「共同参画」2008年 8月号

「共同参画」2008年 8月号

特集/男女共同参画週間の主要行事について Part1

「平成20年度男女共同参画社会づくりに向けての全国会議」について ~個が光る社会を築く多様性~  内閣府男女共同参画局総務課

男女共同参画週間(6月23日~29日)の中央行事として、6月26日(木)午後、日比谷公会堂(東京都千代田区)において、「平成20年度男女共同参画社会づくりに向けての全国会議」(シンポジウム)が開催されました。ホームページ等を通じて応募された約1,100名の方々が出席されました。

1.上川大臣の開会挨拶

開会にあたり、上川陽子内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画)は、各表彰において、洞爺湖サミットの大きなテーマである「環境」分野で活躍する女性及び団体が表彰されていることに触れ、今後の活躍と活動の広がりを期待したいと述べました。また、本会議のテーマの「多様性と女性の活躍」の重要性について述べ、意欲と能力のある女性があらゆる分野で活躍し、希望に満ちて活躍できる社会づくりを積極的に進めていきたいという挨拶を行いました。

2.各種受賞者紹介・男女共同参画週間の標語の表彰

同日午前中に、福田康夫内閣総理大臣より表彰状を授与された「男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰」、上川大臣から表彰状を授与された「女性のチャレンジ賞」の受賞者が、壇上にて紹介されました。

また、今年度、3021点の応募の中から最優秀賞に選定された男女共同参画週間の標語「わかちあう仕事も家庭も喜びも」が紹介され、板東久美子内閣府男女共同参画局長から、最優秀賞受賞者へ賞状が授与されました。

(各受賞者については、 特集その2をご参照下さい。)

3.上川大臣の講演「今後の日本社会と女性の活躍について」

上川大臣

上川大臣は、まず、将来の日本の人口や社会構造が大きく変化することを提示し、活力ある社会を維持するためには、若者が希望を持ち安心して子育てできる社会、そして若者や女性、高齢者等、様々な人々が職場、家庭、地域において能力を最大限発揮できる社会づくりが必要であると述べました。

そのためには、様々な人の能力、個性、価値観、視点等を活かす多様性が重要で、その基本となる重要な柱の一つが男女共同参画の推進であるということ、また、我が国の男女共同参画の実態は低い水準にとどまっており、女性の能力を十分に活かしきっていないことから、女性の参画を促進し、意思決定過程への参画を進めていくことが重要である旨述べました。

こうした状況を踏まえ、本年4月、男女共同参画推進本部において「女性の参画加速プログラム」が決定されたことや、経済財政諮問会議でとりまとめられた「経済成長戦略」においても、女性が働きやすい環境を整えるといった内容が含まれていることを紹介しました。

次に、女性の参画を進める上でも、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を実現させることが重要であり、「仕事と生活の調和憲章」と「行動指針」が策定されたことを述べるとともに、男性のワーク・ライフ・バランスの実現が重要だということを強調しました。そして、様々な国の施策が広がっていることを紹介するとともに、全ての人々が多様な生き方を選択・実現できる社会を目指しスタートした「カエル!ジャパン」という国民運動についても説明しました。

最後は、今後の日本の未来を切り拓く鍵は多様な人材の活用にあり、そのための環境づくりや意識改革を進め、皆様とともに力を合わせて取り組んでいきたいと締めくくりました。

4.カルロス・ゴーン社長の講演・対談「女性が変える企業の元気」

日産自動車株式会社は、アメリカのNPO法人「カタリスト」が女性の能力活用やダイバーシティ(多様性)推進に取り組む企業を表彰する「2008年カタリスト賞」を受賞しています。企業における女性活用、多様性推進の重要性について、社長のカルロス・ゴーン氏による講演と、東日本旅客鉄道株式会社顧問の江上節子氏を迎えての対談が行われました。

カルロス・ゴーン社長

<ゴーン社長の講演>

日産は、女性が活躍し、力を発揮し、実績に応じた公平な評価を受けられる環境作りを公約している。この数年進歩はしてきたが、職場の多様性推進のために、まだやるべきことは数多くある。

多様性推進について、3つのテーマを掲げたい。

第1に、「なぜ、職場で多様性を推進するのか」。女性を育成し、その能力を活かし、男性に無い視点を取り入れることにより、より良い経営の決定を下し、より大きな営業成果を生むことができることは、明らかである。

