政策評価について

  • 2001年6月8日 男女共同参画会議
  • 影響調査専門調査会(第2回)

お茶の水女子大学 永瀬伸子

  1. 日本の社会制度・雇用システムの特徴
    • 暗黙の前提としての男女の役割分担
      • 税制上では配偶者控除、配偶者特別控除
      • 社会保険上では被用者の年金・健康・介護保険における被扶養の主婦(年収130万未満)の保険料免除
    • 暗黙の前提としての子どもの養育費用の私的負担、母親の育児責任
      • 低年齢児に不足する認可保育所枠を弾力的に供給しにくい仕組み
      • 認可保育所以外は無助成、認可外保育所は事実上の放置
      • 小額、所得上限付き児童手当(2001に所得上限上昇)
      • 高等教育の学費の私的負担、少ない奨学金
    • 正社員に対する企業内福祉
      • 正社員について、諸手当の多い給与構造、大きい男女格差-高い生活給色
      • 新卒採用と年功評価の高い賃金、中途採用の入り口の狭さ
      • 長時間労働と頻繁な転勤を前提とした働き方
      • 転職が難しい退職金の構造
      • 正社員に高い雇用保障、非正社員に薄い雇用保障
      • 正社員に充実した企業内福祉
  2. 日本の女性労働の特徴と課題

    正社員と非正社員との大きい賃金格差
    女性雇用者に特に非正規労働が拡大(87 37% 97 47%)
    非婚・非出産が増加する一方で高い育児期の離職
    高学歴女性ほど離職すると仕事に戻らない特徴
    有職主婦に長い市場労働・家事労働の総計時間、男性に著しく短い家事時間

  3. 税制と社会保障制度が就業行動に与える歪み
    • ○働く既婚女性の4割近くが就業調整を意識。
      • 本人、企業双方にとっての「暗黙の所得ターゲット」
        結果として就業調整がパート賃金のバラツキを抑制、賃金上昇を抑制する楔に
    • ○再就職女性について2号加入する年金給付上のインセンティブが少ない設計
      • 基礎年金部分は夫が2号なら無条件で確保できる。一方、再就職で厚生年金加入をしたとしても保険料・給付とも報酬比例・加入期間比例であり、低所得者に対する再配分(定額)部分がないため加入するうまみは少ない(私的保険の方がましかもしれない)。
        例:
        月収15万円で10年間 年金保険料被用者分 1.3万
        給付増 1.1万円(遺族年金選択で9年程度か
        その他医療保険料、介護保険料、税金、配偶者手当カット
      • 月収8万以下ならば負担0、給付増0(ただし基礎年金満額可能)
    • ○既婚女性に家計補助的働き方を大きく奨励する制度。これが逆に低賃金を助長
    • ○増加する未婚、離婚非正規女性が社会保障から落ちこぼれがちに
  4. 企業の雇用慣行が女性の就業行動に与える歪み
    • ○暗黙に家庭責任をとる者がいることが前提の正社員雇用
      • 世帯賃金を得る仕事では転勤が拒否できない、残業が多い
      • 年功的な処遇
      • 配偶者手当の半数は103万円とリンク
    • ○依然として都会の女性の85%が第1子1歳時点で専業主婦
      • 子ども、病人、介護等のケア活動を担う者は退職するか、非正規従業員となることを前提とする雇用慣行
      • 育児休業をとる女性は妊娠時まで正社員だった者の2割(92年以降の出産)
      • 育児休業は専業主婦がいる場合、非正社員の場合とれない企業が多い
      • 不況下でさらに労働密度は増加
      • 転職が不利な退職金の制度、年功評価部分の大きい賃金制度
      • コミットメントの要求が高いこと、就職の困難から正社員の働き方を支持しない若者男女(フリーター)の増加しているなど、正社員モデルの該当者は縮小するのではないか
    • ○非正社員
      • 賃金水準が正社員に比べて低く、雇用が不安定
      • ボーナス、退職金等正社員の諸報酬、福利厚生等がない
      • 社会保障の安全ネット(社会保険等)からはずれることも多い
      • 賃金上昇、昇進ルールが不明確
      • 新規雇用女性の非正社員化が大幅に進展
  5. 新しい働き方・家族モデルとその支援

