平成22年版男女共同参画白書

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第3節 生活困難の防止・生活困難者支援の課題

(基本的な考え方)

以上見てきた男女それぞれの状況や生活困難の実態などを踏まえると,今後の取組に当たっては次のような視点が重要である。

まず,何らかの困難な状況に置かれつつも,個人の適性や能力に応じた自立を実現していくためには,男女共同参画の推進が欠かせない。家庭や地域における男女共同参画,女性が働きやすい就業構造への改革,女性に対する暴力の防止と被害者支援などの推進などは,生活困難を防止する上でも不可欠である。

次に,社会システムの再構築,中でも急速に増加した非正規労働者や家族の扶養や地域による相互扶助機能の低下に対応したセーフティネットの再構築が必要である。

さらに,個人のエンパワーメントを図るという視点が重要である。ここでの“エンパワーメント”とは,その人自身が自尊心を回復し,持てる力を引き出して自己決定できる状態を目指す過程のことを指すが,特に精神的な回復が必要な人々に対しては,その回復を支援する仕組みが必要である。

また,生活困難の次世代への連鎖の断ち切りが必要である。

以下,今後政府が講ずるべき具体的取組として,4つの分野からなる当面の課題と中長期的に取り組むべき課題を挙げる(第1-5-5図)。

第1-5-5図 当面の課題と中長期的課 別ウインドウで開きます
第1-5-5図 当面の課題と中長期的課

(自立に向けた力を高めるための課題)

具体的な取組としてはまず,若年期においては,初等中等教育段階からの一貫したキャリア教育・職業教育の推進が必要である。また,学校における進路指導や就職指導や女性のライフプランニング支援においては男女共に経済的に自立していくことの重要性が伝えられることが求められる。

一方,ニートやひきこもり等困難を有する子どもや若者に対しては,子ども・若者育成支援推進法(平成21年法律第71号)に基づき,社会生活を円滑に営むことができるようにするため,地域において官民の関係機関が連携し,様々な手法による早期からの対応が必要である。

DV被害当事者へは,平成21年5月に総務省が行った勧告に従い,通報及び相談の効果的な実施,就業支援施策の実績の把握,公営住宅の入居に関する広報や都道府県への要請などの措置をとることが必要である。

高齢者に対しては,第4章でみたように,就業促進と社会参加に向けた取組,経済的自立につなげるための制度や環境の整備などの取組を着実に推進していく必要がある。

(雇用・就業の安定に向けた課題)

非正規労働者のセーフティネットの施策として住宅確保のための支援や生活保障付き教育訓練の機会の提供,緊急の融資制度などの着実な実施が必要である。また,非正規労働者が失業しても生活の安定が図られ,労働市場へ再参入する恒久的なセーフティネットを構築することが必要である。また,ポジティブ・アクションや,労働基準法(昭和22年法律第49号)に定める男女同一賃金など男女の雇用機会均等を進める施策を一層強化する必要がある。

また,女性の就業継続や再就職を図り,経済的自立を実現するためにも,男性を含めた働き方の見直しなど仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を進めるとともに,質・量ともに十分な保育サービスや放課後児童クラブの提供が必要である。

(安心して親子が生活できる環境づくりにかかわる課題)

生活困難な状況に置かれるひとり親世帯への自立支援として,母子家庭等の実情にあったきめ細やかな支援が必要である。子育て・生活支援や就業支援,経済的支援など総合的な支援の充実や子どもをケアする時間の確保などの支援の提供とともに,父子家庭が地域で孤立しやすいことの背景にあると考えられる固定的性別役割分担意識の解消に向けた広報・啓発活動を一層推進する必要がある。

また,生活困難の次世代連鎖を断ち切るためにも,女性の就業継続や再就職が可能となる環境整備を進めることが必要である。さらに,成育家庭の経済状況等によって子どもの進学機会や学力・意欲の差が生じないように,教育費の負担の軽減を図ることが必要である。特に,高校段階においては,公立高等学校授業料無償化・高等学校等就学支援金制度が平成22年4月より実施されたところであるが,給付型奨学金の検討が必要である。また,高等教育段階においては,授業料減免等実質的な給付型の経済的支援や奨学金の充実等が必要である。なお,22年1月の少子化社会対策会議において開催が決定された「子ども・子育て新システム検討会議」は,22年6月を目途に基本的な方向を固めることとしているが,この中において,幼保一体化を含む新たな次世代育成支援のための包括的・一元的なシステムの構築等について検討を行っている。

(支援基盤の在り方等に関する課題)

DV被害者支援を含む困難な状況に置かれた女性への支援や若者支援について,既存制度を活用したワンストップ・サービス化を進めることや,支援策が実際に生活困難に置かれた人が活用しやすいものとなるよう,必要に応じて制度設計や,必要な手続き等業務運用の見直しが求められる。

また,生活困難の状況に置かれた人々への支援の形態として,複数の支援を組み合わせ,個人のライフコースに沿った切れ目ない支援が望まれることから,国や地方公共団体,NPOや企業も含めた多様な主体間の連携に引き続き取り組むことが必要である。