男女共同参画白書(概要版) 平成30年版

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第1節 スポーツにおける女性の活躍

(女性アスリート活躍の軌跡~オリンピック競技大会~)

オリンピック出場選手に占める女子選手の参加割合(世界)は,夏季・冬季大会ともに増加傾向にある。また,オリンピック日本選手団に占める女子選手の割合は,夏季大会では近年おおむね半数で推移し,2016年リオ大会では48.5%であった。冬季大会では,2014年ソチ大会で初めて5割を超え,2018年平昌大会では58.1%と過去最高となった(I-特-2図)。

I-特-2図 オリンピック出場選手に占める女子選手の割合(世界と日本)

オリンピックにおける日本人選手のメダル獲得数を見ると,最近の夏季4大会では,いずれも男子選手のメダル獲得数が女子選手のメダル獲得数を上回るが,金メダルの獲得数は女子選手が男子選手を上回っている。冬季大会では,2018年平昌大会において金メダル3個を含む8個のメダルを獲得し,過去最多となった1(I-特-3図)。

I-特-3図 オリンピックにおける日本人選手のメダル獲得数・獲得率

1男女合わせたメダル獲得数も計13個で,過去最多となった。

(女性アスリート活躍の軌跡~パラリンピック競技大会~)

パラリンピック出場選手に占める女子選手の参加割合(世界)は,夏季大会では増加傾向である一方,冬季大会では2割程度にとどまっている。パラリンピック日本選手団に占める女子選手の参加割合は,夏季大会では近年3~4割程度で推移している。冬季大会では,2014年ソチ大会で過去最高の3割となったが,2018年平昌大会では13.2%に低下した(I-特-5図)。

I-特-5図 パラリンピック出場選手に占める女子選手の割合(世界と日本)

パラリンピックにおける日本人女子選手のメダル獲得数を見ると,夏季大会では,2004年アテネ大会後,急激にメダル数が低下し伸び悩んでいる。冬季大会では,2014年ソチ大会ではメダルを獲得することができなかったが,2018年平昌大会では5個のメダルを獲得した(I-特-6図)。

I-特-6図 パラリンピックにおける日本人選手のメダル獲得数・獲得率

(女性アスリートの三主徴(FAT)等)

女性アスリートの活躍が進む一方で,女性アスリートの選手生命に大きな影響を及ぼす徴候として,「女性アスリートの三主徴」(摂食障害の有無によらないエネルギー不足・無月経・骨粗しょう症)(female athlete triad; FAT)が指摘されている。これらの徴候を放置した場合,疲労骨折等により競技生活の継続が困難となる恐れもある(I-特-8図)。

I-特-8図 女性アスリートの三主徴

無月経や疲労骨折の既往は,新体操や体操,フィギュアスケート等の「審美系」競技など,体重管理の重要性が高い競技で多く見られる。他方,無月経の割合は,競技者のレベルで差がなく,疲労骨折経験者の割合は,日本代表レベルの選手より全国大会レベル以下の選手の方が高いなど,これらの問題がトップレベルの選手に限ったものではないことが示されている2(I-特-9,10図)。

I-特-9図 無月経と疲労骨折の頻度(競技別)

I-特-10図 無月経と疲労骨折の頻度(競技者のレベル別)

2日本産科婦人科学会等の調査によると,疲労骨折の好発年齢は,競技レベルを問わず,16~17歳であることも分かっている。

コラム

病気予防から妊娠・出産まで~鍵は正しい知識と身近な相談体制コラム~
(元サッカー女子日本代表 澤穂希さん)


病気予防から妊娠・出産まで~鍵は正しい知識と身近な相談体制コラム~(元サッカー女子日本代表 澤穂希さん)

米国でプレーしていた20代の頃,ほとんどのチームメイトが低用量ピルを服用し,10代の頃から婦人科で定期的な検診を受けていたのを見て,日本とは環境が大きく異なることに驚いた。

サッカーの技術は,トレーニングや試合を重ねることで向上するが,月経困難症の不安や苦しみは,努力や根性では解決できない。アスリートに限らず,女性はまず,自分の体のことをよく知り,プラスになることは実践してみる姿勢が健康への第一歩だと思う。低用量ピルの情報がもっと行き渡り,重い月経痛の症状を軽減できる可能性があることを知ってほしい。そのために,まずは中学や高校,大学のスポーツ指導者がそのメリットやリスクを把握し,学生たちに正確に説明できる知識を身に着けてほしい。

