特集4
Special series vol.2
兵庫県豊岡市の挑戦
「職場でのワークイノベーションの取組」
豊岡市多様性推進・ジェンダーギャップ対策課
兵庫県豊岡市では、まち全体のジェンダーギャップ解消に取り組むことに先立ち、職場の働き方改革を進めました。2019年1月に策定した「豊岡市ワークイノベーション戦略」に沿って、女性も男性も働きやすく、働きがいのある職場への変革を促進しています。経営者有志で設立した「豊岡市ワークイノベーション推進会議」や、従業員意識調査、経営者・管理職・女性従業員向けセミナー等を実施しています。また、働き方改革やジェンダーギャップ解消の取組が進んでいる優良な事業所を表彰する制度を運用しています。
本市の職場における取組の成果や変化、課題についてご紹介します。
職場におけるジェンダーギャップの実態
本市では、職場の人手不足対策が課題とされてきました。まち全体としても人口減少対策の課題があります。人口減少の主な原因は、10歳代で転出した人口が20歳代で回復していないことにあります。本市では、この回復率を若者回復率と呼んでいます。2017年夏、国勢調査の結果を分析すると、男性の若者回復率は52.2%であるのに対し、女性は26.7%と約半数でした。若年女性に選ばれるための職場づくりや、まち全体のジェンダーギャップの解消が急務であると判断しました。
本市では職場におけるジェンダーギャップの実態を調査しました。市内在住、在勤の人の平均給与収入額(年収)には大きな男女格差があり、女性の平均給与額は、18~30歳では男性の平均給与額の73.4%ですが、51~60歳の女性の平均給与収入額は男性の52.3%となっています。年齢が上がるにつれて男女格差は拡大しています。
男女別・年代別の平均収入額(豊岡市課税データより作成)
さらに、男女の雇用形態について調べると、雇用されている男性の75%は正規雇用であるのに対し、女性は42%にとどまります。一方、女性の非正規雇用(派遣、パート、アルバイト等)の割合は58%を占めています(豊岡市経済・産業白書2021年度版)。この雇用形態の違いが男女の平均給与収入額の差に大きく影響していると考えられます。
豊岡市ワークイノベーション推進会議を設立
若年女性の流出は、まちの存続の危機であるとともに、事業所の存続の危機でもありました。危機感を共有した経営者有志により、市役所を含む市内の16事業所で、2018年10月、豊岡市ワークイノベーション推進会議(以下、WI推進会議)を設立しました。この組織は、女性も男性も働きやすく、働きがいのある職場へと変革を進め、人手不足を解消し、多様な人材の活躍による生産性向上などを目指しています。
WI推進会議の会長は、豊岡商工会議所会頭が務めています。会長自身のお声がけにより、取組に賛同する事業所が増え、2024年6月末現在、115事業所となりました。WI推進会議では、最新の動向などを学ぶ講演会や研修会の開催、他社の取組紹介、事例共有、会員事業所の職場見学会、意見交換会などを行っています。これらの機会を通じて、自社でできる取組や自分自身ができる取組を考え、行動に移しています。
2024年度WI推進会議総会で「明日からできること」を掲げる参加者
豊岡市ワークイノベーション戦略を策定
2019年1月に豊岡市ワークイノベーション戦略を策定しました。理念には、豊岡市の「命への共感に満ちたまちづくり」があります。働いている女性が、女性であるという理由だけで能力を発揮できていないとすると公正さに欠けると言わざるを得ません。
戦略では、市内事業所の経営者、管理職、人事担当者、女性従業員などの対象ごとに無意識の偏見や思い込みに気づくワークショップやキャリア形成支援、スキルアップ・リーダーシップ研修などを実施しています。
KPIとして、「女性従業員の3分の2以上が『働きやすくて働きがいがある』と評価している事業所の数」を設定しました。2027年度までに50社にすることを目標としており、2023年度末現在で、18社が達成されています。この指標は、全従業員一人ひとりが約30項目のアンケートに回答する「『働きやすさと働きがい』に関する従業員意識調査」を元に算出しています。2019年度から5年間で延べ46社、2,348人の従業員がアンケートに回答されました。
表彰制度~あんしんカンパニー~
先の従業員意識調査の結果により、女性従業員・男性従業員双方の3分の2以上、かつ、全従業員の3分の2以上が働きやすく、働きがいのある職場であると評価し、また、人事評価制度や体系的な研修制度があるか、男性従業員で育児休業を取得しているか、従業員の総純労働時間が適正かなどの約30項目を審査し、基準を満たした事業所を「あんしんカンパニー」として表彰しています。2023年度末現在で、4社が受賞されています。
豊岡市ワークイノベーション表彰~あんしんカンパニー2021~受賞企業
ジェンダーギャップとジェネレーションギャップの解消
WI推進会議の会員事業所からは、ジェンダーギャップの解消も必要だが、ジェネレーションギャップの解消も重要な課題であるという声が多く挙がりました。そこで、2024年度から従来の会長1人、副会長2人の体制から、若手経営者にも代表になってもらうように、共同代表制に変更しています。
また、若手従業員が中心となって、ジェンダー間及びジェネレーション間、あるいは社内間、社外間の橋渡し役を担う「ブリッジメンバー」が発足しました。ブリッジメンバーは、20~40代の11人で、女性6人、男性5人で構成されています。本年7月8日に開催したWI推進会議総会では、仕事をする上での価値観やギャップの存在を知ることをテーマに、ブリッジメンバーがワークショップを企画・実施しました。
豊岡市役所も1事業所として取組
豊岡市ワークイノベーション戦略の市役所版として、豊岡市役所キャリアデザインアクションプランを策定し、働きやすく、働きがいのある職場へと変革する取組を行っています。例えば、上司と部下との質の高いコミュニケーションを目的としたキャリアサポート面談を行ったり、研修などのスキルアップのための平等な機会の提供などを行ったりしています。
また、男性育児休業の取得を促進しており、2024年2月1日現在で、100%取得を達成しました。職員への意識調査で、男性育児休業取得に関して、ぜひ取得してほしい(ぜひ取得したい)が2018年度47.7%から2023年度77.2%と大きな変化がありました。面談や研修などで、職員一人ひとりの意識向上、互いに支える組織風土が醸成されたことによる結果と考えています。
職員意識調査の変化(豊岡市人事課提供)
成果と今後の課題
職場におけるジェンダーギャップ解消の取組としては、次のような成果や変化が挙げられます。
・男性経営者が自ら1カ月間育児休業を取得
・会社独自の育児目的休暇制度を設立
・「『働きやすさと働きがい』に関する従業員意識調査」の結果を受け、従業員と経営者の面談の機会を創出
・社内改革チームを設立し、時間外労働削減、人事評価制度と給与の連動、体系的な研修制度を構築
・女性管理職の登用 など
一方で、中小・零細企業には資金的にも人的にも、取組を進めていく体力がないという声もあります。各事業所のニーズにあった伴走型の支援、仕組みの構築が求められていると考えています。
詳細は、こちらをご覧ください。
「ワークイノベーションの推進-豊岡市」
https://www.city.toyooka.lg.jp/kurashi/1007000/1008794/index.html