「共同参画」2008年 7月号

「共同参画」2008年 7月号

スペシャル・インタビュー/第3回

皆でハードルを倒して進もう!~科学技術分野における女性研究者支援~ OSUMI NORIKO

今回は、女性科学者として第一線でご活躍の大隅典子さんにお話を伺いました。

研究とは自分の星座をみつけること。

─ 先生は小さい頃から科学者を目指されたのですか。

大隅 私の場合は、科学者だけを目指したということではなかったんです。雑誌の記者とか、あるいはアナウンサーとか、いろいろなものに憧れました。ただ、両親ともに生物学の研究者だったということがありまして、その影響が大きかったと思います。また、大学は、直接人を治せることがいいかなと思って医科歯科大学の歯学部に入ったのですが、何か違う領域のものを研究したいという気持ちがありまして、とにかく大学院、基礎系のところに行ってみようというのがきっかけでしょうか。

─ 現在は、どのような研究に取り組まれているのですか。

大隅 平たく言いますと、脳科学という分野の中で、脳がどんなふうに出来上がってくるとか、あるいはメンテナンスされているかというようなことを、実験動物を使って、遺伝的な背景や環境的な影響といったものを調べています。今は、大人になっても、幾つになっても脳細胞がつくられるということが知られるようになってきまして、私たちの研究の一部もそれに関わるんですけれども、キャッチフレーズで言うと、「幾つになっても脳細胞はつくられる」ということでしょうか。

─ 女性の場合は、出産・育児等のために休職等をすると、第一線に復帰するのは難しいという話も聞きますが、女性科学者の活躍のためには何が重要だとお考えですか。

大隅 2つ上げたいと思いますが、1つは、やはり仕事が好きであるということがまず大前提だと思います。仮に困難があったとしても、まずは仕事が好きであるという気持ちが大切かなと思います。

その上で、周りの方の理解というものが大切ではないでしょうか。出産はしようがないとしても、女性だけが育児や介護にかかわるという、これまでの考え方から、男性も女性も生まれてからは同様にかかわることができますよねと、そこが浸透していくと大分違うのではないかと思います。

─ 東北大学では、女性研究者支援モデル育成事業に取り組まれているとお聞きしましたが。

大隅 これは、女性科学者のキャリアパスに障害となる様々なハードルを乗り越えるための支援を行うということで、平成18年から通称「杜の都女性科学者ハードリング支援事業」というものを立ち上げました。3本の柱をうたっておりまして、最初が育児・介護との両立支援です。2番目が環境整備なのですが、これはハード面の環境整備ということを考えまして、自然科学系の部局に女性用休憩室を配備しましょうと。3番目の次世代支援は、私どもの非常にユニークな取組でして、通称東北大学サイエンス・エンジェル(SA)といいます。自然科学系の女子大学院生を毎年50名ほどSAとして任命し、身近なロールモデルとして、若い世代の人たちにサイエンスの面白さを伝えるメッセンジャーとなってもらっています。

─ 先生は日本学術会議の会員も務められていますが、女性会員は少ないのでは。

大隅 女性会員は2割ですね。黒川先生が会長をされている時期に、女性あるいは若手というような改革が行われました。会員にならないと分からないようないい経験をさせていただいています。いずれにしても、候補となるような女性の方が増えるというのがやはり大事だと思います。

─ さて、先生が研究を離れて、プライベートな時間あるいは余暇の過ごし方といったことについてお聞かせください。

大隅 リフレッシュということは大事だと思っていますので、気の置けない友人とご飯を食べに行ったり、飲みに行ったりということもすごく大事です。仙台という土地と、総合大学としての東北大学、地域との連携が図られている大学の良さだと思いますが、例えば、医学部の先生方ではなく、ちょっと離れた方とお話をするというのが、大変良い気分転換になって、自分の脳を活性化する。私の仲のよい友人に数学科の教授で猿橋賞を受賞された小谷元子さんという方がおられるのですが、その方とお話しすると、いろんなことが新鮮に感じられて、とてもいいですね。

─ 最後に、若い研究者の方々、これからの時代を担っていく方たちにメッセージをお願いします。

大隅 科学者がすることというのは、いろいろな現象を見て、その中からきっと真理はこうであろうというようなことを推測したりする。そういうことを日常的な仕事として行うような立場だと思います。例えば、無数の星が輝く夜空に、自分でこの星とこの星を繋いで星座をつくる、物語をつくる。それが自分のサイエンスだと思うんです。自分でそういった星座を見つけましょう。何か決まったことをしなさいというのではなくて、自分の力でそれを見つけられるはずです。女性だけには限らないことだと思います。

それから、先ほどのモデル事業、これは、女性研究者のキャリアパスで、越えなければいけないハードルを越えていきましょうと。ハードルという競技は倒してもいいんです。だから、皆でハードルを倒しながら行けば、後から来る方たちにはハードルがなくなることだと思っています。ハードルを跳びやすいように、例えば、支援要員であるとか、ベビーシッターとか、そういったもので少し背中を押してあげつつ、その方たちがハードルを越えていって、しかもそれを倒しながら越えていってくだされば、後から来る方たちはハードルがなくなる、そんな意味が込められています。

─ 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

東北大学ディスティングイッシュトプロフェッサー 大隅 典子
東北大学
ディスティングイッシュト
プロフェッサー
大隅 典子

おおすみ・のりこ/
1988年東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了。歯学博士。1988年同大学歯学部助手、1996年国立精神・神経センター神経研究所室長を経て、1998年より現職。専門は発生生物学、分子神経科学。07年より東北大学グローバルCOE「脳神経科学を社会に還流する研究教育拠点」(http://ja.sendaibrain.org/)代表。08年4月、東北大学ディスティングイッシュトプロフェッサーに就任。