苦情処理・監視専門調査会

I 女性に対する暴力の概念

  • ○国連における女性に対する暴力の定義
    女性に対する暴力とは、性別に基づく暴力行為であって、女性に対して身体的、性的、若しくは心理的な危害又は苦痛となる行為、あるいはそうなるおそれのある行為であり、さらにそのような行為の威嚇、強制もしくはいわれのない自由の剥奪をも含み、それらが公的生活で起こるか私的生活で起こるかを問わない。(1993年に国連総会で採択された「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」の第1条。)
  • ○我が国における女性に対する暴力の多様な形態と類型化
    今後の女性に対する暴力の防止対策等を検討する際に役立つと考え、一応の類型化を試みる。
    • 女性に対する暴力の多様な形態(性犯罪、売買春、ドメスティック(疋バイオレンス(=夫・パートナーからの暴力)、セクシュアル(疋ハラスメントなど)
      →その根底には、女性の人権を軽視し、侵害する行為という共通点がある。
    • 女性に対する暴力の類型化
       ―身体的、性的又は心理的なもの
       ―暴力が行われる場によるもの
       ―暴力に介在するものによるもの(介在の有無、介在する場合の例:金銭、薬物など)
       ―暴力と意識する場合と暴力と意識しない場合(例えば、ドメスティック(疋バイオレンスの被害者・加害者など)
       ―その他
  • ○女性に対する暴力に関する国際的な動向
    • 「国連婦人の十年」ナイロビ世界会議以降の国際的な動向
       ―1985年「『国連婦人の十年』ナイロビ世界会議」
       ―1993年「ウィーン世界人権会議」
       ―1993年「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」
       ―1995年「第4回(北京)世界女性会議」など
    • 他国で報告されている女性に対する暴力の形態

II 女性に対する暴力を生み出す社会的背景

  • ○ 女性に対する暴力の根底にある女性に対する差別意識
    • 女性の人権の軽視
    • 社会の無関心
    • 売買春を容認する傾向
       ―かつては売春は生活のためにするという側面から議論されてきたが、近年は売春をする理由が多様化してきている。
       ―性の売買はいけないという認識が不十分
    • ポルノの問題
  • ○ 暴力を振るう男性に対する誤った認識
    • 男性が女性に暴力を振るうことに対し、社会が寛容であること。
       ―攻撃性を男らしさと受け止める風潮
       ―男性の性欲は自分で抑制できないものであるという認識
    • 顔見知りの者は、性犯罪の加害者にはならないと思われがちなこと。(実際は顔見知りの場合が(比較的)多い。)
    • 性犯罪は被害者が被害を訴えることが少ないので、加害者は捕まりにくいという認識の流布
  • ○ 暴力の被害者に対する社会の不十分な理解
    • 被害者に対する社会の無関心
    • 被害者に対する先入観の押し付け
       ―性犯罪の被害者は必死で抵抗するもの、被害者側にも隙があった、とする。→二次的被害(セカンド・レイプ)

III 被害の潜在化とその理由

  • ○ 女性に対する暴力は潜在化する傾向があること。
  • ○ 被害が潜在化する理由
    • 被害について相談する窓口やシェルター(=緊急一時避難所)等の整備が十分でないこと。あっても、その連絡先やその利用方法などの情報が被害者に届いていないこと。
    • 加害者からの報復をおそれるため
    • 二次的被害(セカンド・レイプ)のおそれ
       ―捜査・公判段階における担当官、カウンセラー・医療関係者等からの二次的被害
       ―メディアからの二次的被害
    • 被害を受けたことによる無気力や記憶の変容
    • 被害者が経済的・社会的に自立できるような状況にないこと。
       ―夫が仕事に出るのを許さない、就職先がない、低賃金であるなど、自活できる収入を得るのが難しい。
       ―住民票、健康保険証が世帯主義となっているため、自立しにくい状況がある。
    • 被害者の意識による理由
       ―世間体や家族からの反対など
       ―暴力を受けたのは、自分にも落ち度があったなどと自分を責めたり、自己嫌悪に陥ったりする。
       ―妻は暴力に耐えるべきだと思い込んでいる。
       ―子どものために夫婦が一緒にいなければならないと考える。
    • 被害者の家族等の意識による理由
       ―世間体
       ―被害者をおもんばかる気持ち

IV 女性に対する暴力に関連する問題

  • ○リプロダクティブ(疋ヘルス/ライツ(=性と生殖に関する健康・権利)の観点から見た女性に対する暴力
    • 暴力による望まない妊娠、中絶、性感染症の問題
  • ○女性に対する暴力が子どもに及ぼす影響
    • 母親への暴力を目前で見せられたり、巻き込まれたりすることによる子どもの精神的な発達への影響
    • そのような子どもが、自らの感情を暴力で表現することを身につけ、成長して暴力を振るうようになることの問題点
  • ○薬物・アルコールが関係する女性に対する暴力
    • 売買春と薬物・アルコール

V 女性に対する暴力への対応の現状と問題点

  • ○ 女性に対する暴力に関する調査や統計が少ないこと、被害が潜在化しやすいこと等から、女性に対する暴力の実態が不明瞭である。
  • ○ 被害者の援助・サポート関係
      社会的に、被害者に対する精神的な援助、心身の安全の確保や自立に向けてのサポートなど適切な対応が必要であること。
    • 公的機関の活性化が必要
       ―売春防止法に基づく一時保護機能を有する婦人相談所における対応の限界
    • 緊急対応及び事後のケアのため、関係機関、団体、専門家間の連携を図る必要があること。
    • 相談窓口やシェルターなどの体制が十分でないこと。
    • 被害者の援助に携わる人の養成及び研修が必要であること
    • 相談窓口やシェルター等の連絡先などの情報提供が十分でないこと。
  • ○ 女性に対する暴力の再発を防止する措置が十分とられていないこと。(暴力を振るう男性に対する再教育など)
  • ○ 売買春の問題
    • 外国人女性の売買春に関する特殊性

VI 当面の取組課題

  • ○ 女性に対する暴力の実態把握のため、調査の実施等による情報の収集
    • 我が国の女性に対する暴力に関する実態と意識を調査する。
    • 我が国の女性に対する暴力に関する実態と意識を調査する。
  • ○ 女性に対する暴力を扱う関係機関、団体、専門家等が効果的に機能するようその実効あるネットワークを確立すること。
    • 関係機関、団体等の活動の把握
    • 行政機関と民間団体等との相互の情報の交換
    • 情報交換や連携強化のための場の提供
    • 関係機関、団体、個人(ボランティアを含める。)を対象とした研修会等の実施
    • 売春防止法に基づく婦人相談所の役割も含め、女性に対する暴力の現状に対応する公的機関のあり方についての検討
       ―被害女性に接する職員の意識啓発、研修や職員の配置にあたっての十分な配慮
  • ○ 女性に対する暴力の根絶に向けて、社会の意識啓発を図ること。
    • 多様な媒体を通じた広報・啓発活動の推進
       ―行政による広報活動の充実
       ―被害者へ必要な情報が届くための配慮
       ―特に、外国人女性被害者に対する配慮
    • 女性の人権を尊重するための性教育の充実と保護者の意識啓発を図ること。
  • ○ 女性に対する暴力の再発を防止する対策の検討
  • ○ 女性のエンパワーメント(=女性が力をつけること)を図ること。