巻頭言
「スウェーデンの経験から学ぶ男女共同参画の進め方」
わが国の女性活躍の遅れを示す象徴として、しばしば「ジェンダーギャップ指数」のランキングの低さ(2023年に125位)が指摘される。一方、毎年上位にランクインされるのが北欧諸国である。だが、それら「男女共同参画」先進国の一角を占めるスウェーデンも、二世代前には状況が大きく異なっていた。
1960年代のスウェーデン女性の労働参加率は50%台にとどまり、年平均労働時間は1800時間を超えていた。かつては同国でも「男性片働きモデル」が一般的であったのだ。70年代以降に転機が訪れる。1980年代後半には女性労働力率は80%台に高まり、平均労働時間は1500時間程度となった。この変化をもたらしたのは、人口減少への危機感が社会全体で共有され、男女平等に向けた社会変革に政労使・産官学が連携して取り組んだことがあった。そうしたスウェーデンの取り組みは日本にとって示唆深い。
第1は、政府の取り組みが大きな役割を果たしたことである。1960年代の高成長の時期、労働力不足が深刻化するもとで、税金を投入しつつ保育支援政策を積極的に展開することが支持され、女性の就業率が上昇。さらに1970年代以降、社会のあらゆる分野における男女平等が家族政策の目標とされ、家庭内の役割平等化が進んだ。1990年代には父母共に約3カ月の育児休業を採らなければ公的育児給付の便益がフルに享受できない制度を導入。2000年代には企業に男女賃金格差状況の調査の作成・提出が義務付けられ、従業員25人以上の企業は、性別格差を是正する実行計画が求められるようになった。
第2は、新しい家族モデルが積極的に提示されたことである。妻がフルタイムで働くことが一般化し、夫も残業が無く家事・育児の半分を担うのが普通になっている。離婚した夫婦が子供を協力して育てることも多く、父母どちらか半分だけ血がつながった兄弟も珍しくない。固定的な性別役割分担意識や家父長的家族観から解放され、男らしさ・女らしさより自分らしさを追求できるようになったことが、スウェーデンの男女共同参画の基盤にある。
第3は、改善に向けた取り組みを不断に継続していることである。日本から見れば、男女平等面で遥かに進んだスウェーデンであるが、依然として男女賃金格差は残り、企業役員の性別偏りもある。2018年には「男女平等庁」という、更なる男女共同参画推進に向けた司令塔が設置された。女性活躍の面で北欧諸国対比ほぼ二世代遅れの日本であるが、スウェーデンの経験は「社会は変えられる」こと、そして、「変革継続の重要性」を教えてくれる。
山田 久
Yamada Hisashi
法政大学経営大学院教授