監視・影響調査専門調査会(第21回)議事録

  • 日時: 平成19年7月25日(水) 15:00~17:30
  • 場所: 永田町合同庁舎第一共用会議室
  1. 出席委員:
    • 鹿嶋会長
    • 勝又委員
    • 神田委員
    • 袖井委員
    • 橘木委員
    • 畠中委員
    • 山口委員
    • 山谷委員
  2. 議題
    • (1) 平成18年(度)男女共同参画社会の形成の促進に関する施策についての苦情内容等及び男女共同参画に関する人権侵害事案の被害者の救済制度等の把握について
    • (2) 「高齢者の自立した生活に対する支援」に関する有識者ヒアリング
      • 生活・健康面での自立支援について 福島県立医科大学教授 安村 誠司教授
      • 経済面での自立支援について お茶の水女子大学大学院教授 永瀬 伸子教授
    • (3) 「高齢者の自立した生活に対する支援」の関係府省庁へのヒアリングについて
  3. 議事録
鹿嶋会長
それでは、ただいまから男女共同参画会議監視・影響調査専門調査会の第21回会合を開催させていただきます。
 皆様におかれましては、お忙しい中、御参加いただきましてありがとうございます。
 まず、事務局の人事異動について報告がございます。7月6日付けで飛田審議官が異動されまして、新しく来られた竹林審議官から御挨拶をお願いします。よろしくお願いします。
竹林審議官
7月6日付けで男女共同参画局の担当審議官になりました竹林でございます。
 昨年まで沖縄の現地で仕事をしていまして、今年の1月に国民生活局担当の審議官で戻ってきまして、併せて男女共同参画局も担当させていただくということになりました。男女共同参画局の関係の仕事は私はまだ不慣れでございまして、今勉強中でございますので、御指導のほどよろしくお願いいたします。
鹿嶋会長
それでは、本日の審議を進めさせていただきます。
 あらかじめ事務局より連絡させていただきましたとおり、男女共同参画施策についての苦情処理状況についての事務局からの説明と、高齢者の自立した生活に対する支援に関する有識者ヒアリングを行いたいと思います。有識者ヒアリングにつきましては、生活・健康面の自立支援につきまして福島県立医科大学の安村誠司教授から、経済面の自立支援につきましてはお茶の水女子大学大学院の永瀬伸子教授からお話をお聞きすることにいたしております。有識者の方々のお時間の都合により、有識者ヒアリングのお二方の話の間に苦情処理に関する説明を挟みますので、あらかじめ御了承ください。
 まず初めに、「高齢者の自立した生活に対する支援」に関係した有識者ヒアリングを始めます。生活・健康面の自立支援に関して、安村先生、どうぞよろしくお願いいたします。
安村教授
ただいま御紹介いただきました福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座の安村です。どうぞよろしくお願いいたします。
 貴重なお時間をいただきましたので、資料2に沿って進めさせていただきたいと思います。大抵のことは資料2に出ておりますが、一部補足でスライドでお見せする部分があります。
 私自身は、老年学、老年社会科学ということで、主に高齢者のことを勉強してまいりました。セクシャリズムというよりも、エイジズムの方の研究ということでやってきた経過があります。2000年の介護保険の導入以降、昨年度から介護予防事業が制度化されたということで、その制度改正に一部関わったこともありましたので、そういうことも含めてお話をさせていただきたいと思っております。
 今日の内容に関しましては、お手元の資料にあるように、1から7のような順番で、1、2のあたりは、もともと高齢者に関する日本の高齢社会の実情。そして、3は介護保険が導入されるまでの経過というか、その背景。そして、4番目は介護予防ということで、昨年の4月から正式に入りました介護予防事業に関しての考え方、そして最後のあたりで高齢者の能力に関する考えや、参加・役割というあたりについて御紹介したいと思っております。
 これは、皆さん、よくご存じの日本の高齢化の図でありますが、大きな問題というのは、多分2015年というより、2025年まで後期高齢者(75歳以上)の方々が増えていき、それ以降はフラットになる。高齢者の数もそんなに増えない。要は、団塊の世代が高齢者になり、後期高齢者になった以降は、その後の供給が少なくなるということで、問題は75歳以上の人たちがマキシマムになる2025年に向けてどういう制度をつくっていくかということではないかということがこの背景にはあります。
 このスライドは、昭和10年と直近の平成15年の年齢階級別死亡率を見たものでありまして、ポイントは、昭和10年からずっと若い世代の死亡率が、乳幼児死亡を含め減少したと言われていますけれども、特徴は現在に至るまで高齢者の死亡率も減少している。何も高齢者が弱くなったわけではなくて、高齢者が元気になったおかげで、死亡率も低下している。もう1つのポイントは、いずれの年齢でも男性の死亡率が高い。要するに、女性の方が死なないということがこのデータを見ても、どの年齢階級においてもほぼその傾向が見られるということであります。
 もう少し詳しく死因別に見ましたのがこの図であります。悪性新生物、脳血管疾患、心疾患、いずれも男女共に減少している傾向が見られるようですけれども、実は男性では悪性新生物、いわゆるがんに関してはなかなか減少が明らかではない。たばこの影響がかなりあるということがここからうかがえます。3大生活習慣病の高さを見ていただくと、全体に見て、各疾患ごとでも男性の方が死亡率が高いという実態がわかってまいります。主要な死因別で見ても、男性の死亡率が高い。つまり病気で死亡する率は、生活習慣病で見ても男性の方が高いということが特徴であります
 では、その病気の状況を見てみます。これは厚労省の患者調査ということで病院における調査ですけれども、まず外来での受療状況を見ますと、男女とも外来で最も多いのは高血圧であります。高血圧で通院が最も多い。男性では、悪性新生物(がん)や心疾患、脳血管疾患が多くて、女性では特に高血圧性疾患が多いということが1つ特徴です。一方、もっとひどい状態になる入院に関して見ますと、男女とも最も多いのは脳血管疾患、いわゆる脳卒中での入院が多いということがわかります。年齢が高くなるにしたがって多い。一方、男性では悪性新生物への入院も多く、女性では高血圧、心疾患、脳血管疾患が多い。ちょっと粗っぽい言い方で言いますと、男性はがんで外来か入院して早く亡くなっている。女性は高血圧で慢性疾患、脳血管疾患になって長く入院しているというようなことが病気の状態として、つまり亡くなる前の状態としてわかるような結果が出ております。
 これらの、いわゆる生活習慣病の原因を考えたときに、これは大変有名なBRESLOWという方の7つの健康習慣というものであります。1の喫煙しないから、規則的な運動をする、深酒をしない、酒をのまない、規則的に7~8時間の睡眠をとる、適切な体重を維持する、朝食を取る、間食をしない。委員の先生方はこのうち何個が当てはまっていらっしゃるでしょうか。これを見てみますと、男女で全部「はい」という方でも、何年かの間には亡くなる方がいる。黒いのが男性で白いバーが女性ですけれども、全部健康習慣を持っているという方を基準にしたときに、その後の経過を見ますと、健康習慣がない方の方が死亡率が高い。特に女性では、0~3ぐらいしか「はい」でない方は大体2倍強ですけれども、男性ですと大体4倍の生活習慣の影響が大きいということで、これは逆に考えますと、男性の方が生活習慣の影響が大きい。つまり生活習慣を改善することで死亡率を改善できる可能性がある。つまり、生活習慣が悪いために死亡率が高くなっている。この背景は、先ほどもちょっと申し上げました喫煙率の大きさというものがその1つの要因になっているということがうかがえます。
 今までの病気の進展の流れを少し整理いたしますと、今日お話しさせていただく要介護状態の前に生活習慣病があり、その前に境界的な状態があって不適切な生活習慣がある。時間の流れで言いますと、左から右の方に生活習慣の乱れがあって、境界的な状態になって、生活習慣病になって、要介護状態になっていく。ただ、後で御説明いたしますけれども、これは簡単なというか、単純化したモデルでありまして、いわゆる医学モデルという考え方であります。病気が障害をつくる、病気が要介護をつくるということで、実は一番最後の生活習慣までは誰も異論がないところですけれども、この生活習慣病をある程度コントロールできれば、果たして本当にここが予防できるのかということに関しては、実は大きな議論があるところです。つまり、生活習慣病を予防すれば介護が必要な人たちが少なくて済むのかということに関しては、医学モデルが果たして適切かどうかということをこの後少しお話しさせていただきたいと思っています。
 しかしながら、生活習慣病が非常に多いということを先ほどお話しいたしましたが、昨年の医療制度改革の中で、特に国の役割、都道府県の役割、医療保険者、市町村の役割、そして国民の役割という新たな健康づくり政策が提言されまして、アウトソーシングの活用というようなことも含まれております。今までは健康に関しての責任は当然国にあり、都道府県にあり、市町村にありましたけれども、この医療保険者の位置づけというのが若干不明確だった点があります。これに関しまして、今回の制度改革の中で、医療保険者が責任をもって健診・保健指導するということで、保険者としての責任を明確にしたというところが大きな特徴でありまして、今までの市町村による基本健康診査というのではなくて、保険者が健診や保健指導を行う。これをハイリスクアプローチ、リスクの高い人へのアプローチ。一方、市町村は健康づくりの普及・啓発、一般的な健康づくり、市民、村民、町民の全体の健康づくりというところに責任を持つんだということで、これはポピュレーションアプローチ、集団的なアプローチということで若干役割を分けて、それぞれの役割を明確にしたというところがございます。この中身は資料にはございませんが、意味としましては、来年、平成20年度から特定健診・保健指導というのが保険者に義務づけられました。40歳以上の被保険者、被扶養者を対象として、保険者の責任で健診・保健指導を行うというふうに制度が変わっております。これが生活習慣病対策の核になるということで御理解いただければというふうに思っております。
 さて、そういう背景の中で、高齢者の平均寿命、平均余命ということを少しお話しさせていただきます。皆さんすでによくご存じのように、平均寿命はどんどん伸びている。それで、男女の差が実際かなりあって、直近のデータですと、平均寿命の男女差は男性が78.56歳で女性が85.52歳ですので6.79歳、約7歳。国の統計の一番古いのを調べますと、1947年の平均初婚年齢差、つまり最初に結婚したときの男女の年齢の差が、男性が3.2歳上であるというデータが国の統計で一番古いので残っております。これを合わせて見ますと、要は現在の高齢者の平均的な、もし男性と女性が3歳差で結婚をして、順調にというか、普通にくると男性は78歳で天寿を全うします。そうすると、このときに配偶者である女性は平均的には75歳なわけですね。ですから、75歳から平均寿命の85歳までちょうど10年、1人というか、配偶者なしの時間がある。幸せかどうかわかりませんけれども、10年間、配偶者の男性がいないというのが一番典型的な形で、統計を見ますと、大体男性の方が先に逝く割合が90%、女性が残る方が10%ということで、圧倒的に女性が残るというのが実態であります。将来予測に関しましても、この差は決して縮まらない。残念ながら、日本の喫煙対策等が進まないと、これはますます開く可能性もあるというふうに言われております。
 長生きすることは悪いわけではありませんが、その中身ということで、平均余命の中で、特に介護を要しない期間を、いわゆる健康寿命というふうな言い方をします。これで見ますと、男性で78歳ぐらいが平均余命ですけれども、平均余命と自立期間の差、約1.5年から2年が男性は要介護を必要とする。つまり亡くなる前1.5年ぐらいは配偶者がいる中で要介護状態を迎える。一方、女性は85歳のときに、平均余命が大体7年で、自立期間が4.3年ですので2.5年ぐらい、85歳で亡くなる前に約2.5年要介護の状態で亡くなっていく。ただ、残念なことにというか、約9割の方では配偶者がいない中で要介護の状態を迎えているというのが平均的なパターンであります。それで、こちらに書きましたように、非自立期間、つまり要介護の期間、一般的に健康寿命と言いますけれども、非健康寿命は女性の方が約1年ほど長いという実態であります。
 では、そういう背景の中で、介護保険法が2000年に入りましたけれども、その大きな幾つかの要因をここで御紹介いたしますと、先ほど医学モデルのお話をしましたけれども、死亡原因というのは、先ほども言いましたように、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患を中心とした、いわゆる生活習慣病が多い。一方、65歳以上の方の要介護の要因は何だったかというと、がんなどは残念ながら早く勝負がついてしまう。心疾患も要介護のようにはなかなかならない。ということでは、今でも脳血管疾患が第1位で、その次に高齢による衰弱というのがあります。これは後でまた紹介させていただきますが、次に転倒・骨折、痴呆(認知症)、関節症、パーキンソン病ということで、死亡原因と若干様相が異なるということが見てとれます。また、これは国の国民生活基礎調査の仕方が悪いと私は思っているのですけれども、疾病で要介護の要因を尋ねているんです。そうすると、回答する方が病気を考える。しかしながら、本当に脳卒中になってそのまま寝たきりになる方は現実にはほとんどいらっしゃらないです。リハビリで退院の時点では過半数の方は自立歩行または杖ということで、必ずしも要介護の状態になって退院するわけではない。実は要介護状態というのは病院でつくられるのではなくて、家でできる。ということは、家の中に要介護の要因があるんだというような視点が実は必要でありまして、これは国の調査の仕方が不適切であるという例ではないかというふうに私は思っております。
