「共同参画」2008年 6月号

「共同参画」2008年 6月号

スペシャル・インタビュー/第2回

現代的な福祉社会の構築を ODA YASUKO

今回は、医師不足の問題点などについて、日本女医会会長の小田泰子さんにお話を伺いました。

医師全体の意識改革を。

─ まず最初に、医療の世界に入られたきっかけをお聞かせください。

小田 一つは、明治生まれの母が女性も職業を持つべきだという考えの人でした。もう一つは時代、学制改革です。敗戦後、女性に大学への道が拓かれました。また、幼いときに父と兄が続けて大病院で入院治療を受けるという体験をしました。そんな経験も影響しているのかもしれません。私は眼科を専攻し、現在は仙台で開業医をしていますが、当時は女性医師も少なかったですね。

─ 病院が身近だったということですね。では本題と言いますか、最近、産科等をはじめとして、医師不足が社会問題化していますが、どのようにお考えでしょうか。

小田 その原因として医局制度の崩壊、新医師研修制度、行き過ぎた医療費抑制、そして女性医師の増加などが論じられています。それから医療というのは医師だけでやっているのではないんです。看護師や助産師などの医療従事者の不足も問題です。

今年の医師国家試験合格者は40%近くが女性でした。今や、女性医師の労働力なしには医療は成り立たないことは明らかです。そして、女性医師が働きやすい環境は、当然、男性医師にも働きやすい環境であると信じます。

─ そういった点も踏まえて、女性医師の現状あるいは働く環境というのはどうなのでしょうか。

小田非常に厳しいです。社会は女性全般の就労を十分に支援していません。保育園にしても数が少ないばかりでなく機能が不十分です。子どもを持つ女性が落ち着いて仕事をすることができるような保育機能の強化、例えば子どもの少々の熱や病気、怪我などは保育園で対応できるような条件整備が必要です。

─ 女性医師はいったん長期休業すると、第一線に復帰するのが難しいということが言われておりますが、実態はどうでしょうか。

小田どんな人だって長く休むと復職するのは困難です。子育てや親の介護をしながら仕事を継続できる社会的な仕組みが必要です。フランスではその点非常に良く配慮され、かつ利用されているように思います。女性が高等教育を受け社会進出をした国で少子化を招いたのは世界で日本以外にはあまりないのではないでしょうか。

今は医師不足、勤務医の過重労働対策として女性医師の就業継続に熱い期待が寄せられています。しかし、今のままで女性医師の職場復帰を期待するのは重しをつけた鳥に飛びなさいというのと同じです。過重労働に甘んじてきた医師全体の意識改革が必要です。

─ 今、ワーク・ライフ・バランスの推進の必要性が叫ばれていますが。

小田 ワーク・ライフ・バランスは女性だけに必要なのではありません。ゆとりを持って生きるのは人間として根源的な望みです。今まで日本人は働き過ぎでした。これまでの生き方を振り返る時期に来たのではないでしょうか。私は現代的な福祉社会の構築を望んでいます。

─ 最後に、女性医師の方々へのメッセージをお願いします。

小田女性医師は診療をしていることで十分に社会に貢献し、還元していると考える人が多いのですが、それだけでは不十分です。子育てなどを終えて時間的余裕ができたらボランティア的な活動-女医会や医師会活動もボランティア活動ですが-をし、そこで活躍する女性が増えなければ女性の社会的地位は上がらないと考えています。また、社会もそのような遅れて社会活動に参加してくる女性を大らかに受け入れ、その意見に耳を傾ける仕組みを作らなければなりません。

UNDPが出している「人間開発報告書」によりますと、女性の社会参画の状況を示す指数にHDIとGEMがあります。HDI(人間開発指数)は「平均寿命、教育水準、所得」等を用いて算出した指数ですが、これについては日本は世界177か国中第8位と非常に高いところに位置しています。一方、「政策・方針決定過程への女性の参画」を測る指数GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)は世界93か国中第54位と非常に低い上に、GEMは徐々に低下しています。このギャップが日本にある男女格差、女性の働きにくさの大きな原因と考えています。これを解決するためには小手先の改革ではどうにもなりません。

院内保育所、病児保育、フレックス勤務、ワークシェア、夜勤・超過勤務への配慮、代替要員の確保、ベビーシッターの派遣などなど。少しずつ改善策は用意されていますが、特に保育については勤務時間が不定な女性医師への配慮が行き届いているとは言えません。女性の問題は当事者である女性にそれを解決する実権を与えるべきです。女性に主導権を与えたら、少なくとも現在の閉塞状況からは動き出せるでしょう。

一方、女性も考えを変えなければなりません。シンデレラのようにじっと我慢をしていたら、誰かが助けてくれると夢見ていてはなりません。自分の道は自分で拓かなければならないのです。そして、女性医師は自分の運命を人任せにしないために幼いときから努力してきた人なのです。

男女が共に夢や希望を実現できる男女共同参画社会実現に向かってみんなで手を携えていきたいと願っています。

─ 今日は、お忙しい中、本当にありがとうございました。

日本女医会会長 小田 泰子
日本女医会会長
小田 泰子

おだ・やすこ/北海道大学医学部卒、眼科学を専攻。東北大学大学院国際文化研究科修了。2006年日本女医会会長、現在に至る。著書に『種痘法に見る医の倫理』『医師ヘボンとその時代』『小田眼科ニュース医心伝言』など。