執務提要

第4章 国会における法案審議

(1)概要

統一地方選挙が終わった後、平成11年4月12日の参議院議員運営委員会にて同日の本会議で趣旨説明を行うこと が決定され、その後参議院、衆議院での審議が行われ、6月15日に衆議院本会議で可決された。

参議院本会議における野中広務内閣官房長官・男女共同参画担当による提案理由、趣旨説明は以下のとおり。


「我が国においては、日本国憲法に個人の尊重、法の下の平等がうたわれており、男女平等の実現に向けてさまざま な取り組みが、国際連合など国際社会における取り組みとも連動しつつ、着実に進められてきたところであります。その間 には、女子差別撤廃条約も批准されました。しかしながら、現実の社会においては、男女間の不平等を感じる人も多く、男 女平等の実現に向けて、なお一層、努力していかなければなりません。

また、少子高齢化など社会経済情勢の急速な変化に対応していく上でも、女性と男性が互いにその人権を尊重し、喜 びも責任も分かち合いつつ、性別にとらわれることなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社 会の実現は、一層緊急の課題とされているところであります。

このような状況において、男女共同参画社会の実現は、政府の最重要課題であると考えております。そのためには、さ まざまな分野において男女共同参画社会の形成を促進するための施策を推進することが重要であります。また、人々の 意識の中に形成された性別による固定的役割分担意識等が男女共同参画社会の実現を妨げていることを考えますと、 国民一人一人にこの問題について理解を求め、各自の取り組みを促していかなければなりません。

男女共同参画社会基本法案は、男女共同参画社会の形成に関する基本的理念とこれに基づく基本的な施策の枠組 みを国民的合意のもとに定めることにより、社会のあらゆる分野において国、地方公共団体及び国民の取り組みが総合 的に推進されることを目的としています。この法律案は、男女の人権が尊重され、豊かで活力ある社会を実現し、女性も 男性もみずからの個性を発揮しながら、生き生きと充実した生活を送ることができることを目指すものであり、21世紀の日 本社会を決定する大きなかぎとなる意義を持つものと考えています。

次に、本法案の内容の概要を御説明申し上げます。

第一に、男女共同参画社会の形成に関する基本理念として、男女が性別による差別的取り扱いを受けないこと等の男 女の人権の尊重、社会における制度または慣行についての配慮、政策等の立案及び決定への共同参画、家庭生活にお ける活動と他の活動との両立、国際的協調という五つの理念を定めるとともに、国、地方公共団体及び国民の男女共同 参画社会の形成に係る責務を明らかにしております。

第二に、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策に関し、政府等は基本的な計画を定めて施策の大綱を国民 の前に示すこととするとともに、施策の策定等に当たっての配慮、国民の理解を深めるための措置、苦情の処理等、調査 研究、国際的協調のための措置、地方公共団体及び民間の団体に対する支援など基本的な施策について規定しており ます。

 第三に、現在、男女共同参画審議会設置法に基づいて設置されている男女共同参画審議会について、この基本法に その設置根拠を移すことにより、男女共同参画社会の実現に向けた推進体制として明確に位置づけております。」


(2)参議院における審議

参議院においては、上記趣旨説明に対して、自由民主党・自由党、民主党・新緑風会、公明党、日本共産党、 社会民主党・護憲連合及び参議院の会からの代表質疑がなされ、4月27日には参議院総務委員会(竹村泰子委員長)で提案理由、趣旨説明がなされた。

5月13日の総務委員会では、民主党・新緑風会提出の男女共同参画基本法案についての趣旨説明が小宮山洋子議員よりなされた。

参議院総務委員会での審議はこの両案について行われたが、民主党・緑風会の提案は撤回され、政府案に前文を追加する修正動議が可決された。 これらの経過は以下のとおりである。