    従来の働き方、家族のあり方は、高度成長期に合理的なものであったとしても現在では非婚、 離婚の増加、非正規労働者の増加(若年層男女ともフリーターを好む者の増加、正社員から控除される者の増加)、 20年後に2:1となる成人:高齢者比率等から維持が難しい。新しいモデルは男女がともに無償労働をし、かつ就業が可能なよう、 必要な環境整備(規制や無償労働の社会化)をすすめるということではないか。

    • ○非正社員と正社員の格差を是正する雇用管理の推進
      • 非正規労働者の社会保障へのアクセスの拡大
      • 非正規労働者と正規労働者の雇用の安定性の差異の縮小
      • 配偶者控除、配偶者特別控除等は、児童ケア控除として修正かまたは児童ケア手当にかえる
    • ○男女とも育児、介護、家事等を働きつつ行うことを可能にする施策
      • 育児休業後の復帰形態について、短時間就業を可能とするオプションを子どもが一定年齢まで賦与(ただし賃金低下は前提だが、フルタイム復帰も一定条件のもとで可能とする。)
      • 1歳前復帰者については育児有給の増加または短時間勤務の権利を賦与
      • 転勤を選択可能に、転職のコストを引き下げる企業年金・退職金の制度
    • ○保険ケア利用者には保育に関する補助金が支給され、家庭保育者に対しては子どもケアに対する手当が支給される制度
      • 保育園の充実と多様化
      • 認可外保育園、保育ママ等についても助成。ベビーシッターなど定型外のものはせめて税額控除を
    • ○就業調整を回避する仕組みの創出
      • 税制・社会保険料の制度改正(主婦一律優遇にかわり、育児・介護に特別の考慮をする施策)
      • 育児離職期間のある者も就業への復帰によって基礎年金プラス報酬比例を持てる仕組みを
      • 第3号を廃止、あるいは末子一定年齢までに制限。一方で非正規従業員の報酬比例年金加入条件を緩和し、育児介護離職期間の一定年数を年金期間に参入、育児による一定低収入期間を平均賃金算出から除外する、育児介護による低年収者の年金給付乗率を上げる等の工夫が必要
      • 就業が豊かさにつながる働き方の創出
        -現在の正社員、現在の非正規社員の中間の働き方を拡大する

        労働時間の選択の自由度が高いこと

        社会保険上の権利があること

        雇用が安定していること

      • 再就職市場の整備

既婚女性側の就業調整行動がパートの低賃金化に及ぼす影響 資料

夫の月収階級別に見た妻の勤労収入(勤労者世帯)

縦線は80000円(非課税限度相当)および108000円(社会保険料免除)
左から夫の月収25万円未満、35万未満、45万未満、55万円、65万円未満、65万以上、総計

平成11年度特定領域研究ミクロ統計データ統括班による全国消費実態調査平成6年の目的外使用(平成12年2月4日官報第2802号総務庁告示第8号)によるリサンプリング・データを使用の結果(目的外使用許可者:永瀬伸子)。

2 女性の結婚・出産・就業と第1号、第2号、第3号被保険者の状況 資料

<1>1988年と1997年の比較

  • 女性
    a
    第2号は出産期に30%低下後一定で高まらないパターンは不変
    ただし中年期の第2号比率は1988より若干増加
    b
    第第1号は中年層でやや減少、若年で増加、50歳台は夫定年の影響も
    c
    中年期の第3号が増加
    d
    全体に社会保険加入者比率が上昇
    e
    第1号+第2号 1988 54% 1997 49%と低下
    f
    社会保険料を負担しない有業者 1988 13% 1997 22%と増加

長瀬伸子(2000)「家庭生活と就業の両立-近年若年層の出産退職が増えているのはなぜなのか」
正村公宏・連合総合生活開発研究所編『新福祉経済社会の構築』大林書店(P169-193)

