないのではないか?」という仮説は、まったく外れた。中堅規模以上の企業では、両親休暇中の所得保障を上乗せしている。また、両親休暇の取得は一般的であり、女性は9割近く、男性は8割が取得している。さらに驚いたのは、役員の取得率の高さだ。現在の役員世代は、両親休暇制度の恩恵を受けることができ、取得率は男女ともに一般社員よりもむしろ高い。つまり、育休を取得し、なおかつ出世している。これはなぜか。スウェーデンの企業経営者の多くは「WLBの体験は、時間当たりの生産性が格段に高まるなど、従業員の質を向上させる」と指摘する。

筆者は日本企業の現状を説明して、「WLBをコストと考えたことはないか?」とスウェーデン企業の経営者たちに尋ねたところ、返ってきたのは「コストではない。投資だ。しかもハイリターンが約束されている投資だ。」、「経験豊富な女性の多くが辞めてしまう方がずっと大きなコストではないか。日本の優秀な経営者がどうしてそんなことに気づかないのか。」といった辛らつな言葉であった。

このように、スウェーデンでは官民あげて多様な試みが講じられている。スウェーデンから、わが国が学ぶことは少なくない。

株式会社富士通総研主任研究員 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。(株)富士総合研究所入社。2003年(株)富士通総研入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、子どもと家族応援戦略会議委員を歴任。