 この高齢による衰弱が実はあるということをちょっと念頭に置いていただいて次のスライドを見ていただくと、それがわかっていただけるのではないかと思います。これは、年齢別に要介護になった要因を見たものであります。ここで何がわかるかといいますと、実は74歳ぐらいまでの前期高齢者は一番左の脳卒中が多いのですが、女性の場合は85歳以上で亡くなる方が過半数なわけですね。その85歳以上になったところを見ると、衰弱というのが半数に至ってくる。つまり、明確な病気がない方が要介護になる原因は、どうも病気ではないようだと。ある原因の病気があって、それで要介護になるというのではなくて、どうもいろいろなことが複合して起こってくる。それを調査をした場合に、家族の方は、どうもうちのじいちゃん、ばあちゃんは衰弱というか、老衰になってきたので要介護状態になった。病気ではないというふうに回答されているということで、逆に病気に原因を求めているというところに、実はこれから介護予防の対策を立てていく上での非常に大きなポイントがあるかと思います。
 これは、男女別にその違いを見たものでありますが、男性では脳血管疾患が背景要因として多いわけですけれども、女性では高齢で要介護になる方が多いためか、それとほぼ同様に衰弱ということで、明確な病気ではない形での要介護が多いということが1つ特徴であります。
 それをまとめましたのが次のスライドであります。お手元のスライドにはそこを全部まとめて書かせていただいておりますけれども、先ほど申し上げたように、例えば脳卒中というのは考えてみれば身体的な要因の1つである。脳卒中になったら必ず寝たきりになるわけではない。リハビリを一生懸命やる。ということはどういうことかというと、心理的な要因、つまり脳卒中になったことで在宅でかえって意欲が低下したり、活動性が落ちていくときに、家族にやってもらうことでいいなと思うということや、あと社会環境要因と申しまして、人的要因や物的要因、人的要因というのは特に家族の関わり方、近隣の人の関わり方などが実は大きな影響を与えています。これはどういうことかと申しますと、「やさしい嫁さん寝たきりつくる」という表現があります。これは、高齢者の特におばあちゃんと言っていいかどうかわかりませんけれども、今までやっていた役割をみんなお嫁さんがやってあげる。ご飯もつくってあげる、配膳してあげる、片づけてあげる、着替えもやってあげる、洗濯もしてあげる、つまり何もしなくていい状態ができてくるということで、悪気はないけれども、やさしい嫁さんがやっている間に高齢者はやることがなくなっていく。そういう中で、外になかなか出ない、家の中もバリアフリーでない、地域でもなかなか出て行きにくいような場合、家の中に閉じこもるという状態が起こる。外へ出ない状態、外に出にくい状態になる。特に、先ほどもありましたけれども、高齢になると転びやすくなって、外に出ない方がいいというような家族のやさしさが高齢者を歩かなくさせて廃用症候群ということで、廃用症候群というのは英語の略で、英語ではDISUSE SYNDROMEディスユースシンドロームといいまして、DIS-USEディス・ユース、使わない症候群ということで、使わないために筋力が落ち、筋肉が減少し、関節が硬くなるという悪循環が始まる。そうなった結果、要介護状態になるというような考え方であります。
 この考え方で、現在、ここに色を変えてありますけれども、閉じこもり、うつ、認知症というのが昨年の4月から介護予防事業に入った新しい取組の対象です。また、右には低栄養、口腔機能低下、運動機能低下というこの3つが同様に新しい介護予防事業の中に入りました。これらのものは、いずれも直接ある病気が原因だというのではなくて、状態像として、生活のあり様が要介護状態と密接に関係しているということで、私たちはそれをこういうふうにパラダイムチェンジをしなくてはいけないのではないかと。つまり、従来の疾病対策を基本とした医学モデルから社会モデル、その方の生活に密着した対策を立てなければ実は介護予防はできないのではないか。つまり、あえて言うと、医者中心の疾病対策だけでは介護予防はうまくできないということで、それは多くの方々の、身体だけでなくて、心理的な対応や、また環境に関するところで言えば、建築の方のバリアフリーもそうですし、心理的なサポートも必要でしょうし、さまざまなそういう総合的な対策が必要である。ですから、脳卒中だけ減らせば要介護の人たちを減らすことができるというわけではないということがここから分かっていただければと思います。
 さて、実際に介護保険が入ってからの経過ですけれども、これは多くの方がご存じのように、実は介護保険が導入されてからも、高齢化率よりも早いスピードで要介護認定者が増えている。特に注目していただきたいのは、一番下と2番目の要支援・要介護1であります。いわゆる軽度要介護者の増加が全体の増加の程度と比べると著しく多いということであります。つまり、重度者が増えて介護保険が大変なのではなくて、軽い人たちがどんどん増えているということです。それは本当に問題なのかというふうに思われるかどうかわかりませんけれども、この問題の大きさは、次の図を見ていただきたいのです。
 次の図の前に1つ言いますと、男女の視点で言うと、要介護者がどんどん増えている中で、人口比率でいうと65歳人口で女性は男性の1.36倍ですが、実は要介護でサービスを受けている受給者は女性は男性の約2.6倍です。つまり、高齢者の数と比べると、女性の要介護認定者はその倍いる。先ほどの要介護期間の違いからも伺えますように、女性がサービス利用の側に多くいるということも実態であります。
 さて、では軽度者が増えたということの意味はどういうことかというと、これはお手元の資料にも矢印でお示ししておりますけれども、1つは、重い方は2年たつとどうなるかというと亡くなるんです。要介護度5の方は2年後には4割亡くなっております。軽くなるほど死亡率が低い。つまり重い方だけが地域に蓄積することはないということが1つ言えます。つまり、介護保険が入って重い方がどんどん増えて、社会が介護保険でつぶれてしまうというように、重い人たちが多いから大変なのではありません。どういうことかといいますと、軽い方の改善度合いが悪いということです。一度要介護認定で要支援や要介護1になりますと、ほとんどが維持か重度化、つまりその状態でいるか悪くなる。これは私の理解では、一番下に書きましたけれども、一度要支援、要介護になったら戻れない下り坂ということであります。これが2年前までの当初の介護保険法の最大の問題であります。つまり、介護保険の本来の趣旨は自立支援ということになっているわけですけれども、自立の支援というよりも、一度認定したらサービスを使い続ける状態が維持されるだけで、残念ながら改善の効果がなかったということがこの制度の大きな問題ということで、介護予防の考え方が導入されることになりました。
 その背景について若干お話しいたしますが、介護保険が今度導入されるにあたり、どういうふうな考え方が基本にあったかといいますと、高齢者についての考え方で、WHOは20年前から高齢者の健康指標ということで、死亡率や罹患率、つまり病気があるか、長生きかということで見てはいけないと。生活機能(AUTONOMY)で見ましょうということを提唱しております。実は、この考え方に基づくべきということが今回の大きな特徴でありまして、ここにADLということで自立度を5つの区分で書いておりますけれども、このデータは私のおりました東京都老人総合研究所で調べた結果、大体9割の方は自立している。5~10%の方がさまざまな動作が介助が必要である。
 では、どう考えるのか、自立というのは何かというと、先ほど申し上げたように、上段が古い医学モデルであります。疾病が最終的にハンディキャップを生んでいくというようなモデルはもう古い。今の発想はICFということで、ここが大きな特徴だと思いますけれども、ICFのFはFUNCTIONINGファンクショニング(生活機能)という視点で見なくてはいけない。生活機能というのは何かというと、最終的な上位にある目標は参加ということであります。参加を目指す、そして参加が構造機能ということと相互に双方性の矢印で関連している。上のモデルは、疾病があればだめで、もとへ戻れないルートですけれども、いずれも双方性である。社会へ参加していなければ健康状態も悪くなるだろう。参加していないことで活動も制限されるということで、相互の関連があるという考え方がICFの特徴であります。高齢者における能力ということで見ますと、これはLOWTONという方が整理したものですけれども、大変よくまとまっているかと思います。左から右にいくに従って高次の能力。そして、一番下は生命維持ということで、この能力が維持できないと死ぬわけであります。子どもは発達成長していって大人になるに従って右の役割、最終的には社会的役割というものを獲得し、その社会的役割の中でも上にあるものがより複雑な能力というふうに位置づけられております。ここの真ん中に身体的自立というのがございますが、ここの能力ができなくなると要介護で左にいってしまう。ですから、目標は、身体的自立より右、つまり手段的自立より上のレベルを維持していく。これより下げないということを目標にするわけでありまして、私たちが考えている支援の方向というのは、この手段的自立を持っている方々を右の上の方に、社会的役割の上位には創造的リーダーシップ・愛というようなことが書いてある。支援の方向は右の上の方向ではないかというふうに考えております。
 こう見たときに、高齢者の健康度の分布というのは、概ね全国でいろいろ調査しても、こういういわゆる富士山型になっておりまして、もっとも介護が必要な方は5%ぐらいで、実はトライアスロンをやるような元気な方もかなりいるということで、高齢者の能力が若干過小評価されているのではないかということも言えるかと思います。
 今回の介護予防の考え方でもう少し具体的に申し上げますと、生活機能が縦軸だとしますと、だんだん加齢や疾病ということで下に力がいくわけですね。それを下支えするのが今回の介護予防事業というふうに理解いただきたいと思います。段階に沿ってそれぞれ事業を配置しているという形であります。軽度のところから重くなるに従って、それに応じた介護予防事業を配置しております。
 その流れを1つの図に示しましたのがこれであります。これは先ほど申し上げましたように、元気な高齢者と特定高齢者に対してアプローチの仕方が若干違いますけれども、1つ大きな特徴は、今までの厚労省の事業で余りなかった評価事業ということですべて評価をするということが特徴と言えるかと思います。ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ、ご存じの方も多いかと思いますけれども、簡単に示しますと、ポピュレーションアプローチは、このように山を右に動かすということをイメージしております。全体を自立の方向に持っていく。全員をよくしましょうと。ハイリスクアプローチというのはもぐら叩きと考えていただければよろしいかと思います。リスクの高い人たちだけを対象に山を少し右に動かすということで、両方のアプローチを併存させていく。両方うまく合わせていくということが大事だというふうに考えられます。
 最後に、私どもが福島で行った調査の結果で、ちょっと小さくて申しわけありませんが、では高齢者の高い能力、役割などをこれからどうしていくかということで見てみますと、収入のある仕事は男性が実際まだ65歳でも多い。家庭内での役割は女性が実際に多くやっている。ただ、役割全体をそういうのを含めて見ると余り大きな違いはないというのが私どもの調査の結果から出ております。
 次に、家の中でやっている役割は、この図を見ていただければわかるように、ほとんどを女性が担っておりまして、一部大工仕事や家の修繕等は男性である。ただ、下線を引きました親や配偶者の介護のことですけれども、これは地域でやった調査ですので余り大きな違いはないということで若干不思議だったのですけれども、別の調査を見ますと、同じ介護でも役割の意味が違う。一番下を見ますと、主たる介護者として関わっているのは女性で、主たる介護者ではない形でのサポートに男性がなっているというのが結果としてはわかってきました。
 次は、内閣府で行われた調査に基づく結果ですけれども、誰に介護してもらいたいかということで、男性では8割近くが配偶者ということで、実際、結婚されている場合には配偶者にやってもらって死んでいけるというのが男性ですけれども、ちょっと女性は甘く見ているのかなと思うのは、4割の方が配偶者を期待しておりますけれども、それは実際には半分の方もできませんね。男性の方が先に死にますので、配偶者にお世話になりたいと思っても、現実にはなかなかできないということです。実際今入っている地域での団体組織を見ますと、左の方に矢印をちょっと多くしましたのは、やや男性の方が地域での役割が多いように一見見えるというところであります。なお、最近行ったボランティア活動等に関してということで見ましても、余り大きな違いはないという特徴があります。
 最後に、今後やってみたいことはどういうことですかということでお伺いしたときに、大変驚きましたのは、男女とも最も多いのは、今後やってみたいことは特になしと。これを年齢階級別に男女で見ますと、男性も女性も75歳未満でも、75歳以上でも、やってみたいことがないという方が大変多く増える。75歳以上になると、男女とも約半分の方がやってみたいことがないということで、やるべきものがないのか、何かやろうと思うようなものが見つからないのか、いずれにしても、75歳以上になると、多くの分野でやってみたいということが少なくなっていくというのが地域の高齢者の実態であります。
 これがまとめの図です。お手元に書いてありますように、私の理解では、介護保険というのは、処遇という視点から考えても、現状維持のサービスであった。残念ながら、自立支援としては不十分であるということで、今回、介護予防という事業が入ったという経過があります。やはりこれだけではちょっと足りないんじゃないかというのは、今の結果を見ましても、要介護の状態の方も含めて、社会参加をするプログラムが欠落しているのではないかと感じているところであります。多くの方々が年をとっても、社会参加できるような役割を創造することが大事ではないかというふうに考えております。
 これは、5ぺージ目にあるスライドと同じスライドですけれども、この考え方で実はいま、生活習慣病対策は動いているのですが、さまざまなデータが各部署で蓄積されています。検診のデータや、レセプトデータや、介護保険情報、それらに関しては実はお金のことで言いますと、保険費用や医療費、そして介護費用というものがそれぞれのところで管理されています。しかし、残念ながら、この連携が全くとられておりません。つまり、全体としての社会保障というものをもっと広く捉えると、保険の分も含めると、その費用を介護保険の費用に医療費からシフトさせても、全体としての費用がどうかというような視点が非常に欠落していて、これをリンクをさせないと本当はよろしくないんじゃないか。お金の面だけでなくて、検診のデータが実際その後の医療の問題にどう関連するかとか、こういうことが基盤整備としては我が国では若干遅れているのではないかというふうに思っています。
