「共同参画」2008年 6月号

「共同参画」2008年 6月号

特集2 会議レポート

第52回国連婦人の地位委員会について

第52回国連婦人の地位委員会(Commission on the Status of Women: CSW)が2月25日から3月7日まで、ニューヨークの国連本部で開催されました。今回の特集では、委員会の概要とともに、そのテーマ(「ジェンダー平等及び女性のエンパワーメントのための資金調達」)に関連する「ジェンダー予算」について、有識者による解説を掲載します。

Part 1
第52回国連婦人の地位委員会の概要について   内閣府男女共同参画局総務課

第52回国連婦人の地位委員会が2月25日から3月7日まで(合意結論の採択は3月13日)国連本部(ニューヨーク)で開催され、我が国政府代表団として、目黒依子日本代表ほか計22名が出席しました。会合では、各国代表や国連機関、NGO代表等によるステートメントの発表、今回の優先テーマである「ジェンダー平等及び女性のエンパワーメントのための資金調達」(financing for gender equality and empowerment of women)に関するハイレベル円卓会合、対話型専門家パネルや、第48回委員会における合意結論「紛争予防・管理・紛争解決及び紛争後の平和構築への女性の平等参画」の実施評価、決議や合意結論についての討議等が行われました。また、委員会の成果として、合意結論のほか、「女性及び児童の人質」、「女性性器切除の撲滅」、「パレスチナ女性の状況及びその支援」、「国際婦人調査訓練研修所(INSTRAW)の強化」、「女性、女児とHIV/AIDS」に関する決議が採択されました。

我が国ステートメント

目黒代表が発表したステートメントにおいては、男女共同参画基本計画の策定及び男女共同参画推進関係予算の取りまとめ、男女ともに仕事、家庭生活、地域活動などを希望に沿った形で調和して実現できるようにするための取組、配偶者暴力防止法の改正、国際協力分野における女性のエンパワーメントに向けた支援並びに我が国における第4回アフリカ開発会議(TICADIV)及び主要国首脳会議(G8サミット)の開催等について紹介しました。

合意結論

合意結論においては、ジェンダー平等及び女性のエンパワーメントの目標を実現するため、資金が動員されなければならないことを強調した「北京宣言及び行動綱領」や、ジェンダー平等及び開発を目的とした施策の支援を目指して適切な予算配分編成を行うため、適当な場合には、あらゆる政策と予算の立案、執行等の過程にジェンダーの視点を取り入れるよう各国政府に要請した「第23回国連特別総会」の成果文書を再確認しています。また、各国政府等に対し、国家の優先事項を念頭に置きつつ、以下の行動等を取るよう、要請しています。

  • あらゆる国家経済政策、戦略及び計画の立案、実施、監視、評価、報告においてジェンダーの視点を取り入れる。
  • 政治的、社会的、経済的意思決定及び行政組織、特に、経済・財政政策に責任を有する組織における女性の参画を可能にするために障壁を取り除き、適切な資源を配分する。
  • あらゆる省庁、特に女性に関する国内本部機構及び財政担当省等におけるジェンダー主流化の能力開発のための資源を配分する。
  • あらゆる政策分野における歳入と歳出についてジェンダーに敏感な分析を実施し、予算の計画、配分及び歳入徴収に当たってはその見直しと評価の結果を考慮に入れる。
  • 先進国は、国民総生産(GNP)の0.7% を政府開発援助に、GNPの0.15%から0.20%を後発開発途上国向けにという目標達成に向けて具体的に取り組む。
  • 非政府組織、特に女性団体による資源の動員のための支援的な環境を創出し拡大する。

我が国ステートメントや合意結論の本文等は男女共同参画局HPをご参照下さい。

http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi_int_csw/chii52-g.html

Part 2
ジェンダー予算とは   市井礼奈(南オーストラリア大学ワークライフバランス研究所研究員)

ジェンダー予算(gender budgeting)とは、政府予算が男性と女性に及ぼす影響について検証する手法です。従来、主流派経済学において政府予算の影響は中立的で、男性と女性に同一の影響を及ぼすと理解されてきました。しかし、フェミニスト経済学者は実証研究を行い、予算の影響は予算の受益者の性別によって異なることを示しました。例えば、緊縮財政による公共サービスの減少は女性のケア労働の負担を増加させるなど、男性と女性に異なる影響を及ぼすことが検証されました。こうしてジェンダーの視点から予算分析を行う重要性が明らかにされました。

ジェンダー予算の最初の試みは1980年代半ばにオーストラリアの連邦政府及び州政府が実施した女性予算イニシアティブ(Women's Budget Initiative)でした。例えば南オーストラリア州では予算をその特質ごとに3つに分類しました。 1.受益者の性別を特定する公共サービス(例えば、乳がん検診)の予算、2.州政府内で男女平等を促進するための予算(男女平等に関する職員研修など)、 3.受益者の性別を特定しない公共サービス(例えば社会資本整備)の予算、所謂「一般」予算。そして各予算が総予算に占める比率が計算されました。この結果、上記1.(受益者の性別を特定した公共サービス)の比率は、わずか0.75% でした。従って、予算が男性と女性に及ぼす影響を包括的に把握するためには、所謂「女性向け」予算のみならず「一般」予算を対象に分析する必要があるとの結論が出されました。そして、ジェンダーとの直接的な関連が見えづらい政策を担当する省庁(例えば財務省)もジェンダー予算分析を実施することとなりました。

1995年の第4回世界女性会議以降、ジェンダー予算は世界に拡大し、今日では世界60カ国で実施されています。ジェンダー予算の実施は、予算過程の透明性の向上や男女共同参画政策の推進に対する政府の説明責任を高めるなどの効果を持つと考えられています。

ジェンダー予算が世界に普及した理由の一つは、フェミニスト経済学者による分析枠組や分析手法の開発があります。特に近年は男女別統計を利用した業績評価指標の開発も行われ、ジェンダーへ対応した予算運営(gender responsive budgeting)、すなわちジェンダーの視点を予算過程のあらゆる段階(編成、執行、評価)へ統合することへ活用する試みもあります。

また近年、支出面の分析とは対照的に分析手法の開発が遅れていた歳入面の分析手法の開発が盛んになってきました。例えば、税体系の分析(所得税の課税対象や配偶者控除など)や間接税の帰着分析(食品や教育費など支出項目別、男女別、地域別、所得階層別の付加価値税の負担率)などの研究が行われています。

歳入分析の進展は、財源の確保が必要不可欠であるとの認識によるものです。予算を増減又変更するのは容易ではありません。例えば予算を増やすためには、税収を増やすなどの措置が必要となります。また予算が一定の場合、ある予算を増やすと、他の予算を減らさなければなりません。そこで、男女共同参画の推進を確実なものとするために、財源確保の問題が研究されるようになりました。ジェンダー予算において、今後、どのような歳入分析が展開されるのか、その研究動向に関心が注がれています。

いちい・れいな/
オーストラリアのジェンダー予算分析の第1人者であるロンダ・シャープ教授に師事し、PhD取得。お茶の水女子大学ジェンダー研究センター専任講師を経て、南オーストラリア大学ワークライフバランス研究所研究員