「共同参画」2008年 7月号

「共同参画」2008年 7月号

特集2

高齢男女の自立した生活に対する支援について 高齢者の自立した生活に対する支援に関する監視・影響調査報告書より 内閣府男女共同参画局調査課

男女共同参画会議は、監視・影響調査専門調査会において、「高齢者の自立した生活に対する支援」というテーマで、高齢男女の自立を支援するための施策の在り方を提言する報告書を取りまとめ、去る6月13日にそれに基づく意見決定を行いました。今回の特集では、その報告で明らかになった高齢男女をめぐる状況と共に、意見決定された政府が講ずるべき施策の概要を紹介します。

国民の5人に1人が65歳以上の高齢者ですが、その6割近くを占めるのが女性です。85歳以上では女性が実に7割以上を占め、高齢社会の問題はまさに女性の問題といえます。

また、高齢期の状況には、働き方や家族の持ち方など若い時期からのライフスタイルの影響が色濃く顕れます。

今回の報告書では、このような高齢男女をめぐる状況について、若い時期からのライフスタイルとの関連も含めて分析した上で、男女の状況の違いに配慮した効果的な支援の在り方を提言しています。

1.高齢男女をめぐる状況

【経済的自立がしにくい高齢女性~特に厳しい離別女性】

女性の働き方は、子育て・介護等のために非正規雇用が多く、就業年数も短い傾向にありますが、その結果、高齢期における年金等の収入も少なくなりがちです。55-74歳の男女について本人の就業パターン別に現在の年間収入をみると、正規か非正規かという雇用形態による収入格差だけでなく、同じ正規雇用中心でも女性は男性に比べて収入がきわめて低いことがわかります(図1)。

(図1)高齢者等(55-74歳)の本人の就業パターンによる年間収入(平均額)

中でも厳しい状況に置かれているのが離別女性です。離別女性は、夫の収入や遺族年金に頼ることもできず、安定した再就職もままならないことが少なくありません。離別女性は、その3人に1人が年収120万円未満ですが(図2)、それには雇用者のうち約4割が非正規雇用中心の就労経歴であったことなどが影響しているとみられます。

(図2)単身高齢世帯(55-74歳)における低所得層の割合(年間収入)

【単身男性の問題~孤立に加え経済的な厳しさも】

他方、男性については、単身の男性の地域における孤立が深刻化しています。調査では、単身の55-74歳男性の4人に1人が「話し相手や相談相手がいない」と回答しています。男性で単身の場合は、約半数は子どもがいないため、家族による支えも期待しにくいといえます。

加えて、今回の調査では、特に未婚の単身男性について、約1割が年収60万円未満であるなど、一部に経済的に厳しい状況があることもわかりました(図2)。これまでは高齢者の中での経済困窮層は単身女性であるという捉え方でしたが、今後は、単身男性に対する支援も課題として捉えていく必要があるといえます。

2.高齢社会の新たな変化

【高齢単身世帯の増加】

孤立や経済困窮などの問題を抱えやすい高齢の単身世帯は、未婚や離婚が増える中で今後急速に増えていきます。特に単身世帯の増加が著しいのが男性です。約20年後の2030年には男女共に約2割が一人暮らしの社会になると予測されています(図3)。

(図3)65歳以上単独世帯数の将来推計

【多様な働き方~非正規雇用の増加】

雇用就業をめぐる状況が変化する中、非正規雇用が若年層も含めて増加傾向にあります。中でもその割合が高いのが女性で、平成19年は53.5%が非正規雇用です。男性についても非正規雇用の割合は上昇しつつあり、平成19年18.3%となっています。

非正規雇用者は、現状においては厚生年金等被用者保険の適用から除外されやすい状況にあるため、その増加は将来において老後の生活設計を描きにくい層の増加に結びつく可能性があります。

3.高齢男女の自立と共生に向けた今後の取組  

これまでみてきたような高齢男女をめぐる状況を踏まえ、報告書では、今後政府が講ずるべき取組を5つの分野に分けて示しています(図4)。

(図4)「高齢男女の自立した生活に対する支援」に関する主な施策

【(1)高齢男女の就業促進と社会参画】

高齢者の就業といった場合、ともすれば定年後も継続就業する男性のイメージが抱かれがちですが、実は働きたいと考える女性の高齢者も少なくありません。65~69歳の女性の半数近くが就業意欲を持っており、「収入を得る必要」を挙げる割合は男性よりも高くなっています。しかし、女性は男性に比べて、就業中断などで就業経験の蓄積や能力開発が不十分であるために、就業希望が実現されにくい現状があります。

