「共同参画」2008年 6月号

「共同参画」2008年 6月号

リレーコラム/男女共同参画のこれまでとこれから 2

改革の動きに敏感な男女共同参画の課題 岩男 壽美子

男女共同参画社会基本法が制定されてから来年で10年になる。この間の男女共同参画社会形成に向けた動きには山あり谷ありで、簡単には総括できないというのが私の率直な感想である。明らかに施策の進捗が実感される分野もあれば、なかなか成果が見えない部分もある。希望者には夫婦別氏の選択を認めるという制度の実現に向けた努力のように、検討結果が具体化に結びついていないものもある。

しかし、第二次基本計画が策定され、事務局のスタッフも少しずつ増えてきているなど明るい面もある。「男女共同参画社会」という言葉の周知度も、平成19年度の世論調査では63.8%と、平成16年の52.5%に比べて10ポイント余り上昇している。男女共同参画社会基本法の検討を始めた頃の周知度に比べれば、まずまずの浸透状況ではないだろうか。かつて大阪で開かれた男女共同参画に関する集いに、男女の出会いのための会合と勘違いして現れた男性があったが、さすがに今日ではそのようなことはないだろう。

そして何よりも嬉しいことは、男女共同参画社会の形成に向けた福田総理の姿勢である。総裁選に出馬された時点での政策に関する発言にも、総裁就任後の所信表明にも、男女共同参画社会の形成に向けた明確な意思が示されていた。総理は、官房長官・男女共同参画担当大臣当時から男女共同参画の重要性と必要性を十分に認識され、間違いなく真の理解者であった。それが如実に示された総理の言葉には、多くの関係者が感動し勇気付けられたに違いない。この大きく膨らんだ期待を具体的な形につなげるには、今のうちから次の基本計画を視野に入れた立案と努力が必要であると思う。

今日、さまざまな施策が基本計画に盛り込まれて進められているが、そのなかでも私が特に達成を願っているのは、2020年までにあらゆる分野で指導的立場の女性割合を30%にするという目標である。「2020年に20%」という、より達成可能な案に対して、国連の勧告に四半世紀も遅れているのだから、少なくとも3割、と強く主張した個人的思い入れもある。確かに、あらゆる分野での達成は容易なことではない。だが、数値目標に加え、現実的な工程表と結果のメリットの明確化などに工夫を凝らせば、実現に向けて大きく前進できるのではないだろうか。これが実現すれば日本社会の姿は大きく変わり、活力を取り戻せると確信している。

ところで、現在大幅な司法改革が進められており、来年には裁判員制度も始まる。この機会を逃すことなく、司法改革に連動させて進めるべき男女共同参画の課題があるように思う。

司法の領域で働く女性の数が増え続けていることは喜ばしいが、司法全般における男女共同参画とジェンダーの視点の導入については、一層の努力が必要ではないだろうか。男女共同参画も他の改革の動きに敏感であることが求められる。例えば、裁判員の構成における性別、伝統的性役割観によって歪められる恐れのある裁判員の判断の問題などをはじめ、この制度開始までに、男女共同参画とジェンダーの視点からの検討と具体的提案が望まれる。問題を先取りした検討を強く願うものである。

岩男 壽美子
小田いわお・すみこ/エール大学Ph.D. 社会心理学者。男女共同参画審議会会長、基本問題専門調査会長、男女共同参画会議議員、社会保障審議会委員・児童部会長、国家公安委員, 英文オピニオン誌Japan Echo編集長などを歴任。国連特別総会「女性2000年会議」日本政府首席代表。現在、慶應義塾大学名誉教授、武蔵工業大学名誉教授。近著に『外国人犯罪者―彼らは何を考えているのか』(中公新書)がある。