第4節 性犯罪への対策の推進

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第4節 性犯罪への対策の推進

政府では,令和2(2020)年4月から,「性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議」を開催し,令和2(2020)年6月11日に「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を決定した。これに基づき,令和2(2020)年度から令和4(2022)年度までの3年間を,性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」として,刑事法の在り方の検討はもとより,被害者支援の充実,加害者対策,教育・啓発の強化等の実効性ある取組を速やかに進めていくこととしている。

1 性犯罪への厳正な対処等

法務省では,平成29(2017)年7月に施行された,強姦罪の構成要件及び法定刑の見直し等並びに強姦罪等の非親告罪化を内容とする刑法の一部を改正する法律(平成29年法律第72号)の附則第9条に基づき,性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための刑事法の在り方について検討を加えるため,「性犯罪に関する刑事法検討会」を開催し,法改正の要否・当否について幅広く議論を行った。

内閣府及び文部科学省では,子供を性犯罪・性暴力の加害者,被害者,傍観者にしないための「生命(いのち)の安全教育」を推進するため,わかりやすい教材や啓発資料を共同で作成した。さらに,文部科学省では,学校側で相談を受ける体制を強化し,相談を受けた場合の教職員の対応についての研修の充実を図った。

また,児童生徒等に対してわいせつ行為に及んだ教員については原則として懲戒免職とすることや告発を遺漏なく行うことを徹底するよう,改めて各教育委員会に指導した。さらに,教員採用権者におけるより適切な採用選考に資するよう,過去に児童生徒等へのわいせつ行為等を原因として懲戒処分等を受けた教員について,「官報情報検索ツール12」における懲戒免職処分歴等の情報の検索可能な期間を直近40年間に大幅延長したほか,省令(教育職員免許法施行規則等)を改正し,失効・取上げ事由である懲戒免職等の具体的事由等を官報公告事項として規定することとした。

厚生労働省では,性犯罪被害者が抱える心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対して,適切な治療やケア等を行うことのできる人材を養成するため,医師,保健師,精神保健福祉士等の医療従事者等を対象に,「PTSD対策専門研修」を実施している。

また,都道府県,指定都市の精神保健福祉センターにおいて,性犯罪によってPTSD等の精神的な症状が引き起こされた者に対して,精神保健福祉に関する相談支援等を実施している。

さらに,若年被害女性等に対して,公的機関と民間支援団体が密接に連携し,アウトリーチによる相談支援や居場所の確保等を行うモデル事業を実施している。

12文部科学省が平成30(2018)年度から教員採用権者(都道府県・指定都市教育委員会,国立・私立学校の設置者等)に提供している,官報に公告された教員免許状の失効の事由,失効年月日等の失効情報を検索できるツール。

2 被害者への支援・配慮等

(1) ワンストップ支援センターの運営の安定化及び質の向上

内閣府では,最寄りの性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(以下「ワンストップ支援センター」という。)につながる全国共通短縮番号「#8891(はやくワンストップ)」を令和2(2020)年10月に導入し,被害者がより相談しやすい環境を整えた。また,若年層の性暴力被害者が相談しやすいよう,SNS相談「Cure Time (キュアタイム)」を実施している。令和3(2021)年秋には,夜間休日に対応できるコールセンターを設置予定であるが,コールセンターの設置に当たっては,コールセンターとワンストップ支援センターとの円滑な連携体制を構築し,緊急時に速やかに都道府県の緊急対応体制と連携することが必要であることから,ワンストップ支援センターの相談体制の整備について,地方公共団体へ令和2(2020)年12月に通知した。さらに,ワンストップ支援センターについて,センターの運営の安定化及び被害者支援機能の強化が図られるよう,性犯罪・性暴力被害者支援のための交付金により,24時間対応の推進や支援員の処遇改善等を含め,各都道府県の実情に応じた取組を支援し,性犯罪・性暴力被害者支援の更なる拡充を図っている。

(2) 女性警察官等による支援

警察では,性犯罪捜査を担当する係への女性警察官の配置や性犯罪指定捜査員の指定,警察官等を対象とした研修の充実等,被害者が安心して被害を届け出ることができる環境づくりに向けた施策を推進している。

(3) 被害者の心情に配慮した事情聴取等の推進

内閣府では,令和2(2020)年度は,地方公共団体の職員等や性犯罪・性暴力被害者の支援を行う相談員等を対象としたオンライン教材を開発し,提供した。

法務省では,刑事手続の運用の在り方に関して,令和2(2020)年度において,性犯罪被害者の事情聴取の在り方をその供述の特性や心情等に配慮したより一層適切なものとするための検討を警察庁と行い,令和3(2021)年度から,精神に障害がある性犯罪被害者の事情聴取につき,その負担軽減及び供述の信用性確保の観点から,検察庁及び警察が連携し,被害者の事情聴取に先立って協議を行い,代表者が聴取を行う取組を試行することとしたほか,被害者の事情聴取の在り方等について,より一層適切なものとなるような取組を更に検討している。