  • 4月12日 議員運営委員会
    同日の本会議に上程されることが決定した。
  • 4月12日 本会議
    趣旨説明、質疑が行われた。
  • 4月27日 総務委員会
    政府よりの趣旨説明が行われた。
  • 5月13日 総務委員会
    民主党・新緑風会提案の趣旨説明が行われ、両案に対する審議がなされた。
    また、堂本暁子議員よりお茶の水大学学長佐藤保君に対して参考人質疑がなされた。
  • 5月18日 総務委員会
    両案に対する質疑が行われた。
  • 5月20日 総務委員会
    参考人質疑が行われた。参考人は以下のとおり。
    東京大学社会科学研究所教授 大澤 眞理君
    東京大学大学院法学政治学研究科教授 寺尾 美子君
    法政大学法学部教授 江橋 崇君
    東京都立大学法学部教授 浅倉 むつ子君

    その後、両案に対する審議が行われた。
    質疑の後、民主党・新緑風会提案の議案の撤回がなされ了承された。

  • 5月21日 総務委員会

    日本共産党から、名称を「男女共同参画促進法」に改める、憲法と女性差別撤廃条約に基づく男女平等、人権尊重の理 念に基づくものであることを明記する、人権尊重は普遍的なものであるので「社会経済情勢の変化に対応できる豊かで 活力ある社会を実現することの緊要性にかんがみ、」との規定を削除する、「性別による差別的取扱い」には「いかなる 名目又は方法によるかを問わず、その結果として、男女のいずれか一方に対し差別的効果をもたらすこととなる取扱い」 を含むものとする、母性の保護に関する規定を新設する、事業主の責務を明記する、苦情処理の組織、運営体制につい ての法的整備等を講じることなどとするとの修正動議が出されたが、否決された。

    政府案に前文を置くとする自由民主党、民主党・新緑風会、公明党及び自由党の修正動議について以下の提案の 提案理由と趣旨説明が説明され、議決され、可決した。


「憲法において個人の尊重、法のもとの平等がうたわれ、男女平等の実現に向けてさまざまな取り組みが行われてま いりました。しかし、男女共同参画社会の実現に向けてはさらなる努力が必要であります。本法案は、男女共同参画社会 の形成に関する基本理念とこれに基づく基本的な枠組みを定める基本法であり、その重要性は憲法に準じるものと申し ましても過言ではありません。このような基本法の中の基本法たる本法案につきましては、前文を置き本法制定の意義を 明記し、もって国民一人一人に男女共同参画社会の形成促進の重要性につき理解を深める必要があると考えます。

このような観点に基づき、四会派共同で作成いたしました修正案の概要につき御説明申し上げます。

本修正案では、本法案制定の趣旨、目的、理念をより明確にするため、お手元にございます案文のとおりの前文を 目次の次に加えることといたしております。」


次に修正部分を除いた政府原案について採決がなされ、全会一致で可決され、この結果、男女共同参画社会基本法 は現在の形である前文を含んだものとなった。

この採決に当たり、自由民主党、民主党・新緑風会、公明党、日本共産党、社会民主党・護憲連合、自由党、参議院 の会の各派共同提案による附帯決議案が提出され、全会一致で決定された。附帯決議の内容は以下のとおりである。


男女共同参画社会基本法案に対する附帯決議

政府は、本法施行に当たり、次の事項について配意すべきである。

一 政策等の立案及び決定への共同参画は、男女共同参画社会の形成に当たり不可欠のものであることにかんが み、その実態を踏まえ、国及び地方公共団体において、積極的改善措置の積極的活用も図ることにより、その着実な進 展を図ること。

一 家庭生活における活動と他の活動の両立については、国際労働機関(ILO)第156号条約の趣旨に沿い、家庭生活と職業生活の 両立の重要性に留意しつつ、両立のための環境整備を早急に進めるとともに、特に、子の養育、家族の介護については、 社会も共に担うという認識に立って、その社会的支援の充実強化を図ること。

一 男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の策定に当たっては、現行の法制度についても広範にわたり検 討を加えるとともに、施策の実施に必要な法制上又は財政上の措置を適宜適切に講ずること。

一 女性に対する暴力の根絶が女性の人権の確立にとって欠くことができないものであることにかんがみ、あらゆる 形態の女性に対する暴力の根絶に向けて積極的に取り組むこと。

一 男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進については、男女共同参画会議の調査及び監視機能が 十全に発揮されるよう、民間からの人材の登用を含め、体制を充実させること。