私は,30歳頃に低用量ピルを服用し始めたが,その際,チームドクターにメールで相談すると,いつも24時間以内にスピーディな返信があり,非常に助かった。その後も,いつも気軽に相談できるかかりつけの医師がいたことで,37歳で引退するまで,安心して現役生活を続けることができた。また,低用量ピルについては一般的に,「使い続けると,将来,妊娠できないのでは」といった誤解もあるが,実際,私は7年間使用し,引退後に妊娠,出産することができた。

産婦人科医と気軽に話せる環境があれば,救われる女性は多い。特に10代の少女にとって,産婦人科はハードルが高いため,まずは母親同伴で受診し,親子で指導を受けることを薦めたい。また,学校の保健室で学生から相談を受けた養護教諭が近隣の産婦人科医を紹介したり,職場にもスペシャリストが常駐するなど,女性が健康について身近で気軽に相談できる環境が今以上に整ってほしいと思う。

コラム

専門家の連携体制の構築を
(北京,ロンドン五輪 競泳日本代表 伊藤華英さん)


専門家の連携体制の構築を(北京,ロンドン五輪 競泳日本代表 伊藤華英さん)

2000年に15歳で初めて日本選手権に出場し,翌年,世界選手権に出場する機会を得た。世界の舞台に立つチャンスを得る一方で,10代後半は,月経前の体重増加や苛立ちに悩まされた時期でもあった。当時の私もそうだが,思春期の女子選手が,体の変化に悩んだり,月経に伴う心身の不調に苦しんでも,身近に相談できる相手がいないことが一番の問題だと思う。10代の選手が一人で婦人科に行こうと決意するのは難しい。また,選手は,体調管理ができていないと思われたくない等の気持ちで,怪我や不調をコーチに言わないことがある。コーチと選手の間に立って,コーチに言うべきこと,言うべきでないことの線引きを守りつつ,選手の相談に乗り,必要に応じてスポーツに詳しい婦人科医や栄養士につなぐ役割を担う専門家を養成する必要があると思う。学校の部活動も同様で,教師が,コーチ,メンタルトレーナーなど多くの役割を担う。部活動で活躍する女子選手の心身の問題にきちんと対処するには,専門家が業務を分担し,連携する体制にシフトしなくてはいけないだろう。

女子選手の皆さんも,自分の体を守り,競技パフォーマンスを上げるために,心身の健康や栄養に関する正しい知識を身に着けてほしい。月経痛や無月経,月経不順などは,早く婦人科医に相談し,きちんと対処することが必要だ。また,不健康に痩せることや,思春期に体重が増えることは,単なる体質や食べ過ぎが原因ではない。

男性コーチも,誤った指導をしないために,思春期の女性の体の変化や月経について理解しておくことが大切。月経等の課題について,最近では,日本スポーツ協会(JSPO)の指導者講習会等に婦人科医を招き,広く研修を行う体制になっていると聞く。ただし,水泳で言えば,地域のスイミングクラブのコーチにまで知識が遍く浸透しているとは言えないだろう。JSPO等のホームページに情報を掲載するだけでは不十分である。地域で行われる研修会等も含めて,全ての指導者に必ず勉強してもらう体制を作ることが大事だと思う。

(出産・育児と競技生活との両立の現状)

女性アスリートの場合,妊娠等を機に現役を引退するケースが多いが,日本でも近年,育児をしながら競技生活を続けたいと考える女性アスリートが増えている。

独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が,女性アスリートに,育児と競技との両立について,今の競技環境でどの程度支援を受けられると思うかを尋ねたところ,「大会での託児所,チャイルドルームの設置」は8割近くが,「妊娠期,産前産後期のトレーニング方法の紹介」は7割超が「ほとんど支援されない」と回答した(I-特-12図)。

I-特-12図 育児と競技の両立に対する支援

パラアスリートは引退年齢が比較的高く,既婚の割合や子どもがいる割合もオリンピック選手より高いため,競技生活と家庭との両立はパラアスリートにとっても喫緊の課題だと考えられる。

コラム

ママアスリートの不安をネットワークで解消
(ソチ五輪フリーコラムスタイルスキー日本代表 三星マナミさん)


ママアスリートの不安をネットワークで解消(ソチ五輪フリーコラムスタイルスキー日本代表 三星マナミさん)

2009年にいったん引退,出産したが,フリースタイルスキーのハーフパイプがソチオリンピックの新種目に採用されたことから,2010年に復帰した。復帰に当たり,産後のトレーニングや子どもの預け先など疑問や不安がたくさんあったが,身近に相談できるママアスリートがおらず,とても困った。この経験から,子どもを持つ女性アスリート同士で情報共有する場が必要だと思い,「ママアスリートネットワーク(MAN)」を立ち上げた。MANでは,ワークショップを開催し,ロールモデルを紹介するなどの活動を行っている。