警察では,被害女性からの事情聴取等に当たっては,その精神状態等に十分配慮し,被害者が安心して事情聴取等に応じられるよう,被害者の望む性別の警察官による事情聴取体制を拡大するとともに,内装や設備等に配慮した事情聴取室や被害者支援用車両の活用を図っている。

(4) 診断・治療等に関する支援の充実

内閣府では,性犯罪・性暴力被害者の医療費負担軽減のため,性犯罪・性暴力被害者支援のための交付金により,ワンストップ支援センターが行う医療費支援の補助を行っている。被害者が居住する都道府県外での被害者等への支援について取扱いが様々であることが指摘されていることから,急性期の医療的支援を必要とする被害者が,ワンストップ支援センターを通じて医療機関を受診した場合には,被害者の居住地及び被害の発生地に関わらず,医療費支援の対象として対応するよう地方公共団体へ令和2(2020)年12月に通知した。

警察では,性犯罪被害者の緊急避妊,人工妊娠中絶及び性感染症等の検査に要する費用,初診料,診断書料等を公費で負担しているほか,関係機関・団体と連携を図りながら,性犯罪被害者のニーズを十分考慮した対応に取り組んでいる。また,性犯罪の被害者が警察へ届け出ずに医療機関を受診した場合,後に警察に届出をするときには身体等に付着した証拠資料が滅失している可能性があることから,医師等が受診時にこれを採取するための資機材の整備に係る予算の確保,整備先となる医療機関等の拡大等に係る取組を推進している。

(5) 被害者等に関する情報の保護

法務省・検察庁においては,刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)に基づき,裁判所の決定があった場合,被害者の氏名及び住所その他被害者が特定されることとなる事項を公開の法廷で明らかにしない制度や,検察官が,証拠開示の際に,弁護人に対し,被害者の氏名等がみだりに他人に知られないようにすることを求める制度について,円滑な運用に取り組んでいる。

(6) 被害者連絡等の推進

警察は,被害者連絡制度に基づき,被害者等に対する事件の捜査状況等の情報提供に努め,その精神的負担の軽減を図っている。

法務省では,被害者等通知制度により,検察庁,刑事施設,地方更生保護委員会及び保護観察所が連携して,被害者等からの希望に応じて,事件の処理結果,裁判結果,加害者の刑の執行終了予定時期,釈放された年月日,刑事裁判確定後の加害者の受刑中の処遇状況に関する事項,仮釈放審理に関する事項,保護観察中の処遇状況に関する事項等を通知し,その精神的負担の軽減を図っている。

また,少年審判において保護処分を受けた加害者についても,少年院,少年鑑別所,地方更生保護委員会及び保護観察所が連携して,被害者等からの希望に応じて,少年院在院中の処遇状況に関する事項,仮退院審理に関する事項,保護観察中の処遇状況に関する事項等を通知している。

なお,被害者等の再被害防止を目的として,検察庁,刑事施設及び地方更生保護委員会等と警察との間における情報提供に関する制度を整備し,検察庁において,更に詳細な釈放に関する情報を被害者等に通知しており,警察においても「再被害防止要綱」に基づき,再被害防止の徹底を図っている。

さらに,被害者等の希望に応じて,地方更生保護委員会が加害者の刑事施設からの仮釈放や少年院からの仮退院の審理において被害者等の意見等を聴取する意見等聴取制度や,保護観察所が保護観察中の加害者に対して被害者等の心情等を伝達する心情等伝達制度を実施している。

(7) 専門家の養成,関係者等の連携等

内閣府では,性犯罪・性暴力被害者が安心して相談をし,必要な支援を受けられる環境を整備するため,地方公共団体の職員や性犯罪被害者等の支援を行う相談員等を対象とした研修を実施し,先進的な取組等の好事例を紹介するなどしている。令和2(2020)年度は,オンライン研修教材を開発し,提供した。

警察では,関係機関・団体と連携を図りながら,性犯罪被害者のニーズを十分考慮した支援に取り組んでいる。さらに,警察庁において,地方公共団体等と連携して,性犯罪被害者を含む犯罪被害者等の支援について,地域における関係機関・団体間の連携を促進するなどの取組を行っている。

3 加害者に対する対策の推進

警察では,13歳未満の子供を被害者とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役し出所した者について法務省から情報提供を受け,各都道府県警察において,その所在確認を実施しているほか,必要に応じて当該出所者の同意を得て面談を行うなど,再犯防止に向けた措置を講じている。

法務省では, 性犯罪者に対する再犯防止施策の更なる充実に向け,令和3年(2021)年3月,地方公共団体に対して出所者情報の提供ができる場合等を取りまとめた執務資料を作成・配布したほか,刑事施設及び保護観察所において性犯罪者に実施している専門的プログラムの更なる拡充等の新たな再犯防止対策について検討を行っている。

4 啓発活動の推進

警察庁では,犯罪被害者等への支援・配慮がなされるよう,地方公共団体等と協力して,「犯罪被害者週間」(毎年11月25日から12月1日まで)に合わせた啓発事業を実施している。令和2(2020)年度は,警察庁主催の「犯罪被害者週間」中央イベントを東京で開催するとともに,地方公共団体と共催の地方大会を長崎県及び岐阜県において開催し,基調講演やパネルディスカッション等を行った。