一 本法の基本理念に対する国民の理解を深めるために、教育活動及び広報活動等の措置を積極的に講じること。

一 各事業者が、基本理念にのっとり、男女共同参画社会を形成する責務を自覚するよう適切な指導を行うこと。

一 苦情の処理及び人権が侵害された場合における被害者救済のための措置については、オンブズパーソン的機 能を含めて検討し、苦情処理及び被害者救済の実効性を確保できる制度とすること。

一 男女共同参画社会の形成を国際的協調の下に促進するため、女子差別撤廃条約その他我が国が締結している 国際約束を誠実に履行するため必要な措置を講ずるとともに、男女共同参画の視点に立った国際協力の一層の推進に 努めること。

右決議する。


  • 5月21日 議員運営委員会
    基本法案について緊急上程され、同日の本会議の日程に追加されること了承された。
  • 5月21日 本会議

    竹村泰子総務委員会委員長より審査の経緯と結果の報告がなされたこと等修正議決報告がなされ、採決の結果、 賛成239票、反対0票で修正議決された。

    法案は同日衆議院に送付された。

(3)衆議院における審議

衆議院においては、参議院で修正されたため、趣旨説明においては「政府といたしましては、以上を内容とする法律案 を提出した次第でありますが、参議院におきまして、男女共同参画社会基本法案に対して、その趣旨をより明確にするた め、前文を加える修正が行われております。」との説明が追加された。

衆議院ではこの案についての審議が行われたが経過は以下のとおりである。

  • 6月3日 議員運営委員会
    同日の本会議での趣旨説明、質疑について決定された。
  • 6月3日 本会議
    趣旨説明ののち、質疑がなされた。
  • 6月4日 内閣委員会(二田孝治委員長)に付託
    官房長官より趣旨説明がなされ、海老原義彦参議院議員(自民党)が、自民党、民主党・新緑風会、公明党、自由党 を代表して以下のとおり修正の趣旨説明を行った。

「本修正は、男女共同参画社会の実現を、21世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置づけ、かつ、国民一人 一人の理解を深めるとの観点から、本法案制定の趣旨、目的、理念をより明確にするため、前文を加えるものであります。

すなわち、その要旨は、日本国憲法に個人の尊重と法のもとの平等がうたわれ、男女平等の実現に向けた取り組みが行われてきたが、 なお一層の努力が必要とされ、また、社会経済情勢の変化に対応していく上でも、男女共同参画社会の実現が緊要な課題となっていることにかんがみ、 男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図るため、その基本理念等を明らかにし、 将来に向かって国、地方公共団体及び国民の取り組みを総合的かつ計画的に推進するために本法を制定するというものであります。

以上が、本法律案に対する参議院における修正の趣旨であります。」


  • 6月8日 内閣委員会
    法案に対する質疑がなされた。
  • 6月10日 内閣委員会
    趣旨説明ののち、質疑がなされた。
  • 6月11日 内閣委員会
    法案に対する質疑がなされた。
    弁護士 住田 裕子君
    弁護士 中下 裕子君
    東京家政大学教授 樋口 恵子君
    新日本婦人の会愛知県本部長、名古屋市男女共同参画推進会議委員 水野 磯子君
  • 6月11日 内閣委員会

    質疑の後、共産党より参議院と同様の修正案が提出され、否決された。

    次に、原案について採決され総員の賛成で可決された。

    次に、自由民主党、民主党、公明党・改革クラブ、日本共産党、社会民主党・市民連合、自由党の各派共同提案の附 帯決議について趣旨説明がなされ、決定された。附帯決議は以下のとおりである。


男女共同参画社会基本法案に対する附帯決議

政府は、本法施行に当たり、次の事項について配慮すべきである。

一 家庭生活における活動と他の活動との両立については、ILO第156号条約の趣旨に沿い、両立のための環境整 備を早急に進めるとともに、特に、子の養育、家族の介護については、社会も共に責任を担うという認識に立って、その社 会的支援の充実強化を図ること。

 一 女性に対する暴力の根絶が女性の人権の確立にとって欠くことができないものであることにかんがみ、あらゆる 形態の女性に対する暴力の根絶に向けて積極的に取り組むこと。

一 男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の策定に当たっては、性別によるあらゆる差別をなくすよう、現 行の諸制度についても検討を加えるとともに、施策の実施に必要な法制上又は財政上の措置を適切に講ずること。