 これをまとめますと、最後のところですが、現在の日本の生活習慣病対策と介護予防対策というのは、介護予防は実は65歳からスタートするような形になっております。一方、生活習慣病予防対策というのは65歳で一応締めで、どこで終わるというのが実は明確ではありません。ここでは、現実的にはこういうふうに切れているのではないか。しかし、これではやはりよろしくない。これはピッタリくっつかなければいけないですし、先ほど介護予防事業でお話ししましたけれども、介護予防の中には運動機能向上ということで、いわゆる運動のプログラムが入っております。生活習慣病予防の柱の中には、栄養、運動、休養というような形で運動も入っているわけですけれども、それは全く独立して別な形で動いています。そういう意味でも、事業としての連携というものもやっていかないと、実のある介護予防の成果を上げることはかなり難しいのではないかというのが私の考えです。
 大変早口でわかりにくかった点が多々あろうかと思いますけれども、これで私の説明は終わらせていただきたいと思います。御静聴、どうもありがとうございました。
鹿嶋会長
ありがとうございました。さまざまな視点から大変魅力的な指摘などもありました。皆さんの方で御質問、御意見があれば、ぜひお伺いしたいと思っております。どうでしょうか。
 前回のこの会議で、前期高齢者と後期高齢者との関係をどうするかなどという議論が出まして、年齢的、体力的にも大分格差があるので、そこはやはり別に考えるべきだろうというふうな議論があったわけです。今、先生の指摘ですと、いわゆる後期高齢者の場合、特に女性が75~85歳の10年間、1人で生きるということになっていきますね。そうしますと、例えばこういう問題を考えるときに、やはり女性の後期高齢者、特にその10年間、しかもかつシングルであるといったところにかなりポイントを置いた方がいいんですか。
安村教授
結果から見ると、私たちの考えでは、やはり前期高齢者は、女性もですけれども、健康面から言うと、そんなに問題は多くない。75歳からが問題で、75歳からは残念ながら男性は亡くなる方が非常に増えていく、かつ要介護期間が短いので勝負が早くついてしまう。女性の場合は、要介護になっても要介護期間が長く経過するということで、ターゲットは75歳以上で女性と。ただ、5年、10年という単位で見ますと、健康度は年々改善していますので、今は75歳かもしれないけれども、あと5年、10年とういと、75歳も元気な高齢者になってくるかもしれませんので、80歳からということになるかもわかりませんが、5年、10年という単位で見ますと、どんどん余命が伸びているということは、要するに健康度が改善しているというふうに解釈するべきだと思いますので、現時点では75歳以上、操作的にそこで切ってよろしいのではないかというふうに思っております。
坂橘木委員
非常に興味ある話でした。それで、答えられない質問かもしれませんけれども、男性は要介護時間が短くて早く死ぬ。女性は要介護期間が長くて遅く死ぬ。どちらがハッピーですか。
安村教授
お答えできませんが。○橘木委員 専門家の方は、そういう問題はどう考えておられるのですか。
安村教授
ハッピーであるかどうかということでしょうか。
坂橘木委員
ハッピーというか・・・。
安村教授
よくいろいろな高齢者の方と話していると、大体多いのは、俺は太く短くでいいのだという言い方をよくされますよね、男性は。
坂橘木委員
一番の理想はポックリ死ぬというのは高齢者はみんな言うじゃないですか。誰にも迷惑をかけない、前日まで頑健で、翌日死んでいたというのが一番いいということを多くの人が言うということは、インプリシットに要介護期間が長い、そして遅く死ぬ女性の方が不本意だという解釈も可能ですか。
安村教授
そうですね。ただ、老年関係をやっている人がみんな同じ考えではない。私の考えで申しますと、いわゆるポックリ死を私は全く不幸な死だと思っています。多くの方々がもし明日死ぬとわかっていたら、残された家族や遠い親戚に何か話をしたい、伝えたいことがあるんじゃないか。そういうことを伝える期間がなくポックリ死ぬことがハッピーだとは私は思えないんです。つまり、ある期間の要介護期間というのが、それは要介護期間がいいかどうかわかりませんけれども、子どもや親戚や伝えたい人に伝えることを残していける時間がある程度あることの方が私は幸せではないかと。それがなくてポックリ死んでしまうということは、思い残すことがあるんじゃないか。あと、残された家族の研究でもあるのですけれども、親や親戚、親しい人にポックリ亡くなられた残された人の悲嘆というのはかなり大きい。何も伝えていってもらえることがない。ですから、私は制度としては、最後は一定の要介護期間があって、それが安心して介護されて死ねるというのが幸せなんじゃないか。ポックリ逝くのが幸せだということはないというか、私はそうは思ってはおりません。
坂橘木委員
逆に、ポックリ死にたいと言っているのは、残された家族に自分が要介護になって大変な苦労をかけるから、それをできれば避けたくてポックリ逝きたいと言っているわけでしょう。
安村教授
そうだと思います。
坂橘木委員
そこの兼ね合いですね。
安村教授
そうですね。多くの調査で、先生がおっしゃられるように、ポックリ死にたいと言っていますけれども、同時に、別な質問をすると、今の日本の社会保障制度に対する不安がもともとバックにあって、要するに、要介護になったら家族に迷惑をかける、つまり社会的な介護や医療が十分制度的に整っていないから、そうなることがみんなに迷惑をかける。みんなにというのは、一番身近な家族に迷惑をかけるだけではなくて、社会、国に対して迷惑をかける。お上に申しわけないというのは、そういうところが多くの高齢者が持っている不安、不満だと思います。ですから、多くの高齢者、全部ではないと思いますが、先生の御専門かと思いますけれども、みんな貯蓄を残して死んでいくわけではないかもしれないけれども、85歳、90歳になっても、何が心配ですかというと、老後が心配ですと答えるんですよね。もう十分老後なんだけれども、あと残された期間をいかに暮していくかというのが心配だと。
 私は1つはマスコミの責任も大きいと思いますけれども、国が3人で支えていたのが2人になりますというようなあの図が、多くの高齢者に対して、要介護になることが社会に迷惑なんだと。自分たちの存在が若い人たちにとって非常に負担にしかならないというようなメッセージを出しているということで、日本が一番長寿であるにもかかわらず、日本の高齢者は、一番ではないですけれども、大変不幸な状態なのではないか。つまり、要介護になっても安心できるというふうに思えないというところが。ですから、要介護で長生きがいいかというと、多分誰もそれを望むような回答はしないんじゃないかというふうに思っております。
袖井委員
介護予防ということについてですけれども、本当に役に立つのでしょうかと思うんです。私は、こんなのを介護保険に入れたのは最大のミスだと思うのですけれども、生活習慣というのは年とってからできるものではないんですよね。うんと若いころからで、若いころからタバコを吸っていて、若いころから脂っこいものを食べていた人が、高齢になって突如、生活習慣を直しましょうと言われても無理じゃないかと思うのですが、その辺はどうなんでしょう。
安村教授
袖井先生のお考えと私も全く一緒です。ちょっと手前みそですけれども、介護予防という発想を65歳からいきなりスタートさせましょうというふうに、老健局というところが考えるのは、やはり介護予防は65歳からのものであると。それ以前は健康局であったり、保険局というところで分かれている。そこはきちんとしたつながりというのを誰かがきちんとつなげないといけない。私が思うのは、「予防」というキーワードで、生活習慣病予防は最終的には介護予防につながりますけれども、でも、生活習慣病予防の発想だけでは介護予防はできない。そこには生活という視点が入っていかなければ、多分、高齢期での自立した生活というのを確保できないという点では、そこの連携をとる。ですから、先生がおっしゃられたように、いきなり65歳から始めて効果が出せるかと言われると、現在はなかなか出ていないというのは、まさに先生がおっしゃるとおりだと思っています。
山口委員
聞き漏らしたかもしれませんが、この対象は福島県下ですか。
安村教授
最後の役割のところに関してはそうです。
山口委員
たしかこの前の会議でも出ていたと思うのですが、やはり都会と農村では食べ物も環境も大分違うんじゃないか。先生の御調査によりますと、都会と農村ではかなり違うことを想定されますか。
安村教授
はい、想定します。
山口委員
例えばどういうことでしょう。
安村教授
特に男性の状況はずいぶん違うのではないか。私の調査は福島県のある市のモデル地区で、市なんですけれどもかなり農村的なところもあって、地縁、血縁、近隣関係が比較的保たれているところです。多分、私ではない共同研究者がやった調査では、都市部の男性の場合、会社と家との往復はしているけれども、地元に友人やサークルなどに入っているような関係がない。ですから、今までもともと老人会などに入るような人間関係がないということで言うと、地区組織とか、地域でのさまざまなサークルや組織というところに入りにくいのが都会の特に男性の問題ではないか。女性の場合には、子どもの教育を含めて、その後の買い物も含めると、近所づき合いとか、そういうのが都会でもある程度は一定はあるのかなと。そういう点では、男性の定年後の都市部での生活というのは農村部とはかなり違って、そういう社会的な参加をしにくい。自らよほどがんばって積極的に出ないと形成しにくいのかなというふうには思っております。
山口委員
では、続けてですが、平均寿命が75歳としますと、大体75歳に近い数年間というのは、やはり死に向かっていくわけですから普通に働けませんね。だから、平均寿命とか余命とか言いますけれども、実際には元気でいる時間というのはもっと短いわけですね。
安村教授
そうですね。それがまさに健康寿命ということで、平均寿命が78歳ぐらいですので、78歳で亡くなる方も75~76歳ぐらいからは生活がかなり不自由になって、最後の1年ぐらいは、介護保険を必ずしも使っているという意味ではないですけれども、お世話がないとなかなか生活しにくい状態ということだと思います。そういうことでは、男性では75歳以降はかなり厳しいのかなと。女性ですと平均寿命は85歳ですので、平均ですと82~83歳からでしょうか。
山口委員
ありがとうございました。
山谷委員
ちょっと確認というか、教えていただきたいのですが、13ぺージ目の下のスライドの介護予防事業の流れで、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチと2つあって、ハイリスクアプローチのところは評価事業で右側のところに2つポツが書かれていますね。これは何となくイメージしやすいのですが、ポピュレーションアプローチの方の評価、つまりポピュレーションアプローチがうまくいっているかどうかという評価というのは、どういうことをされることを想定されていますか。
安村教授
これはもともと厚労省が出したもので、私がというものではないですけれども、基本的には要介護認定者数が増加しているか減少しているか。それは、現時点で多いか少ないかということ。それはイコールというか、裏返せば、新規認定者の発生が抑制されているか、増加しているか。つまり単年度ごとで認定者数が増えていくか、減っていくか。要するに、減っていけば、その効果はポピュレーション(全体)に対して影響があったと。ハイリスクで関わった人だけじゃなくて、地域全体で要介護者の発生が減っていれば効果があったというふうに一応判定する。
山谷委員
ということは、そのデータはかなり細かく取られているということですね。
安村教授
逆にいうと、ポピュレーションアプローチは、市町村主体で考えますと、市町村全体での新規認定者数というのは介護保険担当部局で全部押さえていますので、数だけは毎年わりと単純に出せると思います。ただ、1つ問題は、毎年どこの市町村も人口が高齢化していますので、人口が高齢化しているところを厳密には調整しないと、高齢になればなるほど新規発生率が多くなりますので、厳密な評価はできないですけれども、概ね増えているか減っているかという見方でやれるかと思います。
山谷委員
ありがとうございます。
鹿嶋会長
それでは、先生、どうもありがとうございました。
安村教授
どうもありがとうございました。
鹿嶋会長
それでは、次に、議論がちょっと中断しますが、苦情処理の状況について事務局から説明をお願いします。
栗田調査官
それでは、有識者の方のヒアリングの間に挟まる形になってしまって申しわけありませんが、資料1をもとに、苦情処理の状況の御報告をさせていただきます。クリップでとめてございますので、資料1のクリップを外して順に御説明させていただきたいと思います。
 まず、資料1-1というペーパーに今回の御報告の状況の全般的な説明を入れております。男女共同参画社会の形成の促進に関する施策についての苦情内容等及び男女共同参画に関する人権侵害事案の被害者の救済制度等につきましては、平成14年の男女共同参画会議意見決定を受け、平成15年度以降、毎年この専門調査会に、状況を把握した上で御報告しているものです。
 まず、1のところは施策についての苦情内容等についてということでございますが、こちらは、対象とする機関としましては、総務省の行政相談制度の方で把握した苦情、それから各府省の行政相談窓口で把握したもの、それから都道府県政令指定都市の苦情処理機関等で把握した苦情といったもの、この3種類を把握いたしております。
 対象とする苦情としましては、法律・条例等に基づく制度でありますとか、あとは施策のあり方、そういった施策の運用等を含みました業務運営のあり方、それから人権侵害事案に関連しました苦情のうち、いわゆる男女共同参画に関する施策についての苦情に該当するものを把握しております。処理期間につきましては、昨年度中に処理をしたものでございます。
 把握した内容としましては、受付の年月日ですとか、どういった方が申出をしてこられたか、どういった内容であったか、処理をした年月日はいつであったか、それから、処理結果ですとか、施策の改善への反映状況といったものを御報告をいただいています。都道府県・政令指定都市につきましては、併せまして苦情処理の体制を敷いているかといったことについても調査を行いました。