第2に、「女性の登用をどのように進めているか」。日産では、経営陣が取組に参画し、強い決意の下、多様性の促進に努めている。専門の組織を設け、事業計画の中で具体的な目標と部署の指標を設けている。社員の意識調査や、様々な制度によるワーク・ライフ・バランスの支援も行っている。その結果、管理職の女性比率は、2004年の1.6%から5%に伸びている。

第3に、「今、なぜ、女性の参画に取り組むことが重要なのか」。特に日本では、労働資源が限定されているため、才能豊かな女性社員は極めて重要である。グローバル市場では、利益とともに、社会的価値を創出する企業が成功しており、その中には、多様な人々の価値を尊重することも含まれている。社会が変化するのは時間がかかるが、多様性の容認はより良いビジネスと社会を作る上で大きな力となる。

<江上節子氏との対談>

江上 お話を聞いて、企業経営者から「多様性」という理念が語られ、日本にも多様性と企業利益が結びつく時代がようやく来たことに感銘を受けた。ゴーン社長の提案がこれからの日本企業の成長にとってのインパクトになると思う。

社長就任当時、日産の女性社員や経営者の状況をどう感じたか。

ゴーン 当初はそれほど多くの女性は管理職に就いていなかったが、女性社員は非常に献身的で、実際に仕事に参画しており、感心した。女性の参画を推進する際の大きな敵は、人々の思い込みであり、知識を得させ理解してもらうことで、こうした思い込みを払拭することが重要だと感じた。

江上 日産においては、当初は女性活用より、グローバル化、つまり、外国人が入ってきたことが、多様性推進のきっかけではないか。

ゴーン 多様性を外国の価値観と思いこんでいる限り、失敗する。ダイバーシティの基本は、その国の価値観に根ざさなければならない。日本では、車選びの3分の2は女性が関わり、女性客の8割が女性の営業担当者がいいと言っており、女性の営業担当者を増やすのは国内の実情、会社のニーズに基づくものである。

江上 JR東日本においても、女性トイレに関する女性社員の提案が顧客サービスの向上につながった。多様性は、サービスやマーケティング、技術について新しい付加価値をつけ、創造性の原点になる。技術部門における女性の能力発揮と、それを具体的にどのように成果に結びつけるのか。

ゴーン 女性の技術者、デザイナー、商品企画担当者に女性を増やすことによって、バランスのとれた視点で女性のニーズを取り入れた車作りができる。女性がもっと意志決定に参画した方がより良い商品が作れるという様々な具体例がある。

江上 日本では、女性自身が管理職を希望しないという傾向もあるが、どう考えるか。

ゴーン 性差による違いではなく、多くの企業において、女性はそのようなポジションを求めるような研修を受けてきておらず、男性も女性も同じく教育し、支持し、期待すべきだと思う。親も、男子も女子も同じような期待度を持ち、サポートしなければならない。

江上 日本の企業経営者に対し、ダイバーシティを進める上でのアドバイスを。

ゴーン まず、各企業において、独自に自分達のニーズを分析し、ダイバーシティがいかにビジネスの実績にプラスになるか理解するということ。次に女性をサポートするための計画を立案し、手続を決め、期限を設けるなど、戦略の一環として進めていることを社員全員に理解させるなど、経営者自身が深く関与することが重要である。

江上 会場からの質問で、まず、「ゴーン社長自身のワーク・ライフ・バランスはどうか」。

ゴーン 家族と過ごす時間は限られているが、子供が自分にとって重要であることをわかってもらえるように、レジャーや活動を一緒にやり、質の高い時間を過ごすようにしている。

江上 次に、「男性が育児休業を取得しやすい職場環境」について質問が寄せられている。

ゴーン 育児センターを作って、男性も子供を預けられるようにしたり、休暇の取得を奨励している。具体的に社員の家族の生活に対して配慮しているという策を明確に示すことが大切である。

5.パネルディスカッション「女性が支える地域の元気」

「女性が支える地域の元気」をテーマに、コーディネーターとして立教大学教授の萩原なつ子氏、パネリストとしてNPO法人スペースふう理事長の永井寛子氏、伊豆の稲取温泉観光協会事務局長の渡邊法子氏、そして日本政策投資銀行地域振興部参事役の藻谷浩介氏の3名をお迎えし、パネルディスカッションが行われました。