女性アスリートが競技と子育てを両立するには,競技団体の支援がとても重要。私は,復帰を考えたときに,国立スポーツ科学センター(JISS)に勤務する知人から,女性アスリート支援のプログラムがあることを偶々教えてもらった。競技団体が,こうした情報を選手に伝えるだけでも違う。

一方で,ママアスリート自身も,こういう点で困っているとか,こうした知識や情報がほしいということを,周囲にはっきりと伝えてほしい。言葉にすることで,本気で競技に取り組むのだという責任感も生まれるし,周囲もどのような支援が必要なのか気付くことができる。私も,ハーフパイプがソチオリンピックの新種目になると知り,復帰したいと思ったが,家族の負担を考えて言えずにいた。夫が,どうするのかと聞いてくれなければ,復帰はなかったと思う。自分の意見を言うかどうかで,環境は大きく変わる。

また,女性アスリートに限った話ではないが,競技活動において,費用負担の問題はとても大きい。東京オリンピックなど注目度の高い大会や競技はスポンサーを得やすいが,マイナー競技の場合,それも困難だ。金銭面で家族に負担をかけているという思いを持たざるを得ないことも,女性アスリートが競技をやめる理由の一つだと思う。

メディアでは,ママアスリートの華やかな面ばかりが取り上げられるが,実際に経験してみて,決してそうではないことがよく分かった。家族に金銭面で負担をかけること以外に,オリンピックに出たいという自分の「我が儘」で娘を預けなくてはならないという葛藤があった。夫や他の家族を犠牲にしているという気持ちもあった。SNS等で批判を受けることもあった。それでも,私がそうだったように,産後も競技を続けたいという思いを持つアスリートがいる。ママアスリートが抱える不安や困難は,企業等で働く母親と同じだと思う。MANのネットワークでは,子どもを持つ女性アスリートの不安を少しでも取り除くような活動を続けていきたいと思う。

(指導者に占める女性割合の現状と向上のための取組)

最近の夏季3大会における日本選手団のコーチに占める女性の割合は,オリンピックで10%程度,パラリンピックで20%程度となっており,いずれも選手団に占める女子選手の割合を大きく下回っている(I-特-16図)。

I-特-16図 夏季オリンピック・パラリンピック3大会における女性コ-チの割合

コラム

男女の待遇差の少ないテニスで女性コーチのロールモコラムデルに
(元プロテニスプレーヤー 杉山愛さん)


男女の待遇差の少ないテニスで女性コーチのロールモコラムデルに(元プロテニスプレーヤー 杉山愛さん)

現役時代は,日々の練習や試合に必死で,セカンドキャリアを考える余裕がなかった。引退する時,「これからはテニスを通して恩返しをしたい。指導者になりたい。」と考えた。一方で,プロ選手やトップクラスのジュニアの選手の指導者になると,プライベートな時間が取りにくい。家族を持ちたいという思いもあったため,結婚や出産を優先し,同時に,近い将来,指導者になることを見据えて,2014年秋に大学院への進学を決めた。

現役時代にテニスで男女の待遇差を感じたことはほとんどない。40年以上前に,米国のビリー・ジーン・キング選手の働きかけで,全米オープンの賞金が男女同額になった。その後も,セリーナ・ウィリアムズ選手を始めとした女子選手が声を上げ,2007年までに4大大会(グランドスラム)1全てで賞金が同額になった。現在も賞金額は右肩上がりで伸び,女子テニス選手がプロの職業として成り立っている。男女で待遇差のある競技も多い中,テニスは先駆的な役割を果たしており,女性コーチの働き方についてもロールモデル作りができるのではないかと考える。

大学院では,女性がコーチになるための条件や阻害要因をテーマに修士論文を執筆した。テニスの世界ランキング100位以内の選手に付く女性コーチの割合は,女子選手で10%,男子選手では3%にとどまる。コーチは年間30~40週を選手に帯同することもあり,出産・育児との両立が難しい。他方で,コーチの役割は,常に帯同しなければできないものではない。コーチが司令塔となり,他のスタッフとチームを組んで交代で帯同するやり方もある。また,近年,4大大会等では託児室も整備されている。

2017年3月に大学院を修了し,4月からはこれまでの学びを活かすべく指導者としてコートに立ち始めた。引退からコーチとして復帰するのに7年かかったが,この間に結婚や出産を経験し,大学で新たな知識を得るなど,私にとっては必要な時間だった。私自身は,選手として一つのキャリアをなし遂げたという思いもあるため,今後は,母親という立場や家族との関係も大事にしたいと考えている。家庭とのバランスを取りながら,コーチとしてどのような働き方ができるか,一つのモデルを示していきたい。

