平成22年版男女共同参画白書

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コラム4

【企業事例】人々のライフスタイルの変化に合わせた新たな価値の創造


○仕事と子育ての両立を助ける駅前保育所の設置(A社)

首都圏を含む関東,東北地方に1,700以上の駅を抱え,鉄道を中心とする運輸業等を展開するA社は,平成29年までに,運輸業以外の営業収益の割合を高めることが経営上の目標である。運輸業以外で中心になるのが,駅や町の利便性を高める「生活サービス事業」であり,収益を高めていく二つの方法として「需要の再発見」と「需要の創造」を掲げる。「需要の再発見」とは既にあるがこれまで気付かなかった需要への気付きのことであり,「需要の創造」とは人々のライフスタイルの変化等を先取りすることで,新たな需要を先駆けて作り出そうとすることである。例えば,子育てしながら働く女性が増えれば,買物に加えて駅で子どもの送迎ができるようになることで「仕事」と「家庭」の両立が容易になる。駅前保育所があれば父親による送迎も実現しやすくなる。さらに,保育所と職場の動線上にある駅に生活関連サービスを集積して人々の利便性を向上させることができれば,同社の「生活サービス事業」の拡大も期待できる。こうした考えからA社は駅前保育園の設置で多くの実績を挙げている。

この取組は「仕事と育児・家庭生活の男女共同参画」,「ワーク・ライフ・バランスの実現」,「少子化」という社会的課題に対し,同社が事業活動を通じて取り組む社会貢献としての側面を持つ一方で,国民生活が抱える課題を社会的に解決することによって新たな需要を生み出そうという需要創出の動きでもある。


○妊娠・授乳期の女性を新たなターゲットとしたノンアルコールビール(B社)

酒類等の製造・販売を中心に事業展開を行うB社が創造した新たな価値は「アルコールを含まない(ノンアルコール)ビール」。飲酒運転という社会問題の解決が当初目指したコンセプトであったが,妊娠・授乳期の女性からの支持も集め,「育児の長い月日もノンアルコールなら応援できる」が新たな商品のコンセプトとなっている。妊娠中や育児中も活動的に過ごしたいという女性の意識やライフスタイルの変化を先取りすることで新たな需要を獲得した例といえよう(コラム10も参照)。


○働き方を変え,社員のライフスタイルの変化が顧客ニーズをとらえた事例(D社)

生活スタイル提案型の生活日用品・衣料品,食品,電化製品・家具から近年では「家」の設計までも手掛けるD社。素材と機能性にこだわりつつも,美意識の高いシンプルなデザインが消費者から支持されているが,同社のデザインが支持される理由の一つは,対象を男性・女性のどちらか一方に絞らず男女の共有が可能な「ユニセックス」であることにあるという。例えば「夫婦で選んで,夫婦で使える・楽しめる」ことは男女で家事・育児を共有するというライフスタイルの進展によって支持される新しい価値と考えられる。同社によれば,複数の子育て中の男性社員の意見が新しい価値の提案に寄与している側面があるという。コラム9でも取り上げるが,同社の本部部門では毎日6時半退社が徹底されているため,男性社員も育児短時間勤務制度を利用しやすく男性が生活者視点を獲得することが容易となっている。働き方を変え,社員自らのライフスタイルを変革することが新しい価値の創造につながっている。