今後は、このような女性特有の状況を踏まえた上で、就業意欲のある高齢女性に対する就業支援に取り組む必要があります。高齢女性を対象とした就業相談や能力開発の機会の充実、シルバー人材センター等における高齢女性が活躍できる職業領域の開拓等に積極的に取り組んでいきます。

また、就労に限らず家庭や地域など様々な場面において蓄積されてきた高齢女性の能力発揮を促進する取組も進めます。

【(2)高齢期の経済的自立につなげるための制度や環境】

女性パートタイム労働者の約2割が、税制や社会保障制度における被扶養者としての優遇措置を受けるために年収や労働時間を「調整している」と回答しています。配偶者控除や第3号被保険者制度は、被扶養の女性に経済的な安定を保障してきた反面、女性自身の自立基盤の形成を阻害してきた側面があるといえます。今後の方向性としては、これらの制度について、女性の経済的自立を阻害しない制度への見直しと共に、働き方や家族形態の変化に対応し、多様なライフスタイルに中立的な制度となるよう、早急な検討を求めています。

また、ILO条約に規定されている同一価値労働・同一賃金の原則を踏まえつつ、就労における男女の均等な機会と公平な待遇の確保に積極的に取り組んでいきます。

【(3)家庭・地域における支え合いの下での生活自立】

高齢単身世帯が主流になる社会においては、地域の支え合いのもとで孤立を防ぎ、病気・災害時の支援はもちろんのこと、日常生活における手助けが得られるような地域社会づくりが重要です。そのため、単身高齢者の自宅生活をサポートする生活支援体制の整備等に取り組みます。

また、高齢女性は、寿命が長いために一人暮らしになりやすいと共に認知症になる割合も高いことなどから、消費者被害も男性に比べてより多く受けやすい傾向があります(図5)。成年後見制度における女性後見人の育成や消費者被害防止相談窓口における女性相談員の配置の充実等、高齢女性を消費者被害等から守るための対策を効果的に進めます。

(図3)判断能力に問題がある人の消費者被害相談件数(年代別・性別)(1996~2005年)

他方、単身世帯は約4割が借家であり、住宅費の負担が特に低所得層で重くなっています。今後は、高齢者が一人暮らしでも安心して暮らせる住まいへのニーズが一層高まることが予想されることから、低所得者向けの住宅、生活支援や介護を受けられる高齢者向け住宅等の充実に取り組んでいきます。

【(4)性差に配慮した医療・介護予防】

疾患の罹患状況や要介護になった原因には男女間で大きな違いがみられます。例えば、男性については肝疾患や悪性新生物が、女性については認知症や関節性疾患等の罹患率が高い傾向があります。このような男女の違いに配慮した医療・介護予防への取組を進めることは効果的であり、個人のニーズへの対応という観点からも望ましいと考えられます。

具体的には、性差により発症が異なる状況に対応した効果的な医療( いわゆる「性差医療」)の推進、男女の健康問題のニーズに応じた個別の予防プログラムを受けられる仕組みづくり等を進めます。

【(5)良質な医療・介護基盤】

介護を必要とする高齢者は、女性が男性の約2.6倍となっています。女性は長寿ゆえに一人暮らしになる可能性が高いため、高齢女性の介護問題は重要な課題です。

他方、介護の担い手としての女性の問題をみると、家族内の主な介護者の75%は女性であり、老老介護の負担も深刻です。また、ホームヘルパー等の介護労働者も約8割が女性ですが、介護労働者についてはその賃金等の低さが問題になっています。

すなわち介護の問題は、介護の受け手、担い手の双方の観点からみても、女性にとって重要な問題であるといえます。今後は、女性の介護負担の軽減のための介護支援の充実と共に、介護労働者の雇用管理改善に向けた取組を進めます。

一方、高齢期における自立の維持には安定した医療基盤が不可欠ですが、医師不足等の問題も指摘されています。医師における女性の割合は平成18年には17.2%と比較的高くなっていますが、仕事と生活の両立が困難な勤務環境が女性医師の継続就業を阻害しています。このような状況を改善するために、女性医師の勤務環境改善に向けた取組等を進めます。

以上に挙げた取組は、今後の各府省の連携のもとに推進され、フォローアップも予定しています。報告書の詳細については、ホームページをご覧ください。

http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/kansieikyo/senmon/houkoku-kourei.html