 それから、2の方ですけれども、人権侵害事案の被害者の救済制度等の把握につきましては、こちらは昨年から新たに御報告をさせていただくことになりました。
 まず、法務省の人権擁護機関の取組ということで、女性の人権ホットラインの利用状況、人権相談の件数、それから女性を被害者とする人権侵犯事案の状況といったものを把握してございます。
 また、併せまして、こちらにつきましても都道府県・政令指定都市におけます救済の体制等がどうなっているかといったことも把握をいたしました。
 それでは、それぞれ細かい状況を数字で御紹介いたします。1枚おめくりいただきまして、資料1-2にお移りください。こちらでは、まず苦情処理の件数と苦情処理の体制について御紹介をしております。まず、1枚目が総務省の行政相談制度、それから各府省の行政相談窓口等で把握した、国に寄せられた苦情処理件数の内容の御紹介です。総件数は、平成18年度全体で2万4,000件ほどございます。そちらを計画のカテゴリーごとに、1から12までが計画のカテゴリーですけれども、それになかなか区分できないものを13番目の男女共同参画施策の総合的な推進ということで、13番目のカテゴリーも入れまして、カテゴリー別に件数を把握してございます。一番多いものとしましては、1の政策・方針決定過程への女性の参画の拡大というところで2万3,000件強ございますが、そのうち一番多いもの、右側の備考の欄に注記をしてございますけれども、国家公務員における育児・介護を行う職員についての短時間勤務制の導入に関する要望といったものが、そのうちの大勢を占めてございます。こちらにつきましては、本通常国会で法案が成立、公布されまして、この夏から施行するという状況になっております。この国家公務員の時短制度の導入につきましては、下の方に苦情処理件数の推移という表がついてございますが、平成17年度もかなり多く、各省庁窓口で受け付けたところの括弧書きで書いてある3万7,540件というのが同じ国家公務員の短時間勤務の導入に関する要望でございました。17年度につきましては、一番多かった国家公務員の短時間勤務の導入に関する要望のほかにも、文部科学省さんの方で教育基本法の改正等を検討している時期でございましたので、教育御意見箱といったものが設けられておりまして、そちらに寄せられた御意見というのも件数的にそれなりの数を占めておりました。まず、これが一番多かった数字に関する御説明です。
 そのほかに、分野ごとにざっと御紹介いたしますと、2番目のカテゴリーでございますが、男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革ということでございますが、こちらは、例えば選択的夫婦別姓に関する要望につきまして、賛成の方、反対の方、双方からそれなりの件数の御意見をいただいております。あと、わりあいと多いケースとしまして、例えば女性の再チャレンジ支援といったようなもので、なぜ対象が女性だけなのか。男性に関する取組が必要ではないかといったような、男性に対する取組を求める御意見といったものもそれなりの件数ございました。
 それから、カテゴリーでいきますと5番目になりますけれども、男女の職業生活と家庭・地域生活の両立の支援、こちらも数十件きているということになっておりまして、いわゆる今年度、仕事と生活の両立支援ということでワークライフバランスに関する推進の取組を進めているところでございますが、その関連の御要望もそれなりの件数がきております。
 それから、7番目の女性に対するあらゆる暴力の根絶ということで、こちらは109件ということで、いわゆるDVに関する苦情といったものが、これは毎年そうなんですけれども、それなりの件数が上がっております。そういったようなところが大まかな状況でございます。
 1枚おめくりいただきまして、2ぺージ目に書いてございますのは、都道府県、それから政令指定都市に寄せられた苦情処理の件数といったことになっております。こちらは、件数的には国の方は2万何千件というふうにかなり大部の件数きておりますが、都道府県・政令指定都市全体で56件ということで、件数的にはそれほど多くはございません。また、件数の推移につきましても、平成15年度から件数的には少し落ちてきているという状況にございます。
 それから、2枚目の下の方に体制の整備状況ということで、今年の4月1日現在の体制の状況を御報告いただいているところでございますが、まず(1)の体制の有無としましては、都道府県・政令指定都市64の自治体すべてに苦情処理体制が整備されております。地方公共団体では、法令でそういった体制の設置義務といったものは敷いていないのですけれども、国に準じた体制の取組をしてくださいということが法律の方で規定がございまして、そういった法律の規定の趣旨を酌み取っていただいて、すべてのところで体制をつくっていただいているということでございます。ちなみに、今年、新潟市、浜松市が新規に政令指定都市になりましたが、いずれも従前から苦情処理体制は整備していたということで御報告をいただいております。
 (2)処理体制の類型でございますが、こちらにつきましては、庁内で普通に事務処理でしているんですといったものが一番多く、34自治体というふうになっておりますが、第三者機関を設けて処理をしているという自治体もそれなりにございまして、男女共同参画に限定した第三者機関、オンブズパーソンなどが具体的には登録されておりますけれども、そういったところが23自治体、それから男女共同参画に限らず、行政一般を取り扱う行政オンブズマン制度といったもので扱っているところも3つほどの自治体でございました。
 それから、担当している職員の方々ですけれども、専従の方というよりは非常勤の方が多いというふうに聞いてございます。受付の件数につきましては、国よりは少なく56件ということですけれども、すべて昨年度中に処理は終わっているということで、未済は0件と聞いてございます。
 資料1-3は、今御報告しました体制についての資料ですので、こちらは御説明は省かせていただきます。後ほど御関心に応じて御覧ください。それから、資料1-4にお移りいただけますでしょうか。こちらが人権侵害に関する報告状況の御報告ということになっておりますが、まず1の(1)のところで法務省の人権擁護機関が取り扱った女性に関する人権相談件数としましては、平成18年で人権ホットライン、それから人権相談件数、それから人権侵犯事件数、それぞれが2万5,000件、1万4,000件、それから5,000件ほどございまして、合計しますと4万5,000件弱といった全般的な状況になっておりまして、中でも、夫から妻への暴力、DVといったものが多くなっております。こちらについては、内訳を資料1-5にお移りいただきまして解説をさせていただきます。
 資料1-5の1ぺージ目でございますが、女性の人権ホットライン、これは全国50の地方法務局の本局に専用の相談電話を設置しているということで、平成18年の4月からは電話番号を全国共通のものとしまして、相談しやすい体制を敷いていると聞いてございますが、そちらの利用件数、それから主な相談内容といったものを真ん中に図表でまとめてございます。こちらに表がございますけれども、件数的にはかなり増えていまして、ホットラインの認知度が高まってきているということもあろうかと思いますけれども、件数的には増える傾向にございます。合計として2万5,000件ほどございまして、その他という区分のものが一番多いのですけれども、その中には金銭トラブルですとか、相隣間、近所の方とのトラブルですとか、それから労働関係の相談といったものが多いと聞いてございます。それから、こちらは実はいわゆるDVという区分を設けていないのですけれども、一番上の暴行・虐待ですとか、その他の中にもいわゆるDVに関する相談といったものが件数的には含まれていると聞いてございます。
 1枚おめくりいただきまして2枚目でございますが、こちらは女性を被害者と人権相談件数の内訳の御紹介になっています。全部で1万4,000件ほどあるのですけれども、件数的に非常に多いのは、表でいきますと、総数の右隣にあります暴行・虐待で夫の妻に対するもの、いわゆるDVでございますが、こちらが6,000件弱ということで半数近くを占めているという状況でございます。それから、右側の方に一番上の箱で強制・強要という区分がございまして3種類に分けてありますが、家族間におけるものの夫の妻に対するもの、右からいきますと3つ目でございますが、こちらの件数も5,000件以上ということで、いわゆるDV関係の数値がやはり多いという特徴が見られます。それから右側の2つ、セクハラですとか、ストーカーといった区分もそれぞれ1,000件台ということで、結構な件数が出ております。
 また、こういった人権相談に回ったものから、人権侵犯事件というふうにカウントされるものも一部出てくるわけでございますが、そういう意味で若干ダブルカウントになっているものもあるのですけれども、3枚目にお移りいただきまして、人権侵犯事件数というものが、こちらは総数で5,000件弱。やはり内訳として多いのが、総数の右隣の箱でございますが、暴行・虐待の夫の妻に対するもの、DVの件数が3,000件数弱。それから、右から3番目の箱、強制・強要のやはり夫の妻に対するものが1,000件以上あるということで、件数的には多くなっています。また、セクハラですとか、ストーカーといったものもそれなりの件数があるという傾向が見られます。
 恐縮ですが、もう一度資料1-4にお戻りいただけますでしょうか。今、1の(1)の数字の内訳を御紹介いたしました。1の(2)都道府県・政令指定都市における人権侵害相談等件数の内訳ということでございますが、平成18年度の件数の中で一番多いのは、左から2つ目の箱でございますが、配偶者からの暴力が6万7,000件強ということで圧倒的に多いという結果になっております。
 それから2でございますが、こちらも都道府県・政令指定都市の人権侵害に関する体制の整備状況を把握してございます。今年の4月1日現在で、やはり地方公共団体の体制の整備というのは義務づけではないんですけれども、法律の精神にのっとりまして体制の整備を敷いていただいているという状況になっております。
 まず、(1)で体制等の種類でございますが、都道府県・政令指定都市64の自治体すべてで何らかの体制等を整備していただいているという状況になってございます。主な体制の種類としましては、男女共同参画に関する人権侵害事案の申立制度といったようなものを設けている例。それから、区分としてはとても多いDVでございますが、配偶者暴力相談支援センター、それから女性相談所、人権侵害に関する相談窓口、労働相談といったさまざまな体制で受付をしているという状況でございます。
 それから、(2)の処理体制の類型でございますが、こちらも男女共同参画に限る第三者機関を設けているものも20機関ということで、それなりの数ございますが、一番多いのは庁内で普通に事務処理をしてございますという143機関というところが一番多いです。中には、自治体でオンブズマン、第三者機関も設置しているし、庁内の処理機関も持っているということで、一部重複で計上しているところもございます。
 それから、(3)で地域連絡協議会というふうに書いてございますが、こちらは国・自治体、自治体でも都道府県、市町村のレベル、いろいろな自治体ですとか、それから民間の団体と連携することが重要ではないだろうかということが平成14年の専門調査会の御意見の中でもうたわれておるところでございますが、その御意見を受けまして、国・自治体、民間団体が、ケース・バイ・ケースですけれども、いろいろなところが連携をして情報交換をする場を設けているところがございます。今回の調査で処理機関が163ございますが、そのうち56カ所で設置をされているということでございます。比率としては半数弱ということでございますが、毎年、増える傾向にはあります。
 それから、担当者の方々でございますが、専従でというよりは非常勤でやっている自治体が大半であるということだそうです。
 あとは、処理をする方法でございますが、まずは相談を聞いて、相談に対して応じていくという形が一番多いというふうに聞いてございます。
 資料1-6というものが今の体制状況を個表にしたものでございます。こちらは御関心に応じて後ほど御覧いただければと思います。
 あと、参考資料1と2を、本日、委員限りということで配付させていただいておりますが、冒頭に紹介をしました苦情処理の状況の中身の代表的な例を整理をしたものでございますので、後ほど御覧いただければと思います。
 私からは以上です。
鹿嶋会長
資料1-1にあるように、いわゆる男女共同参画行政に関する苦情、国でいえば総務省行政相談窓口が扱っております。それから、いわゆる人権侵害、これは法務省の方が扱っていますが、数は圧倒的に人権侵害の方が多くて、資料2を見ればおわかりのように、いわゆる行政相談等々の苦情というのはそんなに多くはないんです。17年度から急に増えたのは、国家公務員の短時間勤務の要望等があったからで、これは来年から多分ガタリと落ちるんでしょうね。そうなってくると、苦情処理に関しては数百件台で推移するであろうということであります。人権侵害については、資料1-4を見てもわかるように大変多いわけで、これはここ数年の動きはわからないわけですね。平成18年しか。
栗田調査官
報告を始めたのが去年からということですので、それ以前の数字はすぐには出てこないのですけれども、ただ、法務省の方で一部別途で調査は行っているようですので、必要があればそこを調べて御報告することは可能かと思います。
鹿嶋会長
もしわかれば。
栗田調査官
はい。
鹿嶋会長
やはり配偶者からの暴力が大変多いということになっております。女性の人権ホットラインについては1-5に書いてありますが、これも大分多いんですけれども、ここ数年は横ばいをたどっているというようなことでありますが、これについて皆さんからの御意見とか御質問があれば伺いたいと思います。参考資料の方もなかなかおもしろいですね。私も読んでみたのですが、男女共同参画の視点からの意見とか、いわゆるジェンダーフリー批判とか、そういうようなものも入っております。その意味では、今の各都道府県の政令指定都市も含めた窓口の対応はなかなか難しいのだろうなという感じもいたします。
坂橘木委員