萩原 まず、活動について紹介を。

永井 スペースふうは、1999年、女性の力で地域を元気にしようと、10人で共同出資をしてリサイクルショップを作ったことから始まったが、2001年に大転換した。イベントでリユース食器を使ってごみを出さないというドイツの事例を知り、「だれもやってくれないなら、自分たちでやるしかない」と、リユース食器のレンタルを始めた。活動を通じて、極力ごみを出さないイベントづくりがすすみ、CO2が削減されている。レンタル事業の実績が順調に伸び、現在全国7カ所の「ふうネット」も設立した。働く場としては、地域の雇用創出や、多彩なメンバーによる、楽しく働きがいのある職場作りを目指している。

渡邊 全国公募によりこのポストに1年前就任し、観光地づくりはまちづくりそのものとの考え方に立って、まちづくりボランティアの力の活用、地域企業の創設等により、地域住民を主軸とした地域プロモーション事業を進めている。地域の再生には、協働の水平的ネットワークづくりが重要で、多くの人と組織が力を合わせ、信頼をベースに協力する姿勢が不可欠だと思う。利害関係や議論の調整や仲介の役割が大変重要であり、多くの女性がこのような役割を担うことを期待する。

萩原 全国の地域づくりの現場を見てきて、どう感じているか

藻谷 全国で様々な地域づくりをしている人に会ってお手伝いすると、女性が頑張っている団体が非常に多く、地域では実際に手足を動かして活動しているのは女性である。人口の推移を見ると、今後は働ける若者が急速に減っていく。その解決策は女性が生き生きと外に出てくることである。男女問わずできる人にやらせれば、必ず女性がもっと活躍する。男女共同参画が進んだ地方の企業の方が、女性のマーケットを掴み、生き残れる。

萩原 活動を始めた時の反応や、苦労したことは?

永井 リユース食器のレンタル事業をやろうと唐突に理事会で言ったときは、私たちにできるわけはない、お金も、知識・技術も無いと猛反対だった。では、1年間、調査研究をして、可能性があればやろうということで、マーケティングや様々な専門家に相談し、1年後には最後の一人まで納得した。

藻谷 地方では特に「女だから」といわれることはないか。

永井 地域に元気にというのは、私たちが今やるしかないと思ったし、地域経済が疲弊しているときに、女だから経済的に頼らなければやっていけないというのでなく、自分たちで自立してやっていきたいと思った。

渡邊 男だ女だではなく、地域をよくするためであれば、お互いの立場を超えて、きちんと協働し、一緒に考えていく。それぞれが持っている持ち味を出し合って、連帯して総合力で進んでいくという姿勢にならなければいけないと考え、一生懸命働きかけている。

萩原 今、「協働」という話があったが、地域づくりは一つの主体だけでは無理な時代になっている。協働の状況については、どうか。

永井 最初食器を買うためのお金がなかったが、大学、企業、そして県といった方々のつながりを得て活動を開始することができ、様々な主体と連携、協働してここまでやってくることができた。

藻谷 協働して地域づくりをしている例として、別府や湯布院といった観光地を含む大分県の「ツーリズムおおいた」がある。旅館の女将が会長になり、若い世代のネットワークを育て、観光振興・地域づくりに向けて様々な人々が集まり、協働して活動している。

萩原 そのための調整役の重要性を渡邊さんは認識してやっているということだが。

渡邊 様々な主体を調整していくためには、聞き役だけでなく、ビジョンが無いとできない。絶対こうしたいという熱い思いがあって、初めて調整役ができると考えている。

萩原 「カエル!ジャパン」にちなみ、あなたの「カエル」を一言ずつ入れたコメントを。

渡邊 「心を通わせ協働すれば、地域はかならずよみガエル」

藻谷 「カエルのは、企業社会、東京」

永井 「リユース食器で日本をカエル」

萩原 今日のキーワードは「多様性」と、「協働」しながら地域づくりをしていくことだと思う。「あなたのカエルが、家庭をカエル、学校をカエル、企業をカエル、地域をカエル、環境もカエル、政治をカエル、日本をカエル、地球もカエル。そして、一人の小さなカエルが大きなカエルとなって、社会を変革する力となる」ことを全国会議を通じ、実感した。

6月26日の全国会議におけるカルロス・ゴーン氏と江上節子氏の対談及びパネルディスカッション
6月26日の全国会議におけるカルロス・ゴーン氏と江上節子氏の対談及びパネルディスカッション