トピックス1
DV加害者プログラムの普及に向けて
内閣府男女共同参画局男女間暴力対策課
配偶者からの暴力の防止と被害者の保護を図る上で、加害者に働きかけることで自らの暴力の責任を自覚させる加害者プログラムは、被害者支援の一環として、重要な取組です。
内閣府では、令和2年度から3か年にわたって、5つの都道府県等の協力を得て、加害者プログラムの試行実施を行い、地方公共団体が加害者プログラムを実施する上での留意事項(注1)を取りまとめました。さらに、令和5年9月に策定した新たな基本方針(注2)では、加害者プログラムについて、「配偶者からの暴力の防止に向けて考えられる重要な施策の一つであり、被害者支援につながるものである」として、その重要性を示しました。また、今後の取組方針として、国は、前述の留意事項を活用した「加害者プログラムの実施を推進する」こととし、都道府県等は、当該留意事項も活用し、民間団体等と連携するなどして、「加害者プログラムの実施に取り組むことが望ましい」としたところです。
新たな基本方針におけるポイント
◇加害者プログラムの実施の推進等
〇 加害者プログラムは、配偶者からの暴力の防止に向けて考えられる重要な施策の一つであり、被害者支援につながるもの
〇 国は、加害者プログラムの実施を推進する
〇 都道府県等は、加害者プログラムの実施に取り組むことが望ましい
(注1)「配偶者暴力加害者プログラム 実施のための留意事項」(令和5年5月内閣府男女共同参画局公表)
(注2)「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等のための施策に関する基本的な方針」(内閣府、国家公安委員会、法務省、厚生労働省告示第1号)
このように、加害者プログラムは、調査研究から、更なる知見の蓄積を図りつつ、実践・実施していく段階に入ることとなります。
そこで、内閣府では、令和5年度の事業として、都道府県及び政令指定都市(以下「都道府県等」という。)のDV被害者支援の主管課等の担当者を対象にオンライン研修等を実施しました。
<研修講義の内容>
令和6年2月9日に実施した研修では、DV加害者に対するアプローチに御知見をお持ちの中村正立命館大学大学院人間科学研究科教授(開催当時)と田村伴子一般社団法人WERC理事に講義をしていただき、都道府県等の担当者約百人が受講しました。
中村教授は、社会病理学、臨床社会学を御専門とされ、「脱暴力」という観点から理論と実践の両面で加害者問題に取り組む研究者です。「DV被害者支援の一環としての加害者プログラムとは」と題した講義では、御自身が京都府からの委託を受けて実施されている加害者プログラムも紹介しながら、主に以下の点について述べられました。
DV加害者向けグループワークの様子:中村教授提供
● 公的な相談機関にはつながらない(被害者支援を求めない)被害者の配偶者の中には、地域社会内では葛藤を抱えつつ子どものためも思いながら、なんとか社会生活を送っている場合も多い。こうした配偶者は、加害者プログラムを通じた働きかけが奏功する対象者であることから、受講を勧めることに、意味も効果もある。DV防止法による支援から距離を置いてサバイブしている被害者への支援の一環としても加害者対応が機能するという意味である。
● それぞれの加害者に合った「テーラーメイド」の脱暴力支援計画と伴走型のプログラムの実施が重要かつ有効である。加害者向けのソーシャルワークはないのだから、加害者プログラムがそこに存在することに意味がある。
● 刑罰のようにプログラム受講に強制性を持たせることではない形での「脱暴力のシステム」が地域社会内で構築されることが急務である。
また、田村理事の「被害者支援の観点からDV加害者プログラムについて考える」と題した講義では、主に以下の点について述べられました。
● 避難することを前提とした行政の「one size fits all」(ひとつのサイズ(支援施策)をみんな(すべてのDV被害者)に合わせる)の被害者支援の在り方では、別居後に居所を秘匿することが難しい地域に居住している被害者や、発達特性を持つ子に慣れた学校に通わせ続けたいなど、同居を継続せざるを得ない事情のある被害者に、安全に暮らすための選択肢を示せないことが問題。
● 「DV加害者と同居する選択肢を与えることは危険ではないか」であるとか、「DV加害者プログラムなど効果がないのではないか」といった意見があるが、加害者が多様であると理解することが必要である。任意参加の加害者プログラムで一定の効果が得られる加害者かどうか、加害者の危険度を適切に判断(リスクアセスメント)することが不可欠だと認識している。
● 加害者に「責任を自覚させる」には、その前に、加害者に、暴力的言動は自らで選択してきたと認識させる必要がある。意図した行動(非暴力的言動)を選択していける/いくことの実践が必要で、プログラム受講で変わってきた加害者がいた。
● ここでの「責任」とは、被害者との応答の中で構築されることであり、将来的に誰に対しても加害行為をしない等の責任を持つことも含まれる。なので、被害者支援の一環としての加害者プログラムについて、被害者支援側の理解を進めていくことも重要。
本研修の受講者からは、「現在、配偶者暴力被害者に支援できることは、加害者からの避難に限られるという課題があるが、自治体が加害者プログラムをできるようになれば、被害者の未来の選択肢が増えると考えることができた」、「加害者像は多様であり、それに応じた支援・対応方法を考える必要があることが分かった」などの感想が寄せられました。
内閣府では、本稿で紹介した研修事業等を通じ、加害者プログラムに係る理解の促進に努めています。また、令和6年度には、都道府県に対する交付金の対象事業に加害者プログラム事業を加えました。今後、この交付金の活用状況等も踏まえつつ、加害者プログラムの実施を更に推進していきます。
加害者と同居せざるを得ない状況について
◇DV被害者が加害者と同居せざるを得ない事例があるか (n=41) |
◇事例を把握していると回答した24地方公共団体のうち、加害者と同居せざるを得ない事例の事情(複数回答) (n=24) |
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申込み状況 41アカウント(計106名) |
地方公共団体向け研修申込時アンケートより内閣府男女共同参画局作成 |