巻頭言
DEI(多様性、公平性、包摂性)の価値が試されるとき
世界では様々な変化が起こっています。複数の武力紛争が起き、国際的枠組みでは協調するより自国第一という主張が勢いを持つようにも見えます。政治・経済分野では、サステナビリティやDEI(Diversity, Equity & Inclusion)の再考を促す動きもあり、一部の主要企業は気候変動の枠組みから脱退しDEI関連のプログラムの中止などを決定しています。これらの動きは、この数年のサステナビリティや多様性の重視に対する反動かもしれませんが、政治・経済分野で今なお男性がトップ層の大半を占めているという現実を反映していると言われています。
さて、日本はどうでしょう。ここ数年、官民ともに多様性、特に女性の活躍や経済的自立を推進してきた結果、女性の就業率は上がり、女性管理職・役員比率も改善しています。ただ、大企業と中小企業、大都市と地方のギャップはまだ大きく、男女間の役割意識も根強く残っています。男女共同参画推進連携会議(以下、「連携会議」)では今期のチーム活動として、男女間ギャップを象徴する賃金格差の実態を大企業と地方・中小企業で調査するとともに、若年層(18~26歳)の性別役割意識に関するアンケートを行いました。結果は今後の公表となりますが、中間報告では業界別男女間賃金格差の要因、若年層の性別役割分担意識から見える課題などが確認され、昨年12月に開催した全体会議でも活発な議論が展開されました。日本の出産・子育て支援制度は他国と比べてもかなり整備されています。一方で、結婚や子供を産むことをためらう若い世代は増えており、出生率の低下に歯止めがかかりません。制度を整えることは当然ですが、結婚・出産やキャリアアップをためらう真因を把握し、改善につなげることが必要です。
少子高齢化と人材不足に直面している日本には、多様で意欲ある人たちが伸び伸び働ける組織、個々が幸せな生活を実現できる社会をつくることが不可欠です。国内外の逆風におされてブレている場合ではありません。混迷する時代だからこそ、DEIの価値を話し合い、理解を深め、自分事として行動することが重要です。政府と企業には、正しい政策とその実現のために大胆かつ粘り強く取り組むことが求められます。106の団体が参加する連携会議も積極的な活動と交流を継続して、より具体的なアクションを推進してまいります。
アキレス美知子
Achilles Michiko
男女共同参画推進連携会議議長
三井住友信託銀行取締役監査等委員
横浜市男女共同参画および人事制度担当参与
G20 EMPOWER日本共同代表