平成22年版男女共同参画白書

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第3節 女性の能力発揮の必要性

女性の活躍を進める際には,単に労働力人口という量的な側面にとどまらず,個々の女性の能力をいかすという質的な側面に着目する必要がある。本節では就業への女性の参画の状況を量と質の両面から示す総合的な指標として「賃金総額」を計算し,その国際比較などを通じて,女性の能力発揮の状況について分析する。

(「賃金総額」でみた就業への女性の参画の状況)

ここでは,就業への女性の参画の状況を総合的に把握する指標として,「賃金総額」という指標を計算する。そして,男性の「賃金総額」に対する女性の「賃金総額」の比率を計算し,その国際比較を行う。

一国の「賃金総額」は,「就業者数」×「労働時間」×「時間当たり賃金」で計算される。

「就業者数」は男女それぞれの労働力人口を示しており,この点については既に第2節で分析した。

「労働時間」は市場経済活動にかかわる時間を示している。「就業者数」×「労働時間」によって,労働の量的側面を把握することができると考えられる。「労働時間」については,ここで詳細な分析は行わないが,労働時間の長さについては,長時間労働の抑制,多様な働き方の実現等,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の観点に留意する必要がある。

「時間当たり賃金」については,より高度な仕事に高い賃金が支払われるとすれば,ここに仕事の「質」が反映されていると考えられる。

以上より,男性の「賃金総額」に対する女性の「賃金総額」の比率は以下の算式で計算される。

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こうした考え方を踏まえ,就業への女性の参画の状況について,国際的な比較の観点から分析する。「労働時間」や「賃金格差」のデータは国際的に厳密に概念が調整されているわけではないことに留意する必要があるが,全体として大まかな傾向はとらえられると考えられる。また,これらのデータは市場経済全体の男女比の状況を表すものと仮定して計算している。

「賃金総額」を構成する「就業者数」,「労働時間」,「時間当たり賃金」の各要素ごとの男性に対する女性の比率について国際比較したものが第1-特-12図である。我が国の女性の「賃金総額」は男性に比べて0.366であり,最もその比率が高いフィンランドの0.678と比較してかなり低いものになっている。その原因は,「就業者数」,「労働時間」,「時間当たり賃金」のそれぞれにおける男女の差が他国に比較して大きいことにあり,それを総合した「賃金総額」の男女の差は,より大きなものとなっている。

第1-特-13図は,総合的指標としての「賃金総額」について,女性の値の男性の値に対する比率について,時系列推移を国際比較したものである。これによれば,日本の数値は,女性の就業者の増加や賃金格差の縮小を反映して上昇してきているが,それ以上に他の国も上昇しているため,差が縮まっていない。英国やカナダなどは,男女差の縮小のテンポが速く,日本との差が開いている状況がみてとれる。

第1-特-12図 賃金総額男女比の国際比較別ウインドウで開きます
第1-特-12図 賃金総額男女比の国際比較

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第1-特-13図 賃金総額男女比の推移 別ウインドウで開きます
第1-特-13図 賃金総額男女比の推移

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(男女間賃金格差の背景)

先に示したとおり,より高度な仕事に高い賃金が支払われるとすれば,「時間当たり賃金水準」には仕事の「質」が反映されていることが考えられるが,このような考え方に立ち,我が国の男女間の賃金格差の要因についてみると,そこには,職場における役職や勤続年数の男女差が大きく影響している。第1-特-14表は,男女間の条件の違いを調整した場合に賃金格差がどの程度縮小するかを示したものである。これによると,勤続年数が男女同じであれば男性を100とした女性の賃金水準は67.8から73.1へと5.3ポイント上昇(格差が縮小)する。また,職階(職場内の役職)が男女同じと仮定すると11.0ポイント上昇(格差が縮小)する。このことから現状では,女性が就業を継続し,職業能力を高め,より高い役職を得る機会が十分に実現できていない状況が賃金格差に表れているとみることができる。

このように考えると,我が国の男女間の賃金格差を縮小していくためには,女性の勤続年数を長くし職業能力を高めていくことや,指導的地位に立つ女性の割合を高めていくことが必要である。

第1-特-14表 男女間の賃金格差の要因(単純分析) 別ウインドウで開きます
第1-特-14表 男女間の賃金格差の要因(単純分析)

(女性の高等教育在学率と高学歴女性の就業率)

就業の面での女性の参画を進めていく上で重要な視点として,教育機会の充実と,形成された能力を就業の場でいかしていくことが挙げられる。

我が国においては,女性の高等教育の在学率が,他の先進国と比較して低い水準になっている。第1-特-15図は,日本と欧米等諸国,韓国の高等教育の在学率を男女別に比較したものであるが,女性の在学率は54.1%と,9割を超えている米国や北欧諸国と比較してかなり低いものになっている。また,韓国を除き,他の国では男性より女性の方が在学率が高くなっているが,日本では逆に女性の方が在学率が低いという状況にある。

次に,第1-特-16図は,OECD諸国について,高等教育を受けた女性(25~64歳)の就業率を比較したものである。日本は,最も低いグループに属し,首位のノルウェーと比較すると20ポイント以上の開きがある。高等教育によって形成された女性の能力が,日本では就業の形で十分にいかされていないといえる。

さらに,研究者に占める女性の割合を見ると,日本では他の先進国に比較して非常に低い現状がある(第1部第8章 第1-8-6図参照)。経済成長には科学・技術力を高めることが不可欠であり,そのためには優れた科学・技術人材の育成が重要であるが,大学等における工学分野の研究者に占める女性割合は,7.8%に過ぎない(同 第1-8-9図参照)。

第1-特-15図 高等教育の在学率の国際比較 別ウインドウで開きます
第1-特-15図 高等教育の在学率の国際比較

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第1-特-16図 OECD諸国の高等教育を受けた女性(25~64歳)の就業率 別ウインドウで開きます
第1-特-16図 OECD諸国の高等教育を受けた女性(25~64歳)の就業率

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(女性が能力を十分発揮できる環境整備の必要性)

教育機会の充実等によって女性の能力を高め,またそれを発揮できる環境整備を進めていく必要がある。

女性の高等教育在学率や研究者に占める女性の割合,さらには理工系分野における女性研究者の割合が低い背景に,社会における固定的な性別役割分担意識や子どものころの職業のイメージが進路選択に影響を与えている可能性があることを考えると,教育の場等を通じて,女性の幅広い職業選択についての情報提供を行っていくことが重要である。

また,女性が就業を継続し,あるいはいったん休業しても再就業が容易にできる就業環境の整備が求められるが,これは,経済社会の変化に対応して,生涯を通じて職業能力を高めていくことの必要性に対応する上でも重要である。

女性の能力発揮が進めば,全体として労働力,雇用・就業の質も高まっていくであろうし,女性の科学・技術人材の増加は新技術の開発や新たなアイデアなどイノベーションを促すことにもつながるであろう。

女性の「賃金総額」の男性の「賃金総額」に対する比率を指標としてみた女性の就業への参画の程度をみると,我が国は,現状では先進国中低位にある。しかしながら,男女差の大幅な縮小を実現している国もある状況をみると,ここにも,我が国が女性の活躍を進めることで潜在的な能力が発揮される大きな可能性があると考えられる。