2つありまして、1つは雇用の分野の問題で、例えば昇進とか賃金とか、そういう差別を受けたときは、女性側から見たら、こちらの方に行くのか、労働基準局の方に行くのか、どちらの選択という問題が私はあるように思うんです。そのことを1つお聞きしたいことと、2番目は、セクハラなりDVが非常に多いというけれども、これは男性が男性から暴力被害を受けたときは、こういう話は全くここにはないわけですね。男女共同参画に行かずに、そのまま警察に行くという感じですか。男女の間で起きることだけ男女共同参画の問題として扱う。女性が女性に暴力を振るうというようなことは全く対象外と。どう考えたらいいんですか。ちょっと素人的質問で申しわけございませんが。
栗田調査官
お答えさせていただきます。まず最初の点につきましては、御相談をしたいと思われた方が最初にどちらに行くのかというのは、よくご存じの方に行かれるのかなということで両方の選択肢があり得るのかなと思っております。
 それから、2つ目の関連でございますが、こちらの苦情の中にもあるのですが、例えば配偶者暴力相談支援センターの受付に男性が行ってもなかなか相談に応じてくれないという苦情がこの中に入ってございまして、恐らくそれは、例えば男性から男性、同性同士ということではなくて、奥様が旦那様に対し手が出てしまったというようなものを、相談に乗ってくれないのはいかがかという趣旨の苦情かと思うのですけれども、そういったお申出はあるのですが・・・。
坂橘木委員
ここでは異性間の問題しか扱わないというふうに理解していいのですか。
板東局長
やはりDVの問題などは、その背景といいますか、根底に今までの女性の人権とか地位の問題といったところの非常に深い問題が関わっているのだと思います。そういう意味で男女間の問題、例えば固定的な役割の問題とか、あるいは偏見の問題とか、いろいろ男性が女性を支配するところからなかなか抜けられないとか、そういった問題がその背景として深くあるということで、この問題はやはり男女共同参画という観点から取り上げていくということに非常に意味があるかと思いますけれども、男性間の暴力の問題とか、女性間の暴力の問題とか、そのあたりの話は一般的な暴力、人権の問題ということとして取り上げられていく問題ではないかと思っておりますけれども。
坂橘木委員
では、そういう人が来たときは、うちは関係ありませんから警察に行ってくださいというような感じになるわけですね、当然のことで。
鹿嶋会長
そこはいろいろ議論があって、最初の質問にも絡むのですが、こういう行政相談窓口とか、人権侵害の窓口が単なる振り分け機関になってはいけないという議論があるんです。特に行政相談の窓口は非常に件数も少ないわけですよね。いわゆる都道府県、それから国の男女参画行政に対する苦情というのはなかなか難しいわけです。だから、それについては閑古鳥が鳴いているところがたくさんあって、それについていつも議論しているのは、そういう窓口の担当者自身に問題意識がないとか、単なる振り分け機能で終わっているというようなもので、ここに来たら例えば均等室へ行きなさいとか、そういったものは厚生労働省の窓口へ行きなさいとかというのではだめであって、その担当員自体もある程度のカウンセリングというか、振り分けだけではなくて、何らかの役目を果たせるようなことは必要ではないかという議論もあるわけですよね。だから、そのあたりは非常に悩ましいところで、といって、あらゆる問題についてはそれほど専門性はないわけですから、そこはどうもお客が少ないだけに、特に苦情処理はその辺で振り分けだけでいいのかという問題はありますよね。
坂橘木委員
ありがとうございました。
畠中委員
今の先生の御質問で、ドメスティックバイオレンスの定義はたしかDV法にあったんじゃないですか。そこで男女間に限定しているかどうかというのはわかるんじゃないですか。例えば、息子が父親に暴力を振るうとか、父親が息子に暴力を振るうというのはドメスティックバイオレンスになるんじゃないかと思うのですけれども。
鹿嶋会長
でも、夫婦間と事実婚だから、親子間の暴力はDV法には入らないんじゃないですか。
畠中委員
入らないんですか。
板東局長
配偶者暴力ですね。
鹿嶋会長
配偶者間ですから。
畠中委員
失礼しました。
板東局長
それから、先ほどの橘木先生の御質問の関係で言えば、例えばこれが児童虐待とか、高齢者虐待とか、いろいろな意味でほかの観点から取り上げられているテーマというのはあるかと思いますし、それから、一般的に人権相談という中にはいろいろなものが入ってきていると思います。ここで特にDVの関係などは特別に取り上げさせていただいているのは、先ほど申し上げましたような典型的に長い間抱えてきているいろいろな男女間の問題というものがやはり凝縮されている課題の1つなので、特別に取り上げているということだと思いますし、そういうところに行政とか相談窓口が手を差し伸べないと、なかなか表に出てきにくいテーマということだと思います。
鹿嶋会長
ほかに御意見があれば。どうでしょうか。
 この申出の内容を見ていると、これは大変ですよね。あらゆる分野にわたっていますので、ここで対応していくというのは大変だなと私もこれをながめていて思ったのですけれども。苦情処理機能というのは、男女共同参画社会の形成の実効性を担保する意味では非常に大事な機能ですので、これがぜひ有効活用されるといいと私は思っているのですが。
山口委員
もともと議論がありましたように、行政相談員に相談するということはやはりまだ十分に、行政相談員そのものが研修を受けていても十分理解していないし、また、持っていく方もそこへ持っていく気はない。むしろ民生委員とか、警察とか、女性センターとか、そういう方へ行きますよね。でも、本当に女性に対する暴力を訴える人たちが増えてきたことは確かですよね。今まで水面下にあったものが。ですから、これは必要とされている機関ですから、もっと有効に、なくすように対策をとらなければならないと思いますね。これは、DVといっても、ここでやるのは女性に対する暴力なんですよね。
鹿嶋会長
行政相談員も含めて、多少名誉職的にやっているような人が皆無というわけではないと思います。その人たちが男女共同参画社会の理念みたいなものを必ずしも十分理解している人だけではないので。ですから、むしろそういうところに相談すると、逆に2次被害、3次被害を受けるなどというケースもあるわけですよね。これは今、教育はどうなっているんでしょう。きちんとやっているんですか。
栗田調査官
専門調査会でも御議論いただきまして、毎年、行政相談委員の方、それから人権擁護委員の方も含めまして、都道府県・政令指定都市の男女共同参画担当の職員と一緒に苦情処理に関する研修会を開催しております。今年の場合は10月30日、31日ということで1泊2日のコースで予定をしておりますので、そういった機会も含めまして、苦情処理に関する御理解、それから連携のあり方などについても皆さんで御議論いただければと思っています。
鹿嶋会長
ほかに御意見、御質問ございますか。それでは、このぐらいにしておきますが、どうもありがとうございました。
 続きまして、有識者ヒアリングのお2人目として、経済面の自立支援について、お茶大の永瀬先生、どうぞよろしくお願いします。
永瀬教授
お茶の水女子大学の永瀬と申します。本日は、お招きいただきましてありがとうございます。
 今日は、かなり幅広いテーマをいただきましたが、年金に比較的関心を持ってまいりましたので、年金を中心にお話をさせていただきたいと思っております。高齢者の経済状況ですけれども、健康や仕事、家族の援助といった「自助」部分、地域や友人からの援助という「共助」部分、それから社会保障など「公助」部分が大事と思いますけれども、本日は「共助」という部分は除きまして、高齢期と家族、年金について主にお話をさせていただきたいと思います。
 まず、家族の状況ですけれども、お茶の水女子大学で「21世紀COEプログラム ジェンダー研究のフロンティア」というプロジェクトで現在北京とソウルの家族と仕事の調査をしているのですけれども、親孝行規範、あるいは親との同居規範は、欧米にはあまりないものですが、東アジアには共通性があり、北京、ソウル、日本の順に高い。親同居も、ソウルはそれほど高くないのですけれども、この順に高い状況が見られます。年金の充実と親孝行規範とは、日本はかなり関連しているのではないかと思う。例えば1983年のデータを使って年金の調査分析をしたことがありますけれども、このころは65歳以上の女性の4割強が3世代同居で暮しておりました。この図は『国民生活基礎調査』から見たものですが、2006年になりますと、3世代世帯は21%に減少しておりまして、逆に単身世帯が13%だったものが22%になっています。一番増えているのが夫婦2人という暮らし方でありまして、18%から30%になっております。平成18年現在で見ますと、意外と高いと私自身思いましたが、65歳以上がいる世帯は全世帯の約4割。そして、うち単独世帯は高齢者のいる世帯の2割強で410万世帯。うちわけは女性の単独が300万、男性の単独が100万ということで3対1の割合。そして、夫婦2人世帯が540万世帯で、高齢者のいる世帯の3割という状況です。年金が少ない頃は、親孝行規範が重要だった。公的年金や他の社会保障が充実するとともに、親孝行がさほど重要でもなくなってきている。
 80歳以上の高齢者は誰と住んでいるのか。後期高齢者の中でも、特に身体の調子も悪くなってくる80歳以上の高齢者がどこに住まうかというところを見ますと、まず世帯主で見ますと、この図の一番下の青いところですけれども、単独世帯に女性が80万人、男性が20万人、それから夫婦のみ世帯に70万人います。それから、子どもに引き取られているという点で見ると、世帯主階級の図ではわからないのですけれども、大体単独世帯の2倍ぐらいの80歳以上の高齢者が子どもと同居しているのではないかと考えられます。その根拠というのは、19994年の『全国消費実態調査』の特別集計したデータからです。詳細に見てみますと、75~84歳階級というのが図のここなんですけれども、単身の女性、単身の男性、それから夫婦世帯です。夫婦2人暮らしは、65~69歳階層ですとかなり高いんですけれども、だんだん年齢が上がるに従って減少していきまして、75~84歳層になりますと、かわりに増えてくるのは子と子の配偶者と高齢の母という、お母さんが1人になって子ども夫婦と同居しているというようなパターンです。また子と父母という、高齢者がいて、かつ未婚の子どもと一緒に住んでいる世帯というのは65~69歳層は比較的いるのですけれども、年齢上昇とともに減少していきます。そして女性単身、男性単身は余り数は変わらず、夫婦2人で暮していたという世帯が年齢上昇とともに減少していき、代わりに、子どもに引き取られる世帯というのが増えていく。ここで疑問となるのは、子どもに引き取られる世帯がこれからも増えていくのか。それとも、少し年齢が高い世帯というのは、もともと親と同居するような規範が高くてそうなっているのか。つまりお母さんが1人になったときに子どもが引き取る慣行が今後もあるのか、それとも世代間の差によってそういった状況が見られるのかという点。この将来の方向は余り明らかではないのですけれども、現在では、80歳以上を見ますと、子どもと同居する単身母、1人になったお母さんというのが比較的多いのを見ることができます。
 次に、公的年金の受給状況ですけれども、公的年金の受給状況というのが実は公表統計ではなかなかわかりません。ずいぶん調べたことがあるのですけれども、社会保険庁の『事業年報』では、個人に名寄せしたものはわかりませんし、夫婦ベースでの給付額合計はもちろんわかりません。また、『国民生活基礎調査』では、平成16年度にかなり詳しい集計が出されているのですけれども、それでも、夫婦の中での夫と妻の年金給付分布は集計されていません。そういうことで、特別集計をかけてみないとなかなかわからないので、それをやってみた結果とをここで御報告申し上げます。
 まず、この図というのはとてもよく知られている公表統計の図ですけれども、65歳以上の方が世帯主の世帯の所得で見ると、公的年金が平均で212万円。それから、働いている所得が平均で55万円。財産所得が平均で16万円。それから、この17.2というのが何か今すぐにはわからなくなってしまいましたけれども、多分その他ではないかというふうに思いますが、このような形になっております。この集計には、子どもに引き取られている高齢者は入っておりません。高齢者が世帯主の世帯のみを示したものと思ってください。
 次に、これが特別集計によって世帯類型別に見た公的年金の給付状況です。一番年金給付が高いのは、-先ほど夫婦2人暮らしというのが一番増えているというふうに申しましたけれども、逆に言えば年金が高いので夫婦2人でいられるという面があるのかもしれません、それで親孝行規範とかかわると言ったのですが-、平均で大体年間の公的年金受給が300万円になっております。それから、単身女性は大体平均で見ますと年間の公的年金受給が150万円。これは、後から分布をお見せしますが、低い方もいらっしゃいますけれども、平均ですとそのぐらい。そして、高齢単身男性は給与が女性よりも少し高いことを反映しているからかと思いますけれども、(あるいは単身女性の場合遺族年金も多いですが)、女性単身よりはやや年金が高い200万円弱。ただ、高齢単身男性は女性以上に年金分布の幅は高いから低いまで大きいと言えます。それから、一番左側が未婚の子どもと同居している高齢夫婦で、平均で大体250万円ぐらい。そして、子どもが世帯主で、子と同居している父母ですが、その年金水準はかなり低い。例えば子と高齢母ですと年金水準が平均で100万円。あるいは、子ども夫婦と高齢父母ですと、夫婦合計で年金給付水準が平均で150万円ぐらい。また一番低いのが子ども夫婦と同居している高齢の母ですけれども、平均で60万円ぐらい。それから、子ども夫婦と同居している高齢の父が平均で100万円ぐらい。そんなふうな分布となっております。
 これは、夫婦間で年金の分布がどういうふうになっているかというものを、高齢の2人暮らしの夫婦だけで取り上げたものです。家族類型を思い出していただくと、公的年金が一番高くて、経済的に一番恵まれている、高齢者が世帯主の夫婦世帯であります。65~69歳層で、妻がいるという世帯について集計したものです。図を説明すると、ここがゼロ、右の方にいきますと、夫の年金階級になっていって、一番高い年金階級が350万円以上です。これは公的年金のみを見たものです。それから、左側をゼロとして右にいくと妻の年金が高くなる図で、一番高い階級が350万円以上となっております。これで見ますと、まず女性の年金ですけれども、50~100万未満という階級に一番集中していて、そのほか高い階級としては250万以上300万未満とか、あるいはもう少し高い方にも少し人口がいますけれども、何といっても女性はワンピーク型で、この50~100万未満という階級が一番度数が高くなっております。今度は男性の方ですけれども、男性の方は、50~100万未満という階級と、それから350万以上というこの2つの階級が大きなピークとなっております。この350万以上という階級は、サラリーマンで、そしてちょうどこの世代というのは経済成長期にずっと働いていて、そして就業期間も比較的長い人たちです。今日のモデル年金ですが、男性だけで言いますと年金給付が280万くらい、うち妻分の基礎年金が78万とすると、夫のみの年金給付分は210万ぐらいなのです。それに対して、1999年時点の高齢夫婦2人暮らし世帯はかなり高い年金水準を得ているということがわかると思います。
