第2節 配偶者等からの暴力の防止及び被害者の保護等の推進

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第2節 配偶者等からの暴力の防止及び被害者の保護等の推進

1 関係機関の取組及び連携に関する基本的事項

内閣府では,「すべての女性が輝く社会づくり本部」において,「重点方針2020」を策定し,関係省庁と連携しながら関係施策を総合的に推進している。

また,令和3(2021)年3月,女性に対する暴力に関する専門調査会において,児童福祉法等一部改正法(令和元年法律第46号)の附則により,検討を加え,必要な措置を講ずることとされている「通報の対象となるDVの形態,保護命令の申立てをすることができるDV被害者の範囲の拡大」や「DV加害者の地域社会における更生のための指導及び支援の在り方」,コロナ下のDV相談件数の増加・深刻化や婦人保護事業の見直し,児童虐待対応とDV対応との連携の重要性の高まりなど近時のDV対策をめぐる動きについて,現状と課題の整理を行った。

厚生労働省では,若年層を始めとした困難を抱えた女性が支援に円滑につながるよう,SNSを活用した相談体制整備を支援するとともに,婦人保護施設を退所した者が気軽に立ち寄って悩みを相談できる集いの場の提供や,見守り支援を行うための生活支援員の配置,モデル事業として実施してきたDV被害者等自立生活援助事業の全国展開など,退所後支援の充実を図っている。

国土交通省では,被害者の居住の安定確保のため,地域の実情を踏まえた地方公共団体の判断による公営住宅への優先入居や目的外使用を行うことができるよう措置している。

警察では,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)に基づき,裁判所から保護命令を発した旨の通知を受けたときは,配偶者暴力相談支援センターと連携し被害者の安全の確保を図るとともに,被害者に防犯上の留意事項を教示するなど,事案に応じた必要な措置を講じている。保護命令違反を認めたときには,検挙措置を講ずるなど厳正かつ適切に対処している。

また,被害者支援連絡協議会の下に設置されている性犯罪被害者支援分科会やDV・ストーカー被害者支援分科会,警察署等を単位とした連絡協議会(被害者支援地域ネットワーク)等を通じて,関係機関相互の連携を強化している。

2 相談体制の充実

新型コロナ感染拡大に伴い,外出自粛や休業などが行われ,生活不安・ストレスにより,DVの増加や深刻化が懸念されることから,内閣府では,新たな相談窓口を開始した。また,DV対応と児童虐待対応との連携強化に向けた取組を推進するとともに,相談窓口の周知や配偶者暴力相談支援センター等に対する研修事業を行っている。

厚生労働省では,婦人相談所におけるDV等に関する相談・援助等において,弁護士等による法的な調整や援助を得る「法的対応機能強化事業」を実施している。また,平成30(2018)年3月に「婦人相談所ガイドライン」(平成26年3月雇用均等・児童家庭局家庭福祉課長通知)を一部改訂し,婦人相談所における相談においては,関係機関との連携・調整の上で,必要な他法他施策も活用しながら,支援が適切に提供されるよう,相談体制等の充実を図っている。

3 被害者の保護及び自立支援

内閣府では,DV被害者等の支援を行う民間シェルター等の取組の促進を図るため,民間シェルター等と連携して先進的な取組を進める都道府県等に交付金を交付し,被害者のニーズに応じた支援のノウハウの蓄積や効果検証,課題の把握等を行うパイロット事業を実施している。また,「女性に対する暴力被害者支援のための官官・官民連携促進ワークショップ」において,女性に対する暴力の被害者に対する中長期的支援等について知見のある専門家や民間団体の支援者等を講師に迎え,被害者の状況に即した支援の在り方等について学ぶ機会を提供している。さらに,配偶者等からの暴力の被害者に対する包括的な支援に向けて,これまでの調査研究の結果を踏まえ,DV加害者プログラムを被害者支援のための加害者プログラムと位置づけ,現行法制度の枠内で実施可能なDV加害者プログラムの在り方や枠組みの整理を行うとともに,自治体を実施主体として,これまでの取組でノウハウを蓄積してきた地域の民間団体と連携し,試行的にDV加害者プログラムを実施した。

婦人相談所では,被害者及び同伴する家族の一時保護を実施するとともに,民間シェルター等に一時保護を委託している。また,厚生労働省では,婦人相談所一時保護所及び婦人保護施設においてDV被害者等の心のケア対策を行う心理療法担当職員や同伴児童へのケアを行う指導員の配置を促進しているほか,婦人保護施設入所者の施設退所後の地域生活への円滑な移行及び自立のため,施設入所者が,施設付近の住宅において地域生活等を体験するための支援を実施している。さらに,被保険者等から暴力等を受けた者(被害者)に係る健康保険制度における取扱いとして,配偶者に限らず,全ての被扶養者について,公的機関等が発行する暴力等を理由として保護した旨の証明書を付して申し出た場合に,保険者が被扶養者から外すことが可能であることについて,周知を行った。

警察では,女性に対する暴力の被害者に対して,加害者の検挙の有無にかかわらず,事案に応じた必要な自衛措置等暴力による被害の発生を防止するための措置について指導及び助言を行っている。

また,ストーカー事案や配偶者からの暴力事案等の被害者等が相談に訪れた際,事案の危険性や被害の届出及び警察の執り得る措置を図示しながら分かりやすく説明する「被害者の意思決定支援手続」等を実施しているほか,危険性・切迫性の高い被害者等の安全を確保するため,緊急・一時的に被害者等を避難させる必要がある場合にホテル等の宿泊施設への一時避難にかかる費用について,公費負担を行う措置を講じている。

4 関連する問題への対応

(1) 児童虐待への適切な対応

DV家庭で育った子どもには,常に緊張を強いられ,いつ暴力が始まるか分からない環境に身を置くことで,適切な安心感が育たないといった心理的影響があると指摘されており,児童相談所においても,配偶者暴力相談支援センターと連携をして,被害者の子供に対する児童心理司等による精神的ケア等の支援を行っている。また,令和元(2019)年度の調査研究においては,DVや児童虐待の関係機関相互の連携体制の強化を図り,支援の充実に資することを目的として,適切な連携を図るため,各機関の連携方法について事例収集,分析等を通じて,DV・児童虐待を包括的にアセスメントするためのツール・ガイドラインを作成しており,令和2(2020)年度は地方自治体に対し,これらの周知を行った。

内閣府では,「児童虐待防止対策の抜本的強化について」(平成31年3月児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定)を踏まえ,女性に対する暴力をなくす運動において,児童虐待防止推進月間(11月)と連携しつつ,予防啓発に加え,DVの特性や子どもへの影響を周知する等,国民の意識向上に向けた啓発活動を推進している。

(2) 交際相手からの暴力への対応

内閣府では,「男女間における暴力に関する調査」を実施するとともに,毎年,配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等について調査を実施し,交際相手からの暴力を含む男女間における暴力の実態及び被害者等からの相談状況の把握を行った(第8章第1節4参照)。また,全国共通ダイヤルの広報用携帯カードを作成・配布し,相談窓口の周知徹底を図った。

警察では,交際相手からの暴力について,被害者等の生命・身体の安全の確保を最優先に,刑罰法令に抵触する事案については,検挙その他の措置を講じ,刑罰法令に抵触しない事案についても,被害者に対する防犯指導,加害者への指導警告等事案に応じた措置を講じている。

婦人相談所では,交際相手からの暴力の被害女性についても,一時保護を含め,支援の対象としている。