表1 税金・社会保険料が世帯月収に占める割合
(1000円/月、%)
  税金月額 社会保険料月額 世帯月収に占める割合

年齢階級

子ども
0人
1人 2人 3人
以上
子ども
0人
1人 2人 3人
以上
子ども
0人
1人 2人 3人
以上
~29 16.9 14.0 7.4 12.3 33.2 31.4 32.5 56.8 13.9% 13.9% 11.8% 17.1%
~34 26.6 28.7 16.2 19.2 41.6 42.5 36.1 43.5 16.8% 16.1% 13.6% 14.2%
~39 30.1 29.5 24.5 16.6 44.6 43.0 42.7 42.6 16.9% 15.1% 15.6% 14.1%
~44 35.2 30.1 29.8 36.6 37.5 42.7 50.3 50.3 13.9% 15.4% 15.5% 17.7%
~49 32.5 35.7 35.4 21.2 40.4 50.8 52.0 42.8 14.8% 15.6% 16.1% 11.7%
~54 48.8 45.0 28.7 0.0 54.8 57.3 50.7 9.7 18.1% 16.1% 15.7% 2.6%

永瀬伸子(1999)「統計間のマッチングによる実験:子どもコストと資産形成および妻の就業が家計構造に与える影響」(財)統計研究会 総務庁委託調査(座長吉沢正筑波大学教授)
『統計的マッチングにより発生する誤差の要因の検証に関する調査研究報告書』より引用。

表2 保険料に対する給付額
  1か月の保険料 給付に対する給付(注)

第1号

13,300 1,625
第2号 (8.625%)自己負担分 事業主負担分込 報酬比例部分 基礎年金部分
月収10万
月収20万
月収40万円
8,625
17,250
34,500
17,250
34,500
69,000
715
1,430
2,860
1,625
1,625
1,625

注) 納付に対する給付は原則25年の加入期間を満たさない限り、0であり、ここではこれを超えていると仮定
報酬比例部分の給付は0.00715で計算

晩婚化と非婚化について(現状および見通し-国立社会保障人口問題研究所)

  • 女性の平均結婚年齢は
    • 1945年生まれ24.2歳から上昇
      1980年生まれは、中位推計では27.4歳、低位推計では28.9歳
  • 女性の生涯未婚率は、
    • 1941~1945年生まれで4.6%
      1980年生まれについて中位推計では13.8%、低位推計では17.9%
  • 女性の無子割合は、
    • 1940~1944年生まれで8.7%
      1980年生まれについて、中位推計では23.0%、低位推計では32.4%

(参考)

表1 夫が雇用者のケース:妻の就業と社会保険料の負担・給付
世帯タイプ分け 負担 給付
社会保険料 基礎年金 報酬比例
妻非就業 × ×
妻就業、妻第3号 × ×
妻就業、妻第1号 ×
夫婦がそれぞれ第2号
表2 就業構造基本調査92年の特別集計に見られる上記世帯タイプの特徴
世帯タイプ分け 末子年齢別に見た特徴 夫の収入、妻の学歴別に見た特徴
非就業 幼い子どもがいる世帯の4割から7割強
就学児童では夫が収入が低で2割、高で4割程度
妻の学歴による大きな特徴はない
夫の収入が高いほど非就業が多い
妻就業、妻第3号 幼い子どもがいる低収入世帯に多い
就学児童では夫収入にかかわらず妻の4割
夫の収入が低い方に多い
妻が高卒の場合に、妻が大卒よりも多い
妻就業、妻第1号 子ども年齢にかかわらず夫低収入に多い
夫婦がそれぞれ第2号 夫年収が中間層(300から700万)で多い 妻が大卒、夫の収入が中間層で特に高い
表3 特別集計から、社会保険料の負担の公平性に関する考察
幼い子どもがいる場合に多い。また夫年収が高いほど多い。
幼い子どもがいない場合は逆進的
子ども年齢を考慮しない第3号免除の恩典廃止は望ましくない
子どもが幼い場合は夫低収入で多い。
就学児童のいる世帯では、夫年収にかかわりなく妻の4割が選択
非課税就業は多くの既婚女性が選択。図2から図3に移る(子離れがあったので年収を増やす)選択が、社会保険上不利な設計であり就業を抑制
第1号の妻、第2号の夫の組み合わせとなり、保険料負担が2人分なのに妻の給付が増えない世帯は年収の低い世帯。 逆進的
夫婦とも第2号で2人分の負担をしているのは所得階級が中間層の世帯