1全豪オープン,全仏オープン,ウィンブルドン選手権,全米オープン

(成人女性のスポーツ実施率)

成人の週1回以上のスポーツ実施率を年齢別に見ると,男女とも30~40代で低く,また,男女別に見ると,30代,40代ともに女性は男性より10%ポイント低い(I-特-18図)。

運動・スポーツの頻度が減った又はこれ以上増やせない理由を尋ねたところ,男性に比べて女性では,「面倒くさいから」,「子どもに手がかかるから」,「運動・スポーツが嫌いだから」と回答した割合が高くなっている。

I-特-18図 年齢別・男女別 スポ-ツ実施率(週1回以上)

(学生のスポーツ実施状況)

運動部活動への参加率は,中学女子では54.9%,高校女子では27.1%となっており,いずれも男子と比べて低い水準となっている(I-特-20図)。

I-特-20図 中学生・高校生の運動部活動参加率

(スポーツ団体における女性役員の育成)

日本のスポーツ団体119団体の女性役員割合の平均は10.7%3(平成29年8月現在)。他の先進国の状況を見ると,ノルウェーが37.4%ともっとも高く,次いで米国,オーストラリア,カナダ,アイスランド等となっている(I-特-23図)。

I-特-23図 スポ-ツ団体における女性役員の割合(国際比較)

3JSPO及びJOCも含めた数。JSPO加盟競技団体のみの数値は10.6%(平成29年8月現在)。

公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)加盟競技団体における女性役員の割合を見ると,なぎなたが90.9%,バレーボールが40.9%,ゲートボールとチアリーディングが33.3%と3割を超えている(平成29年8月現在)(I-特-24図)。平成28年10月時点と比較すると,24団体で女性役員が増加し,女性役員がゼロであった団体のうち4団体(相撲,クレー射撃,ボブスレー・リュージュ・スケルトン,ドッジボール)が女性役員を登用した。

I-特-24図 JSPO加盟競技団体における女性役員の割合

コラム

日本水泳連盟理事としての経験
(シドニー五輪 競泳日本代表 萩原智子さん)


日本水泳連盟理事としての経験(シドニー五輪 競泳日本代表 萩原智子さん)

2012年に引退し,翌年から日本水泳連盟(以下「連盟」という。)の理事を務めている。連盟から理事にという打診があったときは,突然のことで驚いた。引退して1年足らずで,水泳以外の経験がほとんどなかったため,このような大役が私に務まるのか,引き受けてもよいものか,何度も逡巡した。最終的にやってみようと決意したのは,同じアスリート出身で,当時連盟の理事を務めていた村山よしみさん1が,「ハギトモが理事になってくれると私も心強い。一緒に頑張ろう」と背中を押してくれたことが大きい。その後もアスリートの先輩として,理事の仕事や求められる役割など,たくさんのことを教えてくれた。そうした後押しもあって,私も水泳界に恩返しをするために頑張ってみようと思った。

理事を引き受けたものの,当初は社会人としてのふるまい方が分からず,戸惑うことが多かった。理事の多くは,連盟の委員会委員長の職を兼務する。私は2014年4月から,新設されたアスリート委員会の初代委員長に就任することになった。帰省した折,父に辛いとこぼしたところ,分からないから教えてほしいと素直に言えばよいのだと,社会人の先輩としての助言をくれた。その助言に従ってみたところ,連盟の幹部が,委員長就任前に,委員長会議に参加してみてはどうかと声をかけてくれた。会議の場で,先輩方の発言を聞き,直接活動の様子を見ることは,何よりの勉強になった。また,各委員会の委員長と気軽に相談できる関係を構築できたことも,現在,委員長として活動する上で大きな財産となっている。

現役の頃から,トップ選手の経験という貴重な財産が,ジュニアの選手に共有されていないという思いを持っていた。そうした問題意識の下,役員として,オリンピックに出場したトップ選手の声を冊子にして配布する等の取組を行っている。選手だけでなく,指導者からも好意的な声が多く寄せられ嬉しかった。選手時代の経験や問題意識を活かし,若い選手の育成や水泳界の発展に貢献できることが,引退後に競技団体の役員として活動する醍醐味だと思う。他方で,私は理事就任後に出産したため,理事会や委員長会議の度に,子どもの預け先に苦労している。今後は,託児所など育児との両立支援にも取り組み,より多くの女性アスリートにとって,競技団体の役員という途が引退後のキャリアの選択肢の一つとなるよう,引き続き頑張りたい。

1村山よしみ氏は,2018年1月1日現在,連盟常務理事。1968年のメキシコ大会,1972年のミュンヘン大会,1976年のモントリオール大会と3回のオリンピック出場経験を持つ。