第2節 障害者が安心して暮らせる環境の整備

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第2節 障害者が安心して暮らせる環境の整備

1 総合的な障害者施策の推進

障害の有無にかかわらず国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」を実現するため,政府は,「障害者基本計画」(平成14年12月閣議決定)及び「重点施策実施5か年計画」(平成19年12月障害者施策推進本部決定)に基づき,障害者施策を総合的かつ計画的に推進してきた。

平成21年12月には,内閣に障がい者制度改革推進本部(以下「推進本部」という。)を設置し,その下で障害のある方々を中心とする障がい者制度改革推進会議(以下「推進会議」という。)が開催され,22年6月には,推進会議が取りまとめた意見を最大限に尊重した形で,「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」を閣議決定した。さらに,23年7月には,推進会議が取りまとめた意見を踏まえ,障害者の定義や障害者の地域社会における生活を支える観点等からの基本的理念の見直し等を盛り込んだ障害者基本法の一部を改正する法律(平成23年法律第90号)が成立し,同年8月に施行(一部は平成24年5月施行)された。

この障害者基本法の改正により,平成24年5月,障害者基本計画の策定又は変更等に当たって調査審議や意見具申を行うとともに,計画の実施状況の監視や勧告を行うための機関として,内閣府に障害者政策委員会が設置された。政府は,障害者基本計画の策定における同委員会の意見等を踏まえ,25年9月に「障害者基本計画(第3次)」を閣議決定し,施策の一層の推進を図ることとしている。

また,障害者に対する差別の禁止の在り方については,同委員会の差別禁止部会が取りまとめた意見(平成24年9月)等を踏まえた「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案」を25年4月に第183回国会に提出し,同法律案は同年6月に成立した。この法律は,附則の一部を除き,28年4月施行となっている。

また,障害者基本法の一部改正等を踏まえた検討の後,障害者自立支援法(平成17年法律第123号)を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下「障害者総合支援法」という。)とする内容を含む「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害者保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案」が平成24年6月に成立した。障害者総合支援法では,法の目的規定を改正し,基本理念を創設するとともに,「制度の谷間」を埋めるべく,障害者の範囲に難病等を加えること等を内容としている。

内閣府では,「共生社会」の理念の普及を図るため,「障害者週間」(12月3日から同月9日まで)を中心に,幅広い啓発・広報活動を行っている。平成25年度の「障害者週間」行事では,「障害者フォーラム2013」において,全国から募集した「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」の最優秀作品の内閣総理大臣表彰等を行うなど多様な事業を実施した。

我が国は,平成26年1月20日に,障害者の権利に関する条約を批准した。本条約は,障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置を定めるもので,同年2月19日に我が国について発効している。

この条約では,特に,障害を持つ女性が複合的な差別に直面することがあるとの認識から,第6条に「障害のある女子」として,締約国が,障害のある女子が全ての人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを確保するための措置をとること,女子の完全な能力開発,向上及び自律的な力の育成を確保するための全ての適当な措置をとるべきこと等が定められている。

2 障害者の自立を容易にするための環境整備

文部科学省では,障害のある児童生徒等に対する乳幼児期から成人期に至るまでの一貫した支援を行うため,早期からの教育相談・支援体制の構築,高等学校等における発達障害のある生徒へのキャリア教育の充実,発達障害に関する教職員の専門性向上に取り組むほか,障害特性に応じた教材等の在り方等についての実践的研究等を行っている。さらに,独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の発達障害教育情報センターにおいて,発達障害に関する正しい理解や支援等に関する様々な教育情報等を,インターネットを通じて提供し,厚生労働省とも連携をしながら,必要なコンテンツ等の充実を図っている15

15国立特別支援教育総合研究所発達障害教育情報センター http://icedd.nise.go.jp/

政府は,「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要綱」に基づき,高齢者,障害者,妊婦や子ども連れの人を含む全ての男女が社会の活動に参加・参画し,社会の担い手として役割と責任を果たしつつ,自信と喜びを持って生活を送ることができるよう,ハード・ソフト両面にわたる社会のバリアフリー・ユニバーサルデザインの推進に取り組んでいる。

また,高齢者や障害者等の自立を支援し,介護者の負担軽減を図るため,福祉機器の開発のための実用化支援,情報バリアフリー環境の整備,高齢者等にやさしい住まいづくり,まちづくり,都市公園,交通機関,道路交通環境等高齢者や障害者等が自立しやすい社会基盤の整備を推進している。

また,バリアフリー法に基づく「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(最終改正平成23年国家公安委員会,総務省,国土交通省告示第1号)において,各施設等の移動等円滑化の目標値(2020(平成32)年度末まで)を定めているほか,当事者ニーズに即した施設の整備や教育訓練を行うことの必要性,市町村の定める基本構想における協議会の活用等当事者の参画を図ることの必要性,心のバリアフリー及びスパイラルアップ(段階的・継続的改善)といった国,国民等の責務に関する事項等を定め,住まいづくり,まちづくり,都市公園,公共交通機関,道路交通環境の整備を推進している(2-9-1表)。

2-9-1表 高齢者や障害者等の自立を容易にする社会基盤の整備 別ウインドウで開きます
第2-9 -1表 高齢者や障害者等の自立を容易にする社会基盤の整備

3 雇用・就労の促進

文部科学省では,障害のある子どもが自立し社会参加するために必要な力を培うため,特別支援学校高等部等において職業教育に係る取組を推進している。

近年の障害者雇用状況は,雇用障害者数が10年連続で過去最高を更新するなど,着実に進展している。この進展を背景に,平成25年4月から民間企業の法定雇用率を1.8%から2.0%に引き上げた。また,同年6月に雇用分野における障害者に対する差別の禁止等を定めること及び精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えること等を内容とする障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第46号)が成立した。

一方,中小企業を中心に更なる障害者雇用の取組を推進する必要があることから,平成25年度においては,中小企業向けの就職面接会を実施するなど,中小企業に重点を置いた,雇用率の達成に向けた指導を実施した。

また,精神障害等の多様な障害がある者については,ハローワークと福祉,教育,医療等の関係機関とが連携し,就職から職場定着まで一貫した支援を行う「チーム支援」を実施するとともに,求職者へのカウンセリング業務や企業への意識啓発を行う「精神障害者雇用トータルサポーター」をハローワークに配置するなど,障害特性に応じたきめ細かな支援を実施した。

さらに,福祉,教育から雇用への一層の促進に向けて,地域で就労と生活の両面の支援を一体的に行う「障害者就業・生活支援センター」を拡充するとともに(平成24年度316センター→25年度319センター),その機能強化を図るなど,雇用施策と福祉施策が一体となった取組を行った。