一 男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進に当たっては、その施策の推進体制における調査及び監 視機能が十分に発揮されるよう、民間からの人材の登用を含め、その体制の整備の強化を図ること。

一 各事業者が、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成に寄与する責務を有することを自覚して、男女共同 参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図るよう、適切な指導を行うこと。

一 男女共同参画社会の形成には、男女の人権の尊重が欠かせないことにかんがみ、苦情の処理及び被害者の救 済が十分図られるよう、実効性のある制度の確立に努めること。


  • 6月15日 議員運営委員会
    同日の本会議への上程が決定された。
  • 6月15日 本会議
    二田内閣委員会委員長より報告がなさた。本法案は、同日日程に追加された国立公文書館法案と一括して採決された結果、 意義なしと認められ、両案とも可決した。

(4)国会における質疑の主な論点

本法案は全会一致を見るなど与野党対決法案ではなかったため、参議院、衆議院では幅広い観点から内容確認等に ついて質疑がなされた。

  • 男女共同参画の意義、男女平等、人権尊重について
  • ジェンダーについて
  • 前文の必要性について
  • 男性側の取組について
  • 国家公務員に関することや規定振りを含めた積極的改善措置について
  • 間接差別を含めた差別の問題や男女間格差について
  • 女性に対する暴力について
  • リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、母性保護について
  • 税制、年金等の社会制度や民間における慣行の問題について
  • 地方公共団体の責務について
  • 国及び地方公共団体の基本計画について
  • 苦情処理のあり方、オンブズパーソン制度について
  • 女子差別撤廃条約、女性2000年会議等を含めた国際的協調について
  • 男女共同参画会議、中央省庁等改革等を含む推進体制の強化について

(5)参考人質疑

ア.参議院

大澤参考人から、諸外国の法制度の調査に基づいた意見が述べられ、基本法令を制定する意義は大きいこと、性差 別の禁止やいわゆるポジティブアクションが重要な論点となり、それが基本法に位置付けられていること、国内本部機構 の重要性と政府のあらゆる施策に男女共同参画の推進に配慮する必要があること等が述べられた。

寺尾参考人からは、人々が性別により差別されず、個人として尊重される社会を実現していくためには基本法を定め る必要があること、男女共同参画の視点の重要性、個別的改革のための土台となる基本法の必要性、国民的合意の形 成を示す意義、答申と法案の関係等が述べられた。

江橋参考人からは、地方公共団体において女性政策を推進してきた立場から、基本法を策定するのは急務であり、女性政 策の目標、地方公共団の責務等が明確化されたことは評価できる旨が述べられている。同時に男女共同参画という概念、ドメ スティックバイオレンス等の女性の人権の問題や地方公共団への支援措置、苦情処理の問題などについての意見も述べられ ている。

浅倉参考人からは、東京都における条例の検討に携わっていることから、東京都では男女平等参画基本条例として いること、事業者の責務を盛り込んでいること、女性に対する暴力等の性別による権利侵害の禁止を明確に打ち出して いること等の紹介があった。政府案については積極的に評価しつつ、なるべく具体的なところも盛り込むべきとの意見が述 べられた。

イ.衆議院

住田参考人から、積極的改善措置、ジェンダーの視点が含まれたことが意義深いこと、間接差別の規定については 定義等の問題もあり今後の課題としたこと等について説明され、基本法を第一ステップとして新たな展開に入ることについ て期待が述べられた。

中下参考人から、基本法案は意義深いものの、強力に性別による差別の是正を行うという観点からは懸念があるこ と、間接差別の規定が必要であること、基本計画に定める事項が掲げられていないこと、女性に対する暴力について明 示されていないこと、苦情処理、被害者救済制度の整備が必要であることなどについて意見が述べられた。

樋口参考人から、高齢化社会対策としても重要であること、子育てや介護に関しての男女共同参画について評価して いること等が述べられた。

水野参考人から、実例を引きつつ基本法の中で男女差別の禁止を明確化して欲しい旨要望され、企業の責任の明確化、 メディアが女性への暴力を助長していること、セクシュアル・ハラスメントの問題等が述べられた。

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