 こちらの低い方のピークの男性は、多分、第1号だった人。基礎年金だけの人。自営業だった方期間が長い人たちということで、男性も50~100万未満の階級、つまり基礎年というところですね。そして、妻も50~100万未満という基礎年金だけというふうになっております。
 これは、では全体で見てどうなっているかというのを世帯別にみましょう。最初に見たのは夫と妻それぞれ別に見た図ですけれども、今度は夫と妻の合計の年金分布を世帯類型別に見た図となっております。図は一番左側がゼロという方で、右にいきますと年金が上がっていくという形になっています。これをいると年金ゼロというような世帯に住んでいる65歳以上の高齢者というのは決して少なくはないことがわかります。一番左側の高い棒グラフがそれを示しており、一番高い度数を示すのは、子どもと同居している高齢母でございます。続いて高いのが子と子の配偶者と同居している高齢者父母です。つまり高齢母だけが、あるいは高齢父母で、子ども夫婦と同居しているという方たちの中に、年金ゼロという方たちが少なからずいらっしゃいます。また、女性よりも男性単身の方が厳しい部分もあると言ったのは、-男性単身は全体に少ないのですけれども-、相対的に見ますと、実は年金ゼロという男性単身もこの薄いブルーですけれどもいます。それから、この青が高齢単身女性で年金ゼロ。それから、やや薄めのブルーが夫婦2人世帯で年金ゼロという世帯を示しています。
 もう1つ、非常に目立つのが、今度は年金が350万円以上という非常に高い年金を得ている世帯です。これが子と非同居の高齢者、要するに高齢者2人暮らしという方たちです。その方たちの中では、350万以上の年金を得ている方たちの割合が大変高くなっている。現在のモデル年金が280万としますと、モデル年金よりはるかに高い年金をかなり多くの方たちが得ているということを示しています。実は、このような集計というのはなかなかなくて、余り知られていないのではないかというふうに思います。
 次に世帯主の配偶者、つまり女性の年金受給の分布がどう変化したかというものです。これもなかなか個人ベースに共済や厚生年金や、基礎年金、国民年金等を積み上げたものというのはなかなかないものですから、特別集計しないとなかなか出てこないと思うのですが、これで見ますと、例えば70歳以上のところを見ていただきますと、年金ゼロというのが平成6年の『全国消費実態調査』では29%、それが平成11年では21%に減少しております。65~69歳層でも、平成6年では年金ゼロが24%、それが平成11年で19%に減少しています。これは、1986年以降、第3号被保険者制度ができまして、1985年当時に、というと今から大体20年前ですけれども、65~69歳層の方たちで見ると、このデータはちょっと古いので約15年前というふうにして見ますと、その方は当時大体50歳ぐらいですから、第3号の期間ができたといっても、せいぜい10年ぐらいかもしれませんが、しかし、それでもそういった方たちが第3号期間ができたので公的年金がゼロという方が減少したということを示しています。
 では、女性が働くようになって年金がかなり増えたのかという点ですけれども、それは、例えば第3号といいますと大体40~80万ぐらいの階級。それから、3号プラス少し働いていた期間を持つというと80~120万ぐらいの階級ですけれども、増えたかというのを見ますと、第3号プラスちょっと働いていたという80~120万ぐらいについては、65~69歳層を見ますと、割合が12%から25%に増えておりますので、自分自身の働いていた年金を持つ女性というのが若干増えていることが示されています。ただ、それよりも高い年金給付を受けているかどうか。例えば男性で言いますと、先ほど350万以上の方もそれなりの数いたということが見られましたけれども、女性で見るとどうかというのを見ますと、200万以上で見ても、それほど増えている様子はありませんので、まだ基礎年金プラス厚生年金を一部持つような人たちがだんだん増えてきているという程度というふうに解釈することができます。
 ここからが有業率で、高齢者の就業状況ですけれども、この辺はここにいらっしゃる委員の橘木先生等がよくご存じだと思いますけれども、年齢別に見ますと、日本の高齢者は大変就業率が高く、60代前半あるいは後半でも、諸外国に比べて男性も高いですし、実は女性で見ても、男性よりは低いものの、ほかの国と比べると高い方に入るのですが、しかし、これは『国民生活基礎調査』から65歳以上の有業率を集計したものです。すると年齢の高い高齢者もたくさんいらっしゃるものですから、全体で見ると、日本の高齢者は労働力率が高い、とはいってもやはり無業の割合がかなり高いのだなとわかります。男性ですと、いろいろな世帯類型を見ても、大体7~8割ぐらいが無業。そして、女性は9割ぐらいが無業ということです。その中で有業者というのはどういう方かというと、もちろん60代前半だけなどと年齢を限れば違うとは思いますけれども、全体で見ますと、やはり自営業及び家族従業の方たちが高齢期になっても仕事を持ち続けている。雇用者については、高齢者全体で見ると、仕事を続けていられるという方はそれほど多くはないということを読み取ることができます。
 次に、貯蓄の状況を、これも『国民生活基礎調査』で計算して集計してみたものですけれども、貯蓄がない方たちというのは、総数で見ますと大体1割に満たないぐらい。貯蓄が300万未満という方たちを合わせましても3割ぐらいでしょうか。一方で、貯蓄が1,000万円以上という方たちを見ますと、半数ぐらいになっております。ただし、高齢者の女性単身というところで見ますと、貯蓄がないというところが年齢が上がるに従って2割近くになっているということも見ることができます。
 また、健康状態というのも大変重要な資産だと思いますけれども、年齢が高くなるに従って健康状態は85歳以上では35%の男女がよくない、あるいは余りよくないというふうに回答しているといったような状況です。
 ここまでの総括ですけれども、現在の高齢者の生活水準は、こうして見てまいりますと、日本は年金ゼロという人が少なからず実はいるということが1つあります。けれども、でも、全般的にはそう悪くはないと言えるのではないかというふうに思います。特に高齢者2人で独立できている世帯を見ますと、現在のサラリーマンの夫婦のモデル年金を大きく超える額を受けている世帯が3分の2を占めております。一方で年金ゼロも少数とは言えないのですが、しかし、その多くは子同居という形で実は生活水準が保たれております。家族からの支援をこうして含めてみますと、現在の高齢者の生活水準はそう悪くはない。その結果として世界一の長寿が達成できているのではないかというふうに考えられるのではないかと思います。そして、遺族年金によってサラリーマンの妻の年金水準は一定程度に保たれております。しかし、ここでは生涯独身なのか、遺族年金で年金水準を得ているのかというのはデータで区別できないのです。しかし生涯独身の女性で、働き続けた女性については年金水準が不十分な場合が少なくないのではないかと思います。これがここまでの現在の高齢者ですけれども、これからは実は大きく変わっていくのではないかというふうに考えられますので、これから、将来のことを少しお話ししたいと思います。
 それから、高齢男女の経済状態を規定するものは何かということについて少し話してほしいという事務局からのお話がありましたのでちょっと考えてみましたけれども、1つは、現役時代の働き方に依存する賃金格差の状況。男女間でもそうですし、男性間あるいは女性間でもそうですけれども、現役時代にどれだけの賃金を得られていたかがあります。それから、女性の場合、離職している期間が長いのですが、その離職期間の長さ。それから、年金で言えば、非正規就業者や自営業者の場合、年金が報酬比例部分がつきませんので、そこでの就業期間というのが高齢期の、貯金の状況もですけれども、公的年金水準を規定する。それから、現在の公的年金受給ルールの中で経済状態をかなり規定するものとしてどんなものがあるかというのを考えてみますと、まずは最低加入期間が日本は25年とかなり長いので、それより短い方は無年金になってしまうということがある。ほかの国はもっと短いので、無年金というのが5年か10年でも納めると無年金にならない場合が多いわけですけれども、25年ルールがあるので、無年金というのが出てきてしまう。それから、給付乗率ですけれども、若い年齢層ほど報酬比例部分が低下しているということがあります。今見てきたグラフの中では、余り若い方が含まれていなかったので、本格的に年金水準が落ちていくのは、現在60歳ぐらいの方たちからですので、若い層ほど報酬比例部分が低下しているということがあります。
 それから、再分配のあり方ですけれども、配偶者に対しては第3号という形で考慮があるのですけれども、第1号同士の中で見ると、低賃金、高賃金に対しての再分配がなくて、それから単身の人の場合には、もともと第3号部分がないだけに再分配が減るということがあります。
 それから、低所得者に対する考慮ですけれども、サラリーマン世帯の中では再分配がされているわけですが、非正規就業者については、雇用者のシステムの中に入れていないので、雇用者の中での助け合い、「連帯」に入れていないということがあります。
 仕事についてですけれども、高齢期で仕事の継続が高いのは自営業です。サラリーマンの年金水準が充実してきたということも1つあるんだろうと思いますけれども、無業者の割合がかなり高いと見ることができます。それから、家族からの支援を受けられているかどうかというのがいろいろな意味で高齢者の生活水準を規定する部分も大きいと思います。こうした基礎にプラスして私的な準備としての貯蓄や持家、私的年金などがあると思います。
 また、男女で比較しますと、女性の年金は男性よりも大幅に低いのですけれども、それは基礎年金だけもらっているという人が多数であるということ。背景には、就業年数が男性に比べてはるかに短い。また、賃金がはるかに低いということがあると思われます。その結果、女性が自分自身の就業、あるいは社会保険料納付を通じて得ている年金は少ないのです。しかし、サラリーマンの妻については、遺族年金を通じて比較的拡充されている。しかし、生涯独身女性の場合は、短い就業年数や低い賃金がそのまま反映されまして、年金水準が比較的低いということがあるのではないかと思われます。
 ただし、遺族年金の共働き世帯への不公平という課題は依然として残っております。遺族年金における専業主婦優遇はよく知られている点でございます。これは、夫が月給40万円、妻が月給ゼロの世帯と、夫も妻も月給20万の世帯とでは、夫婦が生きている間は公的年金額は同じである。しかし、一方が死亡した場合は、報酬比例部分は遺族年金の設計のあり方から専業主婦世帯の方がこのケースだと1.5倍高くなる、そういうことがございます。この点で不公平があるということは、年金学者の中で不一致はなくて、どの学者も負担と給付に不公平があるということはほぼ認められているのですけれども、前回の改正でも修正されていない点です。ちなみに、ここにいらっしゃる袖井先生が座長だった通称「女性と年金検討会」では、夫婦合計の5分の3を遺族年金と、改正したらどうかという案が出ました。
 現在の年金受給者については、高齢単身女性の年金は2タイプに分かれていますけれども、現在の集計の中では、この方が生涯独身なのか、それとも遺族年金なのかよくわかりません。よくわかりませんが、設計から考えてみると、生涯独身の方の年金はかなり低い人もいるのではないかというふうに思われます。
 今後の課題につきましては、別の補足資料という方をご覧ください。これは財団法人シニアプラン開発機構が、40~50代を中心とした第2回独身女性の老後生活設計ニーズに関する調査を平成18年6月に実施したものです。この調査はインターネット調査で、40~59歳で、有効回収1,000サンプルほどの調査ですけれども、生涯独身だけに限った調査というのは比較的珍しいので、また私もそこの研究会に参加させていただいたので、ここで引用させていただきます。
 まず、40~50代の方の生涯独身の女性の方の従業上の地位ですけれども、図表3-2-3で見るように、正社員は大体半数ぐらい、そして50代になるともっと少なくなり、50代後半になると3割ぐらいが正社員で、残りは非正規社員となります。特に40代になると、図の白い部分、1割ぐらいの派遣社員というのが出ていまして、生涯独身の女性がずっと正規社員として仕事を続けているわけではないことが示されます。つまり、報酬比例部分を持っていないという人が半分ぐらいいるということを示しています。
 次に、就業状況ですけれども、さらに50代になりますと、図表3-2-1にありますように、無業という方がかなり増えております。無業が特に50代後半は5人に1人ですけれども、なぜ無業になったかというのを見ますと、主な理由は会社の倒産ですとか整理解雇、あるいは自分自身の体調不良ということであって、生涯独身でも2割ぐらいが無業になっているということが挙げられます。
 次のぺージですが、私はこれがちょっとおもしろい傾向だなと思ったのですけれども、現在50代の生涯独身女性というのは、そのころまだ生涯独身というのはそれほど一般的ではありませんでしたので、かなり自分の将来を考えながら生涯独身を続けていたのかもしれないと思われます。というのは、初職継続の人の割合は3人に1人程度と40代と余り変わらないのですが、でも、10年以上同じ企業に勤務したという人の割合も高いですし、それから、転職したけれども概ね同じ領域の仕事にいったとかで、これらを合わせますと比較的安定した働き方をしている。一方、40代の生涯独身女性の方が勤務先が変わるごとに異なる仕事に変わっています。これは今現在の40代ぐらいの方から、意図せざる生涯独身が増えてきたからではないかと思うんです。意図せざるという言い方は変かもしれませんけれども、自分で必ず生涯独身として生きていこうと強く決めたというわけではなくて、結果的に40代になって独身であったという人の割合が現在は増えています。そして将来的にはさらに増える可能性が高いのではないかというふうに思われます。
