巻頭言
「女性医師による働く女性専門外来」での経験を踏まえて
「私は、働きたいんです。職場では、怠けている、と受け止められているようで…」
関東労災病院では、2001年から「女性医師による働く女性専門外来」を開設し、2023年末までに2653人の方にご利用頂きました。その中に、冒頭の言葉を語る方もおられました。
この方の場合は、月経関連の不調が重いために就労困難となり、長期休職を余儀なくされ、退職を迫られる状態に陥り、そのような中での言葉でした。その後、どうにか体調管理を進め、復職することができ、ほっとしました。
月経は、ほとんどの女性が経験する生理現象ではありますが、月経周期の中で、月経痛、PMS(月経前症候群)といった不調を伴い、就労にも影響する場合が多いものです。閉経前後に起こる更年期障害も同様です。それぞれ、どれだけの経済損失になっているのかは、さまざまな報告があり、周知の通りです。
当院の外来には、「どこに相談したらいいか分からず、探していて見つけた」という方が、ご来院なさいます。かかりつけのクリニックでは治療のみであり、仕事の悩みなどについて話すことができない、職場でのストレスが要因となって症状が悪化していると思うのだが、といったご相談を抱えて、当外来においでになります。
この外来は、担当している者が産婦人科の医師ですので、職場に対して介入する権限などを持ち合わせていませんが、「それは、つらいですね。」「何か、対処する方法はないでしょうかね?」と、来院なさった方と一緒に考えることはできます。
職場状況については、上司や同僚、産業医、労働基準監督署などに相談する、といったことを提案します。職場調整を要する状態である旨、診断書を発行することもあります。すると、状況が好転する場合もありますし、「変わらないものは変わらない」ということで、転職する方もいます。いずれも、ご本人の判断をサポートし、前進する力を発揮して頂きたいと考えながら、対応しています。
少子高齢化が進み、女性労働力への期待が大きくなり、「女性特有の健康課題」が取り上げられるようになりました。当外来での経験を踏まえ、女性が直面している健康課題について、情報提供をさせて頂く機会が増えました。
各事業所において、女性特有の健康課題についての理解が広がり、女性に優しい職場づくりが進むことを期待します。そのような取組は、性別を問わず、働きやすい職場づくりを模索する契機になるものと信じています。
星野 寛美
Hoshino Hiromi
関東労災病院
働く女性専門外来担当