 そうしますと、そういう方は、生涯独身を予定して、キャリアを強く意識し計画して、キャリア形成しているというよりは、次の図表6で見てもおわかりになりますように、初職も比較的早く辞めて転職等している。あるいは、50代の方の4割が25年より長期の勤続であるのに対して、勤続も短く、かなり違う印象です。離転職者で見ますと、離転職者のパターンとして、やはり40代は勤務先が変わるごとに異なる仕事についています。これはちょうどこのころ労働市場が変化し、非正規社員という働き方が増えてきて、自分の意図とは別に、仕事を探そうと思うとどうもいろいろな仕事になってしまったということもあるのではないかと思われます。
 では、そういう方たちはどうやって暮しているかというのが次のぺージですけれども、先に下の図表8というのを見ていただきますと、昨年の年収でゼロという方が50代の方は少なくありません。そして、40歳代の方を含めて見ましても、大体300万までという方が大変多うございます。そして、その上を見ますと、現在の居住形態として、若い40代の方ほど親の家に同居しているという方たちが多い。つまり、それほど年収は高くないけれども、親同居で生活を賄っている方たちが多い。
 ちなみに、この方達の幸福度の調査もしていますけれども、決して暗く過ごしているというわけではありません。ハッピーに過ごしている様子がうかがわれます。しかし、経済的な将来的な漠然とした不安感が高くあるとも回答されており、それはこれからのお話を聞いていただけば、かなり裏づけのある不安なのではないかと思います。
 まず、生涯シングルの経済自立のことを先にお話しします。生涯シングル女性の低賃金の問題は、本人だけの問題ではありません。当然女性が結婚するだろうというような設計のもとで経済慣行、雇用慣行がつくられてきたことが大きいです。そういった雇用慣行があったが、本人は結婚せず、稼ぎ続けることになった。しかし仕事が男性と比べてキリャアが深くなかったり、あるいは仕事が行き止まりのような補助的な仕事であったり、そういったような事情で低賃金になっていることの問題が大きいと思います。特に年齢が上がるほど独身女性は非正規になる人が多いのですが、非正規ではなかなか報酬比例年金に入れません。また、正規就業を継続できたとしても、(この調査では示しませんでしたが、ほかの調査から、特に均等法ができた後のデータについてさえも)、男女で昇進の可能性が全然違うと本人達が自分で意識している。そして現実に男女賃金格差は大変大きい。また、配偶者手当がないということが、給与や賞与、さらには公的年金にさえ反映されますし、また、公的年金では第3号部分がない。このため単身女性は、たとえ正社員を続けていたとしても、幾重にも年金水準は家族のいる男性よりも低いものになっている。
 こういう低年金者は、子どもの扶養によって老後を送る人が多かったのですけれども、子どもがいない男女が増加している。その結果、現在40代の男女の高齢期は、たとえ公的年金が低年金だとしても、家族によってカバーされにくくなり、これが大きい問題になるだろう。
 男性は、よくご存じのとおり、女性以上に生涯独身が今大きく増えております。生涯独身者は、日本の慣行として、親同居が比較的多いのです。女性は親同居により親の経済に半ば頼っている方が少なからずいる。それが親の死亡によって親からの援助がなくなる。また男性については、単身高齢男性は現在は少ないですけれども、将来は生涯独身の男性が単身世帯となって現れてくるだろう。そのときにどういうことが起こるのかなということはこれから考えていくべきことなのではないかというふうに思います。
 次に夫婦世帯に目を転じましょう。夫婦世帯についても不安定雇用が大変増加しておりますので、今までのように老後350万円以上の公的年金をもらえるというような状況ではなくなっていく。
 また母子世帯が増えておりまして、この方たちも女性独特の雇用問題を抱えております。 また子どもを生んだ直後は、日本では、15%しか常用雇用の就業継続をしていないというのが21世紀出生児縦断調査で示されています。妻が無業となる中でフリーターの妻、あるいは非正規社員の妻は、第3号の権利もなく、社会的な連帯としての老後の年金のカバレッジというのは何も受けられていないということも、大きい問題なのではないかというふうに思われます。
 時間がなくなってきたので少し急ぎますけれども、今後の年金のあり方のためにということで、現在、45歳の平均的夫婦及びシングル女性に予想される年金額を計算したものを次のスライドに載せました。これは社会保険庁の簡易計算というのに基づいて行っております。
 まず、男性の45歳の方の平均賃金は30万と想定して計算いたしました。年金制度の変更により65歳までは報酬比例部分も来なくなりますのでゼロです。そして、65歳からくる年金は181万です。これに第3号被保険者の妻の分があるという(5)ケースを加えていただいた、夫婦の合計260万というのが65歳以降の、現在45歳で平均賃金を得ている専業主婦世帯がこの後も夫が30万という平均賃金を得ていったとすれば得られるであろう公的年金水準です。これは、先ほど見ました高齢夫婦世帯の年金水準に比べるとかなり低いものとなっています。これは、乗率を下げたり等、年金の給付年齢を引き上げたりと、年金給付水準の低下にむけて努力をしてきたところが、今後老後を迎える人たちにあらわれてくるというところを示しております。
 では、妻が働いていた場合はどうかというのが1、2、3、4でございますけれども、1は平均給与21万で35年間就業し、5年間だけ第3号被保険者で残りの期間はすべて就業していたというケースですけれども、そうしますと、女性の場合は、まだこの世代ですと63~64歳に部分年金をもらえますので、これが65万円きます。それで、65歳から145万円となりまして、夫婦合計で326万と、現在の高齢者の中の恵まれた層に近い公的年金水準を、共働き世帯でようやく得られるようになります。
 次に、15年間妻が第3号被保険者で、25年間女性の平均給与を得るというケースですと、同じように見ていっていただいて307万円。それから、25年間第3号被保険者で15年間を平均給与というケースで見ますと288万円。
 次に、妻が25年間第3号被保険者で、その後15年間は働いてはいるけれども、平均給与より低い15万円。これは大体パートでフルタイムでとりあえず一生懸命働くとこの程度の給与なので、多くの女性の典型的なケースと言えそうですけれども、そうするとどうかというと279万円というふうになっています。
 今度は遺族年金ですけれども、現在の制度のもとで見ますと、女性は、たとえかなり働いて自分で社会保険料を払ってきたとしても、実は第3号被保険者を続けた場合の妻と比べて2から4までのケースでは、夫の死後の年金水準はまるで変わらないのです。また1の35年間も平均給与で働いていた女性についても、年金水準は6万円しか高くない。そういう意味では、遺族年金という点で、有配偶女性が働いてきたという実績はほとんど評価されていない公的年金制度になっていることが明らかです。
 これを、先ほど「女性と年金検討会」で話し合われたという、遺族年金が「夫婦合計の5分の3」という新提案で計算すると、一番右の欄になりまして、1のケースは180万円ぐらいとなり、第3号被保険者という自分で社会保険料を負担しない場合よりも、夫の死語の年金は40万円高くなるので良さそうに見えます。けれども、問題としては、第3号被保険者を続けていた人の遺族年金が下がってしまうことがある。それから、先ほどパートで典型的といった15年間を月の給与15万円で就業した方たちについても、年金が4万円下がってしまうという問題があります。
 要するに、女性の賃金が男性に近づき、かつ就業年数が上がるにつれて、夫婦双方が働いて年金を得ることによって老後の経済水準が達成されるようになっていく、そういう方向に向かっていくのが望ましい。しかしながら、まだ今のところ女性の賃金は男性よりもかなり低い、かつ就業年数が短いということがあるために、有配偶女性が社会保険料を納めたに足りるだけの年金にはなかなかならないということを示していると思われます。
 ここで、まとめとして上に3つ書いてありますけれども、今後は現在の高齢者より公的年金水準は下がります。こんなに下がると、私自身、計算するまでは、実感していなかったのですけれども、このように明らかに大きく下がります。そこでこのために妻が報酬比例年金を持っているということが夫婦の老後に非常に重要になってきます。
 ところが、遺族年金について、妻の側から見ますと、このケースで見ますように、現行のように「夫の4分の3」でありますと、結局、多くの女性が自分自身のかけてきた年金を放棄するような形になっていますので、夫が死亡後の年金水準としても、女性が働く履歴を持つことで遺族年金を含めた給付が上がるという形に変えていかないと、相変わらず3号被保険者にとどまるような就業抑制的な側面が残る。
 現在は人口が縮小しているので、労働政策としても女性の就業を奨励しようとしていますけれども、ここのところは年金面からも変えていかなくてはならないのではないかというふうに思われる点です。
 次に、シングル女性ですけれども、今と同じものですが、1から4でございます。そうすると、これが夫婦合計ではなくて本人だけになりますので、年金水準が大変低い。先ほど50代になってすでに無職の人がかなり増えたということを示していますけれども、平均給与で35年働いていたとしても-これはかなりしっかり働いている女性ということですが-63~64歳に年間65万円の年金。そして、65歳から年間145万円の年金です。先ほど非正規になる人が非常に多いことを示しましたけれども、そういった4のケースで見ますと、63~64歳に年間19万円で、65歳からは年間98万円。あるいは3のケースで63~64歳に年間28万円で65歳以降も年間107万円と、明らかに貧困に陥るだろうということが予見されるような状況になっております。
 最近の公的年金ルールの変化ですけれども、評価について簡単に書かせていただきました。離婚分割ですが、現在、高齢の女性というのは、基礎年金も満額でない方が多いのです。ですから、離婚分割が可能になることによって生活条件が緩和されると考えられます。次に、第3号期間について、夫の年金の2分の1を分割するという案が出ていますので、これは第3号被保険者についての年金権の改善となっております。このように、専業主婦の年金権が改善された一方で、単身女性が雇用を通じて一定の年金権を得るという道筋は、非正規化が進展して、非正規が報酬比例年金から除外されているために依然としてきわめて薄いです。また、共働き夫婦の年金権も、パート女性に焦点を当てますと、遺族年金法制が改正されていないという点で改善されておりません。また、非正規雇用者の多くが報酬比例年金から除外されており、ここには再分配はございません。現在、フリーター夫婦が増えておりますけれども、ここでは育児休業法によってもほとんど守られておりませんし、育児による女性の就業中断が当然見られます。そしてフリーターの妻は第3号という形の保護には入れていない点が問題であります。
 その結果、若い層ほど年金の報酬比例部分が下がり、拠出が上昇する反面、反対に給付は下がっております。老後の年金水準の確保のために妻も自身の報酬比例部分を持つことが必要になってきますが、にもかかわらず、第3号被保険者制度が、女性の低賃金と就業を奨励する側面、つまり社会保険に自分では加入しない金額だけを稼ぐことを奨励するような側面はまだ強く残って、改善されてはおりません。年金制度を大きく改革することもあるでしょうが、その方向ではなく、まず現行の年金制度を前提とすることを考えます。すると、共働き世帯の遺族年金を夫婦合計の5分の3とすることを取っかかりとして、第3号制度の低賃金就業奨励的側面を緩和すべきではないだろうか。また、フリーターや自営業の妻に対する育児期間への考慮という方向への変化、子どもが一定年齢に達するまでは、低所得者に対しても平均賃金で税金を使った年金権の付与という社会連帯が必要なのではないでしょう。このような政策は現行年金制度上での調整として考えられます。もちろん、もっと大きな大改革ということが俎板上にのぼればまた別でしょうけれども、とりあえず、この変更は現行制度の中で実行可能なことではないかというふうに考えております。
 以上ですけれども、これからはずいぶん厳しい時代がやってくるのだなということです。逆に言うと、今でも年金というのは、私、市民講座などに行って、「皆さん、年金を幾らぐらい欲しいですか」と言うと、大体「20万円以上!」などと回答する方が多いのです。そして年金受給者は、今でも年金が多いとは皆さん思っていないようですけれども、今後はもっと少なくなっていきます。そこで、夫婦それぞれが年金権を持つということが重要になってきます。第3号被保険者という制度は私は余り好きではないのですけれども、でも、女性の年金権を平均的に増やしたという点は事実であります。事実でありますけれども、今後は、さらに自分自身で雇用を続けること、あるいは子育て期を社会的に考慮することで、女性の年金権が増えるという方向を目指すことが重要なのではないだろうか。雇用市場における社会的な連帯として、育児期間をカバーする部分と、男女の就業機会を広げる部分というのが両方必要ではないかというふうに考えたりしております。
 以上でございます。
鹿嶋会長
どうもありがとうございました。
 1つ、私の質問は、フリーターの妻が第3号の保護に入れないというのは、フリーター自体がいわゆる報酬比例年金制度から除外されることがあるため、サラリーマンの妻という位置づけでなくなってしまうからということですか。
永瀬教授
はい。前回パートも報酬比例年金に入れるという案が出ましたけれども、これはフリーターの方にとってはとてもいい話ですけれども、有配偶女性でパートで就業している方にとっては、遺族年金の改正がない限り、ほとんどメリットはないんです。遺族年金の改正があって、ようやく少しメリットがあるかなという程度のものですので、強い反対がありました。現在もパートの報酬比例への加入ということについては、業界からの反対だけではなくて、有配偶女性のパートにとっても、「パートいじめ」というふうに言う方がいます。概念的には非常にプラスのはずですけれども、実際の年金の設計上で見ますと、有配偶パートについては、そうではない部分が少なからずある。特に遺族年金が改正されず、年金権を放棄せざるを得ないままであるとすれば、メリットがとても小さいことになっているということがございます。
鹿嶋会長
ありがとうございました。ほかに質問がございましたらどうぞ。年金で、1945年の4月1日生まれからが今年から満額もらい始めたのです。基礎年金と報酬比例部分と。実は、1945年4月1日というのは私の生年月日でして、私の年代は安いですね。妻の加給年金を入れて200万弱。加給年金を外すと年間で1人で170万~180万円で極めて安いですね。今、先生の話を聞いていて、300万とか350万の人がいると聞いて、うらやましいと思ったんですけれども。
永瀬教授
私も計算間違いかと思ったんですけれども、そうじゃないんですね。大体、昔は今と比べて乗率が高かったんです。ですから、昔、比較的いい給与をいただいている方で、40年も勤めると非常に高くなるんですね。
坂橘木委員
永瀬さんらしい非常にいいご報告を聞かせていただきました。これをお聞きして、今まで日本の年金制度というのは、すべての人間が結婚するということを前提にしてどうも設計されてきた。ところが、あなたのお話を聞いていると、どうも結婚しない人が増えつつある。あるいは離婚もそうかもしれないけれども。そうなると、いわゆる2人に対して年金を支払うという原則から、個人一人一人に結婚するか、結婚しないか、無関係に個人に年金権を受給するという形へのシフトというのを勧められますか。
永瀬教授
大きな質問でございますけれども、私自身は、子どもを育てるということについては、やはり父親や母親や家族の役割は重要で、社会がそれを認知すべきと思っているのです。ですから、ケア役割をまるで考慮せず、全く個人としていいかどうかというのは、ちょっとどうかと思います。もしも全く個人という形でやるのでしたら、社会的な連帯として子育て期間については特別な考慮を社会的に全員に対してする。ですから、全員が個人ベースとしても、かわり、子どもや老人をケアしている人については、全員に対して社会的な考慮を特別にするという方向、それは1つの考え方だと思います。しかし、それをせずに、単に「みんな個人ですよ」と言うと、結局、今の女性の大体7割は子どもをもって離職し、低賃金となっておりますので、その人たちが非常に困ることになるわけです。離職しないと、今の労働市場では子どもを育てられない。だから、雇用を継続しつつ、休職・休業しながら子どもを育てていけるような社会連帯というものをつくっていくというのは大事と思います。やがてはそちらの方向に移行するのがいいと思っています。けれども、とかくありがちなのは、そういう形で無業になっている人たちのことを忘れて、個人単位といわれることです。ですから、今すぐに個人単位、ということについては、いろいろな留保をつけるべきと思います。
 でも、反面で、専業主婦のいる男性の夫婦世帯に対しては、比較的良い年金がきて、その一方、母子世帯や単身の女性が不安定な雇用であり、一生懸命働いているのにルールとしても公的年金が低い形になっていることは非常に大きな問題を含むとも思います。いい回答になっていたかどうかわかりませんけれども。
鹿嶋会長
ほかに。
袖井委員
シニアプラン開発機構の調査はとてもおもしろいのですが、8割以上というか、8割前後が有職ですけれども、これはパートもかなりあるんですか。一番知りたいのは、年金はどうなっているのかということなんですが。
永瀬教授
図3-2-1が有業と無業の状況で、有業者について従業上の地位を見たのが図3-2-3と、その上になっています。ですから、パート、派遣、自営、家族従業、自由業、内職等を含めて、大体半数が正社員以外です。
袖井委員
年金はどうなっているんですか。
永瀬教授
年金資格は聞いていたかどうか。理論的に言うと、半数は第1号ですけれども、納めていない人もいるかもしれないですね。あるいは、免除されている方もいらっしゃって、その上で第1号になっているかもしれません。
袖井委員
そういうデータがあるのかどうかわかりませんけれども、今、20代の女性というのは非正規が多くなっていますよね。そういう人たちって年金に入っているのでしょうか。その辺のデータはご存じですか。
永瀬教授
それは、私が特別集計をやったことがありまして、1999年の厚生労働省の「就業形態多様化に関する実態調査」の特別集計をしたのが2003年の日本労働研究機構『調査報告書』として出ています。また国立社会保障人口問題研究所が出している『季刊社会保障研究』2004年に、非典型的雇用の現状と課題として集計をまとめて載せています。これによれば20代のフリーターの男性のあらゆる保険加入率は極めて低いです。女性の方が少し高いですね。女性の方が真面目なんでしょうか。雇用保険にも入っていないですし、労働時間から言っても、個人ベースで見ると当然入っていてよさそうな人たちが入っていないです。ただ、それは複数の事業所で仕事を持って、結果として週40時間以上になっているためなのかもしれません。複数事業所の場合は、ルールからいって企業が入れなくていいということになっていますから。しかしそうやって長時間働いて自分で生計を立てている人が、雇用者として、最も企業に依存する雇用、ディペンダントなエンプロイメントであるにもかかわらず、複数の事業所から仕事をもらっているから、要するにその企業の通常の労働者の4分の3以上の労働時間、という規定に入らないということで、年金権から除外されているということは、今後、将来に向けて大きな問題だと思います。
 先ほどの橘木先生の御質問とも関わりますけれども、非正規労働というのをどういうふうに位置づけていくのか。つまり、これは基本的にはありえない働き方で減らしていくとう方向なのか、それとも当然ある働き方と見ていくのか。現実問題としては、規制改革で非正規労働をかなり自由化しています。つまり自由化して、そういう働き方も普通の働き方なんだ、というのであれば、そういう人たちが一定の安全ネットの中で暮せるような社会的な制度の構築はどうしても必要だと思います。それは年金を事業主が保険料を半分負担する、報酬比例の被用者年金に入れるということでありますし、雇用保険についても原則入れるということではないかというふうに思います。
鹿嶋会長
今のフリーターの年金加入率ですが、男性が低くて女性がそれ以上に高いというのはなぜだと思いますか。
永瀬教授
私が思いますには、女性は常用的な働き方をしていても契約社員だったり、派遣社員だったり、準社員と呼ばれていたするからだろうと思います。男性の場合は本当にアルバイト的な人の方が、非正規雇用者に占める割合が高いのだろうと思います。女性はしっかりと定期的に毎日働いていても非正規に位置づけられている人が多いんです。それで、非正規だけれども、事業主としては4分の3規定に入るということで、被用者保険に入れている事業主が多いのではないかと思います。
鹿嶋会長
JILの調査を見ると、男の子の方がフリーターから正社員への転換率が高いんですよね。女性は低いんです。女性の場合は、多分非正規でいいという、これはジェンダーバイアスのいろいろな問題が関わってくると思うのですが、女性というのは非正規でもいいんだという考え方があって、そんなに積極的じゃないんです。ただし、年金などに影響しないのかなと今聞いていたんですけれども、男の子はいずれ正社員になるから、非正規の場合はいいやということで入らないけれども。
永瀬教授
それが、年金シニアプラン機構で聞き取りもやっているのですけれども、そうしますと、確かにジェンダーバイアスで、若いうちは別に働かなくていいというふうにお父さんに言われてきたと。おまえのことはお父さんが十分面倒見られるしいいんだと言われてきた。それなのに、今になって、お父さんが非常にお金に渋くなったと。それで、女性は非正規でもいいというジェンダーバイアスというのは社会的にまだあるとは思うけれども、では、本当に、女性が一生苦労しないで食べされてもらえるのかというと、とんでもない、とても苦労するだろうと。つまり、先ほど橘木先生がおっしゃったように、結婚に入り、結婚が安定的に続くことを前提としないでいくとすれば、非常に苦労するだろうということは想像されますね。
鹿嶋会長
ほかに。
 それでは、どうもありがとうございます。大変おもしろく聞きました。
 それでは、皆さん、いろいろ御議論ありがとうございました。この高齢者の自立生活対策支援については、今後引き続き調査・検討を進めていきたいと考えております。
山岡分析官
それでは、最後に簡単にですが、資料4に基づきまして関係府省ヒアリングについて御説明をさせていただきます。
 次回第22回から関係府省を対象としたヒアリングを予定をしております。実施時期は9月から11月ということで予定しております。そちらにつきまして、ヒアリングの目的、項目等について、本日御議論いただきたいと考えております。
 まず、ヒアリングの目的でございますが、高齢者の自立支援に関わる施策が男女双方のニーズや実情を踏まえて適切に実施され、男女共同参画の促進に資する取組となっているかを検討するために実施するという方向で考えております。個別の施策についての御審議もさることながら、施策全体としての方向性や施策の充足度、それから今後の課題等について、男女共同参画の観点から検討するということでお願いしたいと考えております。
 対象の府省は、ここに挙げております5つの府省が第2次基本計画に掲載されている施策の所管府省ですので、そちらを予定しておりまして、加えて経産省、農水省につきましても、関連施策がある場合は適宜ヒアリング等を行う予定でございます。
 進め方につきましては、9月から11月に2~3回程度の専門調査会の中で実施させていただきます。事前に書面を聴取しまして、それに基づいて専門調査会で説明、それについての御審議をいただくという予定でございます。
 ヒアリング項目につきましては、まずは施策の概要として何をやっているか、どういう取組をやっているかということを確認をしまして、それについて、さらに男女別ニーズを把握して、そのニーズを施策に反映させているかということ。それから、関係主体や関連するような施策との連携の状況がどうなっているか。そして、施策の評価・見直しというものをきちんと行っているか。その評価に当たって、男女別の観点でデータ等を把握しているか。こういったような点についてヒアリングを実施させていただきたいと考えております。
 簡単ですが、以上でヒアリングについての案を御説明させていただきました。
鹿嶋会長
ありがとうございました。御質問、御意見がありましたら。どうでしょうか。関係府省のヒアリング、対象府省はこれでいいかとか、それから特にヒアリンリグ項目ですが、施策の概要、男女別ニーズ。よろしいですか。
山谷委員
施策の評価・見直しのところですけれども、アウトプットとアウトカムがきたら、インパクトも1つ入れていただきたいのですが、想定しなかった影響とか、波及効果とか、そういうものも把握しているかどうかということをお尋ねいただければと思います。
山岡分析官
わかりました。
鹿嶋会長
ほかにありましたらどうぞ。
 それでは、もし何かありましたら、この件については事務局の方にペーパーでもらうようにしましょうか。
 では、御議論ありがとうございました。事務局の方で連絡事項がありましたらどうぞ。
山岡分析官
では、次回専門調査会では、関係府省ヒアリングとして、本日、席上配付をしております「高齢社会白書」、青い冊子でございますが、その内容や高齢社会対策の検討状況等について、内閣府政策統括官(共生社会政策担当)少子・高齢化第2担当の濱田参事官から御説明することを予定しております。本日、その濱田参事官がこちらに来ておりますので、次回に先立ちまして参事官から一言説明がございます。
濱田参事官
高齢担当参事官の濱田でございます。
 なぜ第1回目に白書というものをやらなければいけないのかとお思いの向きもあると思いまして、その趣旨、思いを言わせていただきたいのですが、現在、私どもの方で、今後の高齢社会対策のあり方検討会という会議を、慶應大学の清家先生を座長として1年余りやってきておりまして、今回の白書は、従来の白書の内容に加えて、今後の対策、取組の方向性というのを1章3節、63ページ以降に数ページにわたって書かせていただいております。昨日、実は検討会を開きまして、これを基本ベースに今後、高齢社会対策の基本方針である大綱の見直しをやっていこうということを決めて頂きまして、年末までかけていろいろ議論していただいて、報告を取りまとめていこうという予定でおりまして、この調査会において、高齢者の自立支援とか、男女共同参画という視点でまた御議論いただいたこともわれわれとしても参考にしながら検討会の議論の取りまとめを行っていきたいということで、今回、白書を議題にさせていただきたいということで座長にお願いして、次回お話をさせていただきたいと思っております。それで、お目通しいただければと思いながら手元の資料を見たら持出し禁止になっているので、各委員の方には私どもの方から一部送らせていただきますので、お目通しいただければ幸いでございます。
 以上でございます。
山岡分析官
白書の方は、調整の上、事務局の方からお送りさせていただきます。
 また、高齢社会対策大綱の検討状況を踏まえながら、本専門調査会におきましては、男女共同参画の観点において御議論を進めていただきたいというふうに考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
 次回第22回の専門調査会につきましては、9月19日、水曜日の午前10時から12時、場所は内閣府本府の3階特別会議室を予定しております。また、その次の第23回は、10月9日、火曜日の午前10時から12日、場所は、これも内閣府本府3階特別会議室を予定しております。両会議とも議題は関係府省ヒアリング等についての審議をお願いしたいと考えております。後日、担当の方から出欠確認を含めまして改めて御連絡をさせていただきます。
 そして、本日の資料の取り扱いでございますが、資料1の参考資料1、2につきましては委員限りということになってございますので、お取り扱いに御注意くださいますようお願いいたします。それから、議事録につきまして、第19回の議事録、本日配付しておりますものにつきましては、委員の皆様、確認済みのものでございますので、すでに公表をさせていただいております。前回第20回の議事録につきまして、本日までということで確認をお願いさせていただいておりますので、お帰りの際、もし何かございましたら事務局までお知らせください。
 以上でございます。
鹿嶋会長
それでは、これで第21回の監視・影響調査専門調査会を終わります。
 本日はどうもありがとうございました。

(以上)